真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第九話 ―旅路―




「――行くわよ!」
つぐみと武の仲魔達が、一斉に黄泉の大地を駆け出す。
「つぐみちゃん、その黄泉の主とやらはどこに?」
「黄泉の奥底。死者なら、問題なく行けるんだけど――」
つぐみがサリエルの問いに答えたのと同時に、
「ウ…オォォオオオ……!」
地面から、何かが這いずりだして来た。
それは武装した、人のようなモノ。
次から次へと、その死者の兵が現れる。
その総数――1500。
「…黄泉軍ヨモツイクサ、か。やっぱり、生者は進ませてくれないみたいね」
「なら、こいつ等の相手はボクとヴァルキリィがするよ。つぐみちゃんとケルベロスは先に行って」
サリエルが、ニコニコしながら言う。
「お、おいサリエル! 何で私まで――」
「そう。なら、お願いするわ」
「――って、待て!!」
ヴァルキリィの声も虚しく、つぐみとケルベロスが走り出す。
ふたりに襲いかかった黄泉軍は、全てサリエルの大鎌が斬断した。
「…サリエル、覚えておけ」
「そうだね、忘れるまでは覚えておくよ」
サリエルが、上空に飛び上がる。
「…さて、そろそろ堪忍袋の緒がキレそうだ。魂を管理するこのボクに、死者が武器を向けるなんて。身の程知らずもいい加減にしてほしいよ――……」
黄泉軍を見下ろすサリエルの眼が、妖しく輝く。
そして――
「――<ヘルズアイ>」
狂気の眼差しが、黄泉軍を射貫いた。
「グ、ァア…アアアア!?」
呪いを受け、バタバタと黄泉軍が息絶えてゆく。
生き残った少数が、ヴァルキリィに跳びかかった。
しかし。
「――馬鹿どもめ。戦神の娘である私を、その程度で討てると思うか」
どの黄泉軍の攻撃よりも速く、ヴァルキリィの剣が踊る。
黄泉軍の身体が… 粉々に散った。
攻撃どころか、血飛沫さえ剣に阻まれ届かない――。
「さぁ、闘いたい者は前に出ろ。この戦女神が、好きなだけ殺してやろう」



「グゲェ――ッ!?」
つぐみの蹴りが、鬼女黄泉醜女ヨモツシコメの顔面に喰い込む。
さらに、
「――<ファイアブレス>!」
ケルベロスの吐息が、黄泉醜女を灰へと変えた。
「…つぐみ、ここなのか?」
黄泉醜女を斃したケルベロスは、正面を見据える。
そこには――巨大な扉があった。
「ええ。この扉の向こうに、黄泉の主はいるわ」
つぐみが、扉に触れる。
信じられないほど軽い力で、扉は開いた。
「久し振りね、黄泉大神ヨモツオオカミ。それとも――」
扉の奥には… 古代の巫女のような衣装を纏った、一柱ひとりの女神。
「――伊邪那美イザナミ、と呼んだ方がいいのかしら?」



