解放
                              電灯


2037年。武とココが助け出されてから2ヶ月経ったある夜。

 武は、横を見た。つぐみの可愛い寝顔が見える。彼女を起さないように
気をつけながら武はベッドを抜け出し、脱ぎ捨ててあった自分の寝間着を
着直して静かに部屋を出た。武は、寝付けないので少し酒を飲もうと思った
のだ。キッチンへ行けばよく冷えたドイツワインがあるはずだ。高くはないが
ラインヘッセンである。武は以前にレストランでつぐみと飲んだ時の、あのすっきり
した舌触りを思い出した。武はIBFより助け出されてから今に至るまでを
思い出しながら歩を進める。


 しっかし、あの事件から17年も経ったんだよな。やっと実感が湧いてきたよ。
頭ではとっくに理解してるんだけどね…まぁ、夢じゃないってことにやっと気
付いたってとこだ。でも実際に、半年前助けられた時は夢だと本気で思ってた
けどな。なにしろ、いきなり2児の父だもんなあ…実際にはほとんど年とって
ないのに、37歳なんて言われても…まぁ、つぐみから説明されちゃあ、受け
入れるしかなかったが。
 それにしても…考えてみると、17年分の記憶がまったくないというのは
かなり変な気分だぞ。あの後つぐみに訊いても何も教えてくれないし。

 『私は…武のいる今が一番大切なのよ。』

なんて言われたら、それ以上訊けないよなぁ。
 だけど、つぐみは相変わらず綺麗なままだ。なんつっても、身体は永遠の
17歳だからな。でも、我が子達と同年代(ホクト&沙羅は16歳)に見え
るのは俺もつぐみもいろいろ困ってるんだよなぁ…
 それはさておき、37と言えば、外見はともかく、もうオジサンの年齢では
ないか。そういえば、LeMUではつぐみに「オッサンみたい…」なんて言われ
た事もあったっけな…懐かしい思い出だ。

 などと考えているうちに武はキッチンへ着いた。冷蔵庫からワインを取り出す。

 「これこれ♪うまいんだよなぁ〜」

 武はコルク抜きをねじ込んでいく。

……………。
…………。
………。
……。

 つぐみは夢を見ていた。

 夜の買い物(キュレイのため、日光に弱いのだ)が終わり、つぐみは我が家へと
向かっていた。長い、本当に長い間待ち望んだ日常。平凡という幸せ。武がいる幸せ。
つぐみは今日も静かに幸せを噛み締めながら歩いていた。
 しばらくして、我が家に着いた。と、違和感を感じる。何かおかしい。つぐみは
不安にかられ家へ飛び込む。そこには泣き叫ぶ沙羅と、彼女を抱きしめながら声を
押し殺して泣くホクトがいた。
 つぐみが駆け寄った。

 「ホクト!沙羅!何があったの、一体、どうしたの!?」
 ホクトは母の姿を捉え、つぶやく。

 「お母さん…お父さんが…お父さんが……」

 つぐみはさらに訊ねる。

 「武が、どうしたの!?ちゃんと説明して、ホクト!」

 ホクトは静かに奥を指差した。そこは、横引きのガラス戸に遮られていた。
つぐみは、すばやく立ち上がって近づき、バンッと開け放つ。


 それを見た瞬間、つぐみは武に駆け寄った。

 「武っ!武っ!どうしたのよ、武!!」

 武は、いや「武だったモノ」は、キッチンの奥の壁にもたれかかり、事切れ
ていた。ほとんど血は出ていない。しかし、その土色の顔、濁った瞳、かさかさに
乾いた唇からは生気の欠片も感じられなかった。
 つぐみは「武だったモノ」にすがる…

 「武!起きてよ、武っ!人に、『生きろ』なんて言っといて、『俺は死なない』、
なんて言っといて、LeMUでさんざんバカやって私を心配させて、でも、ちゃんと
戻って来てくれたじゃない!こんな所で死んだら許さないから!絶対に…絶対に!
…許さないんだから……だから…武、返事して…お願い…ひとりにしないで…
私をひとりにしないで……武…」

 キュレイである武が死ぬなど、通常では考えられないが、つぐみにとってそんな
事はどうでもよかった。永遠の愛を誓い、ともに生きて行こうと約束しあった最愛の
人が目の前で果てているのだ。叫ぶと、感情の渦に飲み込まれ、つぐみの意識は…
急に…遠のいていった…

……………。
…………。
………。
……。

 あの後のことは覚えていない。気が付くと、ベッドの上に寝かされていた。ホクトが
運んでくれたのだろうか。しかし、まわりの様子がおかしい。自分の部屋ではない
のだ。ここは…武の部屋?隣を見る。誰もいない。かつて愛しい人が寝ていた場所。
互いの愛を確認し合った場所。まだ、武の匂いが残っている。ぬくもりさえ、残って
いるような気がした。しばらくして、視界がかすんでいる事に気が付いた。私は泣いていた。
 どれだけ泣いていただろうか。私は、キッチンの方からなにやら物音が聞こえて
くる事に気付いた。落ち着きを取り戻したホクトか沙羅が夕食を作っているのだろうか。
と考えた所で、時計を見てありえないことに気が付いた。午前1時である。こんな
時間に台所で物音がするなんて、絶対におかしい。武が死んでしまった事にも何か関係が
あるのではないか?

