真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第六話 ―冥府―




「――今の世界を滅ぼし、新たな世界を創造するためです」
サリエル以外の全員が、息を呑んだ。
「…あの大洪水の時のようにか?」
ケルペロスが、重い声で問う。
「はい。ですが、あれとは比べ物にならないほど大規模です。そして… 今の世界に、ノアの方舟は存在しません」
「…しかし、どうして新しい世界の創造なんか……」
何とか心を落ち着かせ、武が声を発した。
「この世界は汚れている――天使の大部分は、そう思っていますから。魔界ここにしろ現世アッシャー界にしろ、争いが絶える事なく、多くの血が流されています」
「それが赦せないのさ。天使は『LAW』の顕現だから」
「天使は、その新たな世界の創造を… <リセット>と呼んでいます」
サリエルとガブリエルの言葉を一字一句聞き逃さないよう、全員が押し黙る。
「まぁ、ボクやガブリエルはそんなに<リセット>に協力的じゃないんだけどね……」
「…全てを終わらせるには、まだ早すぎます。私はこの世界が嫌いではありませんから」
サリエルが指を立て、
「はい、ここまでで何か質問は?」
「…つまり、お前達ふたりは世界を滅ぼそうとしてる訳ではないのか?」
ヴァルキリィが、サリエルに言う。
「ま、そういう事だね。そのせいで、いろいろ眼を付けられちゃってるけど」
サリエルが窓から外を眺める。サリエルは、監視者の視線を感じていた。
「それで、どうやって世界を滅ぼすんだ? 簡単な事じゃなさそうだしな。それに、それが万魔殿パンデモニウムへの侵攻とどう関係がある?」
「そう焦らないでください」
ガブリエルは武の質問を制すると、
「――1つずつ、順を追って説明しましょう。初めに、この世界そのものについて」
「僕達がいる世界――魔界、人間界、天界。それを支えるために、唯一神はその下にひとりの天使を創った。宇宙の礎になってるんだから、相当凄い天使なんだろうね」
ガブリエルの言葉を、サリエルが引き継ぐ。
「同じように… 天使の下にはルビィの岩山、ルビィの岩山の下には牡牛――クジャタ、クジャタの下にはバハムートっていう巨大魚が存在するんだ」
「バハムートの下には大海、大海の下には空気の奈落、空気の奈落の下には火が存在します。そして――」
「火の下が世界の最下層。そこには、口の中に6つの冥府を持つ大蛇――ファラクがいる。全てを支えてるんだから、この蛇は想像を絶するほど大きいんだろうね」
ふたりは、そこで1度言葉を切った。
そして、全員が話に付いて来ている事を確認すると、
「天使の狙いは、そのファラクです。彼等はファラクに大量のマグネタイトを注ぎ込み、暴走させようとしています」
「全ての礎であるファラクが暴れだしたら… どうなると思う? 答えは簡単だね。その上に乗っかってる世界なんか、呆気なく崩れ去ってしまう。世界滅亡、だよ」
「そして… 無へと還った世界で、神と天使により新たなる世界を創造する。それが、天使達の計画です」
部屋の中を、重く暗い空気が支配する。
ふたりの天使は、再び口を開いた。
「…万魔殿パンデモニウムに、存在するのさ。世界の深淵――ファラクの元へと続く次元通路がね」
「天使が万魔殿パンデモニウムに攻め込む目的は、まずその次元通路の確保。そして、ファラクを暴走させるためのマグネタイトを得る事です」
「ファラクを暴走させるためのマグネタイトって… そんなでかい蛇を暴走させるような大量のマグネタイトを、どこから手に入れるんだ?」
武が、疑問を口にする。
ガブリエルは変わらぬ表情のまま、
「…ひとり、いるでしょう? それほどのマグネタイトを持つ悪魔が。彼を殺し、そのマグネタイトを奪うのです」
「……!」
武は眼を見開く。
「ルシファーか……!」
「はい。彼の配下である上級悪魔グレーターデーモン達の分も足せば、ファラクを暴走させる事が可能となるでしょう」
「…………」
皆、何も言う事が出来なかった。
少しの間そうした後、
「…やっぱり納得出来ない。勝手に滅ぼされてたまるか」
武が、ぽつりと呟いた。
「そう言うと思いました」
ガブリエルは武を見ながら、僅かに笑う。
「俺は、天使を止めたいと思う。お前達はどうする?」
武は、仲魔達に問いかける。
「我等は、どこまでも主に付き合うさ」
ケルベロスは、そう答えた。
サリエルとヴァルキリィも、同意するように頷く。
「お前達… すまないな」
武は、本当に嬉しそうに――笑みを浮かべた。
その時、
「そう言えば… つぐみさんは大丈夫なのでしょうか? 今の魔界は、非常に危険な状況ですが――」
ガブリエルが、思い出したように言った。
「…………」
皆は無言でお互いを見詰め合った後、
「まぁ、大丈夫だろう。つぐみだし」
「それほど心配する必要はないな」
「つぐみちゃんは強いしね」
「あの女は、心配するだけ無駄だ」
微かに笑いながら、そう答える。
「え……?」
「ガブリエル、君は知らないんだっけ。つぐみちゃんはね… 多分、君に敗けないくらい強いよ。何しろ、あのリリスを1対1で斃したくらいだから」
「――は?」
サリエルの言葉に、ガブリエルがマヌケな声を出した。
「…私をからかっているのですか?」
「そんなつもりはないよ。ただ、事実を語っただけさ」
「しかし、人にそのような力が――」
ガブリエルが困惑する。
「…そう言われればそうだな。いくら完全なキュレイ種といえども、あの強さは異常だ」
ヴァルキリィが、眉をひそめながら言った。
「…俺は、何となくあいつの強さの理由が分かるぞ」
「え……?」
「簡単に言えば、『地獄巡り』ってヤツだな」
武はさらに続ける。
「どこの神話にもあるだろ? 神サマや英雄が1度あの世に行って、修行して生き返ってくるってのが」
「ああ、父上が似たような事をしていたな」
「…ヘラクレスも冥界に来た事があるな。もっとも、その相手は我だったが」
ヴァルキリィとケルベロスはそう答えた後、
「……まさか」
「そのまさかだろうな。あいつは死ねない身体故に、何度も死んで生き返った。つまり、その度に地獄巡りをしている事になる」
「…………」
「まぁ、油断してたり頭に血が上ってたりしてたら違うかも知れないが、それ以外なら――」
ガブリエルを除く全員が、何とも言えない表情をした。
「――誰であろうと、つぐみに勝てるはずがない」






