その日、天使の軍勢がジュデッカに攻め込んだ。
町の人々も必死に抵抗したが、多勢に無勢。住人がひとり残らず息絶えるまで、さほど時間はかからなかった。
そして、天使達は万魔殿パンデモニウムへの攻撃を開始する。
イブリースを始めとする上級悪魔グレーターデーモン達の抵抗により何とか城は護られていたが、圧倒的劣勢を覆す一手は存在しなかった。
さらには、ウリエルやラファエルといった上位天使が参戦し、悪魔達を追い詰めてゆく。
世界滅亡の瞬間は、確実に近付いていた――……。


真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第八話 ―坂道―




誰も、何も口にはしなかった。
トロメアの宿の一室。戦火から逃れるため、武の仲魔達はここまで戻って来ていた。
ガブリエルの姿はない。彼女は武が死した後、何も言わずに立ち去った。誰も止められなかったし、止める気力も、意味もなかった。
その武は、ベッドの上で静かに眠っている。ガブリエルが回復魔法で全ての傷を塞いだため、本当に眠っているようだった。
しかし、その眠りが永遠に醒めない事は、『死』との関わりが深い悪魔である彼等には痛いほど分かっていた。
つぐみはあの後、ショックで意識を失った。そして今も、隣の部屋で眠り続けている。
もう、彼等に出来る事は何もなかった。『仲魔』は、主あっての『仲魔』なのだから。
「――くそっ!」
突然、ヴァルキリィがテーブルの上にあったコップを部屋の壁に投げ付ける。
カップは粉々に砕け、壁には染みとへこみが残った。
「……くそ、くそぉ……」
喉の奥から無理矢理搾り出したような声で、ヴァルキリィが呟く。
しかし、ケルベロスとサリエルは何の反応も見せなかった。
ケルベロスは眠ったように眼を閉じており、サリエルはただ呆然と窓の外を見つめ続けている。
そんな彼等の前に――
「――まったく、見るに堪えない」
突然、ひとりの男が現れた。



「戦況はどうです?」
「変わらず、天使我等が有利だ。だが、勝敗を決める一撃がない」
「ふむ……」
ラファエルとウリエルは、目の前の万魔殿パンデモニウムを眺めていた。
城には、天使達の猛攻が続いている。
「…やはり、メタトロンが抜けたのは大きいですね……」
「そうだな。あの者がいれば、もう少しマシな戦いが出来ただろう」
「…………」
ラファエルは人差し指を、万魔殿パンデモニウムに向ける。
そして、
「――<マハガルーラ>」
1発の、魔法を放った。
無数の真空の刃が撃ち込まれ、城の一部が崩壊する。
さらには… 周囲にいた者達が、敵味方関係なく切り刻まれた。
「……ラファエル」
「退屈なんですよ。まったく、強い故に攻撃に参加出来ないとは」
「仕方あるまい。我等が攻撃すれば、今のように敵味方関係なく殺してしまう。回復役程度しか、出来る事はない」
ウリエルが溜息をついた、その時。
「――回復役とは… また、似合わない事をしていますね」
突然、聞き覚えのある澄んだ声がした。
ふたりは、後ろを振り返る。
そこには… ひとりの天使がいた。
「……ガブリエル。何の用です?」
「助けに来たに決まっているでしょう」
「――は?」
ガブリエルが、ふたりの隣に立つ。
ウリエルは訝しげな声で、
「…意外だな。お前は、この世界が嫌いではないのではなかったのか? 我々に協力するという事は、<リセット>を推進するという事だぞ」
「…………」
ガブリエルは1度俯いたが、すぐに顔を上げた。
「…もう、どうでもよくなったのです。この世界は、理不尽な事が多すぎる」
ガブリエルは万魔殿パンデモニウムを直視し、
「私の部隊が敵を殲滅します。その代わり、味方の天使も全滅すると思いますが… 問題ありませんか?」
そう言った。
ウリエルはすぐに、
「敵を皆殺せるなら、味方コマがどれだけ減ろうと問題ない」
と、答える。
「…そうですか」
ガブリエルは片手を天に掲げ、
「――神は、我が力なり」
自らの称号を、唱えた。
すると突然、空が暗雲に覆い尽くされる。
その暗雲の中から、ラッパを持った7人の天使が現れた。
第七の封印が解かれし時に現れ、ラッパの音色と共に災厄をもたらす天使――魔人トランペッター。
「…やりなさい」
トランペッターズは、それぞれのラッパを口に当てる。
そして――ひとりずつ、それを吹き鳴らした。



