「どうしたの武?」
 つぐみは不思議そうに玄関前で戸惑っている武を見る。
「いやな……やっぱ、出直さないか?」
 思い切り冷や汗を掻きながら、武は引きつった顔で答える。
「もう……17年振りに両親と会うのに、何戸惑ってるの?」
「わー!! 押すな、押すな!」
 つぐみは呆れながらインターホンを押そうとするが、武は慌てて止めに入る。

 事の始まりは遡ること、先日の2034年5月7日。


親心・子心
                              作者 鏡丸太





 2034年5月7日。
 事件後、武、つぐみ、ホクト、沙羅の4人は優春の用意したホテルに泊まることになった。
 そこで4人が家族として暮らす為の書類等様々な説明が行われた。

「……で、以上だけど分かった?」
「ああ、大体な」
 優春の説明に武は少し苦笑しながら答える。
「皆さんの暮らす家はあと数日ほどで手配できますから、それまでこのホテルで我慢してくださいね」
「ホクトと沙羅に関しても大まか大丈夫だ」
 空と桑古木もこれからの事を説明する。
「何から何まで、ありがとう……」
 涙目を浮かべながらつぐみは申し訳なさそうに3人に頭を下げる。
「気にしないで下さい。私に田中さん、桑古木さんも、そうしたいからしてるんです」
 それに対して空は笑顔で答え、優春、桑古木はそれに続くようにうんうんと頷く。
「そうそう。あ、倉成。あんた、両親に連絡入れなさいよ」
「倉成さんの御両親、ちゃんと健在しいてますよ」
「武、これ使えよ。中に連絡先が入ってるからな」
 すると桑古木は武に新しく用意したPDAを投げ渡す。
「じゃあ、また明日ね」
「では失礼しますね」
「またな」
 ぞろぞろと3人はそれぞれの挨拶をし、部屋から出て行く。


「親父とお袋、生きてんだ……」
 武は少し嬉しい顔をしながら、PDAから両親に電話を掛ける。

 トゥルルルルゥ……カチッ。

 つぐみ、ホクト、沙羅は、武の側に寄り聞き耳を立てる。
『もしもし、倉成だが?』 
 不意に聞こえてきた声に、武の頭は真っ白になってしまい言葉に詰まる。
「お、親父……お、俺だよ、武……」
『……武、か……で、何だ?』
「じ、実は、おおおおお俺、けけけけけけ結婚してました!!!!!」
 息を呑んで聞いていたつぐみとホクトは、武の突然の台詞に思いっきりずっこけてしまう。
「流石はパパでござる」
 ただ1人、武と同じ芸人根性を持ち合わせている沙羅だけは、何故かうんうんと頷きながら感心していた。



 そんなこんなで翌日、優春に事情を説明し話をつける為に武とつぐみは武の両親がいる実家へ。
 ちなみにホクトと沙羅は、連れて来たらややこしくなりそうなので留守番してもらう事に。
「僕もおじいちゃんとおばあちゃんに会いたかったよ〜」
「拙者もでござる〜」




 そういう経緯で、武の両親がいる実家に来たのであった。
「武……」
「いいかつぐみ。俺の両親、特に親父は……」

 バァァァァーンッ!

 険しい顔付きで武が言いかけた時、いきなりドアが吹き飛ぶ。
「ぐわっ!」
 吹き飛んだドアは武に直撃し、更にドアが吹き飛んだ玄関から出て来た何者彼の飛び蹴りが側頭部にクリーンヒット。

 ドガッ! 