「…まったく、また来ましたか。しかも、今度は生きたまま」
伊邪那美は呆れ果てながら、つぐみを見る。
「私も2度とあなたの顔は見たくなかったのだけど… ちょっと頼みが出来たの」
「頼み、ですか。それが――あの堕ちた星の力を借りてまで、ここに来た理由」
「ええ。単刀直入に言うわ。返してほしい魂がいるの。名前は、倉成武」
「…………」
伊邪那美はしばらく黙った後、
「――そんな頼みが、聞ける訳ないでしょう」
「無理は承知よ。でも、どうしても私は武を生き返らせたいの。私は――武がいないと、ダメだから」
「…愛する者を追って、黄泉ここに来たのですか」
伊邪那美の表情が、悲しみで歪む。
だがそれも、すぐに消えた。
「しかし何であろうと、死者の魂を返す事など出来ません」
「…交渉は決裂ね。ケルベロス、悪魔との交渉が失敗した場合は――」
伊邪那美に向かって、ケルベロスが跳んだ。
「無論、闘うしかないな」
ケルベロスの爪と牙が、伊邪那美を狙う。
しかし、それが彼女の急所を貫く前に、
「――侮らないでください」
伊邪那美が、ケルベロスの頭を掴んだ。
その頭を、伊邪那美は思い切り地面に叩き付ける。
ケルベロスの頭は地面に減り込み、首の骨がへし折られた。
「グ、ガァ……!?」
ケルベロスの身体が痙攣し、泡を吹く。
「……つぐみ。貴方もこうなりたくないのなら、すぐに現世へと帰りなさい」
だが、つぐみは退かない。
「無理な相談よ。私は、武を連れ帰るためにここに来たのだから」
つぐみはポケットからメリケンサックを取り出し、両手の指に嵌めた。
「――次は私が相手よ、伊邪那美」
「……愚かな」
伊邪那美の身体から、雷が発生する。
その雷に、8つの顔が浮かび上がった。
「行きなさい――八雷神ヤクサノイカヅチノカミ!」
8体の雷神が、つぐみに向けて放たれる。
雷神達は空気を穿ちながら、つぐみに迫って行く。
しかし、つぐみはそれを――
「ぬるい…わよ!」
1発の拳撃で、吹き飛ばした。
「な……っ!?」
つぐみは伊邪那美が呆けた隙に間合いを詰め、頭を狙い殴りかかる。
「――!!?」
しかしその拳撃は、伊邪那美の眼前で寸止めされた。
「…馬鹿な、実体を持たない雷神が――」
「このメリケンサック――護法徳手ごほうとくしゅは、東大寺毘盧遮那仏の青銅から造られた物なの。実体があろうがなかろうが、確実に打ち砕けるわよ」
つぐみは不敵な笑みを浮かべ、
「さて、どうする? 武の魂を返すつもりがないのなら、このままあなたの頭を潰すけど?」
「…………」
伊邪那美が、降参と言うように手を上げた。
「…分かりました。いくら私が1度死した身といえども、やはり命は惜しい」
つぐみが、伊邪那美から拳を離す。
伊邪那美の手の中に、光の玉が現れた。
「倉成武の魂です。持って行きなさい」
「ありがとう、伊邪那美。感謝するわ。――ケルベロス、無事?」
「…何とか、な」
傷を回復魔法で癒したケルベロスが、のそのそと立ち上がる。
「しかし、つぐみ。貴方なら分かっているでしょうが――その魂を肉体に戻しただけでは、倉成武を黄泉還らせる事は出来ません」
「…ええ、分かってるわ。でも大丈夫」
つぐみは微笑を浮かべ、伊邪那美に言った。
「――武は、必ず地獄巡りを終えて帰って来る」






「…何だ、ここ?」
武は、暗い闇の中に立っていた。
しかし、自分自身の姿は何故かはっきりと見える。
「確か俺は、イブリースとかいう奴に殺されて――そっか、ならここはあの世か? いや、どっちかって言うと俺自身の精神世界っぽいな。肉体がなくなったから、俺の世界は精神だけになったのか」
武は、その場にガクリと崩れ落ちた。
「…まずい、本格的にまずい。つぐみとの約束を破っちまった」
「そうですね。生き返る事が出来たら、ボディブローでしょう」
「――ってうわぁ!?」
突如、武の目の前に見知らぬ女性が現れる。
「だっ、誰だ!?」
「私は伊邪那美。黄泉の女王です」
女性は慌てふためく武を見ながら、名を名乗った。
「…黄泉の女王? じゃあ、ここは黄泉なのか?」
「いえ。ここは、貴方が言った通り、貴方自身の精神世界です。貴方には、ここで試練を受けてもらいます」
「……試練?」
「地獄巡り、ですよ。知っているでしょう」
「――!!?」
武の顔に、驚きが浮かぶ。
「つぐみと貴方の仲魔達が突然黄泉にやって来て、貴方の魂を強奪したのです。貴方を、黄泉還らせるために」
「…そうか、だからさっき『生き返る事が出来たら』って言ってたのか」
「ええ、そうです。では早速――」
武を、浮遊感が襲った。
「――始めましょうか」
今まで立っていた場所が消え、武の身体が落下してゆく。
「うぉぉおおおっ!!?」
「忘れてはなりません。何が起ころうと、ここは貴方の精神世界。全て、貴方の心が生み出したものなのです」
伊邪那美の言葉と共に、武は意識を失った。


