闇の中。
「兵の数は?」
「およそ一万騎。街1つ攻めるにしては、多すぎるのではないか?」
「念には念を、ですよ。それに、いいではないですか」
「…………」
「数が多ければ、悪魔どもを徹底的に殺し尽くせるでしょう。その方が楽しいですよ」


真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第四話 ―神意―




「到着っ!」
テトラが大きくジャンプをし、街の中へと入る。
つぐみ達は、旅の中継点――アンテノーラに、無事辿り着いていた。
「結構、あっさりと着けたわね」
「あっさりって… 僕は死ぬかと思いましたよ?」
「あれくらいの事で死を覚悟してどうするの。あなた、よくこの世界で今まで生きてこれたわね」
「…ははは、運だけはいいんです」
つぐみは街中を進みながら、辺りを見廻す。
「この街、カイーナより栄えてるみたいね」
周囲には、所狭しと店が並び、悪魔や魔界人が出入している。
「それはそうですよ。ここは、カイーナより城下町に近いんですから」
「…なるほど。首都に近いほど栄えるのは、どこの世界も同じなのね」
「はい、そういう事です。さっ、行きましょう。栄えている分、宿をとるのは難しいんです。下手すると野宿ですよ」



どうにか宿を見つけたつぐみはテトラと別れ、街の中を歩いていた。
武の捜索をかねた、散歩である。
だが、1通り歩き廻ってみても、武の姿は見当たらなかった。
「どこにいるのよ……」
つぐみは立ち止まり、空に向けて呟いてみる。答えは返って来ない。
「…………」
つぐみは前を向くと、再び歩き始めた。
すると、
「うえーん、うえーん……」
「――?」
どこからか、泣き声が聞こえて来た。
つぐみは声のする方に行ってみる。
「うえーん、うえーん……」
そこでは、1人の小さな女の子が泣いていた。
「どうしたの?」
つぐみは女の子の顔を覗き込むようにして、話し掛ける。
女の子は涙に濡れた顔でつぐみを見ると、
「風船が……」
「――風船?」
と、隣に立っている木を見上げながら、呟いた。
つぐみが同じように見上げてみると、そこには木の枝に引っかかっている、1つの風船。
「手ぇ、離しちゃったの……」
女の子は赤くなった眼を擦りながら、つぐみに言う。
「大丈夫、私に任せて」
つぐみは小さく笑うと軽くジャンプし、風船の紐を掴んだ。
「あ……!」
「はい。もう離しちゃダメよ」
つぐみは取った風船を、女の子に差し出す。
女の子は風船の紐をしっかりと握ると、
「ありがとう、お姉ちゃん!」
そう言い、笑いながら走り去って行った。
「……ふふ」
つぐみはその姿を見ながら微笑を漏らすと、何気なくもう1度その木を見上げた。
「――?」
その木に、何故か1枚の白い羽が引っかかっていた。風船を取った時には、なかったはずだ。
言いようのない不安を感じ、辺りを見る。
「え……?」
地面にも1枚、羽が落ちていた。いや、1枚ではない。2枚、3枚… 次々と降り積もってゆく。
周囲の者達も、羽に気付き始めたらしい。皆、天を見上げた。
その、瞬間。
羽と共に――無数の光の刃が、街全体に降り注いだ。

ズ――バァァアアアアアッッ!!!!

「な――っっ!!!?」
つぐみは豪雨のような勢いで襲い掛かる光の刃を、紙一重で躱してゆく。
悪魔や魔界人は、断末魔を上げる時間さえない内に真っ二つとなり、死んでいった。
「一体、何なの!!!?」
つぐみは空を見上げる。
そこには… 空を舞い、光の刃を放つ者達の姿。
「天、使……?」
そう、それは紛れもなく――天使の軍勢だった。



