真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
「――行くわよ!」 つぐみと武の仲魔達が、一斉に黄泉の大地を駆け出す。 「つぐみちゃん、その黄泉の主とやらはどこに?」 「黄泉の奥底。死者なら、問題なく行けるんだけど――」 つぐみがサリエルの問いに答えたのと同時に、 「ウ…オォォオオオ……!」 地面から、何かが這いずりだして来た。 それは武装した、人のようなモノ。 次から次へと、その死者の兵が現れる。 その総数――1500。 「…黄泉軍、か。やっぱり、生者は進ませてくれないみたいね」 「なら、こいつ等の相手はボクとヴァルキリィがするよ。つぐみちゃんとケルベロスは先に行って」 サリエルが、ニコニコしながら言う。 「お、おいサリエル! 何で私まで――」 「そう。なら、お願いするわ」 「――って、待て!!」 ヴァルキリィの声も虚しく、つぐみとケルベロスが走り出す。 ふたりに襲いかかった黄泉軍は、全てサリエルの大鎌が斬断した。 「…サリエル、覚えておけ」 「そうだね、忘れるまでは覚えておくよ」 サリエルが、上空に飛び上がる。 「…さて、そろそろ堪忍袋の緒がキレそうだ。魂を管理するこのボクに、死者が武器を向けるなんて。身の程知らずもいい加減にしてほしいよ――……」 黄泉軍を見下ろすサリエルの眼が、妖しく輝く。 そして―― 「――<ヘルズアイ>」 狂気の眼差しが、黄泉軍を射貫いた。 「グ、ァア…アアアア!?」 呪いを受け、バタバタと黄泉軍が息絶えてゆく。 生き残った少数が、ヴァルキリィに跳びかかった。 しかし。 「――馬鹿どもめ。戦神の娘である私を、その程度で討てると思うか」 どの黄泉軍の攻撃よりも速く、ヴァルキリィの剣が踊る。 黄泉軍の身体が… 粉々に散った。 攻撃どころか、血飛沫さえ剣に阻まれ届かない――。 「さぁ、闘いたい者は前に出ろ。この戦女神が、好きなだけ殺してやろう」 「グゲェ――ッ!?」 つぐみの蹴りが、鬼女黄泉醜女の顔面に喰い込む。 さらに、 「――<ファイアブレス>!」 ケルベロスの吐息が、黄泉醜女を灰へと変えた。 「…つぐみ、ここなのか?」 黄泉醜女を斃したケルベロスは、正面を見据える。 そこには――巨大な扉があった。 「ええ。この扉の向こうに、黄泉の主はいるわ」 つぐみが、扉に触れる。 信じられないほど軽い力で、扉は開いた。 「久し振りね、黄泉大神。それとも――」 扉の奥には… 古代の巫女のような衣装を纏った、一柱の女神。 「――伊邪那美、と呼んだ方がいいのかしら?」 「…まったく、また来ましたか。しかも、今度は生きたまま」 伊邪那美は呆れ果てながら、つぐみを見る。 「私も2度とあなたの顔は見たくなかったのだけど… ちょっと頼みが出来たの」 「頼み、ですか。それが――あの堕ちた星の力を借りてまで、ここに来た理由」 「ええ。単刀直入に言うわ。返してほしい魂がいるの。名前は、倉成武」 「…………」 伊邪那美はしばらく黙った後、 「――そんな頼みが、聞ける訳ないでしょう」 「無理は承知よ。でも、どうしても私は武を生き返らせたいの。私は――武がいないと、ダメだから」 「…愛する者を追って、黄泉に来たのですか」 伊邪那美の表情が、悲しみで歪む。 だがそれも、すぐに消えた。 「しかし何であろうと、死者の魂を返す事など出来ません」 「…交渉は決裂ね。ケルベロス、悪魔との交渉が失敗した場合は――」 伊邪那美に向かって、ケルベロスが跳んだ。 「無論、闘うしかないな」 ケルベロスの爪と牙が、伊邪那美を狙う。 