あの人は私にいろんなお話をしてくれた。
  泡となって消えてしまう人魚姫。 高い高い塔の上で待っているラプンセル。
  魔女の呪いで眠り続けるいばらのお姫様。
  だから今度は私があの人にお話をしてあげるの。
  海の底の大きなお城に住んでいる妖精のお話を――――


〜空と夢と黒猫と 後編〜
                              かぱちゃぱ


「じゃあ、俺が朝飯作るからさ。その間にシャワー浴びて来いよ」
「え、武さんが? で、でも・・・」
  全裸にシーツを巻き付けたままの空をドアの外に押し出す武。
「いいって、折角の休日なんだから。こういう時はもっと俺に甘えてく
れよな。お・ね・え・さ・ん♪」
「もうっ!!  ・・・ふふっ。じゃあ、お願いしますね。」 

  ここは空のマンション。若い女性の一人暮らしにしては広い部屋だ
 が、大テーマパークLeMUの開発主任代理とすれば小さいのかもしれない。
  それ程の地位と責任を茜ヶ崎空は背負っているのだが、彼女自身は4つ
 年下の武にそれを感じさせない程の可愛らしさがあった。

「お〜い。飯が出来たぞ〜。」
「あ、は〜い。 」
  濡れた長い髪を急いで乾かし身支度を整えてキッチンへ向かう。
  テーブルにはこんがり焼けたトースト、ベーコンエッグと淹れたての
 コーヒーの芳しい匂いが食欲を刺激する。
  こうした何気ない朝の時間を共有する事が空にはとても楽しかった。
「今日はどうしようか?」
  バターを豪快に乗せたトーストに被りつく武。
「そうですね〜。いつもは私の服を選ぶのに付き合ってもらってますから
今日は武さんの服を見繕ってみるのはどうでしょう?」
「・・・・・俺はヒモになる気はないんだけどな〜。」
  苦りきった顔の武をさっきのお返しとばかりに悪戯っぽく笑う空。
「フフっ、こういう時にはもっとお姉さんに甘えて欲しいんですけどね♪」   

  身支度を整えて、マンションから一歩出るとそこは抜けるような青い空。
「ん〜〜〜、 いい天気ですね」
「そうだな。 正にデート日和って奴だ。」
  両手を広げて伸びをする空は白いブラウスにジーンズ生地のパンツといっ
 たラフな格好。これがまたスタイルのいい空にはとても似合う。
  コンパニオンのチャイナドレスも良く似合っていたけど、空の素材の良さ
 を改めて実感する武。

  何をするでもなく、ただ人の波に紛れながら街中を散策する二人。
「あ、武さん。 あそこ寄ってみません?」 
  新しく出来た店を覗いて見たり、ちょっと小腹が空けば路上屋台の焦げる
 ソースのいい匂いに惹かれタツタサンドを買ってみたり。
「うん、焼き具合といい、具の混ぜ具合と言いこれはプロの仕事だな」
  真剣な顔で頬張りながら、吟味する武を可笑しそうに空は見つめている。
「ん? ふぉうふぁしふぁのふぁ(どうかしたのか)」
「フフっ。そういえば、武さんってタツタサンドを作るのが得意だったなって」
「んん〜〜? ふぉうふぁったっへ?(そうだったっけ?)」
「もう〜。何言ってるのか分りませんよ。あ、口にソースが―――」
  ハンカチを取り出して武の口元に残ったソースを拭き取る。その時
「おおっ!アツアツでござるな〜。ご両人♪」
  やたら元気のいい声と共に二人を覗き込む、ちょっと生意気そうな少女。
「え?ええ? さささ・・沙羅さん?――――― 」
「倉成先生と空さんはデートでござるか? うん、仲良き事はよい事ナリ!」
  何気なく武を子ども扱いしてしまう空でも流石にこういう所を見られると
 恥ずかしいらしく、大いに照れてしどろもどろになる。
「おっ、なんだ? 沙羅か。 今日はホクトは一緒じゃないのか?」
  彼女、松永沙羅には姉と双子の兄がいて、特に兄のホクトとは仲がよく、
 大抵は二人でつるんでいるんだが
「う〜ん、お兄ちゃんは朝早く、なっきゅ先輩に連行されてしまったでこざる」
  腕を組んで超元気かつ強引な先輩こと田中優に引っ張り回されているであろ
 う押しの弱い兄を思いやり、うんうんと頷く沙羅。
「そ・・・そうか。」
「まあ・・・ それは・・・」
  沙羅の先輩である所の田中優はLeMUでの短期バイトしていた縁で、武も空も
 人となりを知っていた。よく知っているからこそホクトは気の毒としか言い様
 がなかった。

