プルルルルルル……

武が時計台の中から出ると、それとほぼ同時にPDAから着信音が響いた。
「はい、もしもし――」
『あ、倉成? 私よ』
「優か。そっちはどうなってる?」
『準備は完了してるわ。古室さんはフルートの予測通り、司紀杜神社の方向に向かって逃げてるみたい』
「じゃあ、後は決行を待つのみだな」
『ええ。……それで、倉成の方はどうだったのよ?』
「バッチリだ。時は動かしたし……」
武は、弾丸が撃ち込まれた時計台の壁に眼を向ける。
「正司さんが撃った弾丸を鑑定して、そのライフリング・マークが刻恵に撃ち込まれた弾丸と一致すれば… 正司さんが犯人である事の、有力な証拠になるだろうな」
『なら、後は自白を引き出すだけね』
「…大丈夫か?」
『当然。桑古木涼権を倉成武にした時と比べれば、あれくらい朝飯前よ』



「くそ、一体何なんだ……?」
正司は司紀杜神社の前まで来ていた。
持っていた銃を投げ捨て、階段に座り込む。
「…どうする。このままでは……」
正司は武達に、多くの証拠を握られていた。
特に、時計台に弾丸を残してきたのは、大きなミスだった。
「…今からでも遅くない、彼等を始末するしか――」

「しかし、そこの銃は弾切れしているんだろう? 他に効果的な武器でもあるのかい?」

「――!!!?」
正司の背中に、冷たいモノが走った。
心臓が破裂するかと思うほど動悸し、全身から嫌な汗が噴き出す。
恐怖が正司を押さえ付ける。身体が、まったく動かない。
「…まぁ、人間なんていうモノは殺そうと思えばボールペン1本で殺せるからね。武器なんて必要ないか」
正司の首に、冷たい何かが当てられた。
「力を込め、首に思い切りこのボールペンを突き刺してやれば… 一撃でジ・エンドさ」
「……!!!」
正司は言葉も出ない。
恐怖が身体を押さえ付ける。指の先さえ、少しも動かない。
「ふふ……」
突然、正司の首からボールペンが離れた。
「…………」
正司は、ゆっくりと顔を上げてゆく。
そして、その眼に――

「あぁ……!!!?」

――白風刻恵の姿が映った。
「…何を驚いているんだい? 電話をかけたじゃないか」
「う、五月蝿い… 化物め」
「ふふ… 自分の命日くらい、化けて出てもいいだろう?」
刻恵は笑いながら、地面に落ちている銃を拾う。
「……そういえば、正司さんは武達を殺すつもりのようだけど… 死体の処理はどうするんだい? 私の時のような、放置というのはあまり賢い方法ではないよ」
「……?」
「死体が残れば、情報が残る。ダイイングメッセージなんかなくても、死体は犯人について教えてくれるんだよ。……例えば、私の額に撃ち込まれた弾丸の、ライフリング・マークとかね」
刻恵は、自分の額に人差し指を当てた。
「さて、正司さんは武達の死体をどう処理するつもりなのかな?」
人差し指が刻恵の額から離れ、正司を指差す。
「死体を焼く、というのは一見よさそうに思えるが… 3/5が水で出来ている人間の身体を完全に灰にするのは、非常に面倒だ。火葬場でさえ、完全に灰にするには何時間か必要だからね。何人も焼くなら、なおさらだ」
刻恵は銃を握る。
それを、ゆっくりと正司に向けた。
「…それ以前に、ガソリンをかけて焼いたくらいでは、死体の表面がこんがりと焼けるだけだしね」
「う……!?」
「湖とか海に沈める、という手もあるかな。ここは海も近いしね。しかし、海に投げ捨てたくらいでは波に乗ってまた陸に戻ってきてしまう可能性がある。重りを付けて沈めればいいと思うかも知れないが、浮力というのはなかなか手強いからね。かなり重くしなければ、死体は沈まない。……知ってるかい? アルキメデスの原理」
「…………」
「仮に上手く沈んだとしても… 死体は、時間が経つと腹の中にガスが溜まる。そのガスの浮力を考えると、沈めるというのはかなり難しいね」
銃口が、正司の額に押し当てられる。
「やっぱり、バラバラにするのが1番かな。水を張った風呂か何かに沈めて死体から血を抜いた後、徹底的に粉砕してしまえば完璧だ。……よし、これに決めたよ」
「――!!? 私を… 殺す気か?」
「当然さ。武を殺させる訳にはいけないからね」
「…は、はは……」
正司が、笑った。
「バカめ、お前だって知っているだろう? その銃は弾が残っていない。引き金を引いても、私を殺す事は出来ないんだよ」
「…………」
刻恵は無言で、銃を天に向ける。
そして、引き金を引いた。

ドオォ…ン!!

