田中先生 家族計画発動編
                              かぱちゃぱ


  2034年5月。田中優美清春香菜教授の指揮の下、『第401研究所』は海洋
 テーマパークLeMUの人為的事故によるBW発動を画策。
  それと同時にLeMU下部に存在する秘密研究施設IBFを完全破壊する事に
 成功。
  田中優美清秋香菜ほか、倉成武を含めた7人を無事救助。内、秋香菜、
 桑古木を除く5人は様々な『事情』の『事後処理』の為、今しばらく『第401
 研究所』の保護下にあった。
  

    ―――― LeMU事故数日後 第401研究室内 会議室 ――――

  連なった机に居並ぶ研究員の面々。そこには、優を初め、牧や神崎などの
 主だった顔も全員揃っていた。
「では、・・・よろしいんですね、先生?」
  口を開いたのは長身で不敵な面構えの研究員、岩井。
「――――? それはどう言う事なのかしら、岩井クン?」
  表情を変えず、眼鏡を指で掛け直す仕草をしながら聞き返す優。それに
 対し、岩井と言う男は ニィっと意味ありげに笑ってから答えた。
「貴女の考えた通りのシナリオを私は用意しよう。書類を偽造しよう。また、
それに必要な裏工作もしよう。邪魔な人間に手をまわし黙らせ排除し、必要
なら彼らの友人や親戚のデッチ揚げの手配も私がしよう―――。」
「・・・・・・・・・・・。」
  机の上に組んだ手を置き、岩井の言葉を黙って聞く優。まわりも誰一人、
 声を立て様としない。
「だが、この計画を実行するのは貴女の意思だ。ライプリヒ非公式活動機関
[第401研究室]総長、田中優美清春香菜教授―――――。」
  芝居がかった動作で言い放つ岩井。研究員達が固唾を飲んで見守る中―――
「・・・・・・・ 天本!」
「はい。」
  優の父の知己であり、古くから研究所に籍を置く、天本と呼ばれた背の
 高い初老の男性は恭しく優にビールジョッキを手渡す。そして―――
  ゴクッ!ゴクッ!ゴクッ!ゴクッ!・・・プハァ〜〜〜っっっ
  
    ―――――― オオオオ〜〜〜〜〜〜っっ――――――― 

  優は大ジョッキを一気に飲み干し、湧く歓声を黙らせるかのように立ち上
 がりながら バンッ!!! と乱暴に掌を机へ叩きつけ―――

「私をなめるな給料泥棒!! 『偽造&裏工作』!『偽造&裏工作』よ!
  私は既に命令を下した。何も変わりはしないわ!
   逃げも隠れもせず正々堂々と彼らが暮らせるよう
       どんな手でも惜しみなく行使し、打って出なさいっ!!!!」

  虚勢では無く、見事に啖呵を切る優春。他の研究員は感動し、天本は微かに、
 口元を笑っているかのように歪ませていた。
「フ、フフフ・・・・ハハハハハハハ!!! 素晴らしい、流石は我等が先生だ! 
ではとくとご覧あれ。必ずや満足のいく生活環境を整えて見せましょう」
  心底、可笑しげに・・そして満足げに笑う岩井。その手にはビールの入っ
 たコップは握られていた。そしてコップを高く上げ――――
「では、LeMU爆破計画及び、IBF壊滅計画の成功を祝って! 乾杯っ!!!!!」

 ――『乾杯っ!』 『かんぱい〜〜♪』 『いや〜、上手くいってよかった』
  『う〜〜、田中先生カッコよかったっす〜〜♪』『僕、惚れ直しましたよ』  
  『先生に一生着いていきます〜〜〜〜!!!』―――

  盛り上がる研究員達。そんな中、ふと我に帰り、何となく恥ずかしい優春。
「・・・こんな音頭でよかったかしら? 天本さん。」
「さあ、私は只の事務方ですから、何とも。それより独逸から取り寄せた本場の
特級の生がございますが、如何です?」
「フフッ♪ 頂くわ」

  そして、一連の計画成功の祝勝パーティーが始まった・・・・  



  数日後、優はLeMU事故計画終了後に『武』『つぐみ』『沙羅』『ホクト』の
 4人に、これから生活できるように用意したマンションへ車を向かわせた。
  武やつぐみ達親子が何の心配もなく4人で暮らせる様に研究員の岩井に手配さ
 せた『案件』が上手くいったのを報告する為だ。

