真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第五話 ―変革―




「何というか… 活気のない街だな」
トロメアへとやって来た武の感想は、それだった。
口にはしなかったが、ケルベロス達も同じように感じているらしい。
「――奇妙ですね。この街は、アンテノーラと並んでジュデッカに近い街。見る限りでは、この街はなかなか発展しています。しかし… 何故か、住人達には力が宿っていません」
ガブリエルが呟く。
その言葉通り、街の規模とは反して、人々はまるで精気を抜かれたような有様だった。
「…まぁ、とにかく今日の宿を探そう」



「酷いな、こりゃ……」
武が宿の窓から外を見ると、道のあらゆる所で悪魔や魔界人が倒れていた。
死んではいないようだったが… 立ち上がる気力がないらしい。
――死の街。
そんな単語が、武の頭をよぎる。
このままでは、いずれその言葉通りの惨状となるだろう。
「マスター、戻ったよ」
ドアが開き、サリエルとガブリエルが部屋に入って来る。
「おう、どうだった?」
「苦労したよ。何しろ、まともに喋る事すら出来ない人もいたから」
サリエルが、かぶりを振る。
「どうやらこの変異は、数日前から起こっているようです。突然、この街の住人達は衰弱し、倒れ始めたようですね」
カブリエルが、集めた情報を武とケルベロスに話す。
「原因は不明。少しずつ死者も出始めているようです。このままでは、間違いなく全滅するでしょう」
「全滅……」
武はその言葉を口の中で反芻する。ぞっとするような話だった。
「――それで、主よ。どうするつもりだ?」
ケルベロスが、武に言う。
「どうするって……」
「我等は明日になれば、この街を離れる。なら、この街がどうなろうと我等の知った事ではない」
「いや、でもな――」
「一刻でも早くジュデッカに向かわなければ、つぐみと会えぬかも知れぬぞ?」
「……っ」
武が黙り込む。
「この街を救おうなどという事は考えない方がいいよ。ただでさえ、ボク達は自分達の事だけで手一杯なんだから」
サリエルも、ケルベロスに同意する。
「…そうだな。俺達は明日には出発する。余計な事をしている時間は、ない」
武は一同に向け、そう言い放った。



夜。
トロメアの街中を歩く、1つの影があった。
その影は歩きながら、倒れている人々を診ている。
「――何をしているのです?」
その影に、ひとりの天使が声をかけた。
「ガブリエル… お前こそ、何やってるんだ?」
影――武は、ガブリエルが現れた事に少し驚く。
「私は夜の散歩を」
「俺も夜の散歩だ。ついでに、この変異の原因を潰そうと思ってる」
「…………」
ガブリエルは呆れたような、よく分からない表情を浮かべた。
「…まぁ、明日に発つのならば今夜中に解決してしまえばよい、というのは道理でしょうが――」
「何だ、分かってたのか」
「しかし、ケルベロスさんとサリエルは宿で休んでいます。彼等の助力なしに、何が出来ます?」
「何が出来るかは分からないが、出来る事はするつもりだ」
そう言うと、武は歩き出す。
「貴方に出来る事があるのですか?」
「ああ。とりあえず、変異の原因は分かったぞ」
「え――っ?」
カブリエルは早足で武の隣に並び、歩き始める。
「どういう事です? 原因、とは……?」
「簡単な事だ。サマナーなら、誰だって分かる。基本中の基本だからな。この変異の原因は――」
武は自分のPDAを見ながら、言った。
「――住人達の、マグネタイト不足」



「マグネタイト欠乏症……!?」
「そう。誰かが、この街の人々からマグネタイトを奪っている。そのせいで実体化が不完全となり、衰弱していってるんだ」
「…………」
ガブリエルは腕を組み、
「…それで、貴方はどうやってその犯人を見つけるつもりなのです?」
「悪魔召喚プログラムを使って、マグネタイトの流れを辿ってる。追って行けば、犯人ホシの顔を拝めるはずだ」
武が立ち止まる。
「…どうやら、この下みたいだな」
ふたりの足元には、大きなマンホールがあった。



