万魔殿――王の間。 「倉成武が、生き返ったようだね――……」 ミカエルが、自身以外の熾天使達に言う。 「ほう… ついに、生命の法まで犯しましたか」 「赦し難い大罪だな」 ラファエルとウリエルが、楽しそうに呟く。 「…武さんが、生き返った」 ガブリエルは――ただ辛そうに、胸を押さえた。 |
真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
「――なるほどね。天使の目的は、ファラクを利用しての世界の滅亡と創造」 つぐみは紅茶を飲みながら、ルシファーの話に耳を傾けていた。 「彼等は既にジュデッカの民を殺し尽くし、万魔殿を占拠している。後は私を殺してマグネタイトを奪えば、めでたく世界滅亡という訳だよ」 「…それで、あなたは武の黄泉還りに協力した見返りとして――私達に世界滅亡を阻止しろ、と言いたいのね?」 「物分かりが良くて助かる。もっとも、このような取引がなくとも… 彼はそうしていただろうがね」 つぐみとルシファーが、向こうで出発の準備をしている武を見る。 確かに武なら取引などなくとも、滅亡を阻止するために天使と戦っただろう。 それに… つぐみ自身も、取引など関係なく戦うつもりだった。 天使の目的を潰す、というのも当然理由ではあるが、つぐみにはそれ以外にも戦う理由がある。 「…絶対に、許さないわ」 つぐみの脳裏に、あの串刺しになった女の子の姿が――こびり付いて離れなかった。 「…そういえば、あいつは無事かなぁ」 「…そういえば、あの子は無事かしら」 出発の準備が出来た時、武とつぐみが同時にそう漏らした。 「――…あの子?」 武が、つぐみに尋ねる。 「私をジュデッカまで道案内してくれた子がいるの。無事だといいんだけど……」 つぐみは、ジュデッカで別れたテトラの事を思う。 あの少年は――天使の襲撃から逃れる事が出来たのだろうか。 「…そっか。俺の方もな、カイーナで少しだけ話した奴が、ジュデッカに行くって言ってたんだ」 武は遠くを見るような眼で、 「テトラの奴… 大丈夫かな」 そう、言った。 「……え?」 つぐみは一瞬、自分の耳を疑った。 「――ん? どうかしたのか、つぐみ」 「…私をカイーナからジュデッカまで案内してくれた子も――そのテトラ、よ」 「――へ?」 数秒間、武はその意味を吟味すると、 「……えぇ!!? って事は、俺達すぐ近くにいたんじゃないか!」 「…ええ、そうみたいね」 「何だよ、それ……」 武がうなだれる。 つぐみは、テトラがカイーナで武と会っていた事に、少しショックを受けていた。 何故なら、テトラはアンテノーラへと向かう道中に――人間には会っていない、と言っていたのだから。 「あと、ガブリエルはどうしたんだ?」 武が何気なく、呟く。 しかし、仲魔達は黙り込んでしまった。 「彼女なら、万魔殿にいる」 ルシファーが、そう答える。 「――……!」 武はそれだけで全てを察し、 「……そうか」 と、一言だけ言った。 「……武、どうしたの?」 「いや… 心配するな、つぐみ。何でもない」 「…………」 武の悲そうな表情は、とても『何でもない』ようには見えなかった。 武とつぐみ、そして仲魔達は、トロメアからジュデッカへと向けて進んでいた。 いつ天使に襲われても対応出来るように、戦闘態勢を維持しながら。 ルシファーは武達が出発する前に姿を消した。『無限ループを断ってくれ』、と言い残して。 その真意は分からなかったが、武は何となく理解していた。 例え<リセット>により新たなる世界を創造しても、結局は同じ事になるとルシファーは思っているのだろう。 新たなる世界も時と共に汚れてゆき、天使達は再び<リセット>を行う。次も、そのまた次も。 そして、それを永遠に繰り返すのだ。 そんな不毛な環は――ここで断たねばならない。 「――<ファイアブレス>!!」 ケルベロスが、灼熱の息を吐く。 その先には… 天使の姿。 しかし天使は自らの腕で、炎を薙ぎ払った。 「――…来たな、神に刃向かう愚か者どもよ」 その天使――熾天使ウリエルは、冷たい声でそう言った。 「ウリエル……」 サリエルが、大鎌を構える。 「…ついに我等の前に立ったか、サリエル。この堕天使が」 「堕天使? 君にそんな事を言われる筋合いはないよ」 サリエルの邪眼が、ウリエルを睨む。 しかし、ウリエルはその視線を受けても、平然としていた。 「……ウリエル。ちょっと訊きたい事があるんだ」 「何だ?」 「世界を滅ぼし、唯一神と天使により新たなる世界を創造する。それが、君達が立てた計画だよね?」 「…そうだが」 「でも、この計画は、唯一神の許可を取って行ってる訳じゃないんだろ?」 「許可など必要ない。天使の意志は神の意志。天使は、神の代行者だ」 「――ふざけるなよ」 サリエルの声から、怒りと殺意が滲み出る。 「唯一神が創造したこの世界を、天使如きが勝手に滅ぼしていいと思っているのか」 「…減らず口を。さっさと死ね」 ウリエルのその言葉が、闘いの始まりを告げる合図となった。 「ガァァ!!!!」 