万魔殿パンデモニウム――王の間。
「倉成武が、生き返ったようだね――……」
ミカエルが、自身以外の熾天使達セラフィムに言う。
「ほう… ついに、生命の法まで犯しましたか」
「赦し難い大罪だな」
ラファエルとウリエルが、楽しそうに呟く。
「…武さんが、生き返った」
ガブリエルは――ただ辛そうに、胸を押さえた。


真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第十話 ―地聖―




「――なるほどね。天使の目的は、ファラクを利用しての世界の滅亡と創造」
つぐみは紅茶を飲みながら、ルシファーの話に耳を傾けていた。
「彼等は既にジュデッカの民を殺し尽くし、万魔殿パンデモニウムを占拠している。後は私を殺してマグネタイトを奪えば、めでたく世界滅亡という訳だよ」
「…それで、あなたは武の黄泉還りに協力した見返りとして――私達に世界滅亡を阻止しろ、と言いたいのね?」
「物分かりが良くて助かる。もっとも、このような取引がなくとも… 彼はそうしていただろうがね」
つぐみとルシファーが、向こうで出発の準備をしている武を見る。
確かに武なら取引などなくとも、滅亡を阻止するために天使と戦っただろう。
それに… つぐみ自身も、取引など関係なく戦うつもりだった。
天使の目的を潰す、というのも当然理由ではあるが、つぐみにはそれ以外にも戦う理由がある。
「…絶対に、許さないわ」
つぐみの脳裏に、あの串刺しになった女の子の姿が――こびり付いて離れなかった。



「…そういえば、あいつは無事かなぁ」
「…そういえば、あの子は無事かしら」
出発の準備が出来た時、武とつぐみが同時にそう漏らした。
「――…あの子?」
武が、つぐみに尋ねる。
「私をジュデッカまで道案内してくれた子がいるの。無事だといいんだけど……」
つぐみは、ジュデッカで別れたテトラの事を思う。
あの少年は――天使の襲撃から逃れる事が出来たのだろうか。
「…そっか。俺の方もな、カイーナで少しだけ話した奴が、ジュデッカに行くって言ってたんだ」
武は遠くを見るような眼で、
「テトラの奴… 大丈夫かな」
そう、言った。
「……え?」
つぐみは一瞬、自分の耳を疑った。
「――ん? どうかしたのか、つぐみ」
「…私をカイーナからジュデッカまで案内してくれた子も――そのテトラ、よ」
「――へ?」
数秒間、武はその意味を吟味すると、
「……えぇ!!? って事は、俺達すぐ近くにいたんじゃないか!」
「…ええ、そうみたいね」
「何だよ、それ……」
武がうなだれる。
つぐみは、テトラがカイーナで武と会っていた事に、少しショックを受けていた。
何故なら、テトラはアンテノーラへと向かう道中に――人間には会っていない、と言っていたのだから。
「あと、ガブリエルはどうしたんだ?」
武が何気なく、呟く。
しかし、仲魔達は黙り込んでしまった。
「彼女なら、万魔殿パンデモニウムにいる」
ルシファーが、そう答える。
「――……!」
武はそれだけで全てを察し、
「……そうか」
と、一言だけ言った。
「……武、どうしたの?」
「いや… 心配するな、つぐみ。何でもない」
「…………」
武の悲そうな表情は、とても『何でもない』ようには見えなかった。



武とつぐみ、そして仲魔達は、トロメアからジュデッカへと向けて進んでいた。
いつ天使に襲われても対応出来るように、戦闘態勢を維持しながら。
ルシファーは武達が出発する前に姿を消した。『無限ループを断ってくれ』、と言い残して。
その真意は分からなかったが、武は何となく理解していた。
例え<リセット>により新たなる世界を創造しても、結局は同じ事になるとルシファーは思っているのだろう。
新たなる世界も時と共に汚れてゆき、天使達は再び<リセット>を行う。次も、そのまた次も。
そして、それを永遠に繰り返すのだ。
そんな不毛な環は――ここで断たねばならない。
「――<ファイアブレス>!!」
ケルベロスが、灼熱の息を吐く。
その先には… 天使の姿。
しかし天使は自らの腕で、炎を薙ぎ払った。
「――…来たな、神に刃向かう愚か者どもよ」
その天使――熾天使セラフウリエルは、冷たい声でそう言った。



「ウリエル……」
サリエルが、大鎌を構える。
「…ついに我等の前に立ったか、サリエル。この堕天使が」
「堕天使? 君にそんな事を言われる筋合いはないよ」
サリエルの邪眼が、ウリエルを睨む。
しかし、ウリエルはその視線を受けても、平然としていた。
「……ウリエル。ちょっと訊きたい事があるんだ」
「何だ?」
「世界を滅ぼし、唯一神と天使により新たなる世界を創造する。それが、君達が立てた計画プランだよね?」
「…そうだが」
「でも、この計画プランは、唯一神の許可を取って行ってる訳じゃないんだろ?」
「許可など必要ない。天使の意志は神の意志。天使我々は、神の代行者だ」
「――ふざけるなよ」
サリエルの声から、怒りと殺意が滲み出る。
「唯一神が創造したこの世界を、天使如きが勝手に滅ぼしていいと思っているのか」
「…減らず口を。さっさと死ね」
ウリエルのその言葉が、闘いの始まりを告げる合図となった。