「…何なんだ、ここは?」
マンホールの中にあった作業用エレベーターで地下へ降りると、そこには古びた通路があった。
「今は使われていない地下水路か何かでしょう」
「地下水路… この街のか?」
「ええ、おそらくは」
武は1歩を踏み出す、ガブリエルも、武に続いた。
「それより、ガブリエル」
「はい?」
「お前、どうして付いて来るんだ? 散歩はいいのか?」
「ですから、こうやって水路を散歩しているのではないですか」
「散歩には向かない場所だぞ? 暗いし、ジメジメしてるし」
「そうですね。ならば街の人々を回復させて、この水路を整備してもらいましょう。遊歩道にするというのも、いいかも知れません」
「いや、遊歩道は無理だろ。さすがに」
ふたりは、通路を進んで行く。
「――犯人は、何者だと思う?」
「街1つを危機に陥れるほどのマグネタイトを必要としているのですから、強大な悪魔でしょうね。あるいは、強大な悪魔を喚ぼうとしている召喚師かもしれません」
「…どっちにしろ、強大な悪魔とは闘わなきゃならないんだな」
「召喚師の方でしたら、召喚が行われる前に相手を斃してしまえばよい事です。仮に、最悪の場合が起こったとしても――」
ガブリエルが、微笑を浮かべた。
「――水の熾天使に、敵など存在しません」



「ほう、客とは珍しい」
広場に出た武達の前を、ひとりの悪魔が出迎えた。
女性の身体に山羊の頭と脚を持つ、サバトを司る悪魔――堕天使バフォメット。
「…どうやら、召喚師の方みたいだな」
広場の床には、武が召喚に使うものと同じ魔方陣が描かれている。
「バフォメット……!?」
ガブリエルが、呆然としながら言う。
「おやおや、懐かしい顔も見える」
バフォメットがケラケラと笑う。背中の翼が揺れ、額の五芒星ペンタグラムが妖しく輝いた。
「…この街の人々からマグネタイトを奪っているのは、貴方ですか?」
「いかにも」
「何のために……」
「天使と闘うためだよ」
「――!!?」
ガブリエルの顔に、驚きが満ちた。
「今日、アンテノーラに天使の軍隊が攻め込んだ。万魔殿パンデモニウムを攻めるためになぁ」
「どういう事だ……?」
武が呟くが、バフォメットはそれを無視して、
「それを予測していたルシファーは数日前に、天使と戦うための悪魔の召喚を私に命じたのだよ」
「民を犠牲にしろと命令された訳ではないでしょう!」
「同じ事だ。戦争が始まれば、どうせ死ぬ」
「く……っ!」
ガブリエルが、2枚の翼を広げる。
それと共に地鳴りが響き、水の元素が集合してゆく。
「バフォメット、1度だけ言います… 召喚を中止しなさい!」
「それは無理な相談」
「神の言葉を忘れましたか!」
「…………」
バフォメットは蔑むような笑みを浮かべ、
「…私が唯一神アッラーから離れたのは、何故だったかな? ガブリエルジブリール
「――<アクアダイン>ッ!!!!」

ドグォォオオオ――ッ!!!!

水の激流と水圧が、バフォメットを飲み込んだ。



「ガブリエル……」
「…詳しい話は、上に戻ってからにしましょう」
「ああ… そうだな」
だが、その時。

永遠なる主、ツァバトの神EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH

小さな声が、聞こえた。

栄光に満ちたるアドナイの神の名においてELION EIECH ADIER EIECH ADONAI

それは、あの一撃を受けてなお、命を失わなかったバフォメットの声。

さらに口に出来ぬ名、四文字の神の名においてJAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI

魔方陣に、大量のマグネタイトが注ぎ込まれる。

オー・テオス、イクトロス、アタナトスにおいてAGIOS O THEOS ISCHIROS ATHAMATON

そして、魔方陣から光が溢れ出した。

秘密の名アグラにおいて、アーメンAGLA AMEN

武とガブリエルは即座にバフォメットにトドメを刺そうとしたが、

「――フングルイ ムグルウナフ クトゥグア フォマルハウト ンガア・グア ナフルタグン イア! クトゥグア!」

ふたりの攻撃は、あまりにも遅すぎた。

ドゴァァアアアアッッ!!!!