しかし、それが彼女の急所を貫く前に、 「――侮らないでください」 伊邪那美が、ケルベロスの頭を掴んだ。 その頭を、伊邪那美は思い切り地面に叩き付ける。 ケルベロスの頭は地面に減り込み、首の骨がへし折られた。 「グ、ガァ……!?」 ケルベロスの身体が痙攣し、泡を吹く。 「……つぐみ。貴方もこうなりたくないのなら、すぐに現世へと帰りなさい」 だが、つぐみは退かない。 「無理な相談よ。私は、武を連れ帰るためにここに来たのだから」 つぐみはポケットからメリケンサックを取り出し、両手の指に嵌めた。 「――次は私が相手よ、伊邪那美」 「……愚かな」 伊邪那美の身体から、雷が発生する。 その雷に、8つの顔が浮かび上がった。 「行きなさい――八雷神!」 8体の雷神が、つぐみに向けて放たれる。 雷神達は空気を穿ちながら、つぐみに迫って行く。 しかし、つぐみはそれを―― 「ぬるい…わよ!」 1発の拳撃で、吹き飛ばした。 「な……っ!?」 つぐみは伊邪那美が呆けた隙に間合いを詰め、頭を狙い殴りかかる。 「――!!?」 しかしその拳撃は、伊邪那美の眼前で寸止めされた。 「…馬鹿な、実体を持たない雷神が――」 「このメリケンサック――護法徳手は、東大寺毘盧遮那仏の青銅から造られた物なの。実体があろうがなかろうが、確実に打ち砕けるわよ」 つぐみは不敵な笑みを浮かべ、 「さて、どうする? 武の魂を返すつもりがないのなら、このままあなたの頭を潰すけど?」 「…………」 伊邪那美が、降参と言うように手を上げた。 「…分かりました。いくら私が1度死した身といえども、やはり命は惜しい」 つぐみが、伊邪那美から拳を離す。 伊邪那美の手の中に、光の玉が現れた。 「倉成武の魂です。持って行きなさい」 「ありがとう、伊邪那美。感謝するわ。――ケルベロス、無事?」 「…何とか、な」 傷を回復魔法で癒したケルベロスが、のそのそと立ち上がる。 「しかし、つぐみ。貴方なら分かっているでしょうが――その魂を肉体に戻しただけでは、倉成武を黄泉還らせる事は出来ません」 「…ええ、分かってるわ。でも大丈夫」 つぐみは微笑を浮かべ、伊邪那美に言った。 「――武は、必ず地獄巡りを終えて帰って来る」 「…何だ、ここ?」 武は、暗い闇の中に立っていた。 しかし、自分自身の姿は何故かはっきりと見える。 「確か俺は、イブリースとかいう奴に殺されて――そっか、ならここはあの世か? いや、どっちかって言うと俺自身の精神世界っぽいな。肉体がなくなったから、俺の世界は精神だけになったのか」 武は、その場にガクリと崩れ落ちた。 「…まずい、本格的にまずい。つぐみとの約束を破っちまった」 「そうですね。生き返る事が出来たら、ボディブローでしょう」 「――ってうわぁ!?」 突如、武の目の前に見知らぬ女性が現れる。 「だっ、誰だ!?」 「私は伊邪那美。黄泉の女王です」 女性は慌てふためく武を見ながら、名を名乗った。 「…黄泉の女王? じゃあ、ここは黄泉なのか?」 「いえ。ここは、貴方が言った通り、貴方自身の精神世界です。貴方には、ここで試練を受けてもらいます」 「……試練?」 「地獄巡り、ですよ。知っているでしょう」 「――!!?」 武の顔に、驚きが浮かぶ。 「つぐみと貴方の仲魔達が突然黄泉にやって来て、貴方の魂を強奪したのです。貴方を、黄泉還らせるために」 「…そうか、だからさっき『生き返る事が出来たら』って言ってたのか」 「ええ、そうです。では早速――」 武を、浮遊感が襲った。 「――始めましょうか」 今まで立っていた場所が消え、武の身体が落下してゆく。 