「な――っ!!!?」
「…バカなのはあなたの方だ、正司さん。この白風刻恵に不可能はない」
そして、再び正司の額に銃口が向いた。
「……ゆ、許してくれ… 私がお前を殺したのは、仕方のない事だったんだ。どうしようもなかったんだ、許してくれぇ!」
「…さぁ、もう永眠ねむれ」
「や、止めろぉお!!」

ドオォ…ン!!



「ふぅ……」
恐怖で気絶した正司の前で、永美は溜息をついた。
そう、正司の前に現れた刻恵の正体は… 永美だったのだ。
「最高よ、永美」
フルートと一緒に物陰に隠れていた優春が、笑顔で出て来る。
優春が、その手に持ったカセットレコーダーの再生ボタンを押すと、

『……ゆ、許してくれ… 私がお前を殺したのは、仕方のない事だったんだ。どうしようもなかったんだ、許してくれぇ!』

正司の、自白が流れた。
「これは、いい証拠になるわね〜」
優春がそう言っていると、2人の背後で、誰かの気配がした。
「…永美。お前、かなり怖かったぞ……」
現れたのは、武。
武も、優春達と同じく隠れて様子を見ていた。
「…まったく、突然呼び出された時は何事かと思いました」

『はい、もしもし――』
『永美か? 俺だ、倉成だ』
『倉成さん? どうかしましたか?』
『ちょっと時計台に来てくれ。話が… あるんだ』

武は正司を呼び出す前に永美を呼び出し、この『作戦』の説明をしていたのだ。
「いつの間にか、こんな物まで用意されていますし……」
永美は、手の中の銃を眺める。
この銃は本物ではない。引き金を引くと銃声が鳴り、弾が発射されたかのような演出が行われるだけの、ただの玩具オモチャ
商店街に売っていた品に優春が手を加え、発射の演出をリアルにしただけの物だ。
永美が撃ったのは正司の銃ではなく、あらかじめ隠し持っていたこの銃だった。
「…しかし、永美。お前、確か――」

『…私ではありませんよ。私に姉さんの真似などという事は出来ませんし、そんな事をしても何のメリットもありませんから』

「――刻恵の真似は出来ないんじゃなかったのか?」
武がそう言うと、優春と永美の肩が一瞬だけ跳ねた。効果音を付けるなら、『ギクッ!』だ。
「…白風刻恵の真似は、永美の得意技よ。でも、春達はそれを隠していたの」
フルートが、武に言う。
優春と永美が、さらにアタフタし始める。
「隠していた? 何で?」
「…決まっているでしょう? 春の指示で、永美が白風刻恵の真似をして電話をしていた事が、バレないようにするためよ」
「…………」
世界が凍った。
「…な、何ぃいい〜〜〜!!!?」
次の瞬間。
武は、とても武とは思えないような素早さで、優春との間合いを詰める。
「おい、優… 一体、どういう事だ!?」

ゴゴゴゴゴゴゴ……

武から放たれる、凄まじいプレッシャー。
夜の暗さに隠れて、武の表情は見えない。眼が光っているように見えるのは、多分錯覚だろう。
さすがの優春も、顔に冷たい汗が流れた。
「い、いや、それはね? ほら、13日に皆で『ピロピロピンポンドーン』… じゃなくて、『神経ピロりんちょ』をやったでしょう?」
「…それが?」
「それで、倉成が敗けたじゃない?」

『倉成選手、罰ゲーム決定〜♪』
『……うぅ』

「その罰ゲームが、例の電話だったのよ」
「…なるほどな。14日に電話がかかってきた時、お前がそれを録音していたのは… 俺のリアクションを記録するためだったのか」
「ま、まぁね。でもそのおかげで、正司さんが犯人だって事が分かったんだから、結果的にはよかったじゃない」
「少しは反省とか、謝罪の言葉とかはないのか、お前」
「ごめんなさぁ〜い♪」
「…はぁ……」
武は呆れ果て、優春から離れる。
(……ん? いや、待てよ……)

