田中先生シリーズ
同じ空の下で(とある家族の休日)
                              かぱちゃぱ


     【 田中家の場合 】

「よう。お邪魔するよ〜。」
「あら? 涼じゃない。どうしたのよ」
  その日の田中家の来訪者は桑古木涼権だった。
「いや今日は秋香菜の方の優に用事があってね」
  そう言って背負っている大荷物を揺らした。それは
 相当な重さらしくキュレイでなければ担げない物だっ
 た。
「ふ〜ん?」
「あ、桑古木!遅い〜!」  
  訝しげな顔をしている優春の後ろから優秋が文句を
 言いながら玄関にやってきた。
「・・・・お前等、親娘揃ってソレかい?(涙)」
「どういう意味よ?」「どういう意味よ?」
 と、見事にハモる優と優。 
  桑古木には容赦の無い所が共通してる二人の優。
  まあ、優春にしてみれば桑古木は手のかかる弟みた
 いなもので、優秋にとっては気安いお兄さんと言った
 所なんだろうか・・・・


「・・・・なんだこりゃ?」
  優秋に案内されて部屋に入ると記録済みビデオディ
 スクが山済みされていた。
「私の赤ん坊の頃からの・・・・と思っていたビデオよ」
「―――? と、思っていた? どういう意味だ?」
  ふ〜、と溜息を一つつき机の前に腰を降ろす優秋。
「例えばコレ。」
  そう言って一枚のビデオディスクを机の上の再生機器
 に入れる。再生された画面には赤ん坊の優が男性に抱か
 れて眠っていた。
「へ〜、可愛いじゃないかよ。お前にもこんな時期があっ
たんだな。」
「・・・・あんたね〜!?(怒) まあ、それはともかく、
このビデオに写ってるのは私じゃないのよ。」
  相変わらす一言多い桑古木に怒りを覚えつつ、本題に
 入る優秋。
「て、言う事は・・・・これ春香菜の方の優か?」
「そう。私も最近まで自分と思ってたんだけど、これに映
ってるのは私じゃなくてお母さんだったの。」
「じゃあ、この優を抱きかかえてるのは?」
  桑古木の質問に難しい顔をする優秋。
「この人は最近まで私のお父さんだと思ってた、私のお爺
さんなの」
「・・・・・・複雑だな〜。(汗)」
「・・・・・・そうなのよ〜。(涙)」
  優春は『例の計画』実行の為、自分の父親を優秋の父
 親だと思い込ませ育ててきたのだ。
  その為、優春は自分の子供の頃のフィルムと優秋の子
 供の頃のフィルムを巧みに織り交ぜて娘に見せて来たの
 だった。  

「と、言う事でこの訳わかんない記録フィルムから私の分
とお母さんの分を分けてみようと思ったのよ。でも、容量
が多いから私の持っているパソコンの編集機材じゃあ時間
がかかり過ぎるんで――――」
「研究室にある最新式の編集機材を俺に頼んだって事だな」
  担いでいた機材の入ったバッグを床に降ろし、中を取
 り出す。
「てな訳で、組み立てとセットアップよろしく。」
「はいはい。わっかりましたよ〜。」
  
  それから20分後。
「出来たぞ〜。お前のパソコンのモニターに繋げといたか
らな。操作はこの無線パネルでやってくれ」
「あ、ご苦労さん〜。コーヒーそこに煎れといたから勝手
にやっちゃってね」
  そう言いながらお互いの席を入れ替える二人。
  

  モニターの置かれたテーブルに向かい熱心に編集操作
 をする優秋。桑古木はその悪戦苦闘のさまをコーヒーを
 すすりながら眺めていた。
「う〜ん・・・・これは私ね? よし次!」
  ガチャっとディスクを取り出し、また次のディスクを
 入れる。
「・・・・これは・・・微妙ね? じゃあ保留と。」
  パネルを操作し、機材内の大容量記録ディスクに次々
 に溜めて行く。それは既に結構な容量で、流石にこれは
 家庭用のモノでは裁き切れない量だった。
「しかし、お母さんもここまで念を入れて自分の娘の過去
を捏造する?(怒)」
「いや・・・やるよ、お前の母親なら。それはもう嬉々と
してな(苦笑)」
  お互いに泣き笑いの表情で顔を見合わせる二人。