「うぉぉおおおっ!!?」 「忘れてはなりません。何が起ころうと、ここは貴方の精神世界。全て、貴方の心が生み出したものなのです」 伊邪那美の言葉と共に、武は意識を失った。 「…う、ぐ……?」 武が眼を開けると、そこは闇の中ではなかった。 武は、とりあえず起き上がる。そこは、何かの神殿のようだった。 「神殿って言っても、何やら雰囲気はヤバそうなんだよな……」 神殿内の空気は毒気で満ちており、立っているだけで不快な気分になってゆく。 「…長居は無用だ。さっさと行こう」 武は歩き出す。 長い廊下のような道を、1歩ずつ進んで行く。 「――!」 目の前に、扉があった。 少し躊躇してから、武はその扉を開ける。 「…何だ、ありゃ?」 部屋の中には、大きな卵のようなものがあった。 武は、ゆっくりとそれに近づいて行く。 その時、突然――卵にヒビが入った。 「――なっ!!?」 殻を突き破って、腕が飛び出す。 卵の中から出て来たのは――巨大な人の形をした、何か。 「…この魔王アンリ・マンユの眠りを妨げる者は、何者ぞ――」 アンリ・マンユが、腕を振り下ろす。 武の身体が、ぐしゃりと潰れた。 (おいおい、また死んじまったのか!?) 武の意識が、そう叫ぶ。 (…いや待て、肉体のない俺が死ぬはずはない。なら――) 武は冷静に、死のイメージを払拭する。 気付いた時には、再びアンリ・マンユと対峙していた。 「貴様、アムシャ・スプンタか……?」 アンリ・マンユが武を睨む。 それだけで、武は意識を失いそうになった。 「くっ… にしても、アンリ・マンユ――ゾロアスター教の大悪神かよ。そんなのが、俺の心の中に……」 アンリ・マンユが、再び武を潰そうとする。 武は必死で、それを避けた。 「…自分自身の黒い面と闘え、って事か――」 「<ザンダイン>――!」 「――ッ!!!?」 身を護る物がない武を、容赦ない攻撃が貫く。 武は身体がバラバラになるのを感じながらも、頭から死の感覚を追い払う。 「…諦めるな、ここは俺の精神世界だ。死んだと思ったら、心が死を受け入れたら――敗けだ」 自分に言い聞かせるように、武が呟く。 魔法で受けたはずの武の傷は、綺麗になくなった。 「――よし。来いよ、アンリ・マンユ。相手してやる」 「驕るな!」 アンリ・マンユの腕が、武に振り下ろされる。 しかし… 武は、それを受け止めた。 「何……!?」 「お前を倒せば――」 そのまま、アンリ・マンユの懐に跳び込む。 「――つぐみ達に、また逢える!」 武が放つ、1発の拳撃。 小さな武の拳が、巨大なアンリ・マンユの身体を――粉々に吹き飛ばした。 「――見事です」 気が付くと、武はあの闇の中に立っていた。 そして、正面には伊邪那美の姿。 「…終わったのか?」 「ええ。2回ほど、危ない時がありましたね」 「ああ… あと少しでも心を保てなかったら、やられてたよ」 武は溜息をつくと、その場に座り込んだ。 「あのアンリ・マンユは、俺の心が創り出したモノなのか?」 「そうです。光が強ければ、また影も濃い。故に、貴方の暗黒面は大悪神と成った」 「…………」 「覚えておいてください。貴方の心には、あの大悪神が潜んでいるという事を。そして――貴方は、それに打ち勝ったという事を」 「……ああ、分かった」 武が、立ち上がる。 「…結局は、精神世界だろうが現実世界だろうが、同じ事なんだな」 「はい。精神世界と現実世界は表裏一体。精神世界での力は、現実世界での力です」 「表裏一体、か――」 いつの間にか、武の前には道が出来ていた。 