  ピンポーン♪ 呼び鈴をならすと、暫くして男の人らしい足音がドア越しに
 聞こえた。 
  ガチャッと明けられたドアの向こうに武の顔が見える。
「は〜い♪ こんにちは、倉成。 どう、家族水入らずは?」
「おおっ、優。いや〜、なかなかどうして賑やかなもんさ。思い悩む暇も無いっ
てくらいだぜ。(苦笑)」
  困ったような、それでいて嬉しいような照れ笑いを浮かべる武に、彼を好きな
 優は一瞬顔を曇らせたが、直に気を取り直し、
「フフッ、ではそんなマイホームパパにプレゼントがあるんだけどな〜」
「ん? なんだそりゃ。まぁ、入ってくれよ。」
  優の気も知らず、武は『自分の家庭』に優を招きいれる。優が用意して
 おいた生活用品は使いやすい様にきちんと整理されていた。

「あ〜〜、なっきゅ先輩のお母さんだ。いらっしゃい〜♪」
「こんにちは、優・・・あ、えと・・・なんて呼べばいいんだろう?」
  出迎えてくれた元気のいい二人が微笑ましい優。
「こんにちは、沙羅にホクト。 別に優って呼んでくれても構わないけど、それだと
秋香菜と一緒だもんね〜。」
「あ、じゃあ、『田中先生』でいいかな?」
  桑古木と違い、決して「おばさん」などと墓穴を掘らない辺り、天然ながらに賢
 い子であった。

「・・・優、」
「どう? キンブル医師顔負けの生活から一転、一主婦としての生活は?」
  答えは聞くまでも無かった。つぐみのその満足げな表情は、暫く前の彼女には
 無かった安堵感、そして武への甘えがあったから・・・・
「あ―――  」
「おっと、お惚気なら聞く耳もたないわよ〜。それよりもみんな、話を聞いて頂戴。」
  何かを言おうとしたつぐみを制し、リビングのテーブルにみんなを集めた。

「フフフ〜♪ これを見て驚いてね。ジャ〜〜ン!!」
  バサッと抱えていた書類一式を机に広げる優。何やら武、つぐみ、ホクト、沙羅
 の顔写真が貼られたものやら免許、身分証などが出てきた。 
「な・・・なんだよこりゃ? あ、これ俺の免許証か?つぐみのもあるぜ。」
「そうよ、これからあなた達が新しい生活を送る為の『家族設定』を説明するわ」
  狐に摘まれた様子の友人達を、クスッと可笑しげに笑い説明を始める優。
「いい? 倉成とつぐみは二人とも22歳で、大学卒業後すぐに結婚した若夫婦って
事にしておいたから」
「えっ? わ・・若夫婦(赤面)」
「おいおい!? どうやってこんな事を・・・ う!?この記念写真、知らない奴等
ばかりの中に俺とつぐみがいるぜ。」
  若夫婦という所にポッと頬を赤らめるつぐみ。武は感心した風にありあえない
 場面が写っている写真に見入っている。
「あと、ホクトと沙羅だけどね。あなた達二人は孤児だけど、最近になって親戚だった
つぐみが見つかって、つぐみ夫婦が養子として引き取ったという事にしたわ。」
「え〜〜〜? 本当の二人の子供なのに養子って事になるの?」
  やはり不満げな沙羅に、悪戯っぽい笑顔で優は説明を付け加える。
「でも、これなら人前で『パパ』とか『ママ』って呼んでもOKでしょ?(ニヤリ)」
「あ! なるほど。 」
「じゃあ、堂々と友達に、『私のパパとママだよっ』て紹介出来るんだ♪」
  流石は田中先生の絶妙の采配に、双子の兄妹も納得したようだった。

「で、あの・・あのね。(照れ顔) 倉成にはライプリヒ社員としての席を用意したか
ら。ほら、その方が色々都合がいいし、(私の仕事を手伝うと言う事で傍に居てもらえ
るし・・・)ねえ、倉成? ・・・つぐみ? 聞いて・・・ないわね?」
  もはや優春演出による家族計画に夢中の倉成一家。
――― 『沙羅とお父さんは義理の親娘なんだ――――』『もうっパパったら、そ
 んな―――』『おいおい、これじゃ――』『わ・・私が―――』―――
  そんなやり取りを見て、一抹の寂しさを感じつつ、満ち足りた思いも感じる
 優春だった。が、しかし・・・・・
「・・・・ちょっと、あんたたち、人の・話を・聞きなさいよ〜〜〜っっ!!(怒髪)」
 ガッッシャ〜〜ン!! ―――――――― 切れた優はテーブルを引っくり返した。
『お・・おう』『(パチクリ)』『ご・・ごめんなさい』『なっきゅ先輩と同じだ〜(汗)』