「ガァァ!!!!」
「――ハッ!!」
ウリエルの背後に廻ったケルベロスとヴァルキリィが、ウリエルを攻撃する。
しかし、
「――<マハマグナス>」
ウリエルを中心とした全方向に岩の砲弾が放たれ、ふたりを弾き飛ばす。
さらに、
「虚無に落ちろ… <マグダイン>!」
巨大な岩石を、武に向けて撃った。
「――っ!!?」
「武っ!」
護法徳手を嵌めたつぐみの拳が、その岩を粉々に砕く。
「邪魔をするな!」
「それ、本気で言ってるの?」
つぐみが、ウリエルとの間合いを詰める。
ウリエルは空へと舞い上がり、つぐみから逃れた。
「――来たね!」
上空で待機していたサリエルが、大鎌でウリエルに斬りかかる。
「終わりだよ!」
「それは貴様の方だッ!!」
ウリエルは迫る大鎌を左手で砕くと、右手でサリエルを殴った。
そして、
「――<マグダイン>ッ!!」
サリエルの頭に、魔法の岩石を叩き込んだ。
意識を失ったサリエルが、地上に墜落する。
「<マハマグナス>――!」
無数の岩が放たれ、次々と地を穿つ。
地上の武達は、それを避けるだけで精一杯だった。
「学べ、自身の矮小さを!」
岩石がまるで意志を持っているかのように、武達を追跡する。
「くそ――っ!」
武に、岩石の1つが襲いかかる。
「主殿!」
しかしその岩石は、武を潰す前にヴァルキリィによって斬断された。
「サンキュ、助かった!」
「当然の事をしたまでだ」
ヴァルキリィは頭上のウリエルを見上げ、
「それにしても… これが、四熾天使の実力か」
と、憎々しげに言う。
「――<ファイアブレス>ッ!」
ケルベロスが火を吹くが、空を自在に飛ぶウリエルには当たらない。
「身の程を知れ!」
数個の岩が、ケルベロスに撃ち込まれた。
「<ディアラハン>……!」
だがすぐに回復魔法で自身の傷を癒し、再びウリエルを攻撃する。
「クッ… まるで、爆撃されている気分だ」
再び飛来した岩を、ケルベロスは躱す。
「…なぁ、ケルベロス。地上の獲物を狙う鳥って、何を見てるんだろうな」
「――? それは地上――下に決まってるだろう。攻撃対象を見なければ、話にならない」
ケルベロスは武の声に答えて、
「……!」
はっ、と顔を上げた。
「ヴァルキリィ、頼めるか?」
「それが主殿の命なら」
「よし」
武は笑い、手の中で炎の感触を確かめる。
「チィ… 面倒だ、一気に殺してくれる!!」
ウリエルが、手を天に掲げた。
熾天使セラフウリエルの名において――轟け、地の元素!」
元素の集束により、大地が共鳴する。
そして――
「<マハマグダイン>――!!」
流星群を思わせる岩のスコールが、地に降り注いだ。
まるで太鼓のように、岩石が大地を打ち続ける――。
「これで… 終わりだ!」
しかし、
「――!!?」
ウリエルは、信じられないものを見た。
「――ありがとう。道が出来たわ」
つぐみが、ウリエルの前に存在していた。
降り注いでいる数多の岩。そんな不安定な物を足場にして、つぐみが空へと昇って来たのだ。
さらに、
「墜ちろ、翼人!」
天翔ける馬に乗ったヴァルキリィが、ウリエルの背後を取った。
「舐めるんじゃない……ッ!!」
ウリエルが、つぐみの拳撃を受け止める。
受け止めた左腕は粉々に吹き飛んだが、その間にウリエルはつぐみを地上に叩き落とした。
そのまま振り返り、ヴァルキリィも蹴り落とす。
「ぐぅ……っ!」
ウリエルは吹き飛んだ腕を押さえながら、下を見る。
その視界には、墜ちてゆくつぐみとヴァルキリィ、地上にいるケルベロスとサリエル。
――1人、足りなかった。
「うぉぉおおおお!!!」
「――ッッ!!!?」
ウリエルの頭上から、雄叫びが響く。
見上げると、そこには――武の姿。
ウリエルは気付いた。ヴァルキリィが空に上がったのは、武を上空に運ぶためだったのだと。
天使は上から下を見下ろして攻撃する故に、さらに上からの攻撃には反応出来ない。
武の手の中で、炎が燃え上がる。それは形を変え、炎に包まれた剣と成った。
魔剣――ヒノカグツチ。
「お、のれぇぇええ……!」
重力に乗ったヒノカグツチの重量と刃が、ウリエルの頭に喰い込み、さらに進んで行く。
炎の軌跡が、ウリエルを真っ二つに引き裂いた。
「呪われろ、倉成武ィイイッ!!!!」
ウリエルの身体にヒビが入り――粉々に、砕け散った。



「――よっと」
落ちて来た武を、サリエルが空中でキャッチする。
そのまま、地上へと運んで行った。
「やったな、主よ」
ケルベロスが武に言う。
他の仲魔達やつぐみも、笑顔を浮かべている。
「ああ。でも、まだ安心は出来ない」
武はジュデッカの方向を見ながら、言った。

「――こんな奴を、俺達はまだまだ相手にしなけりゃならないんだ」




あとがきだと伝わるもの・10
こんにちは、大根メロンです。そろそろ賞味期限切れです(何)
VSウリエル、終了。
…何か最近、バトルが下手になってるような気がする(汗)
次回はVSラファエル。バトルは難しいなぁ……。
ではまた。


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