「貴様ァ!」
ヴァルキリィが、突如現れた男――ルシファーに斬りかかる。
だがその剣撃は、不可視の障壁によって弾かれた。
「突然… 何だ?」
「黙れ! 主殿を殺したのは、貴様の部下だろうっ!!」
「確かに私の部下だが、私ではない。そして、私の命令でもない。襲われる理由は皆無だが?」
「ぬけぬけと……!」
ヴァルキリィが、炎のような怒りのこもった視線をルシファーに向ける。
ふたりの方にサリエルが顔を向け、
「…ルシファー、万魔殿パンデモニウムから逃げてきたのかい?」
「ああ。私は殺される訳にはいかないのでね」
「ふぅん。それで、何の用?」
ルシファーは徐に、武へと近付く。
「彼を殺したのは私ではないし、私の命令でもないが… 殺したのが私の部下である以上、私にも責任がある」
「だから何だい? マスターを生き返らせてくれるとでも?」
「可能かどうかは、君達次第だが…ね」
仲魔達がその言葉の意味を理解するには、少し時間が必要だった。
「…今、何と言った?」
ケルベロスが、ルシファーに問いかける。
「倉成武を生き返らせる事が出来るかどうかは、君達次第だと言ったのだ。よく考えてみたまえ。倉成武が死ぬば、君達との契約は強制破棄されるはずだろう」
「……っ!」
「しかし、君達は今でも彼の仲魔だ。彼の肉体と魂の連結リンクは、完全に切れた訳ではないのだよ。回復魔法のタイミングがよかったのだろう。つまり… 魂さえ連れ戻せば、彼を生き返らせる事が出来るはずだ」
仲魔達の瞳に、光が戻った。
「しかし、どうやって魂を連れ戻すのだ?」
「ケルベロス、君の口からそのような言葉が出るとは。オルフェイスを忘れた訳ではあるまい?」
「…冥界に行け、という事か」
「そういう事だ。私の魔法で空間に穴を開ければ、君達を日本の死者の国――黄泉よみに送る事が出来る。しかし、倉成武の魂を連れ戻せるかどうかは… 前述の通り、君達次第だがね」
ルシファーは、そこで1度言葉を切る。
その時。
「…なるほどね。話は分かったわ」
突然、そんな声が響いた。
声の方に眼を向けると、そこにはつぐみの姿。
「つぐみちゃん!? 眼が醒めたの!?」
「そんな話をしていれば、眼も醒めるわよ」
つぐみはサリエルの言葉に答えながら、ルシファーを見る。
「なら早速、私は黄泉へと行かせてもらうわ。あなた達はどうするの?」
つぐみの問いに仲魔達は、当然と言わんばかりに頷いた。
「決まりね。じゃあ、お願いするわ」
「よかろう」
ルシファーが、虚空に掌を向ける。
「――<アナザディメンション>」
紫電と共に空間が裂け、1つの穴が生まれた。
その穴の向こうには、奈落の底まで続きそうな下り坂が広がっている。
それは、黄泉へと続く道――黄泉比良坂よもつひらさか
「『さか』とは、つまり『さかい』だ。この境界を越えれば、もう帰る事は出来ないかも知れない。それでも行くかね?」
「くどいわよ。私達は、必ず武を黄泉還よみがえらせる」
つぐみはルシファーの横を抜け、穴の前に立つ。
「なら、もう言う事はない。オルフェイスのように失敗しないよう、気を付けたまえ」
「分かってるわ。それにしても、生きたままここを下る事になるとはね……」
つぐみが、穴の中に飛び込む。
武の仲魔達も、それに続いて行く。
一同の姿が、ルシファーの視界から消えた。
「――…さて、あの女神グレートマザーはどう出るかな」



「つぐみ、お前はここを下った事があるんだったな」
坂を疾走しながら、ケルベロスがつぐみに話し掛ける。
「ええ。死んだ数だけ、ここを下ったわ。黄泉の主とも顔見知りよ。私が来る度に、呆れた顔をしていたわね」
「お前のような者を、何度も相手にしなければならないのは大変だろうな」
ヴァルキリィが言う。
つぐみはそれに、
「…ええ、大変そうだったわ。私だけなら、もう少し楽だったでしょうけど」
「『私だけなら』? どういう意味だ?」
「それは――」
つぐみがその問いに答えるより早く、
「皆、出口だよ!」
頭の上を飛ぶサリエルが、大きな声を上げた。
つぐみ達の視界が、突然開ける。
そこは――不毛と穢れに満ちた、死者の世界。

「黄泉――……」




あとがきだと伝わるもの・8
毎度どうも。大根メロンです。
閣下の協力により、つぐみん達は黄泉下り。
…思い返せば、優編のシーンタイトルに黄泉比良坂がありましたよね。うん、ナイス偶然(オイ)
次回は黄泉編。武は無事に黄泉還る事が出来るんでしょうか。
ではまた。


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