床に描かれていた魔方陣から、炎が噴き上がる。
その炎はバフォメットを焼き尽くし、そのマグネタイトを吸収すると、まるで生物のように蠢いた。
「…バフォメット、自らがにえとなりましたか……」
ガブリエルが、呟く。
それと同時に、炎は武達に襲いかかった。
「――のわぁっ!!?」
武達は水路の中を駆け、炎から逃げ出す。
「何だ、あれは!!?」
「…邪神クトゥグア。這い寄る混沌クロウリング・ケイオスと敵対する、火の悪魔です」
「――這い寄る混沌クロウリング・ケイオス?」
聞き慣れない言葉に、武が首をひねる。
「ソロモン、ナポレオン、ラヴクラフト、ヒトラー… 彼等の夢に現れ、栄光と破滅を与えた――無貌にして、千の顔を持つ悪魔」
「無貌にして、千の顔を持つ悪魔……」
「…まぁ、そんな事はどうでもいいです」
「…そうだな」
クトゥグアは水路を焼きながら、武達との距離を縮めてゆく。
「――<マハアクエス>!!」
ガブリエルが無数の水弾を撃ち込むも、クトゥグアは怯みさえしない。
「くそっ!」
武が、放たれた火球を斬り払う。
「ガブリエル、お前の水撃魔法でどうにか出来ないのか? 水の熾天使に敵は存在しないんだろ?」
「出来ない事はないと思いますが… 強力な魔法を使えば、その威力でこの水路が崩壊する危険があります。そうなれば、武さんは瓦礫に潰されてしまうでしょう」
武は複雑な表情を浮かべて、
「…俺が足を引っ張ってるのか」
「そう悲観的になさらずに。つぐみさんとやらに笑われますよ」
「…そうだな。よし、どうにかしてこの苦境から抜けるぞ」
「はい」
だが、この狭い空間内で炎を操るクトゥグアと闘うのは、あまりにも不利。
「なぁ、ガブリエル。この狭い水路の中なら、いずれクトゥグアは酸素不足で燃え尽きるんじゃ――」
「限りなくゼロに近いでしょうが、その可能性がないとは言えません。しかし、その前に武さんが酸欠で倒れてしまうと思いますが。まぁそれよりも、焼き殺される方が先でしょう」
「…だよなぁ……」
水路内が熱気で満ち、武の体力と水分を奪う。
武とガブリエルは、少しずつ追い詰められていった。
「う……っ!?」
汗が眼に入り、武の視界が一瞬だけ消失する。
それを待っていたかのように、炎の触手が武に襲いかかった。
「――武さん!!?」
しかし、その刹那。
「――<一文字斬り>!」
武を捕らえようとしてた炎の触手が、粉々に斬り刻まれた。



「まだまだ甘いな、主殿」
炎の触手を斬り刻んだ剣の主は――軍神ヴァルキリィ。
「ヴァルキリィ!? お前、どうしてここに……?」
「そんなに驚くような事でもないだろう。戦士の元に戦女神が現れるのは当然だ」
「でも、俺はまだ死んでないぞ?」
「分かってる。だから来た」
ヴァルキリィが、武の隣に立つ。
「ヴァルキリィさん、と仰いましたか? 何かこの場を抜ける策でも?」
「…鳥女、1つ言っておく。それ以上主殿に近付いたら殺す」
「突然訳の分からない事を言い出さないでください」
ガブリエルは溜息をつきながら、
「それで、さっきも言いましたが… 何か策があって現れたのですか? 武さんは、頭脳労働が苦手なようなので」
「悪かったな」
ヴァルキリィは、武とガブリエルを見る。
「斃そうと考えるから良くないのではないか? 元の世界に送り還してしまえば、それで済む事だろう」
「――!」
武がはっと顔を上げて、
「そうか、魔方陣! あいつは、コンピューター上の魔方陣から喚び出される仲魔とは違う。あの広場にあった魔方陣を消せば、クトゥグアを送還する事が出来るはずだ!!」
「なるほど……」
ガブリエルが納得する。
しかし、
「それで、どうやってあの広場まで戻るつもりです?」
「……あ」
広場に戻るには道を逆行するしかない。しかし… 目の前には、クトゥグアが立ちはだかっている。
「鳥女、貴様の水撃魔法であの炎を弱めろ。一瞬でいい。主殿は、その隙に突破してくれ」
「でも、すぐ追って来ると思うぞ?」
「主殿、何のために私がここにいると思っている」
ヴァルキリィが武に、凛々しい笑みを向けた。
「…よし、任せたぞ」
「ああ」
「ガブリエル、やってくれ」
「危険な作戦ですね… まぁ、仕方ありません」
ガブリエルが、掌をクトゥグアに向ける。
元素を集束させ、水を生み出してゆく。
「――<アクアダイン>!」
1発の水弾が、クトゥグアに向け放たれる。
それと同時に、武が駆けた。