つぐみの目の前に、息絶えた1体の巨竜がいた。
それは、3頭を持つペルシアの悪竜――邪龍アジ・ダハーカ。
「テトラ、もう出てきても大丈夫よ」
「…そ、そうですか?」
テトラが物陰からコソコソと出て来る。
そして、恐る恐るアジ・ダハーカが死んでいる事を確かめると、
「つぐみさんって、本当に凄いですよね… こんなに簡単にダハーカを斃してしまうなんて。ファリードゥーンもビックリですね」
「簡単ではなかったわ。ほら、血が出てる」
「もう止まってますよ。と言うより、傷が塞がってるじゃないですか」
「あら、本当ね」
つぐみはどうでもいいらしく、先に進み始める。
慌てて、テトラもそれを追い駆けた。
「でも、どうしてこんな高位の悪魔が……?」
「多分、誰かが喚び出したんでしょう。何が目的なのかは知らないけど」
「…………」
テトラはしばらく腕を組んで考えた後、
「…なるほど。天使達エンジェルズと戦うために、ルシファーがバフォメットあたりに召喚させたんですね。で、制御に失敗したと。詰めが甘いのは昔から変わりませんね、ルシファー」
と、小さな声で言った。
「――え?」
つぐみが、後ろを歩いているテトラの方に振り向く。
「あ、何でもないです。ただの独り言ですよ」
「……そう。でもテトラ、私は耳がいいの。独り言なら、もっと小さな声で言った方がいいわよ。聞かれたくないような事なら、なおさら…ね」
「こ、今後は気を付けます… あはは、はははは……」
顔にダラダラと汗を流しながら、テトラはぎこちなく笑った。
「…………」
つぐみは、顔を前に戻す。
その向こうには、1つの街が見えていた。






「ケルペロス、ジュデッカまではどれくらいかかるんだ?」
トロメアを出発した武達は、寂れた道を進んでいた。
「半日ほどかかるだろう」
「…半日、か……」
今の武達には、少しの時間でも惜しい。
いつ、天使が万魔殿パンデモニウムへの侵攻を始めるか分からないのだ。
「急ごう。1秒でも、早い方がいい」






「――どうやら、倉成武は私達の邪魔をする気みたいですね」
ウォッチャーを通して武達を視ていたラファエルが、笑った。
「サリエルはともかく、ガブリエルも追従するつもりのようだな」
ウリエルが、つまらなそうに言う。
「――まぁ、仕方ないね」
ラファエルとウリエルの背後から、声。
「全ての者が、同じ価値観で動いている訳じゃない。何かを為し遂げようとする者に、敵が生まれるのは必然だよ」
その声の主は、天使を統べる長。
「戦うしかないね。私達の理想のために」
天使長――熾天使セラフミカエルは、少し悲しそうに… そう呟いた。




あとがきだと伝わるもの・6
ハロー、大根メロンです。
これで、メガセヴUも半分くらいです。
天使の目的やつぐみの強さの秘密も明かされ、まぁそれなりに盛り上がってきました。多分。
そして、次回はジュデッカ。たけぴょんとつぐみんは無事再会出来るんでしょうか。こう御期待。
ではまた。


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