 何の脈絡もない短絡的な発想だったが、再び武を失ったつぐみに、まともな思考は
働いていなかった。ふらふらと、廊下を進む。

 もしも、武を殺した相手だったら、どうしよう?キュレイだった武を殺せたのだ、
もしかしたら、私も殺されるかもしれない。でも、武がいないなら…

 そこまで考えた所で、つぐみはぶんぶんと頭を振った。

 ダメ!こんなことを考えたら、武が悲しむわ。それに、ホクトと沙羅にこれ以上の
悲しみを与えてはいけない!

 つぐみはしっかり生を見つめていた。沙羅やホクトのために。そしてなにより、
今は亡き武のために。つぐみは息を殺し、ゆっくりとキッチンへ近づいていった…


 武は、ワインを飲んでもいっこうに眠気が来ないので、あきらめてダイニング
ルームのソファに座り、昔の事と、これからの事を考えていた。あの潜水艇の中で
「どれから手をつけようか、考えている所だ」と武は言ったが、17年ぶりに今また、
それをやっているようだ。
 ふと、時計を見る。午前1時になっていた。「寝付けないなぁ…」武はため息を
ついた。すると…


 「…武っ!!」

 つぐみがいきなり飛びついて来た。

 「わっわっ!?つぐみ、どうし─」

 「私に黙ってどこかに行かないで!私をひとりにしないでって言ったじゃない!
  ばかばか!!私、またひとりになったのかと思って、それで…うっうっ…」

 つぐみは泣いていた。武は困惑したが、つぐみを優しく、強く抱きしめて
キスをした。俺はここにいるよ、とつぐみに伝えた。

 そうしてしばらく経った後、武の腕に抱かれたままつぐみが口を開いた。

 「…夢を……」

 「…………?」

 「…夢を…見たの…」

 「夢?つらい夢、だったのか?」

 「…………」

 「…………」

 「…武が……死んじゃうの……そこの壁で……私…悲しくて、寂しくて……」

 つぐみはまた泣き出した。武は、強く抱きしめる。

 「…つぐみ………」

 「…それで私…武に、起きて、返事してって、叫んだわ…でも、答えては
  くれなくて……ああ、私はまたひとりなんだって、思ったら…武がまた
  いなくなっちゃったんだ、って思ったら…もう…何も考えられなくなって……」

 「…………」
 「…気がついたら、あなたのベッドの上だったの…いいえ、気がついたんじゃ
  なくて、夢から覚めたのよね…でも…私には、夢か現実か分からなかった…
  そんなことは、どうでもよかったの…あなたがいない…そのことに比べたら…」

 「…………」

 「……私…恐い……武が、またいなくなってしまわないか、恐い…」

 「…………」

 「…………」

 「…つぐみ……心配性だな、本当に。」

 つぐみは、何も言わず武のシャツの胸の所をぎゅっと握った。

 「…………」

 「なぁ、つぐみ?」

 「…なに、武………あっ…」

 武が、急につぐみをお姫様だっこした。

 「お前、本っ当に可愛いな。愛してるぞ、つぐみ…」

 「もうっ、武ったら……」

 「俺はつぐみと共に、いつまでも生きていく。もう絶対につぐみを
  一人にはしない。そうだろ、つぐみ?」

 「うん………ありがとう、武…」

 私は、17年間の悪夢から本当に抜け出した。武は、もういなくなったり
しない。いつも側にいて、私を優しく受け止めてくれる。そう確信できたから。

 そのあと武は、真っ赤になった私を、抱たまま武の部屋に連れて行ってくれて……


FIN




あとがき

 ……訳分かんない文章でしたね、スミマセン…(汗)
えーと、SSを書くのは久しぶりで、自分のスタイルというかそういうものが
完全に無くなってしまいました。それが文章のまとまりの無さや話の強引さとして
表に出てきてしまった感があります。特にEVER17は元のストーリーが
しっかりしているので、自分の文章として書くのは大変でした。まぁ、ギャグ
の要素が元のゲームにも入っているので、そっちの話は書きやすいかもしれませんが。

甘口辛口どっちでも、感想あればお願いします!


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