闇の中。 「兵の数は?」 「およそ一万騎。街1つ攻めるにしては、多すぎるのではないか?」 「念には念を、ですよ。それに、いいではないですか」 「…………」 「数が多ければ、悪魔どもを徹底的に殺し尽くせるでしょう。その方が楽しいですよ」 |
真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
「到着っ!」 テトラが大きくジャンプをし、街の中へと入る。 つぐみ達は、旅の中継点――アンテノーラに、無事辿り着いていた。 「結構、あっさりと着けたわね」 「あっさりって… 僕は死ぬかと思いましたよ?」 「あれくらいの事で死を覚悟してどうするの。あなた、よくこの世界で今まで生きてこれたわね」 「…ははは、運だけはいいんです」 つぐみは街中を進みながら、辺りを見廻す。 「この街、カイーナより栄えてるみたいね」 周囲には、所狭しと店が並び、悪魔や魔界人が出入している。 「それはそうですよ。ここは、カイーナより城下町に近いんですから」 「…なるほど。首都に近いほど栄えるのは、どこの世界も同じなのね」 「はい、そういう事です。さっ、行きましょう。栄えている分、宿をとるのは難しいんです。下手すると野宿ですよ」 どうにか宿を見つけたつぐみはテトラと別れ、街の中を歩いていた。 武の捜索をかねた、散歩である。 だが、1通り歩き廻ってみても、武の姿は見当たらなかった。 「どこにいるのよ……」 つぐみは立ち止まり、空に向けて呟いてみる。答えは返って来ない。 「…………」 つぐみは前を向くと、再び歩き始めた。 すると、 「うえーん、うえーん……」 「――?」 どこからか、泣き声が聞こえて来た。 つぐみは声のする方に行ってみる。 「うえーん、うえーん……」 そこでは、1人の小さな女の子が泣いていた。 「どうしたの?」 つぐみは女の子の顔を覗き込むようにして、話し掛ける。 女の子は涙に濡れた顔でつぐみを見ると、 「風船が……」 「――風船?」 と、隣に立っている木を見上げながら、呟いた。 つぐみが同じように見上げてみると、そこには木の枝に引っかかっている、1つの風船。 「手ぇ、離しちゃったの……」 女の子は赤くなった眼を擦りながら、つぐみに言う。 「大丈夫、私に任せて」 つぐみは小さく笑うと軽くジャンプし、風船の紐を掴んだ。 「あ……!」 「はい。もう離しちゃダメよ」 つぐみは取った風船を、女の子に差し出す。 女の子は風船の紐をしっかりと握ると、 「ありがとう、お姉ちゃん!」 そう言い、笑いながら走り去って行った。 「……ふふ」 つぐみはその姿を見ながら微笑を漏らすと、何気なくもう1度その木を見上げた。 「――?」 その木に、何故か1枚の白い羽が引っかかっていた。風船を取った時には、なかったはずだ。 言いようのない不安を感じ、辺りを見る。 「え……?」 地面にも1枚、羽が落ちていた。いや、1枚ではない。2枚、3枚… 次々と降り積もってゆく。 周囲の者達も、羽に気付き始めたらしい。皆、天を見上げた。 その、瞬間。 羽と共に――無数の光の刃が、街全体に降り注いだ。 ズ――バァァアアアアアッッ!!!! 「な――っっ!!!?」 つぐみは豪雨のような勢いで襲い掛かる光の刃を、紙一重で躱してゆく。 悪魔や魔界人は、断末魔を上げる時間さえない内に真っ二つとなり、死んでいった。 「一体、何なの!!!?」 つぐみは空を見上げる。 そこには… 空を舞い、光の刃を放つ者達の姿。 「天、使……?」 そう、それは紛れもなく――天使の軍勢だった。 ――アンテノーラの皆さん、こんにちは。 突然、つぐみの頭の中に男の声が響く。それはつぐみだけにではなく、今の攻撃から運よく生き残った者全員に聞こえているようだった。 ――まずは自己紹介を。私の名は熾天使ラファエル。