真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
「ここが… ジュデッカ」 武は、街並みを見詰める。 とにかく寒かった。だが、気温が低い訳ではない。 この街の中心に座する城――万魔殿。そこから溢れ出す威圧感が、まるで骨まで凍るような錯覚を与えるのだ。 「…よくこんな街に住んでられるな……」 「慣れているのでしょうね」 ガブリエルが、万魔殿の方を向く。 「私は、これから『旧友』に会いに万魔殿へと行きます」 「――へ?」 武がその言葉の意味に気付くには、少しの時間が必要だった。 「――っ!!? お、おい、じゃあその『旧友』ってのは……」 「…気付いていなかったのは、武さんだけですよ」 「……マジで?」 武は仲魔達を見る。相当、呆れ顔だった。 「――では、縁があったらまた会いましょう」 「あ、ああ… またな」 ガブリエルの背中が、少しずつ離れて行き、そして見えなくなった。 「…じゃ、俺達もつぐみを捜すか」 ジュデッカの中。 「じゃあ、ここでお別れですね」 テトラは少し寂しそうに、つぐみに言った。 「ええ、助かったわ。ありがとう」 「そ、そんな! 助かったのはむしろ僕の方ですよ」 テトラが、つぐみに頭を下げる。 「それで、つぐみさんはこれからどうするんですか?」 「そうね、まずは目的の人捜しをするわ」 「そうですか… 頑張ってくださいね。じゃあ、また会いましょう!」 「ええ」 テトラは手を振りながら、つぐみから離れて行く。 その姿が見えなくなると、 「さて、武を捜さなきゃ……」 つぐみは、群衆の中へと向かって行った。 万魔殿――城内。 その王座に、ひとりの男が座っていた。 その者は… 堕天使と虐げられし神々を統べる、魔界の王――魔王ルシファー。 「――来た」 突然、ルシファーがそう言い放つ。 「……『来た』? 何がだ?」 王座の隣に立っていた男――イブリースが聞き返すが、 「僕が来たんですよ、イブリース」 それに答えたのは、ルシファーではなかった。 「……っ!!?」 驚愕するイブリース。 突然現れた少年――テトラは無造作に王座に近付くと、 「久し振りです。イブリース、ルシファー。元気にしてましたか?」 いつもと同じ笑顔で、そう言った。 イブリースが、その場に跪く。 「…やれやれ。また厄介な時に現れたものだよ」 ルシファーは、僅かに眉をひそめる。 「本当は会うつもりはなかったんですけど… 状況が変わったので」 「状況が変わった? 気が変わっただけではないのかね?」 「…はは、相変わらず手厳しいですね」 テトラは苦笑しながら、頬を掻く。 「口を慎め、ルシファー!」 イブリースがルシファーに荒っぽい声を投げかけるが、 「いいんですよ、イブリース。ルシファーは昔からこうですしね」 テトラはクスクス笑いながら、イブリースを制した。 「ところで、何と呼べばよい? 小町つぐみには『テトラ』と名乗っていたようだが… どうせ、『聖四文字』からとったのだろう? 捻りのない偽名だ」 「そうですか? 『ルイ・サイファー』よりは捻ってると思いますけど」 「…………」 ルシファーはしばらく黙っていたが、 「……で、結局どう呼べばよいのかね? 君の『本当の名』か?」 「はは、さすがに『本当の名』はちょっと困りますね。今は、前に使っていた名――御中主を、また名乗っています」 「天御中主大神… 日本の原初の神、か」 「ええ。いいでしょう?」 テトラはひょいひょいと、王座の周りを歩き廻る。 「では、御中主。一体、何をしにここへ来たのだ?」 「――…ルシファー、どうするつもりです?」 テトラの声が、急に鋭くなった。 「…どうするつもり、とは?」 「天使達は、すぐにでもここに攻めてきますよ。そして… 僕も、彼等の計画に便乗させてもらうつもりです」 「つまり、君も世界を<リセット>しようとしている訳か」 「ええ。天使達の目論見とは少し違う形で、ですけどね」 「…………」 ルシファーは、貫くような視線をテトラに向ける。 「無駄だよ、御中主。