秘密
                              作 大根メロン


俺の名は倉成武。クールでイキなナイスガイだ。
俺のプロフィールに関してはここで語ると時間がかかるので、各自で復習してくれ。その方が俺も楽だ。
さて、そんな俺には悩み事がある。そこ、意外とか言うな!
…つぐみ? いやいや、確かに悩んではいるが… つぐみではない。優でも空でもない。女性関係ではない。
それは… 実名を出すのは問題があるな。仮に『クワコギ』とでもしておこう。
クワコギは、とあるビックプロジェクトのため俺に良く似るように教育を受けていた。喋り方やちょっとしたクセ――何から何まで俺に似せようとしたのだ。
だが、俺は思う。

――あいつ、ぶっちゃけ俺には似てないだろ。

俺の手は頭に接着されてはいないし、それに俺はロリ魂ではない。なにより、俺はクワコギの170倍くらいはダンディでカッコいい。
さらに、あいつの顔が謎だ。明らかに17年前とは変わりすぎている。優と比べると、それがよく分かる。
俺に似せるために整形でもしたのかと思ったが… それは違うだろう。整形したのなら、もっと俺に似せたはずだ。田中研究所医療チームなら、俺とクリソツにする事だって簡単だろう。
謎だ。とにかく謎だ。
そして、謎があれば解きたくなるのが人間というもの。
という訳で、倉成武出発だ。



『こちらコードネーム<マヨ>。現在、クワコギは大通りを研究所に向けて移動中でござる。先回りして捕獲するでござるよ。ニンニン』
「こちらコードネーム<タケピョン>。了解した」
コードネーム<マヨ>のおかげで、クワコギ捕獲はスムーズにいきそうだ。
『忍法投げ網漁の術!!』
『うお!? な、なんだ沙――』
『通電でござる!!』

バリバリバリッ!!!

『ぎぃやぁぁあああ!!?』
無線の向こうから、感電したクワコギの絶叫が届く。
一瞬心配になったが、あいつもキュレイ種だ。死にはしないだろう… 多分。
『こちらコードネーム<マヨ>。ターゲット、捕獲完了でござる』
「こ、こちらコードネーム<タケピョン>。沙――じゃなかった、コードネーム<マヨ>よ。ターゲットは生きてるか……?」
『無論。網の中でスヤスヤ眠ってるでござるよ。ニンニン』
ああ、それはよかった。我が娘――ではなく、コードネーム<マヨ>が殺人犯になったかと思ったぞ。
『では、クワコギを指定の廃工場に運んでおくでござるよ。報酬はコードネーム<タケピョン>の娘さんの貯金箱に、約束の金額を現金で振り込むでござる』
「了解」
『ニンニン♪』



クワコギは、廃工場の片隅に縄でぐるぐる巻きにされた姿で転がされていた。
…どうでもいいが、この廃工場には何故か日用生活品が散らばっている。誰かがここで暮らしているのか……?
もしそうだとしたら、留守の間に早く出て行った方がいいかも知れない。こんな所に隠れ住んでいるのだから、きっとヤバイ奴(あるいは奴等)に違いないだろう。
「おら、クワコギ。目を覚ませ」
俺は舞うような動きで、クワコギの身体に蹴りを打ち込んだ。
「…ぐふぁ!!? な、何だ… 武?」
「お前に1つ、訊きたい事がある」
真剣な表情(形だけ)で、クワコギを見る。
「お前の顔は妙なんだ。5年分とは思えないほど、17年前とは顔が変わっている。かと言って、あの計画のために整形したにしては俺に似てない。どういう事よ?」
「……は?」
「言っておくが、『顔面の皮膚や筋肉を絃で縫い合わせて顔を変えてる』なんていう声優ネタを使ったら、田中研究所医療チームのモルモットだからな」
「使うか! って言うか、一体どういう状況なんだこれはぁ!!?」
「訊かれた事に答えないと、レモン汁を眼に入れてやるぞ。地獄のようにしみるぞ」
レモン汁の入ったビンを何処からか取り出し、クワコギの眼を狙う。
「わ、分かった! 真実を話すから、レモン汁だけは止めてくれ!!」
「で、その真実とは?」
「この顔は、間違いなく俺の本当の顔だ」
「レモン汁、GO!」
「ぎゃああぁぁああ!!?」
「嘘を言うな、嘘を。それがお前の本当の顔だとしたら、17年前のお前は何処に行ったんだ。とても、17年前のお前と今のお前が同一人物だとは思えないぞ」
ディスプレイの前の皆さんもそう思うだろう。
「お前の顔の変化はどう考えても5年分じゃない。優と比べると、明らかにお前は――」
「ま、待て!」
突然、クワコギが叫んだ。
「その『優と比べると』っていうのに問題があるぞ!!」
「……何?」
「確かに優と比べると、俺は変わりすぎているように見える。だが、それは違う。俺が変わりすぎているんじゃなくて、優が変わってなさすぎるんだ!!!」