――アンテノーラの皆さん、こんにちは。

突然、つぐみの頭の中に男の声が響く。それはつぐみだけにではなく、今の攻撃から運よく生き残った者全員に聞こえているようだった。

――まずは自己紹介を。私の名は熾天使セラフラファエル。そして……。

――熾天使セラフウリエルだ。

ふたりの声が、頭の中で木霊する。

――突然の攻撃、申し訳ありません。驚いた方も多いでしょう。理由をお教えします。

――難しい事ではない。この街は… 天使我々が占拠させてもらう。

つぐみの周囲の者達が、ざわめく。

――私達は近日、万魔殿パンデモニウムと、その城下町であるジュデッカに攻め込む予定なんです。なので、そのための拠点が必要なんですよ。

――トロメアでもよかったのだが、ここの方が地形的に優れているのでな。

――理解出来ましたか? 抵抗しなければ殺しはしません、と言いたい所ですが……。

――悪魔貴様等に… 生きる価値はない。

――はい、そういう訳で、ひとり残らず死んでください。

その言葉と共に、声が消える。
そして――
「う、うぁぁあああああっ!!?」
天使達が、一斉に襲いかかった。
「くっ!」
つぐみは剣撃や魔法を避けながら、天使を蹴散らしてゆく。
だが… 斃しても斃しても、天使は次々と天から舞い降りた。
「キリがない……!」
つぐみは闘う事より逃げる事を選択し、街を駆ける。
すると、
「――っ!?」
道の片隅で、震えている女の子を見つけた。
「あなた……!」
「お姉、ちゃん……?」
それは、さっきの風船を持った女の子。
「お姉ちゃん!」
女の子の顔から、少しだけ恐怖の表情が消える。
そして、風船を揺らしながら、つぐみに向かって跳び出した。
しかし――
「――<串刺し>」
つぐみが女の子を抱きとめる事は、なかった。

ドグォアッ!!!!

つぐみの目の前で、地面から巨大な岩の杭が飛び出す。
それは… 女の子の小さな身体を、無残に貫いた。
「……え?」
血や油、内臓などが、杭を伝って流れ落ちる。
女の子は杭の上で2,3度痙攣した後、その瞳をつぐみに向けたまま、動かなくなった。
女の子の手から風船が離れ――空へと昇って行く。
「…何、なのよ……」
つぐみは、後ろを振り向く。そこには、ひとりの天使。
「何で、こんな小さな子まで……」
「歳など関係ないのだ、人の子よ。神に背く者は、ひとり残らず滅びねばならぬ」
それは、ユダヤ教において最も重要視される天使――大天使メタトロン。

――ドゴォッ!!!!

つぐみの拳が、メタトロンの顔面に打ち込まれる。
「…バカめが」
メタトロンの身体のいたる所が瞼のように開き… 現れた無数の眼が、つぐみを見た。
「――っ!」
「<デスバウンド>」
光の刃が現れる。
つぐみは瞬時にメタトロンとの間合いを取りそれを躱すと、改めて向き直った。
「く……っ!」
つぐみの腕から、一筋の血が流れる。
「どうして、どうして皆殺しにする必要があるのよ!? こんなの、戦争ですらないわ!!!」
「当然だ、これは戦争などではない。神の意志による――処刑、だ」
「ぬけぬけと…! 罪のない者を虐殺する事が、どうして処刑なのよ!」
「罪なき者など存在しない」
メタトロンの眼が、つぐみを睨む。
「――<ハンマ>」
つぐみは放たれたその光の一閃を躱すと、メタトロンに廻し蹴りを浴びせる。
しかしメタトロンは眉一つ動かさず、眼に見えぬ力でつぐみを弾き飛ばした。
「あ……っ!?」
そして――
「悔い改めよ――<メギド>」
滅びの光が、つぐみを呑み込んだ。



「何……!?」
光が消えた後、そこには変わらずつぐみがいた。意識を失い、地面に寝かされていたが… 灰になるどころか、全ての傷が癒されている。
そして、つぐみとメタトロンの間には、ひとりの少年。
「…やれやれ、大変な事になりましたね」
その少年は――テトラ。
「…何だ、貴様は」
メタトロンが、テトラに問いかける。
テトラはそれに答えず、曖昧な笑みを浮かべるだけ。
「何だと訊いている!」
メタトロンは声を荒げると、

ドガァァアアアッ!!!!