そんな事をさせはしない」 「ふふ、そう言うと思いましたよ」 ルシファーとイブリースを見るテトラの眼差しが、柔らかくなった。 「じゃあ、僕はそろそろ行きます。やっぱり、会ってよかった」 テトラの姿が、薄れてゆく。 「――愛してますよ… 僕の悪魔達」 まるで、初めから存在しなかったかのように――何の痕跡も残さず、テトラは消え去った。 「――数千年振りですね、ルシファー」 「…まったく、今日は客が多い日だ」 テトラに続き、王の間にガブリエルが現れる。 イブリースが、ルシファーを護るようにガブリエルとの間に立った。 「……イブリース。一応言っておきますが、敵意はありませんよ」 「承知している。だが、貴様が天使――我等にとって危険な存在である事に変わりはない」 「…………」 ガブリエルは、イブリースからルシファーに視線を移す。 「それで、客が多いとは? 誰か来たのですか?」 「ああ。しかし、君には関係ない」 「…そうですか。まぁ、そんな事より訊きたい事があるのですが――」 「天界への帰り方、かね?」 「いえ、それは後廻しにしました」 ガブリエルは1度眼を閉じると、 「貴方は… 天使と戦うつもりですか?」 誤魔化しを許さない声で、問いかけた。 「……ああ」 さも当然のように、ルシファーはそう答える。 「勝算があるとは思えませんが」 「それは君の主観だ」 「私にすら分かる事が、貴方に分からないはずはないでしょう。六副官が力を失っている今、貴方達の戦力は十分ではない。民が殺されますよ」 「ではどうしろと? 大人しく世界が滅び行く様子を見ていろ、とでも言うつもりかね」 「そんなつもりはありません。私には貴方が世界の命運など関係なく、ただ戦争を望んでいるように見えるのです。6000年前と、同じように」 「…………」 ルシファーは少しだけ沈黙すると、 「…私には私の役割がある。『善』の存在意義は『悪』であり、『悪』の存在意義は『善』だ。故に、私は『絶対悪』でなければならないのだよ。そのためなら、戦争だろうと何だろうと、いくらでもしてみせよう」 「……何が、言いたいのです?」 「それが分からないようでは、まだ半人前だ」 「…………」 ガブリエルが、ルシファーを睨む。 「御託を聞きたい訳ではありません。――結局、貴方は戦うつもりなのですね?」 「その答えは不変だ」 「…やはり、貴方にアブディエルのような聡明さを求めたのは間違いでしたか」 「嫉妬と傲慢により天から堕とされた私が、聡明なはずなかろうに」 ルシファーは、クッと笑う。 「…………」 ガブリエルは無言でルシファーに背を向けると、王の間から去って行った。 「ふぅ… やれやれ」 ルシファーは周囲を見廻す。 イブリースの姿が、どこにもなかった。 「――それで、何のつもりです?」 街中を歩いていたガブリエルは、突然そう言った。 すでに、異界化により人々の姿は消えている。 「悪いが、ここで消えてもらうぞ――ガブリエル」 その異界を創り出した者は… イブリース。 「敵意はないと言ったはずですが」 「それ以前の問題だ。敵意があろうとなかろうと、天使風情が我等の前に立って、生きて帰れると思うか」 「…貴方のような者がいるから、いつまでも争い事がなくならないのですよ」 水の元素とその精霊が、騒ぎ始める。 「まぁ、いいでしょう。神の名の元に、貴方を滅ぼせばよい事です」 「『神の名の元に』? フン、笑止。神の言葉を教え広めたバフォメットを殺した貴様に、そのような事を言う資格はない」 「黙りなさい、悪魔!」 水が轟音と共に、イブリースへと襲いかかった。 だが、 「――<マハラギオン>」 ゴ…ォォアアア!!!! イブリースはそれに炎をぶつけ、相殺する。しかも炎の一部は水を突き抜け、ガブリエルの身を焼いた。 「ぐっ… さすがは、火から創られた出来そこないの天使ですね」 イブリースの眼に、怒りの炎が宿る。 「出来そこない、だと? 偉大なる神の被造物に、出来そこなったものなどない。貴様、神を侮辱する気か? それでも天の御使いか」 「侮辱しているのは――貴方でしょう! 