 見事なまでな蹴りを喰らってばたりと地面に倒れる武。
「えっ?」
 つぐみは余りの出来事に呆けてしまう。
 武に飛び蹴りを決めた人物は60代辺りの老人であったが、筋肉の張りなどしわの目立ちが無く若さに溢れていた。
「武、大丈夫?」
 つぐみはやっと何が起きたか理解し武に駆け寄る。
 老人は倒れた武を見ながら一喝。
「よくまあ、17年も連絡をしなかったな、馬鹿息子!?」
「息子って……武の、お父さん?」
 つぐみは驚きながら老人―武の父親―を見る。
「この親父! いきなり飛び蹴りかよ!? それで60過ぎか!? そういう歳なら普通、縁側でお茶飲んでる頃だろ?」
 武はつぐみの肩に掴まって立ち上がり、指差して元気な父親にツッコミ。
「飲んでたわ、さっきまで」
 あっさりと受け流す父親。
 しっかりとその手には、空の湯飲みが。
 ……
 少しの間を置いて武は真剣な顔つきで父親を見る。
 父親は湯飲みを置くと武と対峙。
「……今度こそ、あんたに勝つ!」
 武は力強く地面を蹴り父親に向かって突進。
 父親の約2歩手前で走る際振り上げた右腕をきゅっと脇を締めながら、身体を右半身に反らしギリギリまで後ろに引く。
 そのモーションのまま1歩手前で左足の踏み込みで勢いを止め、その反動で父親の顔面目掛けて右ストレートを打つ。

 パシィィ〜ン!!

 だが父親はそれを片手で受け止め、もう片方の手は武の襟元を掴む。
 受け止めた手で腕の袖を掴み右足を1歩前に出すとそれを軸足にし、一気に身体を180度回転させ武を背負い投げた。

 ど〜ん!

 それは武の右ストレートが受け止められてから、3秒にも満たさない一瞬の出来事であった。
 武はあ然としたまま仰向けで地面に倒れている。
 すると父親はしゃがみ込んで、武を小馬鹿にする。
「暫らく見ないうちに身体が鈍ったんじゃないか?」
「この親父〜!!」
 武は起き上がると、再び父親に殴りかかる。
「た、武……」
 つぐみは訳が分からずただ見るしかなかった。

 ぽん、ぽん。

 不意に肩を叩かれつぐみは後ろを振り向くと、そこには温和な60代辺りの老婆が微笑んでいた。
「すみませんね、刀一郎さん、武が帰ってきて嬉しくてね」
「あの、もしかして、……武の、お母さん?」
 老婆の言葉からつぐみは武の母親と思い尋ねる。
「ええ、武の母、倉成真尋(まひろ)よ。因みに武と殴り合っているのが、父の刀一郎(とういちろう)さん」
「あっ、はい……は、はじめまして。こ、小町月海です……」
 つぐみは慌てて姿勢を正して真尋にお辞儀。
「いいのよ、そんなに緊張しなくても。立ち話も何だし、家に上がりなさい」
 すると既に真尋は靴を脱いで家の中に上がっていてつぐみを手招く。
「でも、2人は?」
 つぐみは武と刀一郎を見るが、それに対して真尋は「疲れたら止めるでしょう」とあっさりと言い台所にお茶を取りに行く。
 後ろ髪を引かれながらも、恐る恐る家の中に上がる。



 ずずず〜、ずずず〜。

 2人は居間で向かい合いながらも何も喋らず、ただお茶を飲んでいた。
 真尋は気楽に飲んでいたが、つぐみは少し緊張しながら飲んでいた。
 もちろん初対面もあるが、それ以上に武の母親であるという事が大きい。
 当の真尋はそんなつぐみの心境を介せず、空になった茶碗にお茶を注ぐ。