「…う、ぐ……?」
武が眼を開けると、そこは闇の中ではなかった。
武は、とりあえず起き上がる。そこは、何かの神殿のようだった。
「神殿って言っても、何やら雰囲気はヤバそうなんだよな……」
神殿内の空気は毒気で満ちており、立っているだけで不快な気分になってゆく。
「…長居は無用だ。さっさと行こう」
武は歩き出す。
長い廊下のような道を、1歩ずつ進んで行く。
「――!」
目の前に、扉があった。
少し躊躇してから、武はその扉を開ける。
「…何だ、ありゃ?」
部屋の中には、大きな卵のようなものがあった。
武は、ゆっくりとそれに近づいて行く。
その時、突然――卵にヒビが入った。
「――なっ!!?」
殻を突き破って、腕が飛び出す。
卵の中から出て来たのは――巨大な人の形をした、何か。
「…この魔王アンリ・マンユの眠りを妨げる者は、何者ぞ――」
アンリ・マンユが、腕を振り下ろす。
武の身体が、ぐしゃりと潰れた。



(おいおい、また死んじまったのか!?)
武の意識が、そう叫ぶ。
(…いや待て、肉体のない俺が死ぬはずはない。なら――)
武は冷静に、死のイメージを払拭する。
気付いた時には、再びアンリ・マンユと対峙していた。
「貴様、アムシャ・スプンタか……?」
アンリ・マンユが武を睨む。
それだけで、武は意識を失いそうになった。
「くっ… にしても、アンリ・マンユ――ゾロアスター教の大悪神かよ。そんなのが、俺の心の中に……」
アンリ・マンユが、再び武を潰そうとする。
武は必死で、それを避けた。
「…自分自身の黒い面と闘え、って事か――」
「<ザンダイン>――!」
「――ッ!!!?」
身を護る物がない武を、容赦ない攻撃が貫く。
武は身体がバラバラになるのを感じながらも、頭から死の感覚を追い払う。
「…諦めるな、ここは俺の精神世界だ。死んだと思ったら、心が死を受け入れたら――敗けだ」
自分に言い聞かせるように、武が呟く。
魔法で受けたはずの武の傷は、綺麗になくなった。
「――よし。来いよ、アンリ・マンユ。相手してやる」
「驕るな!」
アンリ・マンユの腕が、武に振り下ろされる。
しかし… 武は、それを受け止めた。
「何……!?」
「お前を倒せば――」
そのまま、アンリ・マンユの懐に跳び込む。
「――つぐみ達に、また逢える!」
武が放つ、1発の拳撃。
小さな武の拳が、巨大なアンリ・マンユの身体を――粉々に吹き飛ばした。



「――見事です」
気が付くと、武はあの闇の中に立っていた。
そして、正面には伊邪那美の姿。
「…終わったのか?」
「ええ。2回ほど、危ない時がありましたね」
「ああ… あと少しでも心を保てなかったら、やられてたよ」
武は溜息をつくと、その場に座り込んだ。
「あのアンリ・マンユは、俺の心が創り出したモノなのか?」
「そうです。光が強ければ、また影も濃い。故に、貴方の暗黒面は大悪神と成った」
「…………」
「覚えておいてください。貴方の心には、あの大悪神が潜んでいるという事を。そして――貴方は、それに打ち勝ったという事を」
「……ああ、分かった」
武が、立ち上がる。
「…結局は、精神世界だろうが現実世界だろうが、同じ事なんだな」
「はい。精神世界と現実世界は表裏一体。精神世界での力は、現実世界での力です」
「表裏一体、か――」
いつの間にか、武の前には道が出来ていた。
「じゃ、俺はそろそろ行くよ。あんまり待たせると、ボディブローの威力が上がっちまうからな」
「なら、最後にこれを」
伊邪那美が、武に何かを差し出す。
それは――炎を思わせる、一振りのつるぎ
「それは……?」
「この剣は魔剣ヒノカグツチ。貴方に差し上げましょう」
「……そうか。なら、ありがたく頂くよ」
武はヒノカグツチを受け取る。
そして――
「じゃあな、伊邪那美」
現れた道の上を、走って行った。



