そして、週の初めの日の明け方早く、
準備しておいた香料を持って墓に行った。
見ると、石が墓のわきに転がしてあり、
中に入っても、主イエスの遺体が見当たらなかった。
そのため途方に暮れていると、輝く衣を着た二人の人がそばに現れた。
婦人たちが恐れて地に顔を伏せると、二人は言った。
「なぜ、生きておられる方を死者の中に捜すのか。
あの方は、ここにはおられない。復活なさったのだ。
まだガリラヤにおられたころ、お話しになったことを思い出しなさい。
人の子は必ず、罪人の手に渡され、十字架につけられ、
三日目に復活することになっている、と言われたではないか」

――新約聖書『ルカによる福音書 24章:1〜7節』


真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第一話 ―開幕―








――さぁ、最もふるいくさを始めましょう。






武はつぐみと共に、街の中を散歩していた。
「――ねぇ、武。そう言えば、そろそろ1ヶ月くらい経つわよね」
「ん? 1ヶ月っていうと――ああ、あれか」
「そう、例の悪魔事件」
1ヶ月前に百々凪庵遠が星丘市の守護を破壊し、魔界の者達である悪魔をこの現世アッシャー界に出現させた事件。
それは、武達が庵遠を倒した事により幕を下ろした。
「1ヶ月――もうそんなに経ったのか。時間が流れるのは早いな」
「と言うより、最近いろいろな事が起こり過ぎなのよ。早く感じて当然だわ」
「ははは、確かに」
そうやって武とつぐみが笑っていた、その時。
「――え?」
突然、2人の視界が光で満ちる。
まずは、浮遊感。次は、自分が世界に溶けてゆくような――不可思議な感覚。
その中で、武とつぐみは意識を失った。






「ここは… どこだ?」
武は広大な天地の真ん中で、そう呟いた。
少し、記憶をさかのぼってみる。
「つぐみと街中を歩いていたら、田中研究所の方から光が飛んできて――」
それに包まれた後、気が付いたらここにいた。
「…確か、優の奴が今日は『時空間転移装置・改』の起動実験をする、とか言ってたな」
その装置が何なのか武は知らなかったが、名称から何となく予想は出来た。
「つまり、俺はその実験とやらの失敗か何かで、こんな世界にいる――そういう事か」
武は数秒間フムフムと頷くと、
「――ってオイッ!? どうするんだ俺!!?」
天上で輝く月に向け、叫び声を上げた。
「――はっ! そう言えば、つぐみは!!?」
武は周囲を見廻す。
しかし、つぐみの姿はなかった。
だが――
「……ッ!!?」
武の視界の中で、蠢くモノがいた。
「…マジ、かよ」
それは、武が1ヶ月ほど前に、死力を尽くして戦った存在。
「悪魔……!?」






「退屈だなぁ……」
大天使サリエルは、月面に腰を下ろしながら地球を見ていた。
「…退屈なら、さっさとこの星から消えて、どこかに行きなさい」
サリエルの背中に、冷たい視線が突き刺さる。
「そうはいかないよ、リリス。月で人間の霊魂を管理する事が、唯一神がボクに与えた仕事だからね」
「私はルシファーからこの星を任されてるの。なのに… どうして天使であるあなたと、こうやって一緒にいなきゃならないのよ」
「…聞き飽きたよ、その話」
「聞き飽きたですって!!?」
「何千年も聞き続けてれば、誰だって飽きるよ。……いい加減に、もう諦めたらどうだい?」
リリスは、足元の石ころを蹴飛ばした。
サリエルは飛んで来たその石を、ひょいと躱す。
「…まったく、どいつもこいつも唯一神、唯一神。あんなハゲ野郎の何がいいのよ。あいつのせいで、私は神格を失ったのよ!?」
「その話も聞き飽きたよ」
「いつか私はあいつを殺して、また女神の座に――」
「はいはい。――……ん?」
サリエルは、思わず立ち上がった。そして、小さな笑みを浮かべる。
「……何?」
「…ちょっとね。面白いものを見つけたんだ。君の御要望通り、少しこの星を離れるよ」
「離れるって… どこに行くのよ?」
サリエルは2枚の翼を、大きく広げた。
「――魔界さ」






「――急用が出来た。少し出かけてくる」
軍神ヴァルキリィは、他の戦女神達に突然そう告げた。
「急用?」
「父上に伝えておいてくれ。しばらく戻らないかも知れない、と」
「お、おい――」
ヴァルキリィは、馬にまたがる。
何者かの戦女神がそれを止めようとしたが、ひとりの戦女神は何かに気付いたらしく、にっこり笑みを浮かべて、
「行ってらっしゃい。あのブリュンヒルデのような、悲しい戦いはしないようにね」
ヴァルキリィはそれに敗けない笑顔で、答えた。
「ああ――分かってる」






「まずい、まずいまずいまずい……!」
武は、全力で悪魔から逃げていた。
武を追う悪魔は、吹雪の夜に現れる人喰い大男――邪鬼ウェンディゴ。
「ウォォオオオオ!!」
ウェンディゴの巨大な腕が、一瞬前まで武がいた地面に突き刺さる。
「くそっ! 武器もない、防具もない… どうしろってんだ!」
「――<ブフ>!」
「のわッ!?」
ウェンディゴが放った吹雪が、武を打つ。
「くっ! このままだと……」
武が命の危険を感じ始めた、その時――