「沙羅、そろそろ行くわよ」
  突然聞こえた、えらく淡々とした声の主は沙羅の姉の松永つぐみ。顔立ちは
 沙羅に良く似ているけど、より大人っぽく背も頭一つ分、妹よりも高い。
「あ、お姉ちゃん。ほら〜、 倉成先生に挨拶くらいしたら?」
  わき腹を肘で小突く妹に言われ、武を一瞥するつぐみ。ちなみに二人の関係
 は家庭教師と生徒である。
  つぐみは12歳の頃に事故に合い、治療の為つい最近まで入院生活を送ってい
 た。そのため退院したはいいが、極端に人付き合いが苦手になっていた。
  それを心配した沙羅がLeMuのバイトで知り合った武の人となりを買って、大検
 の指導込みで頼み込んだのだ。
  ――― 実の所はつぐみと武をくっ付かせようと企んだとは、ホクトの談である。
「よう、お前が沙羅に付き合って外出なんて珍しいよな」
「べ・・、別にいいでしょ? たまに姉らしい事したって―――」
  相変わらず愛想の無い教え子の意外な一面が見れて、なんとなく嬉しい武。
「〜〜〜〜(赤面)! ほら、行くわよ沙羅。」
「あっ、待ってよ〜。じゃあね〜 お二人さん〜〜〜〜!」
  照れたのか挨拶もなしに足早に立ち去って行くつぐみ。それを追って沙羅も居
 なくなった。
「やれやれ、つぐみも相変わらずだな。嫌われてんのかね、俺?」
「・・・そんなこと、ないと思いますよ?」
  武の腕に自分のを絡めながら、複雑な表情で空はぽつりと言った。

「――― お姉ちゃん」
「――― 何よ?」
  一刻も早くさっきの場所から離れようと早足で行く姉を追いかけながら話し掛
 ける。
「お似合いだったね、倉成先輩と空さん」
「――― だからそれが何よ?!」
  少しつぐみの語気が強くなる。
「もっと早く告白しとけば良かったのにね〜」
  ピタッと、つぐみの足が止まる。そしてゆっくりと沙羅を振り返り
「―――――――(半泣)  武・・・・・。」
  その目は泣きそうに潤んでいた。
「もう〜〜〜(汗)、だから拙者が前から素直になれって言ってたのに―――」
  

  そしてもう夕方。大通りの向こう側に渡る為、交差点で信号待ちをしている時―――
「――――!? あの娘 ?」
  反対側で信号待ちをしている人の中に見覚えのある―――気がする少女を空
 は見た。大きなリボンをした黒い服の少女。そして感じる違和感・・・
「どうした、空?」
「きゃッッ!? あ、あら? 」
  いきなり武に声をかけられてビックリした拍子に少女を見失ってしまった。
「知り合いでも見つけたのか?」
「そうなんですけど・・・誰だったかしら? あの娘――――」
  もう一度交差点に目を向けたが、既に空は少女の顔も思い出せなかった。

  帰り掛け、今日も泊まっていくと言う武の為に夕食は腕を振るおうと、二
 人は食材を買いに商店街へ足を運んだ。
  買い物袋を二人で持ちながら帰路に着く。
  料理を作っていると、暇を持て余した武が手伝いをしつつ摘み食いをする。
  出来上がった料理を武が美味い美味いと残さず平らげてくれる。
  寄り添ってTVを見ながら食後のお茶を楽しむ。  
 ―――――こんな何気ない時間も空にとって 幸せなひととき――――
 
