A MOMENT with a happiness
                              電灯


2034/06/02

「武…」
 つぐみは、控え室にてウェディングドレスを身にまとい武と向き合っていた。その頬は微かなピンク色で、ドレスの白に引き立てられて美しく映えていた。
「つぐみ、どうしたんだ?」
 武は、つぐみを見つめて答えた。
「ふふっ、ちょっと名前を呼んだだけ。特に意味は無いわ。」
 つぐみは微笑んで武を見つめた。お互いに見つめあう。甘い時間が流れていた。
「ねぇ、武。私、今幸せよ。今までの辛かった毎日なんて、何も無かったみたいに…」
「俺も幸せだよ。世界で一番の幸せ者だ。チャミを除いてな。」
「チャミ…?どうしてなの、武。」
 つぐみは不思議そうに首をかしげている。
「だって、いつもそこに入ってるじゃないか。な、チャミ?」
 武は、つぐみの胸の辺りにいるチャミを小突いた。つぐみは赤くなる。
「えっ…も、もう…武…言ってくれればいつだって………いいのに…」
「ん?なんて言ったんだ?最後の方がよく聞こえんかったぞ?」
「べ、別に、たいしたことじゃないわよ。そ、それよりほら、そろそろ時間でしょ。武、行かないとまずいんじゃないの?」
 つぐみは早口にそう言った。
「ん、ああ、そうだな。最後につぐみ、ちょっと…」
「えっ……あ…」
 武はつぐみを抱きしめた。
「俺は本当に、幸せだ…つぐみと一緒になれて幸せだ。愛してる、つぐみ…」
「私も…この日を17年間待ち続けたわ…武…」

 武は控え室を出て、優春を見つけると近づいて行った。
「倉成…どうしたの?つぐみに会って来た方がいいんじゃないかしら?」
「ああ、つぐみにはもう会って来たよ。」
「そう…それで、私に何か用?」
 優春は顔を背けて訊いた。
「あのさ、お礼、言おうと思って。」
「お礼?」
「優達がいなけりゃ、俺達はこうして式を挙げることはできなかったからな。」
「………」
「…それで、あとは、謝ろうと思ったんだ。」
「………」
「優、気持ちは気づいてたよ。」
「っ………」
「でも、俺はつぐみを守ってやりたいんだ。あいつは、俺が支えてやらなきゃならないんだ。」
「そう…ね……」
「悪かったな、本当に…」
「………」
「………」
「早く、行きなさいよ…私は大丈夫だから。」
「ああ…」
 武はその場を去ろうとした。
「倉成!つぐみの前でそんな顔しないように!式の最中でそんな顔してたら私が許さないわよ。」
「おう!…ありがとう…優。」
 優春は静かに立っていた。一人で、立っていた。

 式そのものは内輪で行われた。LeMUの時の仲間と、ごく少数の関係者のみだった。式場も海沿いの小さな教会だった。しかし、その式はどれだけ資金をつぎ込んでも、どれだけ豪華な舞台を用意しても作ることはできない幸せに満ちていた。
 やがて式が終わり、披露宴も終わる頃になると、もう外は夜になっていた。皆、まだ会話を楽しんでいたが、武とつぐみは抜け出して浜辺にあるベンチに座って空を眺めていた。

「月だ…」
 武が呟いた。空には満月が浮かんでいた。
「なぁ、つぐみ?」
 つぐみは武に寄り添って座っている。
「ん…なぁに、武?」
「月って、優しいよな。」
「…どうして?」
「だって、本当なら真っ暗なはずの夜をこんなに明るく照らしてくれてる…こうして、つぐみの顔が見えるくらいに。」
 武はそう言ってつぐみを見た。
「そうだね…優しいね…」
 つぐみは、武を見た。
「武…海は、どう思う?私の、名前の由来の海。」
「海は、そりゃあ綺麗だな…こんな風に、月明かりに照らされて光る海は。」
 武はつぐみを見ている。
「綺麗すぎて、奪っちゃいたいくらいだ。いや、もう奪っちゃったのかな?」
 武はそう言いながらつぐみを抱き寄せた。
「武………」
 つぐみの手は武の首の後ろで交差した。唇が重なる。きつく抱き締め合う。

BGMはさざなみ。
月明かりだけが二人を蒼く照らしていた。




あとがき


あとがきの前書き

まず、こんなに早く式が実現した理由について書いておきます。優春が気を利かせて手配していたのです。(そう考えて頂くと、優春のシーンがもうちょっと雰囲気が変わると思うのですが…)
だからなんだ、と言う方、その通りです(汗)別に、言わなくても問題はありません。ただ、つっこまれそうだったので。確か、実際の結婚式は手配や準備や出席者の招待などの煩雑な作業をこなさなければならなかったと思います。しかし、武とつぐみの場合は招待客はごく少数だと思うのでそれほど大変では無かったと思われますが。

あとがきの本論

今回のテーマは「ワンシーン」です。人生に置いて、本当に幸せな一瞬(ワンシーン)を写真のように切り取ってみようかと思いました。生きていれば、いいこともあるし悪いこともありますが、どんなに幸せなことでも、どんなに苦しいことでも、全てワンシーンにすぎないのではないか、と考えてこの超超短編SSが完成した訳です。特に、武とつぐみにとって時間はほぼ無限ですが、だからこそより一瞬の価値が重いのではないかということで、武とつぐみの結婚式を題材にしました。
一瞬の美しさを鑑賞して頂ければ幸いです。

それでは失礼
                              TTLL09


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