 そんな状態が17分続いたが、お互いボロボロになった武と刀一郎が居間に入ってきてそれぞれ武はつぐみの隣に、刀一郎は真尋の隣に腰を下ろして向かい合う。
「…………さて武、結婚したと聞いたが、そのお嬢さんが相手なのか?」
「ああ……」
「あの、小町、月海、です……」
 刀一郎は険しい顔をしながら武とつぐみの2人を交互に見る。
「優ちゃんから聞いたんだけど、ホクトと沙羅、2人の子供がいるらしいわね」
「ああ……」
「お前みたいのが結婚して子供がいるだと!? ふざけるな! お前みたいな未熟者が家族を支える父親だあ?」
「くっ……」
「でも武は」
 刀一郎の言い分に武は何も言えず、つぐみはフォローしようとするが、次の言葉に2人は下を向いてしまう。
「17年……つぐみさんと2人の子供をほったらかしにして、ぐうすかお寝んねしてたらしいな……」
「ぐっ……」
 武の手は血が滲みそうになるほど強く握り締められる……
「……」
「刀一郎さん……」
 ほんの数秒の間、静寂が訪れる。
「確かに……」
 だが、それを打ち破ったのは武の言葉。
「確かに、俺は17年、つぐみとホクトと沙羅に何もしてやれなかった! まだ父親としても未熟者だ! だけど、だけど! 17年何もしてやれなかった分、これから、これから! ホクトと沙羅に、つぐみに、幸せを与えてやりたいんだ!」
 刀一郎と真尋は何も言わずただ武の言葉を聞く。
「まだ未熟だけど俺は少しずつ、家族を支える、ホクトと沙羅を、誰よりも大切なつぐみを守る男になってみせる! だから、親父、お袋、認めてくれ……」
 刀一郎の言った事は全て事実であった。
 武はその事を良く分っていた。
 だからこそ、自分の嘘偽りの無い気持ちを伝える。
「頼む、一緒に、いたいんだ……」
「武……」
 床にめり込ませる勢いで頭を下げ、つぐみはそんな武の想いに、姿に、涙が滲む。
 刀一郎はそんな武の姿を見、真尋は笑顔で武とつぐみを見る。
「とりあえず今日は、泊まっていけ……」
 そう言うと刀一郎は、立ち上がり居間から出て行き自分の部屋に入る。
「じゃあ、夕飯の支度するわね」
 後を追うように真尋も立ち上がり、台所に入る。
「あの、私も」
 つぐみは手伝おうと立ち上がろうとするが、真尋に「久しぶりに母親。やらせて頂戴、つぐみちゃん」と言われ、申し訳なさそうな顔をしながら腰を下ろす。
「俺も久しぶりに、手伝うよ。つぐみは、待っててくれ」
「ありがとう」
「……うん」
 武は真尋の後を追い、つぐみは少し身を縮ませながら夕食を待つ事にした。


 夕食となり、4人はそれぞれ席について食事をとった。
 内容は、真尋の作ったネギの味噌汁・大根サラダ、そして武の鮭の塩焼き・ほうれん草入り炒り卵・だし巻き卵・緑黄色野菜炒め。
 そのどれもが舌を巻くほどの逸品達。
 つぐみは真尋から話を聞いて知った事だが、武の両親は洋食屋を営んでいる。
 武は幼いころから両親の手伝いで料理人の真似事をしていて、その甲斐あって並の人よりも料理が上手い。
 それ故にLeMUの中で、武が一番料理が出来たのであった。



「ふう……いいお湯……」
 つぐみは湯船に浸かり、窓から夜空を見上げる。
 夕食をとり終えた後、つぐみは片づけを手伝おうとするが代わりに武が行ったので更に申し訳なくなってしまう。
 そんなつぐみは、真尋に「お風呂に入ってさっぱりした方がいいわ」と言われ、後でいいと断ろうとするがいきなり泣かれてしまい仕方なく先に入らせてもらう事にした。
 つぐみは身体を洗おうと湯船から出た直後、いきなりドアが開き思わず悲鳴を上げようとする。
「キャアァァ……」
「ちょっと、つぐみちゃん。私よ、私」
 ドアを開けたのは真尋で、つぐみは慌てて自分の手で口を塞く。
 よく見ると真尋は服を脱ぎタオルを巻いていて、風呂場に入ってくる。
「あっ、身体洗うところだったの? 良かったら私が洗っていい?」
「い、いいえ……いいです……」
 つぐみは必死に両手で身体を隠そうとしながら、歯切れ悪く断る。
 だが真尋はそんな事も気にせず、つぐみを床に座らせ身体を洗い始める。
 そして、真尋はつぐみの身体に刻まれた無数の傷跡に気づくが、かまわず洗い続ける。
「聞かないんですか? 傷跡の事……」
 つぐみはか細い声で尋ねる。
「武は、武は受け入れたんでしょ。あなたを、つぐみちゃんの全てを」
「……」 
「優ちゃんから色々聞いたわ……」
「気味、悪いと思わないんですか?」
 真尋はつぐみの身体を洗うのを止め、シャワーで洗い流す。
「思わないわ。私と刀一郎さんの武が好きになった子なんですから……」
「でも!」
「それにもう、つぐみちゃんは私達の家族なんだから」
「えっ?」
 その言葉につぐみは思わず真尋の顔を見る。
「家族……」
「ええ」
 真尋はつぐみの身体を優しく抱きしめる。
「真尋さん……」
「つぐみちゃんはもう私の娘なんだから、お母さんと呼んで。ねっ♪」
 真尋は優しく微笑み、つぐみは彼女の胸に顔を埋め泣きながら何度も「お母さん、お母さん」と呟く。
 まだ幼かったころに突然失った、優しい暖かさに包まれて。
 つぐみは、かつて失った親からの愛を再び受ける。

