その日、天使の軍勢がジュデッカに攻め込んだ。 町の人々も必死に抵抗したが、多勢に無勢。住人がひとり残らず息絶えるまで、さほど時間はかからなかった。 そして、天使達は万魔殿への攻撃を開始する。 イブリースを始めとする上級悪魔達の抵抗により何とか城は護られていたが、圧倒的劣勢を覆す一手は存在しなかった。 さらには、ウリエルやラファエルといった上位天使が参戦し、悪魔達を追い詰めてゆく。 世界滅亡の瞬間は、確実に近付いていた――……。 |
真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
誰も、何も口にはしなかった。 トロメアの宿の一室。戦火から逃れるため、武の仲魔達はここまで戻って来ていた。 ガブリエルの姿はない。彼女は武が死した後、何も言わずに立ち去った。誰も止められなかったし、止める気力も、意味もなかった。 その武は、ベッドの上で静かに眠っている。ガブリエルが回復魔法で全ての傷を塞いだため、本当に眠っているようだった。 しかし、その眠りが永遠に醒めない事は、『死』との関わりが深い悪魔である彼等には痛いほど分かっていた。 つぐみはあの後、ショックで意識を失った。そして今も、隣の部屋で眠り続けている。 もう、彼等に出来る事は何もなかった。『仲魔』は、主あっての『仲魔』なのだから。 「――くそっ!」 突然、ヴァルキリィがテーブルの上にあったコップを部屋の壁に投げ付ける。 カップは粉々に砕け、壁には染みとへこみが残った。 「……くそ、くそぉ……」 喉の奥から無理矢理搾り出したような声で、ヴァルキリィが呟く。 しかし、ケルベロスとサリエルは何の反応も見せなかった。 ケルベロスは眠ったように眼を閉じており、サリエルはただ呆然と窓の外を見つめ続けている。 そんな彼等の前に―― 「――まったく、見るに堪えない」 突然、ひとりの男が現れた。 「戦況はどうです?」 「変わらず、天使が有利だ。だが、勝敗を決める一撃がない」 「ふむ……」 ラファエルとウリエルは、目の前の万魔殿を眺めていた。 城には、天使達の猛攻が続いている。 「…やはり、メタトロンが抜けたのは大きいですね……」 「そうだな。あの者がいれば、もう少しマシな戦いが出来ただろう」 「…………」 ラファエルは人差し指を、万魔殿に向ける。 そして、 「――<マハガルーラ>」 1発の、魔法を放った。 無数の真空の刃が撃ち込まれ、城の一部が崩壊する。 さらには… 周囲にいた者達が、敵味方関係なく切り刻まれた。 「……ラファエル」 「退屈なんですよ。まったく、強い故に攻撃に参加出来ないとは」 「仕方あるまい。我等が攻撃すれば、今のように敵味方関係なく殺してしまう。回復役程度しか、出来る事はない」 ウリエルが溜息をついた、その時。 「――回復役とは… また、似合わない事をしていますね」 突然、聞き覚えのある澄んだ声がした。 ふたりは、後ろを振り返る。 そこには… ひとりの天使がいた。 「……ガブリエル。何の用です?」 「助けに来たに決まっているでしょう」 「――は?」 ガブリエルが、ふたりの隣に立つ。 ウリエルは訝しげな声で、 「…意外だな。お前は、この世界が嫌いではないのではなかったのか? 我々に協力するという事は、<リセット>を推進するという事だぞ」 「…………」 ガブリエルは1度俯いたが、すぐに顔を上げた。 「…もう、どうでもよくなったのです。この世界は、理不尽な事が多すぎる」 ガブリエルは万魔殿を直視し、 「私の部隊が敵を殲滅します。その代わり、味方の天使も全滅すると思いますが… 問題ありませんか?」 そう言った。 ウリエルはすぐに、 「敵を皆殺せるなら、味方がどれだけ減ろうと問題ない」 と、答える。 「…そうですか」 ガブリエルは片手を天に掲げ、 「――神は、我が力なり」 自らの称号を、唱えた。 すると突然、空が暗雲に覆い尽くされる。 その暗雲の中から、ラッパを持った7人の天使が現れた。 第七の封印が解かれし時に現れ、ラッパの音色と共に災厄をもたらす天使――魔人トランペッター。 「…やりなさい」 トランペッターズは、それぞれのラッパを口に当てる。 そして――ひとりずつ、それを吹き鳴らした。 「貴様ァ!」 ヴァルキリィが、突如現れた男――ルシファーに斬りかかる。 だがその剣撃は、不可視の障壁によって弾かれた。 