どどーん!(効果音)

「何だとおぉぉおお!!!?」
た、確かにそうだ。普通、5年も経てば容姿もそこそこ変わる。人によっては、クワコギのようにかなり変わる人もいるかも知れない。
だが… 優はどうだ? 髪が少し伸びた。それ以外は?
……ない。変わってない。
「な、何という事だ……」
…どうやら、俺はとんでもない勘違いをしていたらしい。
俺はクワコギの縄を解いてやった。
「悪かった、クワコギよ。俺は先入観に捕われて、大事な事を見落としていた」
「なに、いいって事よ。俺達は仲間だろ?」
「クワコギ……」
「あと… クワコギって言うな!!!!」
クワコギは俺の頭を、思い切り殴り付けた。



「そんな訳で、俺とクワコギはここまでやって来た」
「…誰に話してるんだ?」
「第三視点」
今、俺達の目の前にはでかい鉄の扉がある。
それは… 霧隠れ山をも上廻る、この星丘市の秘境――田中研究所四階へと続く扉だ。
ここで少し、田中研究所について復習をしてみよう。覚えてる人は読み飛ばしてもよし。
この田中研究所は、おそらく四階建ての建物だ(『おそらく』というのは、地下や隠しスペースの存在が噂されているためである)。
まずは一階。ここは、チェックさえ受ければ誰でも自由に入れるエリアだ。一般に開放されているのである。図書室で調べ物をするもよし、食堂でメシを食うもよし。
二階は、一般人立ち入り禁止。職員に発行される『IDカード<ブロンズ>』を使用する事により、入場が可能となる。
そして、三階。ここまでくると、一般人にとってはもはや未知の領域だ。ここに入れるのは、『IDカード<シルヴァー>』を持つごく一部の人間だけだ。具体的には、優とその側近である空とクワコギ。そして、医療チームや退魔チームといった、それぞれのチームのリーダー達だ。
…実はあと1人、三階に入れる(と言うより、三階で暮らしている)奴がいるのだが… あえて紹介しない。俺、あいつ苦手だから。
最後が最上階(だと思われる)、四階だ。四階に入るには、優だけが持っている『IDカード<ゴールド>』が必要。だがIDカードだけではなく、指紋・掌紋・声紋・虹彩・暗証番号のチェック、さらにはスキャンによるDNA鑑定までクリアしなくてはならないのだ。つまり、優以外の人間が四階に入るのは不可能なのである。
そして俺は今、クワコギのIDカードで三階まで上がり、その四階へと続く扉の前まで来ているのだ。
結局、優の顔について何も答えが出なかった俺達は、最後の手段に出る事にしたのである。
つまり、

――宇宙の真理が隠されている、とまで言われている田中研究所四階に行けば、優の謎も解けるだろう。扉? そんなもん、強行突破だ!

という事だ。
だが無論、そう簡単な事ではない。
1年前に圧倒的な暴力をもってこの扉を破壊し、四階から『アレ』とやらを奪い取った『霞のアルル』。彼女くらいの能力がなければ強行突破は不可能だ。だが俺達には、そのような凄まじい能力はない。
だが、天は俺達を見捨てなかった。閃いたのだ。
優は今、四階にいる。あいつは四階で暮らしている訳ではないから、三階に下りてくる事もあるだろう。
そして当然、優が四階から三階に降りてくる時には、内側からこの扉が開く。
その瞬間。
俺達は優と擦れ違い、四階に突入するのだ。
…パーフェクトだ。完璧すぎて自分が怖い。
という訳で、俺とクワコギは扉の前で優が下りてくるのを待ち構えているのだ。
ギャラリィも集まって来ている。チャイナ美人(仮名)は期待のこもった視線を、青髪(仮名)は蔑みのこもった視線を、安月給咒者(仮名)は哀れみのこもった視線を、それぞれ俺達に向けている。
その時。
「……武!」
「分かってる」
足音が、聞こえてきた。
緊張が高まる。心臓が飛び出しそうだ。
そして。
「あら? 倉成に桑古木じゃない。こんな所で何をしてるの?」
後ろ。
声は目の前の扉からではなく、後ろから聞こえてきた。
…な、何ィィイイイ!!!?
俺達は後ろを振り返る。そこには優――田中優美清春香菜の姿。
バ、バカな!!? 何故、優が三階にいる!!? 受付で確認した時は、間違いなく四階にいたはずだ!!!
俺は再び、扉を見る。この扉のパネルに付いている電球が赤く光っている時は優が四階にいる事を示しており、緑に光っている時は四階にいない事を示しているのだ。
電球は、赤く光っていた。
ど、どういう事だ!!? 今、確かに優は四階にいる。だが同時に、俺達の目の前にもいる。優は遍在している!!!?
「ねぇ、私の話を聞いてる? どうしてここにいるの?」
ギャラリィはすでに四散しており、姿は見えない。さすがだ。そうでなくては、この研究所で生きる事など出来ない。
「まさか、あなた達……」
優が俺達を睨む。背筋が凍った。
俺達は2人同時に、全速力でその場から逃げ出した。