 それから、暫らくして2人は風呂に入りながら倉成家の話をする。
「なんで2人は喧嘩なんか?」
 それは玄関での出来事―武と刀一郎の喧嘩―の質問。
「武が大学に入ってから始まったの」
 事の始まりは、ほんの些細なこと。
 そこから武は父親に1人前扱いして欲しい。
 刀一郎は息子に自分を越えて欲しい。
 そんな思いから始まった親子喧嘩。
「そうなんですか……」
 ある意味、本音でぶつかり合える武と刀一郎を少しだけ羨ましく感じるつぐみ。



 同じ頃、刀一郎は自分の部屋で酒を飲みながら、先程の武の姿を思い出す。
「あの馬鹿息子が、久しぶりに見たら一人前の男の顔しやがって」
 その目には薄っすらと涙が。
 再びコップに酒を注いで飲むと昔の事を、武がまだ幼い子供だった頃を思い出す。
 

―――ひく、ひく……―――
―――武、どうした?―――
 泣きじゃくる幼い武の前に刀一郎は、腰を落とし同じ目線の高さで尋ねる。
―――別のクラスの奴等が、女の子をいじめててそれでそいつ等を倒したんだ―――
―――それなのに何で武が泣いているんだ?―――
―――そいつ等、自分達の担任に俺にいきなり殴られたって言って、それで俺が殴られた……―――
―――だからか? なあ武、その事で自分は正しいと思っているか?―――
―――分かんないけど……でもその後、女の子から「ありがとう」て言われたんだ。痛かったけど嬉しかった……―――
 武は泣きながらも嬉しそうな顔をする。
―――そうか。武、それが本当に正しいと思ったなら、最後まで信じ続けろ。その意思を貫き通せ。そうすれば、答えは必ずお前の元に返ってくる―――
―――本当に正しいと思ったら、最後まで信じ続ける……―――
―――ああ、そんで強い男になれよ!―――
―――うん!―――
 刀一郎は、武の頭を優しく撫でる。
 いつの間にか武は泣き止んでおり父親の言葉に元気よく応える。


 酒が入ったコップを見ながら、刀一郎の顔は嬉しさと寂しさが混じった顔をする。
「本当に、大きくなりやがって……」
 呟くと酒を一気に飲み、またコップに注ぐ。



 深夜、武は寝巻き姿で満点の星空が見えるベランダにいた。
「まだ起きてたんだ……」
 つぐみも寝巻き姿で武のいるベランダに出て隣に立つ。
 2人はベランダの手すりに寄り掛かり星を見上げる。
「17年、経ったんだな……」
 不意に武は呟く。
「武?」
「親父、少し痩せてやがった……お袋も、歩くのが少し辛そうだった……」
 ほんの僅かな時間。
 その中で武は17年の月日を感じた。
 ゆっくりとつぐみの方に振り向く。
「実感させられたよ……17年経ったって事に……17年も、つぐみを1人にしてたって事……」
 武は悲しげな顔をするがつぐみは武の手を握り笑顔で言う。
「でも武は、約束を守った。そして、私の傍にいてくれる。だから、ね?」
「つぐみ……」
「だから……そんな悲しい顔、しないで……」
「すまん」
 互いに見つめあい、微笑み合う。
 重ね合う2人の影。
 夜空の星は瞬き輝く。
 それはまるで2人の未来を祝福するが如く。



