真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
「――今の世界を滅ぼし、新たな世界を創造するためです」 サリエル以外の全員が、息を呑んだ。 「…あの大洪水の時のようにか?」 ケルペロスが、重い声で問う。 「はい。ですが、あれとは比べ物にならないほど大規模です。そして… 今の世界に、ノアの方舟は存在しません」 「…しかし、どうして新しい世界の創造なんか……」 何とか心を落ち着かせ、武が声を発した。 「この世界は汚れている――天使の大部分は、そう思っていますから。魔界にしろ現世にしろ、争いが絶える事なく、多くの血が流されています」 「それが赦せないのさ。天使は『法』の顕現だから」 「天使は、その新たな世界の創造を… <リセット>と呼んでいます」 サリエルとガブリエルの言葉を一字一句聞き逃さないよう、全員が押し黙る。 「まぁ、ボクやガブリエルはそんなに<リセット>に協力的じゃないんだけどね……」 「…全てを終わらせるには、まだ早すぎます。私はこの世界が嫌いではありませんから」 サリエルが指を立て、 「はい、ここまでで何か質問は?」 「…つまり、お前達ふたりは世界を滅ぼそうとしてる訳ではないのか?」 ヴァルキリィが、サリエルに言う。 「ま、そういう事だね。そのせいで、いろいろ眼を付けられちゃってるけど」 サリエルが窓から外を眺める。サリエルは、監視者の視線を感じていた。 「それで、どうやって世界を滅ぼすんだ? 簡単な事じゃなさそうだしな。それに、それが万魔殿への侵攻とどう関係がある?」 「そう焦らないでください」 ガブリエルは武の質問を制すると、 「――1つずつ、順を追って説明しましょう。初めに、この世界そのものについて」 「僕達がいる世界――魔界、人間界、天界。それを支えるために、唯一神はその下にひとりの天使を創った。宇宙の礎になってるんだから、相当凄い天使なんだろうね」 ガブリエルの言葉を、サリエルが引き継ぐ。 「同じように… 天使の下にはルビィの岩山、ルビィの岩山の下には牡牛――クジャタ、クジャタの下にはバハムートっていう巨大魚が存在するんだ」 「バハムートの下には大海、大海の下には空気の奈落、空気の奈落の下には火が存在します。そして――」 「火の下が世界の最下層。そこには、口の中に6つの冥府を持つ大蛇――ファラクがいる。全てを支えてるんだから、この蛇は想像を絶するほど大きいんだろうね」 ふたりは、そこで1度言葉を切った。 そして、全員が話に付いて来ている事を確認すると、 「天使の狙いは、そのファラクです。彼等はファラクに大量のマグネタイトを注ぎ込み、暴走させようとしています」 「全ての礎であるファラクが暴れだしたら… どうなると思う? 答えは簡単だね。その上に乗っかってる世界なんか、呆気なく崩れ去ってしまう。世界滅亡、だよ」 「そして… 無へと還った世界で、神と天使により新たなる世界を創造する。それが、天使達の計画です」 部屋の中を、重く暗い空気が支配する。 ふたりの天使は、再び口を開いた。 「…万魔殿に、存在するのさ。世界の深淵――ファラクの元へと続く次元通路がね」 「天使が万魔殿に攻め込む目的は、まずその次元通路の確保。そして、ファラクを暴走させるためのマグネタイトを得る事です」 「ファラクを暴走させるためのマグネタイトって… そんなでかい蛇を暴走させるような大量のマグネタイトを、どこから手に入れるんだ?」 武が、疑問を口にする。 ガブリエルは変わらぬ表情のまま、 「…ひとり、いるでしょう? それほどのマグネタイトを持つ悪魔が。彼を殺し、そのマグネタイトを奪うのです」 「……!」 武は眼を見開く。 「ルシファーか……!」 「はい。彼の配下である上級悪魔達の分も足せば、ファラクを暴走させる事が可能となるでしょう」 「…………」 皆、何も言う事が出来なかった。 少しの間そうした後、 「…やっぱり納得出来ない。勝手に滅ぼされてたまるか」 武が、ぽつりと呟いた。 「そう言うと思いました」 ガブリエルは武を見ながら、僅かに笑う。 「俺は、天使を止めたいと思う。お前達はどうする?」 武は、仲魔達に問いかける。 「我等は、どこまでも主に付き合うさ」 ケルベロスは、そう答えた。 サリエルとヴァルキリィも、同意するように頷く。 「お前達… すまないな」 武は、本当に嬉しそうに――笑みを浮かべた。 その時、 「そう言えば… つぐみさんは大丈夫なのでしょうか? 今の魔界は、非常に危険な状況ですが――」 ガブリエルが、思い出したように言った。 「…………」 皆は無言でお互いを見詰め合った後、 「まぁ、大丈夫だろう。