そして……。 ――熾天使ウリエルだ。 ふたりの声が、頭の中で木霊する。 ――突然の攻撃、申し訳ありません。驚いた方も多いでしょう。理由をお教えします。 ――難しい事ではない。この街は… 天使が占拠させてもらう。 つぐみの周囲の者達が、ざわめく。 ――私達は近日、万魔殿と、その城下町であるジュデッカに攻め込む予定なんです。なので、そのための拠点が必要なんですよ。 ――トロメアでもよかったのだが、ここの方が地形的に優れているのでな。 ――理解出来ましたか? 抵抗しなければ殺しはしません、と言いたい所ですが……。 ――悪魔に… 生きる価値はない。 ――はい、そういう訳で、ひとり残らず死んでください。 その言葉と共に、声が消える。 そして―― 「う、うぁぁあああああっ!!?」 天使達が、一斉に襲いかかった。 「くっ!」 つぐみは剣撃や魔法を避けながら、天使を蹴散らしてゆく。 だが… 斃しても斃しても、天使は次々と天から舞い降りた。 「キリがない……!」 つぐみは闘う事より逃げる事を選択し、街を駆ける。 すると、 「――っ!?」 道の片隅で、震えている女の子を見つけた。 「あなた……!」 「お姉、ちゃん……?」 それは、さっきの風船を持った女の子。 「お姉ちゃん!」 女の子の顔から、少しだけ恐怖の表情が消える。 そして、風船を揺らしながら、つぐみに向かって跳び出した。 しかし―― 「――<串刺し>」 つぐみが女の子を抱きとめる事は、なかった。 ドグォアッ!!!! つぐみの目の前で、地面から巨大な岩の杭が飛び出す。 それは… 女の子の小さな身体を、無残に貫いた。 「……え?」 血や油、内臓などが、杭を伝って流れ落ちる。 女の子は杭の上で2,3度痙攣した後、その瞳をつぐみに向けたまま、動かなくなった。 女の子の手から風船が離れ――空へと昇って行く。 「…何、なのよ……」 つぐみは、後ろを振り向く。そこには、ひとりの天使。 「何で、こんな小さな子まで……」 「歳など関係ないのだ、人の子よ。神に背く者は、ひとり残らず滅びねばならぬ」 それは、ユダヤ教において最も重要視される天使――大天使メタトロン。 ――ドゴォッ!!!! つぐみの拳が、メタトロンの顔面に打ち込まれる。 「…バカめが」 メタトロンの身体のいたる所が瞼のように開き… 現れた無数の眼が、つぐみを見た。 「――っ!」 「<デスバウンド>」 光の刃が現れる。 つぐみは瞬時にメタトロンとの間合いを取りそれを躱すと、改めて向き直った。 「く……っ!」 つぐみの腕から、一筋の血が流れる。 「どうして、どうして皆殺しにする必要があるのよ!? こんなの、戦争ですらないわ!!!」 「当然だ、これは戦争などではない。神の意志による――処刑、だ」 「ぬけぬけと…! 罪のない者を虐殺する事が、どうして処刑なのよ!」 「罪なき者など存在しない」 メタトロンの眼が、つぐみを睨む。 「――<ハンマ>」 つぐみは放たれたその光の一閃を躱すと、メタトロンに廻し蹴りを浴びせる。 しかしメタトロンは眉一つ動かさず、眼に見えぬ力でつぐみを弾き飛ばした。 「あ……っ!?」 そして―― 「悔い改めよ――<メギド>」 滅びの光が、つぐみを呑み込んだ。 「何……!?」 光が消えた後、そこには変わらずつぐみがいた。意識を失い、地面に寝かされていたが… 灰になるどころか、全ての傷が癒されている。 そして、つぐみとメタトロンの間には、ひとりの少年。 「…やれやれ、大変な事になりましたね」 その少年は――テトラ。 「…何だ、貴様は」 メタトロンが、テトラに問いかける。 テトラはそれに答えず、曖昧な笑みを浮かべるだけ。 「何だと訊いている!」 メタトロンは声を荒げると、 ドガァァアアアッ!!!! 魔法の嵐を、テトラに撃ち込んだ。 だが。 