 翌朝、武とつぐみは家を出る事にした。
 刀一郎と真尋は2人を見送りに外に出てきたが、武と刀一郎は朝から一言も言葉を交じ合わさなかった。
「また来てね」
「はい」
 つぐみと真尋は別れの挨拶をするが、相変わらず武と刀一郎は別れの挨拶すらしようとしなかった。
 その時、後ろから叫び声と共に2人の人影が見える。
「お〜と〜お〜さ〜ん〜!お〜か〜あ〜さ〜ん〜!」
「パ〜パ〜!マ〜マ〜!」
 武とつぐみは後ろを振り返ってみると、何とホクトと沙羅であった。
「お、お前らどうしてここに?」
「空と涼権に頼んで連れて来て貰ったでござる」
「田中先生には内緒だけどね」
 武の問いに沙羅は自信満々に答える。
 ホクトは更に説明を補足。
 ホクトと沙羅は嬉しそうに武とつぐみに抱きつく。
「その子達が、ホクトに沙羅ちゃんね」
「はい」
 真尋の問いに、つぐみは笑顔で答える。
「この人達が僕らのおじいちゃんとあばあちゃんだね?」
「うわ〜」
 ホクトと沙羅は物珍しそうに、刀一郎と真尋を見る。
「お前らな〜」
 そんな武を見て、刀一郎はほんの少しだけ笑う。
「武、これが最後だ」
「っ!!! ……ああ……」
 武と刀一郎の間に緊迫した空気が生まれる。
 ホクトと沙羅は訳が解らず、つぐみと真尋は黙って見守る。
 
 ジャッ!!! 
 ジャッ!!!

 同時に駆け出す2人。
 刀一郎は武の顔面目掛けて右ストレートを放つ。
 これを武が躱そうとした所で腕を掴み、背負い投げを掛けようという作戦。
 だからスピードはあっても、威力は微々たる物。
 徐々に武の眼前にせまる右ストレート。
 だが……
(躱さないのか!?)
 武は避ける素振りも見せずに、前に突き進む。
 従って……

 パチン。

 右ストレートが弱々しく武の顔面に当たる。
 だが、威力がなくても多少の痛みがある筈だが、武の勢いは止まらず一気に間合いが詰まる。
 間合いを詰めた武は大きく右腕を振りかざすと見せかけて、足払いを掛け転ばす。
 倒れた刀一郎を馬乗りで押さえる。
 そして、振り上げたままの右拳が振り下ろされる。
 それを見守るつぐみ、真尋、ホクト、沙羅。

 がつんっ!

 ……振り下ろされた拳は……
 刀一郎の頬を掠めて、地面に当てていた。
「何、外してやがる?」
「これでも、勝ちは勝ちだろ?」
 不適に笑いながら武は立ち上がる。
「……確かに、勝ちは勝ちだな」
 立ち上がり土ほこりを払いながら、少し嬉しそうな顔の刀一郎。
「全119戦、最後にして最初の勝ち星か」
「遅すぎだ、武」 
 どういう形にしろ、息子が親である自分を超えた。
 このおかげで、既に認めかけていた武の事を心の奥底から完全に認める事が出来た。
 武もまた、やっと親を超える事が出来、心の奥から嬉しさが込み上げる。

 親は子に超えてもらいたい。
 子は親を超えたい。
 だが、親という者はいつまでも子といたい。
 子は親を尊敬し続けたい。
 矛盾しているが、これが、親子と言うものだろう。

「武、たまには家族揃って家に来いよな」
 刀一郎はそう言うと、すぐに家の中に入って行った。
 ほんの少しの言葉だったが、武は理解した。
 父親が自分を一人前として認めてくれたことを。
 言葉にして……
「ああ、必ず来るから」




「連れて来て正解でしたね、桑古木さん?」
「まあな」
 武の両親の実家から少し離れたところで、桑古木と空は車の中から外の様子を見る。
「でも、田中さん怒ってますね?」
「確実にな」
 2人はホクトと沙羅にねだられ、優春に内緒でここに連れて来たのであった。





