―――おめでとう……―――
―――おめでとう……―――
 棒読みの祝いの言葉。
 表面上だけの嫌な笑顔。
 ご機嫌取りに用意されたプレゼント。
 誰1人、心の奥底から祝福していない。
 これが、いつもの私の誕生日……

 
笑顔の祝福
                              作 鏡丸太



 
 ピピィッ、ピピピィッ……
 目覚ましが鳴ると私はいつもの様に目を覚まし、朝食を取り服を着替える。
 つい先日、私が通っている鳩鳴館女子高等学校の先輩――田中優、本当はもっと長い名前だけど私は親しみを込めてなっきゅ先輩と呼んでいる人から、今日部活があるので来るように言われた。
 部活というのはハッキング同好会というものだけど、実の所、その実態は私自身にもよく分からない。
 けれど、私が私らしくいられる場所。
 出掛ける為に担当者に外出願いを出してみたら、意外にあっさりと許可された。
 少し意外と思いながらも私は研究所の廊下を突き進み、外へと出掛ける。
 


―――沙羅、僕が一緒だから……―――
 お兄ちゃんが壁伝いに話しかけてくれる。
―――うん……お兄ちゃん、おめでとう……―――
―――ありがとう。沙羅も……おめでとう……―――
 でもそれはすぐに崩れ去ってしまった……
 あれからお兄ちゃんとは会えないまま……

 

 もう季節は冬。
 後1月足らずで3年生は卒業、大学部に進学する。
 別に遠くの大学に行くわけじゃないけど、今までの様に毎日顔を合わせる日々が無くなる……
 ほんの少し、歩く早さが遅くなる。
 不意に通りのコンビ二のガラスを見ると、酷く情けない顔。
 いけない!
 こんな顔では、2人に笑われてしまう。
 ぱちんと頬を叩き気持ちを入れ替える。
 

 鳩鳴館に着くと先輩達が待っている部室棟に行き、ハッキング同好会の部室前に来た。
 一度深呼吸してからドアノブを握る。
 何故なら、ハッキング同好会は部活内で170種類以上の様々な部活動をしているからだ。
 
 ガチャッ、ギィィィ〜 

 ゆっくりとドアを開けた瞬間、

 パ〜ン!!! パ〜ン!!!

 中からクラッカー音が鳴り響き、紙紐や紙吹雪が髪や服に絡みついた。
 突然の事に私は唖然としていると、部屋の奥からなっきゅ先輩と部長の七瀬真篠先輩が出てきた。

「な、何?」
「「おめでとう〜マヨ〜!!!」」
 
 まだ自体が理解できていない私は、何がおめでとうかさっぱり。
 
「……ほら、言った通りでしょう」
「……確かに完全に忘れてたようですね」

 なにやら2人はこそこそと密談。
 密談が終わると、改めて私に向き合い何やらプルプルと身体を震わせていた。
 
「「誕生日、おめでとう!!!」」

 2人の大げさな万歳と言葉に、私はようやく何がおめでとうか解った。
 本日、1月21日は私、松永沙羅の誕生日……



―――お兄ちゃん、おめでとう―――
―――沙羅もおめでとう―――
 私とお兄ちゃんは深夜遅く、誰もいない部屋にいた。
 布団を頭から被って寒さを凌ぎ、目の前の1本だけの寂しい蝋燭の灯りで互いの顔を見る。
 蝋燭の前には、今日2人で残した2切れの苺が乗っているだけのショートケーキ。
 でも、そんな寂しさも2人なら平気。
 私達はいつでも一緒だから。


 
「えっと……その……」
 
 こんな事は突然だから思わず上手く喋れない。
 
「やっぱり用意しておいて正解だったわね」
「そうね」
「マヨ、知ってる? 実はこれ委員長部長がやろうって言い出したのよ」
「あっ、なっきゅ先輩。あれ程、言わないって約束したのに〜」
「えっ、本当ですか!?」