プルルルルルル……

ポケットの中のPDAが、着信音を響かせた。
「……何?」
この世界が何なのかはまだよく分かっていなかったが、電波が届くような所だとは思えない。
しかし、
「――!」
1つの可能性に気付き、武は送られて来たメールを開く。
「…タイミングがいいな。偶然か、必然か――それとも、運命ってヤツか?」
差出人の名は、STEVENスティーヴン
「まぁ、何でもいいや。ありがたく使わせてもらおう」
メールに添付されていたものは… あの、悪魔召喚プログラム。
「召喚――」

『SUMMON:CERBERUS』

光と共に1つの模様が現れる。女神と様々な文字が描かれた、魔方陣。
「――魔獣ケルべロス」
ひとりの悪魔が顕現する。一振りの日本刀を咥えた、銀の巨犬――ケルべロス。
ケルベロスは咥えていた将門之刀を放る。武は、それを受け取った。
「久し振りだな、ケルベロス」
「ああ… そうだな」
ふたりは、ウェンディゴに向き直る。
「すぐ終わらせてやろう… <ファイアブレス>!!」

ドゴォォオオオオ…ン……!!

「オオォォオオオオッ!!?」
ウェンディゴの身体を、ケルべロスの炎の吐息が包む。
そして――
「はぁ……ッ!」

――ザンッッ!!!!

武の将門之刀が、ウェンディゴを脳天から一刀両断した。



「さて、ケロちゃん」
「ケロちゃん言うな!」
「冗談だ。んで、ケルべロス。一体何がどうなってるんだ? ここはどこなんだ?」
「知らずにここにいるのか?」
ケルベロスが、珍しく驚いたような表情を見せる。
「ああ、気が付いたらここにいたんだ」
「…そうか。ここは――」
ケルベロスは、静かに言った。
「ここは、悪魔の世界――魔界だ」



「魔界、か……」
ある程度予想はしていたが、改めて確認すると武は途方にくれてしまった。
「それで、これからどうするのだ? 主よ」
「…そうだな。まずはつぐみを捜さないと」
「彼女もこの世界にいるのか?」
「ああ、多分な」
「そうか。じゃあ、まずは近くの街にでも行くか」
ケルベロスが歩き出す。
武も、それに続いた。
「ケルベロス」
「――ん?」
「長い旅になるかも知れないが… よろしくな」
ケルベロスはフッと笑うと、
「ああ。今後ともヨロシクな」



武達は辿り着いた街――カイーナの飲食店で、むしゃむしゃ食事をしながら話していた。
周囲は、悪魔や魔界人で溢れている。
「しかし、俺ってあんまり注目されてないな。魔界に人間がいたら、結構珍しいと思うんだが」
「主達の世界にも悪魔我々がいるように、この魔界にも人間はいる。まぁ、多くはないがな」
「なるほど… それで、これから俺達はどうするんだ?」
「つぐみを捜すんだったな。手がかりはないに等しいが――人が多く集まる所に行ってみよう。生きていれば、彼女も同じように動くはずだ」
「人が多く集まる所?」
「魔界の王ルシファーの居城――万魔殿パンデモニウムの、城下町だ」
武達は食事を終えると、ウェンディゴが持っていた魔界の金銭――魔貨マッカを店員に払い、店を出る。
「今日はこの街で宿をとり、明日から動こう」
「ああ、そうだな。――ん?」
武は街の片隅に、何かを見つけた。
武は、それに歩み寄る。
「どうした、主よ」
「いや……」
そこには――白い衣に身を包んだ、1人の少女が倒れていた。
「行き倒れだな。別にこの世界では珍しくない」
「でも、こいつは――」
武は、少女を見詰める。
ケルベロスも、何かに気付いた。
「ケルベロス、こいつ拾っていこう。見捨てるのも気分が悪いし、それに……」
「…事と次第によっては、大変な事になるかも知れんな」
ケルベロスが少女を背負う。
そして、再び宿を探して歩き始めた。



翌日。
「ん……?」
少女は、屋根の下で眼を醒ました。
「ここは――」
「カイーナの宿屋」
「――!」
少女は振り返る。
そこには、武が立っていた。
「貴方、は……?」
「俺は悪魔召喚師デヴィルサマナーの倉成武。倒れているお前を見つけて、この宿に運び込んだ者だ」
「…助けられた――そういう事ですか?」
「そんな大した事じゃないが」
「いえ、それでも助けられた事に変わりはありません。ありがとうございます」
少女が、武に頭を下げる。
「じゃあ、まずは訊かせてもらおうか。お前は何者だ?」
「……!」
「いくら隠しても、お前の強過ぎる力は隠し切れないぞ」
「私は――」
少女は、呟くように言った。

「――私は、熾天使セラフカブリエル。四熾天使の一角たる、水の天使です」




あとがきだと伝わるもの・1
どうも、こんにちは。大根メロンです。
さて… メガセヴUです。ついに書いてしまいました。
話の大筋の流れは決まっているんですが、細かい所は書きながら決める予定。
広い心で、最後まで付き合ってもらえると嬉しいです。
…にしても、サリエルは自分の元マスターと上司を『面白いもの』扱いしてますが… いいんでしょうか。……まぁ、サリエルだし(何)
あと今回、リリスの出番はあれだけです(オイ)
次回は、つぐみんサイドの予定。まだ何も考えてませんが。
ではまた。


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