「いててて」
 先程受けた拳の痛みを耐えながら、運転している武。
「ねえねえ、パパ、何を話したの? それになんで喧嘩してたの?」
「あっ、僕も知りたい」
 それは帰る途中であった。
 ホクトと沙羅は後部座席から身を乗り出して、どんな話をしたか武に聞こうとする。
「ええい、運転の邪魔じゃい! 少しは静かにしろ」
「ううぅぅぅ……でござる」
「はぁ〜い……」
 武の怒りに2人は渋々席に座るが、つぐみの言葉で再び身を乗り出す。
「それじゃあ、私が教えてあげる」
「本当!?」
「流石、ママでござる!」
「おい、つぐみ!? ちょっと待て」
 武の抗議を無視して、つぐみは話し始める。
 ホクトと沙羅は、真剣な顔付きでそれを聞く。
「実はね、武……」
 つぐみは悪戯っぽい笑みを浮かべながら話す。
 武が自分達を世界で1番愛している事を……





 後書き
 
 鏡丸太(以降:鏡):どうも皆さん、約3ヶ月ぶりのSSです。
 今回は武の両親のお話です。
 そして今回からゲスト出演!
 レイアス(以降:レ):オリジナルキャラのレイアス・フォン・カインベルトだ。
 鏡:いきなりだけど、本編のおまけなんかどうぞ〜



 武達が泊まっているホテルの部屋で、優春はテーブルの上に置いてある1枚の書き置きを見ていた。
 それにはこう書かれていた。
『ホクト:やっぱり会いたいので、涼権さんと空さんにお願いしました。なので怒らないでください』
『沙羅:我慢できないでござる!』
『空:勝手にこんな事をしてしまってすみません。でもやはり、2人の願いを叶えたくて』
『涼権:こんな小さい事で眉間にしわを寄せるな。ますますしわが増えるぞ』
 優春は無言でいたがその顔は桑古木の指摘した通り眉間にしわを寄せていて、その背中からはどす黒いオーラで満ちていた。
 優春の付き添いで来ていた娘の優秋は、母親が発する禍々しい気配に思わずいつでも逃げれる様にドアの近くに立っていた。
「ココちゃ〜ん、で〜す! 皆、遊びに来たよ♪ あっ、あっきゅ、おはよう♪」
 するとドアからココが入ってきて側にいた優秋に挨拶をする。
「あっ、おはよう、ココ」
 ココはテ−ブルの前に座っている優春、ドアの側に立っていた優秋を除いて誰もいない事に気づく。
 ココは優春の発する暗黒の殺気なんか感じず、側によって「みんなはどうしたの?」と尋ねる。
「大丈夫よココ、すぐに皆帰ってくるから……そしたら、『桑古木で』!! 遊びましょ……」
 『桑古木で』を強調しながら、優春は笑顔で答える。
 だがその目は100%明らかに笑っていなかった……



 レ:いいのか? このオチで?
 鏡:折角書いたから、入れてみました(爆)
 レ:まあ、ともかく、後書きに入ろう。
 鏡:そうだな。
 まず最初に、子供が1番影響を受けるのは、やはり親ですよね。
 レ:そうだよな〜、やっぱ子供は親の背中見て育つからな。
 鏡:ちなみ、この後(少年時代以降)、武は普通に生活してます。
 特別なことは全くありません!(爆)
 レ:まあ、鏡丸太の武はとある漫画の主人公が半分モデルになってるんだよな。
 鏡:その辺は別の後書きの時なんぞに。
 今回のテーマは何となく、自分なりの父親と息子像ですかね?
 レ:父親が頑固で喧嘩して認め合う……ネタ的には古いな。
 鏡:うっ! ぐさっ!!
 いいじゃないか!
 これが俺の武の父親のイメージなんだから!
 ……何気に言うと今回の出来は60%位なんですよね……
 レ:それでいいのか? 読者に悪いだろ。
 鏡:でも、いいネタが浮かばなかったんだもん♪
 レ:気味悪いぞそれ(汗)
 あまり引っ張るのもなんだし、この辺で切り上げるか。
 鏡:そうだな。

 鏡&レ:ではでは〜


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