         ――― それから数日後 ―――
「・・・・最近・・・変ね」
「そうよね・・・ありゃ変よね」
  鳩鳴館女子から程近い駅前の繁華街。そのハンバーガーショップの道路側
 窓際の席で 女子高生二人が何やら呟きつつ、セットで付いて来たポテト
 をチビチビとパクついていた。
「マヨ、新しい家族と上手く行ってないとか?」
「・・・・にしては実に楽しそうなんだけどね。う〜ん」
 
  例えば、昼食。最近沙羅は弁当を毎日持って来ている。その可愛い感じ
 の弁当箱の中身を見てみると、幼稚園か小学生低学年の子供が喜びそうな
 卵焼き、そぼろ、ミートボール類だったのだ。
  沙羅が言う所のママ(継母?)による嫌がらせかと思いきや、
「もう〜、ママったら♪(はーと) おいし〜♪(満笑)ん?あげないでゴザルよ!」
 ・・・とまあ、何故かいたく気に入ってる様子なのだ。

「マヨ・・・可愛いからね〜。 新しいお父さんとやらに何か変な事――――」
「あ、そりゃないわ(苦笑)。なっきゅ先輩の話では逆にお父さん(義父?)が
気の毒なくらい夜討ち朝駆けで引っ張り回してるって言ってたからね。」 
「あはは〜♪ そうだよね〜。 あのマヨだもんね〜。」 
  最近付き合いの悪い友人をネタ・・・いや心配して既に1時間近くは店内に
 居座っているこの二人、実は松永沙羅のクラスメートであり友人。
  小柄で線の細い、見るからに文学少女っぽいのは木戸奈緒美。
  172cmと背も高く、肩までの髪を後ろで纏めた一見してスポーツ少女と分る
 のが白鳥陽子。
  充分に平均以上の容姿を持つ二人だが、エスカレーター式女子校の悲しさ
 か、彼氏が出来ないのが共通の悩み。

  しばらくそのままボ〜っとしていると、窓の外に知っている顔が見えた。
「―――ん? あれ、マヨと違う?」
「あ、本当。 お〜〜〜いぃぃ?ぃ?」
  声をかけようとした木戸は一瞬目を疑った。白鳥も同じく愕然としている。
  沙羅は大学生くらいの男性と腕を組んで歩いていたのだ。
「なに・・・あれ?(呆然)」
「彼氏・・・かな?・・・っていうか・・よね。(唖然)」
  あの、ひねくれてて生意気で強気の沙羅(おいおい!)が、警戒心丸投げ状態
 でベタベタに甘えている。それが嫌味に感じられないのは二人がお似合いと言
 う事なのか?
  そんな二人の思惑を余所に、幸せそうに彼氏といちゃついている沙羅を見て、
 ふつふつと理不尽な怒りが込み上げてきた。まあ、半分はヤッカミである。
「ウフフフ・・・これはキッチリと説明してもらわないとね〜。」
「そうだよな〜。いい男は私達にも紹介してもらわないとな〜。」
  込み上げる嫉妬を笑顔で隠し、二人はガチっと腕をクロスさせ、頷きあった。