神の命に背いた、愚かな天使!!」 「……馬鹿が」 「――<アクアダイン>!!」 ガブリエルが、水弾を放つ。 イブリースはそれを避けると、ガブリエルの背後を取る。 「く――っ!?」 「終わりだ」 しかし、 「――!?」 イブリースが、突然その場所から跳び退く。 一瞬後、そこには斬撃が一閃した。 「おい、無事か!?」 「武…さん?」 「おう、また会ったな」 「…縁が、あったみたいですね」 武はイブリースと向き合い、刀を構える。 「ガブリエル、無事?」 さらに、サリエルを始めとする武の仲魔達も、イブリースと相対した。 「……倉成武、か」 イブリースが、眼を細めた。 「ガブリエル、あいつは何だ?」 武は、静かに佇んでいるイブリースについて、尋ねる。 「彼はイブリース。ルシファーの腹心です。かつて神が土よりアダムを創造した時、神は天使達にアダムを拝するよう命じました。しかしイブリースはそれを拒否したため、神の罰を受け悪魔に身を堕としたのです」 ガブリエルは、恨むような視線をイブリースに向けた。 「当然だ。私が拝する者は神のみ。いくら神の命令といえども、人間を拝するなど――私には出来ん」 「…唯一神への忠誠故に、悪魔に成ったという事か……」 ケルベロスが武を庇うように、1歩前に出る。 「…どうする、主よ。あの男の魔力――唯事ではないぞ」 「ああ… 感じてる」 武の頬に、一筋の汗が流れた。 「――召喚師よ。私の狙いは、そこのガブリエルのみだ。その天使を差し出すならば、汝等には危害を加えぬと約束しよう。無論サリエルもだ。契約に基づいて行動しているなら、もはや天使云々は関係のない事だからな」 イブリースが、口を開く。 だが、武達は答えない。 「…意味のない提案だったか。まぁ、それが汝の生き方なのだろうな」 イブリースが、跳んだ。 「主殿には――指1本触れさせはせん!」 ヴァルキリィが武の前に立ち、壁となるが、 ドゴ…ンッ!!!! 「ぐ、あ――っ!!?」 魔法ですらない――魔力の塊を撃ち込まれただけで、ヴァルキリィはまるで人形のように吹き飛んだ。 さらにイブリースは腕の一振りで、サリエルとケルベロスを薙ぎ倒す。 「そして、死に方」 ガブリエルと武が反応するより早く、 パキィイン……!! 「な――っ!!?」 イブリースは、手刀で将門之刀を叩き折る。 そして―― 「――許せ」 その手刀を、武の胸に突き刺した。 「あ……っ?」 鮮血が、噴き上がる。 「…何だよ、くそ……」 武の身体は力を失い、その場に崩れ落ちた。 流れ出した血が――赤い池を作ってゆく。 時が、凍った。 「――<サマリカーム>ッッ!!!!」 ガブリエルが、武に回復魔法を施す。 しかし、肉体の傷を癒す事は出来ても、失った生命を喚び戻す事は出来ない――……。 「貴様ァァァアアアアッ!!!!」 ケルベロスがイブリースに跳びかかり、 「――<キングストーム>!!!!」 ド――ガガガガガァァアアアアアアッ!!!! 眼にも留まらぬ魔法の連撃を、イブリースに叩き込んだ。 「――ッ!!!?」 イブリースは、ケルベロスによって異界の外へと弾き飛ばされる。 それにより異界化が解け、武達は通常の世界に戻された。 突然現れた武達に、街の人々が眼を向ける。 そして、その人々の中に―― 「…どういう、事なの……」 つぐみが――いた。 つぐみはフラフラと、武の亡骸に歩み寄る。 「何で、武が……?」 仲魔達は、何も答えない。 つぐみが、武の亡骸に縋り付いた。 「……眼、開けてよ… やっと、やっと会えたのに……」 つぐみの眼から、涙が零れる。 「死なないって、約束したのに――……」 涙の雫が、武の亡骸の上に――落ちた。 「嫌ぁぁぁぁあああああああっ!!!!」 |
あとがきだと伝わるもの・7 こんにちは、大根メロンです。 さて、たけぴょん死亡。つぐみんとの再会は成らず。次回はどうなるんでしょうか。 ではまた。 |
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