ド――ガァァアアアアッッ!!!!

水弾がクトゥグアに命中し、一瞬にして蒸発する。しかしその瞬間だけ、火勢も弱まった。
そして、その蒸気の中に武が跳び込む。
「く――っ!?」
しかし、弱まったとはいえ火神の炎。炎が床を迸り、武を襲う。
武は将門之刀を床に突き刺し、棒替わりにして炎を飛び越えた。
そして、クトゥグアの横を抜ける。
クトゥグアは武を追おうとするが、
「<ヒートウェイブ>ッッ!!」
「<マハアクエス>!」
ヴァルキリィとガブリエルの攻撃が、それを止めた。
武は通路を走り抜け、広場まで戻る。
そして――
「これで… 終いだ!」
魔方陣の中心に書かれている女神の顔を、将門之刀で貫いた。



ヴァルキリィとガブリエルの目の前で、クトゥグアがマグネタイトへと分解されてゆく。
元々、このマグネタイトは街の人々から奪ったもの。クトゥグアが敗れた今、それは人々の身体へと戻ってゆくのだろう。
ふたりは、広場へと向かって行く。
だが、
「――主殿!!?」
「――武さんっ!?」
広場には、武が倒れていた。



「う、ん……」
「あ、眼が醒めましたか」
武が眼を開けると、そこにはガブリエルの顔があった。
「あれ? 俺は……」
周りを見廻すと、どうやら宿のようだった。ケルベロスとサリエルが、ヴァルキリィに何事か説教されている。
「広場で意識を失っていたので、ここまで運んで来たのです」
「…クトゥグアは?」
「無事、送り還されました」
「そっか」
武は、ベッドから起き上がる。
「それで、俺はどんだけ眠ってたんだ?」
「17年だよ」
サリエルが、お約束な事を言う。
ヴァルキリィの拳が、サリエルの頭を直撃した。
「…んで、本当は?」
「数時間程度ですよ」
結局、ガブリエルが教える。
「それにしても… 無茶をしましたね」
「ああ、自分でもそう思う。でも、何とかなってよかったよ」
「…貴方は――」
ガブリエルは心地よい声で、
「マリアの子と同じをしていますね。打算なく、ただ誰かを救おうとする者のです」
「…………」
武は、頭を掻くと、
「…それで、ガブリエル――」
「天使がアンテノーラに攻め込んだ――それについて、聞きたいんですね?」
「……ああ」
その会話に、サリエルが反応する。
「アンテノーラに天使が…? まいったね、とうとう始めたか」
ケルベロスとヴァルキリィも、ベッドに寄って来た。
「どういう事だ?」
「天使達は、万魔殿パンデモニウムを攻めるつもりなのさ。そのために、アンテノーラを占領したんだ」
ケルベロスの問いに、サリエルが答える。
「何で、そんな事を……?」
武のその言葉に対し、ガブリエルは緊迫した表情で――こう言った。

「――今の世界を滅ぼし、新たな世界を創造するためです」




あとがきだと伝わるもの・5
どうも、大根メロンです。
…今回は、疲れた……(汗)
ヴァルキリィ登場。何か微妙に名前が変わってますが、同一人物(悪魔?)です。『赤い絆』でそう書いたので。
そして、さり気なくフルート召還の原因解明。元ネタは、ペルソナ2の小説から。
次回は引き続きたけぴょんサイド。天使達の目的が明かされます。
…閣下の登場は、いつになるかな……。
ではまた。


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