「突然… 何だ?」 「黙れ! 主殿を殺したのは、貴様の部下だろうっ!!」 「確かに私の部下だが、私ではない。そして、私の命令でもない。襲われる理由は皆無だが?」 「ぬけぬけと……!」 ヴァルキリィが、炎のような怒りのこもった視線をルシファーに向ける。 ふたりの方にサリエルが顔を向け、 「…ルシファー、万魔殿から逃げてきたのかい?」 「ああ。私は殺される訳にはいかないのでね」 「ふぅん。それで、何の用?」 ルシファーは徐に、武へと近付く。 「彼を殺したのは私ではないし、私の命令でもないが… 殺したのが私の部下である以上、私にも責任がある」 「だから何だい? マスターを生き返らせてくれるとでも?」 「可能かどうかは、君達次第だが…ね」 仲魔達がその言葉の意味を理解するには、少し時間が必要だった。 「…今、何と言った?」 ケルベロスが、ルシファーに問いかける。 「倉成武を生き返らせる事が出来るかどうかは、君達次第だと言ったのだ。よく考えてみたまえ。倉成武が死ぬば、君達との契約は強制破棄されるはずだろう」 「……っ!」 「しかし、君達は今でも彼の仲魔だ。彼の肉体と魂の連結は、完全に切れた訳ではないのだよ。回復魔法のタイミングがよかったのだろう。つまり… 魂さえ連れ戻せば、彼を生き返らせる事が出来るはずだ」 仲魔達の瞳に、光が戻った。 「しかし、どうやって魂を連れ戻すのだ?」 「ケルベロス、君の口からそのような言葉が出るとは。オルフェイスを忘れた訳ではあるまい?」 「…冥界に行け、という事か」 「そういう事だ。私の魔法で空間に穴を開ければ、君達を日本の死者の国――黄泉に送る事が出来る。しかし、倉成武の魂を連れ戻せるかどうかは… 前述の通り、君達次第だがね」 ルシファーは、そこで1度言葉を切る。 その時。 「…なるほどね。話は分かったわ」 突然、そんな声が響いた。 声の方に眼を向けると、そこにはつぐみの姿。 「つぐみちゃん!? 眼が醒めたの!?」 「そんな話をしていれば、眼も醒めるわよ」 つぐみはサリエルの言葉に答えながら、ルシファーを見る。 「なら早速、私は黄泉へと行かせてもらうわ。あなた達はどうするの?」 つぐみの問いに仲魔達は、当然と言わんばかりに頷いた。 「決まりね。じゃあ、お願いするわ」 「よかろう」 ルシファーが、虚空に掌を向ける。 「――<アナザディメンション>」 紫電と共に空間が裂け、1つの穴が生まれた。 その穴の向こうには、奈落の底まで続きそうな下り坂が広がっている。 それは、黄泉へと続く道――黄泉比良坂。 「『坂』とは、つまり『境』だ。この境界を越えれば、もう帰る事は出来ないかも知れない。それでも行くかね?」 「くどいわよ。私達は、必ず武を黄泉還らせる」 つぐみはルシファーの横を抜け、穴の前に立つ。 「なら、もう言う事はない。オルフェイスのように失敗しないよう、気を付けたまえ」 「分かってるわ。それにしても、生きたままここを下る事になるとはね……」 つぐみが、穴の中に飛び込む。 武の仲魔達も、それに続いて行く。 一同の姿が、ルシファーの視界から消えた。 「――…さて、あの女神はどう出るかな」 「つぐみ、お前はここを下った事があるんだったな」 坂を疾走しながら、ケルベロスがつぐみに話し掛ける。 「ええ。死んだ数だけ、ここを下ったわ。黄泉の主とも顔見知りよ。私が来る度に、呆れた顔をしていたわね」 「お前のような者を、何度も相手にしなければならないのは大変だろうな」 ヴァルキリィが言う。 つぐみはそれに、 「…ええ、大変そうだったわ。私だけなら、もう少し楽だったでしょうけど」 「『私だけなら』? どういう意味だ?」 「それは――」 つぐみがその問いに答えるより早く、 「皆、出口だよ!」 頭の上を飛ぶサリエルが、大きな声を上げた。 つぐみ達の視界が、突然開ける。 そこは――不毛と穢れに満ちた、死者の世界。 「黄泉――……」 |
あとがきだと伝わるもの・8 毎度どうも。大根メロンです。 閣下の協力により、つぐみん達は黄泉下り。 …思い返せば、優編のシーンタイトルに黄泉比良坂がありましたよね。うん、ナイス偶然(オイ) 次回は黄泉編。武は無事に黄泉還る事が出来るんでしょうか。 ではまた。 |
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