「じゃ、俺はそろそろ行くよ。あんまり待たせると、ボディブローの威力が上がっちまうからな」 「なら、最後にこれを」 伊邪那美が、武に何かを差し出す。 それは――炎を思わせる、一振りの剣。 「それは……?」 「この剣は魔剣ヒノカグツチ。貴方に差し上げましょう」 「……そうか。なら、ありがたく頂くよ」 武はヒノカグツチを受け取る。 そして―― 「じゃあな、伊邪那美」 現れた道の上を、走って行った。 「倉成武――倉橋武と小街月海の子孫。葛葉姫の血を引き、血色の満月の力を宿す者ですか。なかなか、面白いですね」 武が去った闇の中に、どこからか笑い声。 「それにしても、武さんにあの剣を渡すとは思いませんでしたよ」 闇から浮かび上がるように、声の主――テトラが現れる。 「……御中主、様」 「火の神を斬り、その名と力を手に入れた魔剣――ヒノカグツチ。伊邪那美、君も相当僕を殺したいみたいですね。ハハ、ハハハッ!」 テトラは心の底から楽しそうに、笑う。 伊邪那美は神妙な顔で、 「私は、彼に希望の炎を託したかっただけです。あの剣は、必ず未来を照らす光明となるでしょう」 テトラの笑いが、一瞬だけ消えた。 「…無理ですよ。炎はいずれ消えます。かつてあの『炎を運ぶ者』が、天から堕ちたように」 武が眼を開くと、そこにはつぐみの顔があった。 「――つぐみ」 「た、けし……?」 つぐみが、泣きそうな顔で呟く。 だがすぐに表情を引き締めて、 「覚悟は、いいわね?」 と、武に尋ねた。 「…出来れば、もう伊邪那美の世話にはなりなくないんだが」 「そうならないよう、努力するわ」 つぐみが、拳を握る。 そして、 「武の… バカァアア――ッッ!!!!」 思い切り、ボディブローを叩き込んだ。 「な、何事だっ!!?」 破壊音を聞き付け、ケルベロスが部屋に跳び込んで来る。 サリエルとヴァルキリィも、すぐに現れた。 そこで、彼等が見たモノは。 「い、いいパンチだったぜ、つぐみ… グハッ」 つぐみの一撃により、粉砕されたベッドと――また黄泉に逝きそうな、主の姿だった。 「あ、主殿っ!!? ケルベロス、回復魔法だ! 急げ!!!」 「分かってる!」 「マスター、しっかりっ!!」 ケルベロスの治療を受け、どうにか回復する武。 そして、ヨタヨタと立ち上がった。 「おい、つぐみ… 危うく、坂を下る所だったぞ……」 「…私との約束を破ったんだから、それくらいの罰は当然よ」 「う……っ」 つくみが、武に歩み寄る。 「私がどれだけ辛かったか、分かる?」 「……すまん。許してくれとは言えないが… 本当に、悪かった」 武が苦しみと後悔に満ちた顔で、言う。 つぐみはそんな武を見ながら、 「――…そんな顔しないで。貴方は生き返ったじゃない。だから、ボディブロー1発で許してあげるわ」 優しく、武に言い聞かせた。 「つぐみ――」 武は顔に笑みを浮かべて、 「ただいま」 そう、言った。 「――……っ」 つぐみの頬に、一筋の涙が――流れた。 「――おかえり、武……!」 |
あとがきだと伝わるもの・9 どうも、大根メロンです。 たけぴょん復活。そして、つぐみんとも再会。 今回は2人に新武器を持たせました。つぐみんの拳撃は大仏パンチ♪(謎) そして、武はヒノカグツチ。何故か最近のメガテンには出て来ませんが、やっぱりこれじゃないと。 次回からは、VS天使。クライマックスに突入です。 …さて、気合いを入れ直して書かねば。 ではまた。 |
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