「――…子供ひとり相手に、何をそんなに熱くなっているんです?」 テトラは、まるで攻撃などなかったかのように… 平然と立っていた。 「…ダメですよ、それでは」 そして、メタトロンに向けて1歩を踏み出す。 「来るな」 テトラは少しずつ、メタトロンに歩み寄ってゆく。 「来るな」 メタトロンの目の前に、テトラは立った。 そのまま優しく、メタトロンに触れる。 「何なんだ、貴様はぁああ!!?」 「…それは、君達が1番よく知っているはずなのに――」 テトラがその手を離した時――メタトロンは、塩の柱と化していた。 「よいしょっと」 テトラは、意識を失っているつぐみを抱える。 周りでは相変わらず虐殺が続いていたが、何故か天使達はつぐみとテトラには近付きもしない。まるで、ふたりの姿が見えていないかのように。 「さて、行きましょうか」 街の外へ向け、テトラは歩き出した。 アンテノーラの中心に、ふたりの天使がいた。 「――ラファエル」 「何ですか? ウリエル」 「今、ふたりの者がこの街から脱出した」 ラファエルの表情が、変わる。 「逃げられた――そういう事ですか?」 「ああ。しかも、この者達はメタトロンを滅ぼしている」 「――!?」 ラファエルが、僅かに動揺した。 「…信じられません。メタトロンは私達――四熾天使と並ぶ力を持つ者ですよ?」 「私とて信じられん。だが事実だ」 「…………」 ラファエルは天を仰ぐと、 「少しは骨のある者がいたようですね… まぁ、仕方ありません。私達は神ではない。全てを完璧にこなす事など不可能です」 顔を下ろし、ウリエルへと向ける。 「それより、ガブリエルとサリエルはどうなっていますか?」 「ウォッチャーに監視させている。今のところ、特に問題はないようだ」 「そうですか… まったく、よりにもよって<リセット>に協力的でない彼等が魔界に来てしまうとは。私達の邪魔にならなければよいのですが」 「我等の行動は神の意志。我等の邪魔をするという事は、神に背くという事。いくら協力的ではなくとも、天使である奴等が邪魔に入る事はないだろう。もし仮に、奴等が敵に廻ったとしても――」 ウリエルは、淡々と言い放った。 「――神の名の元に、消し去ればよい」 「う……?」 つぐみはゆっくりと、眼を開く。 そこは、テントの中のようだった。 「私、は……?」 「あ、眼が醒めましたか?」 「……テトラ」 外から、テトラが顔を見せる。 「…ここは? 一体、どうなったの? アンテノーラは? 天使は?」 「ここはアンテノーラからジュデッカへと続く道の途中です。気を失ってるつぐみさんを僕が見つけて、死に物狂いで逃げて来たんですよ」 「気を失ってた……?」 つぐみは納得出来ないものを感じた。メタトロンが、つぐみを見逃したのだろうか。 「私はどれくらい眠ってたの?」 「1日くらいです。まぁ、あんな目にあったんですから… 1日くらい休まないと」 「…………」 テトラはショックを受けるどころか、疲れてさえいないようだった。『あんな目にあった』というのに。 「…まぁ、いいわ。ゆっくりと休んだ事だし、出発しましょう」 「え? もういいんですか?」 「ええ、体調は万全よ」 「でも――」 「今は、前に進むしかないわ」 つぐみはテントの外に出ると、続いている道の向こうを見詰める。 「行きましょう――城下町へ」 |
あとがきだと伝わるもの・4 こんにちは、大根メロンです。 さて、第四話。新展開です。と言うより急展開。 …何か、つぐみんサイドしか戦ってない気がするなぁ(汗) てとらん、ちょっと本気モードで『神の代理人』を撃破。 次回はたけぴょんサイド。ようやく、たけぴょん活躍予定。 ではまた。 |
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