永遠
                              電灯


 見渡す限りの広い草原。武たちが遊んでいる声がかすかに聞こえる。その中に一人たたずむ大きな木。わたしは日光を浴びないようにその木の下に座っている。あたたかい春の空気に包まれて、草木の息吹を感じている。風になびいて美しいウェーブを描く草原。むせかえりそうになるほどの生命の薫り。春は、生命の始まりの季節。長い冬を乗り越え、今その芽を精一杯伸ばして生きている。
 ふと、生えている草を撫でてみる。この草たちは、一体どれだけ生きるのだろう。夏が過ぎれば枯れてしまう。その命を種に託して。上を見上げてみる。頭上に覆い被さる無数の葉や枝たち。その全てを支える太い、大きな幹がある。この木は、一体何年生きるのだろう。遥かな昔から幾世紀を越えて生きているのだろう。そして、これからも。視線を戻して、少しうつむいた。
 わたしたちは、一体何年生きるのだろう。数十年前生を受け、今まで生きてきた。人は老いる。わたしは老いない。武も老いない。17年の時の友も老いない。武はかつてIBFでこう言った。生きるってことは、死ぬってことがどういうことなのか、それがわかるまでの執行猶予だと言った。生きていること自体が良いことなんだと言った。そのことを、わたしは信じている。武を、信じている。だから、死のうとは思わないし、いつまでも生き続けていく覚悟はある。武も、共に生きてくれる。でも、沙羅もホクトもわたしたちを置いていつかは死んでしまう。この日常は、儚く短い。もし、沙羅やホクトが死んでしまったら、わたしたちはどうすればいいのだろう。キュレイのキャリアとして、生き続けるのだろうか。私を覆っている、この木よりもずっと長く、いつまでも。もし、沙羅とホクトの親として生きるなら、それを失った後、どうすればいいのだろうか。いつか必ず訪れる、我が子をみとる時、その悲しみを乗り越える事ができるのだろうか。

そこまで考えて、ふと気付くと武がわたしの顔を覗き込んでいた。ドキンと心臓がはねる。どうして気付かなかったんだろう。どうすればいいか分からない。どうしよう。顔が熱い。武が心配そうに見ている。武、どうしたの、と言おうとしてどもってしまう。武は、そんなわたしを見て笑いながら可愛いよ、なんて言った。ますます何も考えられなくなってしまう。
 不意に、武が離れた。思わず、声を漏らしてしまった。さっきまであれだけ近づいていたのに、少し離れるだけで不安になる。武の服の裾をつかんだ。どこにも行かないで、武…
 そんなわたしを、武は優しく抱きしめてくれた。さっきまでの高揚感と、この包まれる安心感が交錯して、不思議な感じがする。あたたかい。春の日差しとは違う、ぬくもり。そうしてそのまま、武の鼓動を感じながら、ずっと、抱かれていた。

 そうして、武に包まれてどれだけ時間が経ったのだろうか。いや、数分かもしれない。でも、私にとってとても大切な時間だった。わたしは、その前に考えていた事を武に話し始めた。武に、私の不安を感じてほしい。わたしをもっと知ってほしい。わたしと一緒に考えてほしい。わたしたちの寿命のこと、ホクトと沙羅はいつか死んでしまうこと、死んでしまった後、わたしたちはどうすればいいのかということ。
 わたしは、ホクトと沙羅を失う事を考えられない。この時がずっと続いていくのではないか、とかなわぬ希望を持ってしまう。実際には、ホクトも沙羅もキュレイのハイブリットでしかなく、赤外線視力などの一部の能力しか受け継いでいない。テロメアは回復しない。つまり、普通の人間と同じように生き、死ぬ。もちろん、それが本来あるべき姿で、幸せである事に変わりはない。でも、でも…恐い……… 武はわたしの気持ちを察したかのように抱く腕に力を込めた。きついくらいに抱きしめられる。武は、わたしにキスをした。長いキス。

  武、武だけは、いつまでも、永遠に……




あとがき

ええと(汗)、終わり方がちょっとダークな雰囲気ですね…問題残しまくりです。武とつぐみは結局のところホクトと沙羅についてどういう結論を出したのか、と言う問題が…
実は、第一稿の頃にはちゃんと結論を書いていたのですが、私自身それに納得できないというか、もう少し練ってから書きたいと思いまして、第四稿(最終稿)でカットしました。一応、

たとえその時(ホクトと沙羅が亡くなる日)が来るとしても、
俺たちが生きているのは今なんだ、今を生きるしかない。そして、
この先どんなことが起こってもその時の『今』を生きるしかない。
過去や未来にとらわれる必要はないんだ。(「永遠」第三稿より)

のようなことを武が言って、それを聞いたつぐみの心の声として書くつもりでした。

超短編が2つも続いてしまいましたので、次は長いのをいきたいと思ってます。できれば、ホクトと沙羅の、キュレイがらみの問題に私なりの答えを出したいですね。

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                    TTLL推進委員会会員第9号 電灯


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