つぐみだし」 「それほど心配する必要はないな」 「つぐみちゃんは強いしね」 「あの女は、心配するだけ無駄だ」 微かに笑いながら、そう答える。 「え……?」 「ガブリエル、君は知らないんだっけ。つぐみちゃんはね… 多分、君に敗けないくらい強いよ。何しろ、あのリリスを1対1で斃したくらいだから」 「――は?」 サリエルの言葉に、ガブリエルがマヌケな声を出した。 「…私をからかっているのですか?」 「そんなつもりはないよ。ただ、事実を語っただけさ」 「しかし、人にそのような力が――」 ガブリエルが困惑する。 「…そう言われればそうだな。いくら完全なキュレイ種といえども、あの強さは異常だ」 ヴァルキリィが、眉をひそめながら言った。 「…俺は、何となくあいつの強さの理由が分かるぞ」 「え……?」 「簡単に言えば、『地獄巡り』ってヤツだな」 武はさらに続ける。 「どこの神話にもあるだろ? 神サマや英雄が1度あの世に行って、修行して生き返ってくるってのが」 「ああ、父上が似たような事をしていたな」 「…ヘラクレスも冥界に来た事があるな。もっとも、その相手は我だったが」 ヴァルキリィとケルベロスはそう答えた後、 「……まさか」 「そのまさかだろうな。あいつは死ねない身体故に、何度も死んで生き返った。つまり、その度に地獄巡りをしている事になる」 「…………」 「まぁ、油断してたり頭に血が上ってたりしてたら違うかも知れないが、それ以外なら――」 ガブリエルを除く全員が、何とも言えない表情をした。 「――誰であろうと、つぐみに勝てるはずがない」 つぐみの目の前に、息絶えた1体の巨竜がいた。 それは、3頭を持つペルシアの悪竜――邪龍アジ・ダハーカ。 「テトラ、もう出てきても大丈夫よ」 「…そ、そうですか?」 テトラが物陰からコソコソと出て来る。 そして、恐る恐るアジ・ダハーカが死んでいる事を確かめると、 「つぐみさんって、本当に凄いですよね… こんなに簡単にダハーカを斃してしまうなんて。ファリードゥーンもビックリですね」 「簡単ではなかったわ。ほら、血が出てる」 「もう止まってますよ。と言うより、傷が塞がってるじゃないですか」 「あら、本当ね」 つぐみはどうでもいいらしく、先に進み始める。 慌てて、テトラもそれを追い駆けた。 「でも、どうしてこんな高位の悪魔が……?」 「多分、誰かが喚び出したんでしょう。何が目的なのかは知らないけど」 「…………」 テトラはしばらく腕を組んで考えた後、 「…なるほど。天使達と戦うために、ルシファーがバフォメットあたりに召喚させたんですね。で、制御に失敗したと。詰めが甘いのは昔から変わりませんね、ルシファー」 と、小さな声で言った。 「――え?」 つぐみが、後ろを歩いているテトラの方に振り向く。 「あ、何でもないです。ただの独り言ですよ」 「……そう。でもテトラ、私は耳がいいの。独り言なら、もっと小さな声で言った方がいいわよ。聞かれたくないような事なら、なおさら…ね」 「こ、今後は気を付けます… あはは、はははは……」 顔にダラダラと汗を流しながら、テトラはぎこちなく笑った。 「…………」 つぐみは、顔を前に戻す。 その向こうには、1つの街が見えていた。 「ケルペロス、ジュデッカまではどれくらいかかるんだ?」 トロメアを出発した武達は、寂れた道を進んでいた。 「半日ほどかかるだろう」 「…半日、か……」 今の武達には、少しの時間でも惜しい。 いつ、天使が万魔殿への侵攻を始めるか分からないのだ。 「急ごう。1秒でも、早い方がいい」 「――どうやら、倉成武は私達の邪魔をする気みたいですね」 ウォッチャーを通して武達を視ていたラファエルが、笑った。 「サリエルはともかく、ガブリエルも追従するつもりのようだな」 ウリエルが、つまらなそうに言う。 「――まぁ、仕方ないね」 ラファエルとウリエルの背後から、声。 「全ての者が、同じ価値観で動いている訳じゃない。何かを為し遂げようとする者に、敵が生まれるのは必然だよ」 その声の主は、天使を統べる長。 「戦うしかないね。私達の理想のために」 天使長――熾天使ミカエルは、少し悲しそうに… そう呟いた。 |
あとがきだと伝わるもの・6 ハロー、大根メロンです。 これで、メガセヴUも半分くらいです。 天使の目的やつぐみの強さの秘密も明かされ、まぁそれなりに盛り上がってきました。多分。 そして、次回はジュデッカ。たけぴょんとつぐみんは無事再会出来るんでしょうか。こう御期待。 ではまた。 |
/ TOP / BBS / 感想BBS / |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||