「――ハッ!!」 ウリエルの背後に廻ったケルベロスとヴァルキリィが、ウリエルを攻撃する。 しかし、 「――<マハマグナス>」 ウリエルを中心とした全方向に岩の砲弾が放たれ、ふたりを弾き飛ばす。 さらに、 「虚無に落ちろ… <マグダイン>!」 巨大な岩石を、武に向けて撃った。 「――っ!!?」 「武っ!」 護法徳手を嵌めたつぐみの拳が、その岩を粉々に砕く。 「邪魔をするな!」 「それ、本気で言ってるの?」 つぐみが、ウリエルとの間合いを詰める。 ウリエルは空へと舞い上がり、つぐみから逃れた。 「――来たね!」 上空で待機していたサリエルが、大鎌でウリエルに斬りかかる。 「終わりだよ!」 「それは貴様の方だッ!!」 ウリエルは迫る大鎌を左手で砕くと、右手でサリエルを殴った。 そして、 「――<マグダイン>ッ!!」 サリエルの頭に、魔法の岩石を叩き込んだ。 意識を失ったサリエルが、地上に墜落する。 「<マハマグナス>――!」 無数の岩が放たれ、次々と地を穿つ。 地上の武達は、それを避けるだけで精一杯だった。 「学べ、自身の矮小さを!」 岩石がまるで意志を持っているかのように、武達を追跡する。 「くそ――っ!」 武に、岩石の1つが襲いかかる。 「主殿!」 しかしその岩石は、武を潰す前にヴァルキリィによって斬断された。 「サンキュ、助かった!」 「当然の事をしたまでだ」 ヴァルキリィは頭上のウリエルを見上げ、 「それにしても… これが、四熾天使の実力か」 と、憎々しげに言う。 「――<ファイアブレス>ッ!」 ケルベロスが火を吹くが、空を自在に飛ぶウリエルには当たらない。 「身の程を知れ!」 数個の岩が、ケルベロスに撃ち込まれた。 「<ディアラハン>……!」 だがすぐに回復魔法で自身の傷を癒し、再びウリエルを攻撃する。 「クッ… まるで、爆撃されている気分だ」 再び飛来した岩を、ケルベロスは躱す。 「…なぁ、ケルベロス。地上の獲物を狙う鳥って、何を見てるんだろうな」 「――? それは地上――下に決まってるだろう。攻撃対象を見なければ、話にならない」 ケルベロスは武の声に答えて、 「……!」 はっ、と顔を上げた。 「ヴァルキリィ、頼めるか?」 「それが主殿の命なら」 「よし」 武は笑い、手の中で炎の感触を確かめる。 「チィ… 面倒だ、一気に殺してくれる!!」 ウリエルが、手を天に掲げた。 「熾天使ウリエルの名において――轟け、地の元素!」 元素の集束により、大地が共鳴する。 そして―― 「<マハマグダイン>――!!」 流星群を思わせる岩のスコールが、地に降り注いだ。 まるで太鼓のように、岩石が大地を打ち続ける――。 「これで… 終わりだ!」 しかし、 「――!!?」 ウリエルは、信じられないものを見た。 「――ありがとう。道が出来たわ」 つぐみが、ウリエルの前に存在していた。 降り注いでいる数多の岩。そんな不安定な物を足場にして、つぐみが空へと昇って来たのだ。 さらに、 「墜ちろ、翼人!」 天翔ける馬に乗ったヴァルキリィが、ウリエルの背後を取った。 「舐めるんじゃない……ッ!!」 ウリエルが、つぐみの拳撃を受け止める。 受け止めた左腕は粉々に吹き飛んだが、その間にウリエルはつぐみを地上に叩き落とした。 そのまま振り返り、ヴァルキリィも蹴り落とす。 「ぐぅ……っ!」 ウリエルは吹き飛んだ腕を押さえながら、下を見る。 その視界には、墜ちてゆくつぐみとヴァルキリィ、地上にいるケルベロスとサリエル。 ――1人、足りなかった。 「うぉぉおおおお!!!」 「――ッッ!!!?」 ウリエルの頭上から、雄叫びが響く。 見上げると、そこには――武の姿。 ウリエルは気付いた。ヴァルキリィが空に上がったのは、武を上空に運ぶためだったのだと。 天使は上から下を見下ろして攻撃する故に、さらに上からの攻撃には反応出来ない。 武の手の中で、炎が燃え上がる。それは形を変え、炎に包まれた剣と成った。 魔剣――ヒノカグツチ。 「お、のれぇぇええ……!」 重力に乗ったヒノカグツチの重量と刃が、ウリエルの頭に喰い込み、さらに進んで行く。 炎の軌跡が、ウリエルを真っ二つに引き裂いた。 「呪われろ、倉成武ィイイッ!!!!」 ウリエルの身体にヒビが入り――粉々に、砕け散った。 「――よっと」 落ちて来た武を、サリエルが空中でキャッチする。 そのまま、地上へと運んで行った。 「やったな、主よ」 ケルベロスが武に言う。 他の仲魔達やつぐみも、笑顔を浮かべている。 「ああ。でも、まだ安心は出来ない」 武はジュデッカの方向を見ながら、言った。 「――こんな奴を、俺達はまだまだ相手にしなけりゃならないんだ」 |
あとがきだと伝わるもの・10 こんにちは、大根メロンです。そろそろ賞味期限切れです(何) VSウリエル、終了。 …何か最近、バトルが下手になってるような気がする(汗) 次回はVSラファエル。バトルは難しいなぁ……。 ではまた。 |
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