「倉成武――倉橋武と小街月海の子孫。葛葉姫の血を引き、血色の満月の力を宿す者ですか。なかなか、面白いですね」
武が去った闇の中に、どこからか笑い声。
「それにしても、武さんにあの剣を渡すとは思いませんでしたよ」
闇から浮かび上がるように、声の主――テトラが現れる。
「……御中主、様」
「火の神を斬り、その名と力を手に入れた魔剣――ヒノカグツチ。伊邪那美、君も相当僕を殺したいみたいですね。ハハ、ハハハッ!」
テトラは心の底から楽しそうに、笑う。
伊邪那美は神妙な顔で、
「私は、彼に希望の炎を託したかっただけです。あの剣は、必ず未来を照らす光明となるでしょう」
テトラの笑いが、一瞬だけ消えた。
「…無理ですよ。炎はいずれ消えます。かつてあの『炎を運ぶ者』が、天から堕ちたように」






武が眼を開くと、そこにはつぐみの顔があった。
「――つぐみ」
「た、けし……?」
つぐみが、泣きそうな顔で呟く。
だがすぐに表情を引き締めて、
「覚悟は、いいわね?」
と、武に尋ねた。
「…出来れば、もう伊邪那美の世話にはなりなくないんだが」
「そうならないよう、努力するわ」
つぐみが、拳を握る。
そして、
「武の… バカァアア――ッッ!!!!」
思い切り、ボディブローを叩き込んだ。



「な、何事だっ!!?」
破壊音を聞き付け、ケルベロスが部屋に跳び込んで来る。
サリエルとヴァルキリィも、すぐに現れた。
そこで、彼等が見たモノは。
「い、いいパンチだったぜ、つぐみ… グハッ」
つぐみの一撃により、粉砕されたベッドと――また黄泉に逝きそうな、主の姿だった。
「あ、主殿っ!!? ケルベロス、回復魔法だ! 急げ!!!」
「分かってる!」
「マスター、しっかりっ!!」
ケルベロスの治療を受け、どうにか回復する武。
そして、ヨタヨタと立ち上がった。
「おい、つぐみ… 危うく、坂を下る所だったぞ……」
「…私との約束を破ったんだから、それくらいの罰は当然よ」
「う……っ」
つくみが、武に歩み寄る。
「私がどれだけ辛かったか、分かる?」
「……すまん。許してくれとは言えないが… 本当に、悪かった」
武が苦しみと後悔に満ちた顔で、言う。
つぐみはそんな武を見ながら、
「――…そんな顔しないで。貴方は生き返ったじゃない。だから、ボディブロー1発で許してあげるわ」
優しく、武に言い聞かせた。
「つぐみ――」
武は顔に笑みを浮かべて、
「ただいま」
そう、言った。
「――……っ」
つぐみの頬に、一筋の涙が――流れた。

「――おかえり、武……!」




あとがきだと伝わるもの・9
どうも、大根メロンです。
たけぴょん復活。そして、つぐみんとも再会。
今回は2人に新武器を持たせました。つぐみんの拳撃は大仏パンチ♪(謎)
そして、武はヒノカグツチ。何故か最近のメガテンには出て来ませんが、やっぱりこれじゃないと。
次回からは、VS天使。クライマックスに突入です。
…さて、気合いを入れ直して書かねば。
ではまた。


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