『…私としては、誕生日プレゼントとして贈ったそのPDAを、君が未だに使ってる事の方が恥ずかしいんだが……』

(16日のあれは、俺と刻恵しか知らないはずじゃ……?)
武は、視線を優春から永美へと移す。
「なぁ、永美」
「…何でしょう?」
「本当に、お前が刻恵の真似をして電話をしたんだな?」
「ええ、間違いなく私ですが……」
そう言った永美に、嘘をついている様子はない。
「…そうか……」

「14日に1度、15日に1度… 計2回、貴方のPDAに電話をしました」

「――!!!?」
14日と15日。永美はそう言った。
しかし、電話は16日にもかかってきている。
(じゃあ……?)
16日にかかってきた電話は、一体何だったのか。
武は、答えを出す事が出来なかった。
しかし、
(…ま、いいか。刻恵は何でもありだしな)
答えを出さなくてもいい、とも思った。
「…倉成さん? どうかしましたか?」
「いや… 何でもない」
武は神社に背を向け、歩き始めた。



17時前。
武は、刻恵の墓の前に立っていた。
花を供える様子もなく、ただ立っている。
「…もうすぐ、船が来ますよ」
いつの間にかそこに居た永美が、武の背中に言った。
「……お? もうそんな時間か」
武は墓に背を向け、歩き出す。
「倉成さん」
永美が、小さな声で言う。
「…ありがとうございました」
「ん? 何がだ?」
「『普通の女の子』」
「……?」
「…意味が分からないのなら、分からないままでいいです」
「お、おう……?」
しばらく歩いていると、港が見えてきた。
そして、そこには1隻の船。
「倉成さん、最後に1つ」
「何だ?」
「私は… 姉さんに勝てると思いますか?」
武は少し立ち止まり、考える。
そしてその後、
「…そうだな、お前は――」
ゆっくりと、口を開いた。






7月17日、17:00――出港。

「にしても、今回もいろいろあったわよね〜」
船上で、優春は武とフルートに言った。
「…『今回も』ってあたりが、あなた達の人生を物語ってるわね」
フルートが、海を見ながら言う。
「…俺はもう疲れたよ。早く家に帰って寝たい……」
「らしくないぞぉ、倉成選手!」
優春が叫ぶ。
「…あなたから、ハムスターの遊具のように空廻りするその元気が消えたら… 正真正銘、ただのバカよね」
その叫びに、フルートが続く。
「ええい、うるさい! どうしてお前等はそんなに元気なんだよ!?」
「あなたが軟弱なのよ」
「…青髪。お前はそういう言い方しかしないから、ホクトが見向きもしないんだよ」
「――!!」

ピキッ!

何かが、キレた音がした。
「…あなた、もう1度海の底に沈みたいようね……」
ゆらりゆらり、とした不気味な動きで、フルートが武に迫る。
「…もしかして、地雷を踏んだか?」
フルートから放出される、圧倒的な威圧感。
武はそれに気圧され、数歩退いた。
「フ、フルート! ストォォォップ!!」
そのフルートを優春が後ろから羽交い絞めにする。
武はそんな様子を見ながら、
「…くわばらくわばら」
逃げるように、場所を移す。
その場所からは、島の港が見えた。
そして、そこには… 永美の姿。
武は笑顔を浮かべると、永美に向かって思い切り手を振る。
永美が大きく手を振り返したのが、武の眼に映った。






冷たい謎を解き、温かい謎を残して。


この物語の、幕が下りる――……。







ツクリモノの世界――END






あとがきだと思われるもの・ファイナル
よし、終わったぁ――ッツ!!!!
これで、『ツクリモノの世界』は完結です。
もっと、『ドーン!』とした謎を『ドバーン!』と解きたかった気もしますが(意味不明)… まぁ、いいでしょう。
さて、もはやお約束となりつつある嘘予告を。


武は、夢を見ていた。
「さて、武。突然だが、この私――魔法少女『まじかる☆とっきー』が出題する34問のクイズの内、17問以上正解しなければ… 君は永遠に、この夢の中から出られない」
「……は?」

刻恵――ではなく、とっきーが出題するクイズ。
それに17問以上正解しなければ、武は夢の中に閉じ込められる。

「第一問。『アップル』は何語?」
「『英語』?」
不正解ブー。正解は、『りん語リンゴ』」
「…………」

武は、この夢の中から脱出する事が出来るのか!?

「第二問。『ストロベリィ』は何語?」
「『いち語イチゴ』?」
不正解ブー。正解は、『英語』」
「…やってられるかぁぁあああッ!!!!」

『ある夜の悪夢(仮)』近日公開予定!


…もう1度言いますが、嘘予告です(汗)
ではまた。
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