  そして、夜が更けると恋人同士の時間。お互いの温もりを肌で感じながら
 優しく幸せな時を過ごす。
      
      ―――――それはまるで夢のような―――――


「――――― えっ? 」
  目が覚める空。辺りを見渡すとそこはLeMU館内。つい今しがたまで自分が
 居た空間とは別世界のような、美しいけれど淋しい所。
  しかしその腕には、肌には、確かに武の温もりがまだ残っていた。
『夢・・・見れたんだね?』
「あ・・・あなたは。そう、そうだったんですね。 」
  まだ夢見心地の表情で少女に答える空。しかしその顔は何故か―――
『?  楽しくなかったの?』
  その儚げな空の表情を心配する少女。もしかしたら変な夢を見せてしまった
 のではと、泣き出しそうになっていた。
「・・・とても素敵な夢を見せていただきましたよ。本当です」
  子供をあやす様に頭を撫でてあげる空。
『・・・・本当? 嫌な夢じゃなかったの?」
「はい。ただ、夢の中の出来事が幸せ過ぎたのです。大事な人と同じ時を過ごしても
目が覚めてしまうと、それはもう私の記憶の中だけの事になってしまう・・・・」
  それを聞くと突然少女の表情がパッと明るくなる
『大丈夫だよ。私は私の知らない人を夢に出せないから、夢を見せる人の夢にその人
の知っている人を出す時は、その人と知っている人の夢を繋げるの』
「―――!? え? ええ? えええ?」
  空は今、とんでもない事を聞いた気がした。つまりそれは―――
『うん♪ 夢の中に出てきた人は、みんなあなたが見た夢の事を覚えているよ』
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!????」 

   ――――――― その日の朝の倉成家 ――――――
「おはよ〜。 み、みんなどうしたの?」
  朝、一番遅く起きて来たホクトが見たものは、何やら疲れ果てた風の自分の父母、
 そして双子の妹だった。
「・・・おう、おはようホクト。」
「・・・おはよう。朝ごはんは、もうちょっと待ってね」
「ふわぁ〜〜〜。 おはようでござる〜〜〜〜。」
  一体自分が知らない間に何があったんだろうか
『俺と空が恋人・・・ で、つぐみの家庭教師ね・・・ 』
『空と武がくっ付いてるってのは嫌だけど、私が教え子で武が家庭教師・・か(赤面)』
『ママが私のお姉ちゃんで、パパがその家庭教師。そして私は二人をくっつけようと
奮戦する・・・ フフっ♪ 面白い夢だったな〜〜〜♪』
  まだ夢から覚めやらぬ様子の家族。なんとなくそれがとても楽しそうに見えるの
 は気のせいでは無いとホクトは思った。
「じゃあ、今日の朝ごはんは僕が作るよ。」 
  つくづく良く出来た子供である。それがつくづく不憫だな〜と思う3人だった。




『――――― こうして、海の底のお城の妖精は幸せに暮らしました。おしまい♪』
  ここは森に囲まれた大きなお屋敷の中の庭園。大きなリボンを付けた黒い服の
 少女は年上の眼鏡の少年に、まるで幼い子供に御伽噺をお話する様に聞かせていた。
「うん、とても面白かったよ。(まあ、お城の妖精の望んだ事が、キャリアウーマン
になって年下の大学生とラブラブになるって展開はある意味深いよな〜(苦笑))」
『―――――♪(照れ)』
  少年が頭を撫でてあげると少女は猫の様にゴロゴロと甘えて来た。
「あらあら、仲のおよろしい事♪」
  お屋敷の廊下から二人を見つけた割烹着の若い家政婦さんは、微笑ましげにクス
 クス笑いながら自室に戻っていった。  





   【あとがき】
空と武って凄くお似合いだと思うんですけど、こういう【裏技】が無い限りは
恋人関係が成立しないんですよね〜。おっと、黒服の少女や割烹着の家政婦さん
に関しての質問は無しですよ。(笑)
 ちと話を詰め込み過ぎた感がありますが、今後の参考にしたいので、ぜひ感想
をお聞かせくださいね。


2002



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