   ――― 次の日の鳩鳴館女子高等部2年○組 昼休み―――
  クラスの皆が思い思いに昼休みの行動を起こそうとしている中、
「さて、行こうか番長―――」
「よしこい! チビ ――― 」
  ・・・と、よく分らない合図はともかく二人の意気込みは伝わってくる。
  沙羅の両脇の座席を陣取ると、挟み込むように机を移動させ
「見たわよ。」
「へ? 何をでござるか?」
  いきなりそう切り出す木戸。いまいち状況が掴めない沙羅。
「しらばっくれても駄目よ。ネタはあがってんだからね〜」
「だから、何の事でござるよ?」
  例の可愛い弁当箱を開きながら尚も白を切る沙羅に木戸が造り笑顔で
「やぁ〜ねぇ、マヨったら。・・・昨日、放課後、駅前、お・と・こ♪」
「あんなイイ男と腕組んじゃってさ〜。さて、申し開きは如何に?」
  続く白鳥。嫉妬まるだしの二人に沙羅がポっと頬を赤らめ
「な・・なんだぁ〜。見てたでござるか? フフフフっ、昨日は二人で―――」
「ああ〜、惚気はいいから。で? あの男の人、マヨの彼氏?」
  ニヤケた顔で独白を始めようとする沙羅を制し、木戸が質問を続ける。
「フフっ、実はあの人は彼氏じゃないんでござるな〜」
  沙羅の彼氏じゃない宣言に顔を見合わせる友人二人。
「かかかか・・彼氏じゃない? あのベタベタぶりで?」
「まままま・・・まさかマヨ!? アンタ・・・」
  如何にもな想像を始める二人に照れ照れの沙羅は意外な関係を告白する。
「あの人ね・・ 私のね・・・『パパ』なんだ〜(は〜と)♪」
  『『!? パパ??? 』 』 それを聞いた二人は――――
「わ〜〜〜〜〜〜!? やっぱり〜〜〜〜〜〜!!?? 」
「マヨ〜〜〜!! アンタって子は〜〜〜〜〜!?」
  激しく勘違いした。 当たり前か?


「ほら、これがパパでママとお兄ちゃんのホクトだよ。」
  沙羅の話に当然の如く誤解した二人に、いつも持ち歩いている家族そろ
 って写した写真を見せる。幸せそうな4人の家族が映っているその写真。
「どれどれ?」
「こ・・・これが? マヨの家族? ・・・マジ?」
  興味深げに吟味を始める木戸嬢と白鳥嬢。昨日見た男性は確かに良く見ると
 何処となく雰囲気か何かが沙羅と似ている気が・・・しないでもない。
  しかし父親にしては若すぎる。なによりいい男なのが気に食わない。
『か・・かっこいい。』
『頼り甲斐ありそうだし・・こんな彼氏が欲しいな〜』
  そして、沙羅の肩に手を置いている女性。この人物も目元や鼻などのパーツ
 の印象が似ていた。・・・・が、こちらも母親にしては若すぎる。落ち着いた
 雰囲気ではあるけど、せいぜい沙羅より一学年、年上の大人びた少女としか見
 えないのだ。
『す・・素敵。お姉さま〜(は〜と)』
『髪が長いな〜。それに大人っぽい。』
  沙羅と並んでいる綺麗な顔立ちをした少年。これを当の沙羅はお兄ちゃんと言
 うが、小柄で可愛い印象から弟に見えた。(笑)
『か・・可愛い。』
『いいな〜。こんな弟が欲しいな〜』

「どうでござるかな、拙者の家族は? あ、ここにハムスターのチャミ師匠が――」
  もはや得意げな沙羅の説明にも上の空の二人。  
  二人がどう見ても友達同士が写った物にしか見えないその写真。
  仮に写真の人物達が沙羅の親戚か何かで、彼女を引き取って家族に迎え入れた、
 とするにしても―――― まあ、この面子では納得出来る筈もなく・・・・・・
「――― はっ!?(マヨ、もしかして何か厄介な事に巻き込まれて?)」
「――― お前・・。(おいおい、マヨ!? 何があったか知らないけど水臭いぜ。)」  
  不意に顔を上げ、沙羅を見つめる木戸と白鳥。
「どうしたの?二人とも――――っっ!!? な?なななな 何するでこざるか!?」
  周りの目も気にせず、木戸と白鳥はガシっと、不憫な(?)友人を抱きしめ、
「マヨ・・・私達は友達だからね?(潤目)」
「そうだよ。何もこんな・・・こんな事・・・(涙目)」
  更に激しく勘違いを招いた。ついでに3人に対するクラスの誤解も――――。

 その2に続く〜かな?



     【 あとがき 】
 ついにやってしまいましたのヘルシングねた。
 インテグラ=優春ってのはどんなもんでしょう?(笑)
 沙羅の学校生活を書くに辺り、『倉成家の家族計画』みたいな物を設定
してみました〜。これが私の作品の基本設定になりますね。
 ちなみに木戸ちんと白鳥ちんは沙羅や優秋と同様に、関東愚連会・苦麗無威爆
走連合のメンバーだったと言う設定です。
 こんなのを結成しているあたり、優秋も優春と変わらんな〜と・・・(笑)
 まあ、これに関しては番外編その2辺りで〜。
 感想お待ちしております。



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