魔法の嵐を、テトラに撃ち込んだ。
だが。
「――…子供ひとり相手に、何をそんなに熱くなっているんです?」
テトラは、まるで攻撃などなかったかのように… 平然と立っていた。
「…ダメですよ、それでは」
そして、メタトロンに向けて1歩を踏み出す。
「来るな」
テトラは少しずつ、メタトロンに歩み寄ってゆく。
「来るな」
メタトロンの目の前に、テトラは立った。
そのまま優しく、メタトロンに触れる。
「何なんだ、貴様はぁああ!!?」
「…それは、君達が1番よく知っているはずなのに――」
テトラがその手を離した時――メタトロンは、塩の柱ネツィヴ・メラーと化していた。



「よいしょっと」
テトラは、意識を失っているつぐみを抱える。
周りでは相変わらず虐殺が続いていたが、何故か天使達はつぐみとテトラには近付きもしない。まるで、ふたりの姿が見えていないかのように。
「さて、行きましょうか」
街の外へ向け、テトラは歩き出した。



アンテノーラの中心に、ふたりの天使がいた。
「――ラファエル」
「何ですか? ウリエル」
「今、ふたりの者がこの街から脱出した」
ラファエルの表情が、変わる。
「逃げられた――そういう事ですか?」
「ああ。しかも、この者達はメタトロンを滅ぼしている」
「――!?」
ラファエルが、僅かに動揺した。
「…信じられません。メタトロンは私達――四熾天使と並ぶ力を持つ者ですよ?」
「私とて信じられん。だが事実だ」
「…………」
ラファエルは天を仰ぐと、
「少しは骨のある者がいたようですね… まぁ、仕方ありません。私達は神ではない。全てを完璧にこなす事など不可能です」
顔を下ろし、ウリエルへと向ける。
「それより、ガブリエルとサリエルはどうなっていますか?」
「ウォッチャーに監視させている。今のところ、特に問題はないようだ」
「そうですか… まったく、よりにもよって<リセット>に協力的でない彼等が魔界に来てしまうとは。私達の邪魔にならなければよいのですが」
「我等の行動は神の意志。我等の邪魔をするという事は、神に背くという事。いくら協力的ではなくとも、天使である奴等が邪魔に入る事はないだろう。もし仮に、奴等が敵に廻ったとしても――」
ウリエルは、淡々と言い放った。
「――神の名の元に、消し去ればよい」



「う……?」
つぐみはゆっくりと、眼を開く。
そこは、テントの中のようだった。
「私、は……?」
「あ、眼が醒めましたか?」
「……テトラ」
外から、テトラが顔を見せる。
「…ここは? 一体、どうなったの? アンテノーラは? 天使は?」
「ここはアンテノーラからジュデッカへと続く道の途中です。気を失ってるつぐみさんを僕が見つけて、死に物狂いで逃げて来たんですよ」
「気を失ってた……?」
つぐみは納得出来ないものを感じた。メタトロンが、つぐみを見逃したのだろうか。
「私はどれくらい眠ってたの?」
「1日くらいです。まぁ、あんな目にあったんですから… 1日くらい休まないと」
「…………」
テトラはショックを受けるどころか、疲れてさえいないようだった。『あんな目にあった』というのに。
「…まぁ、いいわ。ゆっくりと休んだ事だし、出発しましょう」
「え? もういいんですか?」
「ええ、体調は万全よ」
「でも――」
「今は、前に進むしかないわ」
つぐみはテントの外に出ると、続いている道の向こうを見詰める。

「行きましょう――城下町ジュデッカへ」




あとがきだと伝わるもの・4
こんにちは、大根メロンです。
さて、第四話。新展開です。と言うより急展開。
…何か、つぐみんサイドしか戦ってない気がするなぁ(汗)
てとらん、ちょっと本気モードで『神の代理人メタトロン』を撃破。
次回はたけぴょんサイド。ようやく、たけぴょん活躍予定。
ではまた。


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