 流石にその事には、驚きが隠せない。
 何せ、ここ――ハッキング同好会の部長だから。

「何気に酷い事考えてない?」
「い、いえ……」

 改めて部室を見渡す。
 少し質素だけど、温かい雰囲気の飾りつけ。
 テーブルには、ちょっとしたパーティー料理と美味しそうなケーキ。

「ケーキはあの人気店NEOの奴よ!」
「2ヶ月前から予約したのよね〜」
「まあ、私はもう少ししたら大学に上がっちゃうから、それでね」

 凄く……嬉しい……

「ちょ、ちょっとマヨ。大丈夫?」
「なっきゅ先輩が湿っぽい事言うからですよ」
「私の性!?」

 私は何時の間にか、泣いていた……
 悲しくて泣いたんじゃない。
 これは、嬉しくて泣いたんだ。
 2人の優しさが、温かくて、嬉しくて。
 不意に誰かに抱きしめられた。
 なっきゅ先輩だ。
 
「マヨ、誕生日、おめでとう」

 

―――沙羅、………、誕生日、おめでとう……―――
 ここは何処なんだろう?
 とても温かくて、いい匂いがする。
 上を見上げると、女の人が微笑みながら私を見ている。
 はっきりと分からないけど、黒くて綺麗な長い髪、とても、とても優しい瞳。
 分からないけど分かる。
 その人は、私とお兄ちゃんのママ……
―――おめでとう、私の、大切な、宝物達……―――



「もう、大丈夫でござるよ、なっきゅ先輩」

 私は涙を拭うと、いつもの元気を出して微笑む。
 大丈夫と気付いた2人は、近所迷惑を省みずに大声で騒ぎ始める。

「さあ、今日は宴よ、宴!!!」
「マヨ! 今日の主役はあんただか、ほら!」

 委員長部長はいきなりハイテンション化。
 なっきゅ先輩は私に手を掴むと、テーブルの方に駆け出す。
 
 私は頑張れる。
 この人達から前に進む事を学んだ。
 だから頑張れる。
 もう一度お兄ちゃんに会うことを。
 だから前に踏み出す。
 
「はい!」



「マヨ、もうちょっと頭下げて」
「なっきゅ先輩、真ん中に寄りすぎです」
「もう先輩達、もう時間ですよ」
「えっ、もう?」
「あっ、来ます」

 パシャッ!



 そして、1年後。



「「「「沙羅、ホクト、誕生日、おめでとう!!!」」」」
「沙羅さん、ホクトさん、おめでとうございます」
「マヨちゃん、ホクたん、おめでとう〜〜〜」
「「マヨ、ホクト、誕生日おめでとう!!!」」
「ありがとう皆」
「感謝極まりでござる♪」

 今日1月21日、私とお兄ちゃんの誕生日を祝うのに皆が我が家へと集まった。
 その中には、とても久しい人――七瀬真篠先輩もいた。

「いい顔する様になったんじゃない?」
「はい♪」

 私は嬉しそうに返事。
 何故なら、本当の温かさと優しさを持つ家族と再会できたから。
 
「では、我が愛する愛娘と愛息子の誕生会を始めるぞっ!!!!!」
「「「「「お〜」」」」」 

 何やらパパは、顔が赤くてもう酔ってるみたい。
 それにママも、皆も……
 でも、これが私の待ち望んでいた誕生日。
 皆で楽しく明るく祝う。
 これが本当の誕生日だから!!!




 2階にある沙羅の部屋。
 机の上に立て掛けられている写真立て。
 その中に収められている一枚の写真。
 そこには鳩鳴館女子高等学校の冬服を着た3人の少女が写っていた。
 1人は金色のショートカットの活発な少女。
 1人はおさげに眼鏡を掛けた少女。
 1人はセミロングでツインテールの可愛らしい少女。
 ツインテールの少女を真ん中に、ショートカットの少女は後ろから抱きしめて右から顔を覗かせて、おさげの少女は肩に手を置いて左側に立つ。
 そして、3人の表情は、とても明るく、とても楽しそうな、生き生きとした笑顔。
 



 後書き

 まずは、勇栄さん、キャラの拝借、感謝します!
 次に、終焉の鮪さん、名前の拝借、感謝します!

 今回は沙羅の誕生日SSです。
 きっかけはOHPのBBSでマリオさんに頼まれたのが始まりでした……
 
 今、気付いたけど、俺の書く誕生日SSって、シリアスだな……
 少し短いけど、まあ楽しんでください。
 
 ほぼ、5時間で書き終えた……
 ある意味凄いぞ俺!(いつもは一月位掛かる)

 では!


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