「…こちらコードネーム<アッキュ>。言われた通り、変装して倉成と桑古木を追っ払ったけど… これでよかったの?」
『こちらコードネーム<ナッキュ>。ええ、ばっちりよ。さすがは我が娘――じゃなくて、コードネーム<アッキュ>ね』



黄昏時。
俺とクワコギ(もうここまで来たら実名を出してもいいような気がするが、こうなったら意地だ。最後までこいつはクワコギ)は、土手に座り込んでいた。
敗北感。
それが、俺達を包み込んでいる。
語る事などない。負け犬の遠吠えすら、今の俺達には不可能だった。
まさか、まさか優が… 忍者だったなんて。
あの分身。あれは忍者の技だ。忍法分身の術。
少し修行した程度で身に付くものではあるまい。きっと、何十年も隠れ里とかで厳しい修行を積んだのだろう。
忍者は無敵だ。それすなわち、優は無敵だ。ツキノワグマが百匹単位で襲って来ようと、軽く全滅させてしまうのだろう。
ああ、やはり17年は長かった。俺が知らぬ間に、世界は姿を変えてしまっていたのだ。
俺は1つ溜息をつき、立ち上がった。そして歩み始める。俺には、帰るべき家があるのだ。
クワコギはその場を動かない。無理もないだろう。あいつは17年間共に歩んだ優が、忍者だった事を知らなかったのだ。かなりショックだろう。
俺はクワコギから視線を外し、前を見る。
優が忍者だった事を、忍者好きのコードネーム<マヨ>にも教えてやった方がいいだろうか。いやダメだ。コードネーム<マヨ>が優の修行を受けパワーUPしたら、もはや手におえない。
優の顔が17年変わっていないのは、優が忍者だったからなのだ。忍者ならそれくらい出来ても不思議ではない。謎は全て解けた。
しかし。
謎が解けても、真実は俺達には微笑まなかった。正体がバレた優は、開き直って戦闘でもどんどん忍術を使うようになるだろう。
何度も言うが、忍者は無敵だ。さすがのつぐみも危ないかも知れない。
俺の足取りは鉛のように重い。その重い足を引きずりながら、俺は歩んで行った。

…あぁ、夕焼けが眼にしみるぜ……。







あとがきらしからぬもの
いい加減、『あとがき〜もの』のネタが無くなってきました。ヘルプミー。
こんにちは、大根メロンです。
…久し振りのギャグSSだ……(何)
シリアスが無いと非常にラクです。スムーズに書けます。
…まぁ、スムーズに書けたからといって、面白くなるとは限らない訳なんですが。
さて、これまた久し振りの次回予告をしますよ。


大型豪華客船に見せかけた、アメリカの最新鋭軍艦『レムリア』。
それが、田中研究所によって奪われた!
これ以上、田中研究所の戦力増強を許せない亞留流は何故かホクトと沙羅を引き連れ、レムリアの奪取に挑戦する!
『走れ、報道クラブ!(仮)』近日公開予定!


さらにもう1本。


時は大正時代。
400年の時を生きるヴァンパイアの少女――小街月海。
安倍晴明の末裔、『倉橋家』。その退魔師――倉橋武。
この2人の出逢いは何をもたらすのか。
そして、退魔系古流剣術の名門――信濃霧神流宗家の刺客がつぐみに迫る。
『赤い糸(仮)』近日公開予定!


どっちを書くかは不明です。私の気分次第。
ではまた。


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