  更に作業を進める優秋。そんな様子にフ、と先日見た
 古典ホラー映画を思い出す桑古木。
「なあ、呪いのビデオって知ってるか?」
「はあ? な、何よイキナリ。」
  桑古木の言葉に微かにビクッと怯えるように反応した
 優秋。
「いや、俺って怖い系の映画とかが好きでさ。よく新旧ひ
っくるめて暇な時見るんだけど、この前見た何とかって映
画の中で、見ると数日で死ぬって言うビデオを主人公が見
ているシーンがちょうど今のお前みたいで――――」
「ちょ・・ちょっと止めてってば! 私、その手のホラー
系怖い話だけは苦手なのよ〜〜〜。(涙)」
  耳を塞ぎ本気で怖がっている優秋。桑古木は、その意
 外な反応を面白そうに見詰めていた。
「へ〜? 親娘そろってオカルト好きだと思ってたら、そ
りゃ意外だな。お前の母さんの優には俺の怖い話は好評な
んだぜ。(ニヤリ)」
「ホラーとオカルトは違うわよ! むか〜し、子供の頃だ
ったけどよく遊んでくれた知り合いのお兄さん・・・だと
思うんだけど、その人が良く怖い話を私にしてね―――」
「・・・それが嵩じて趣味とトラウマになったと?」
「そ・・そうよ。悪い?」
  威嚇するように桑古木を睨みつける優秋。
「難儀な奴〜。やれやれ、わかった。止めるよ。しかし優
をここまで恐れさせる事に成功したツワモノが居たとは。」
  と、他人事ながら感心している桑古木。しかし彼は重
 大な事を忘れていたのにまだ気付いていなかった。
「忙しいお母さんに代わって遊んでくれたのはいいけど、
絵本のお話代わりにするのはどうかと思うわよ。(怒)」
  何処の誰とも知らない人物に文句を言いつつ、編集作
 業を再開する優秋。

  また、新しいビデオディスクを挿入し、モニターに別
 の場面が映し出される。
『ほらほら〜、優ったら。そんなに走り回ったら危ないで
しょ?』
『キャッ キャッ♪ おか〜さ〜ん♪ 』
  画面には、はしゃぐ幼い優秋と共に今と変わらない姿
 の優春が映っていた。どうやら場所は近所の公園か何か
 のようだった。
「これはお前さんのようだな。」
「―――うん、そうね。・・・・懐かしいな。」
  微かに覚えている気がする場面。モニターの中の優秋
 は思う存分優春に甘えて幸せそうだった。
『おにいちゃ〜ん! 滑り台に行こうよ〜。』
『ん?よ〜し、いいぜ。優、カメラ頼むぜ。』
  優親娘を撮影していた人物が優春とカメラ役を交代す
 る。しかもその声は何処かで聞いたような・・・
「――――!? この声って?」
「――――あ!(ヤバイ!?)」
  そして次の瞬間、それは確信に変わった。
『おにいちゃん〜〜! 早く滑り台〜〜〜♪』
『しょうがないな〜。またお兄ちゃんと滑り台か?』
  画面では今と変わらない姿の桑古木が幼い優秋を抱き
 抱えているシーンが映っていた。
「あ・・・あの時のおにいちゃんって・・・桑古木?」
「・・・・・・・・(汗)」
  無言で立ち上がる桑古木。
「ああああ〜〜〜〜!!!? じゃあ私に怖い話をしてト
ラウ植え付けたのって!!!!?」
「し・・・知らん!俺は知らんぞ!!」
  慌てて逃げ出す桑古木を後ろから捕まえる優秋。
「ちょっと待ちなさいよ!!! ・・・・アンタか? ア
ンタの所為か〜〜〜?!!」
  バタバタと二人が部屋の中で暴れ、積み上げたディス
 クの山が音を立てて崩れ落ちていった。

「・・・・・何やってんの?あの二人?」
  聞こえて来る、飛び交う物の音や桑古木の悲鳴と優秋
 の怒号を気にするでもなく平和にお茶を飲む優春だった。






   【 倉成家の場合 】
 
「ただいま・・・・(ゲンナリ)。」
「松永沙羅!ただいま帰りました〜♪(ニンマリ)」
  居間にいる両親に帰宅の挨拶をするホクトと沙羅。
  疲れ果てた感じの兄に対して、満面の笑みを浮かべて
 いる妹が印象的だった。
「おう、おかえり。」
「おかえりなさい。 デートはどうだった?」
  仲の良い二人は朝からデートと称して、恋人気分(沙
 羅が)で出かけていたのだった。
「楽しかったでござるよ〜。ねぇ、お兄ちゃん♪」
「そ・・そうなのか?ホクト」
「うん・・・殴られて、剣で切られて、爆発に吹き飛ばさ
れたけど、反撃に僕も相手を切りつけて――――」
  武の問いに、空ろながらも物騒な事を答えるホクト。
「ちょっと貴方達・・・何があったの?」
「ああ! ママ〜、心配しないでってば。ゲームよ最新式
のヴァーチャル体感ゲーム!」
  心配する母親をなだめるように説明する沙羅。
「ゲーム? もしかして駅前のライプリヒ出資のアミュー
ズメントに出来た新しい何とかワールドって奴か?前から
沙羅が楽しみにしてた、あの?」
「うん♪ 田中先生からレアのキャラカードもらったから
一度行ってみたかったんだけど、面白かったんだよ〜。す
っごくリアルで、お兄ちゃんなんて、敵の攻撃を受ける度
に本当に痛そうなんだもん。」
  頬を紅潮させて興奮気味に武に説明する沙羅。
  優春がらみと言う事は、そのゲームは第401研究室と
 関わりがあるのは明白だった。
「ねえ、ホクト・・・ 大丈夫なの?(汗)」
  つぐみが心配顔で、生気の無いホクトを気遣う。
  恐らく、ホクトの事だから避けられるダメージでも沙
 羅を庇って全部受けたんだな〜と、察する武とつぐみ。
「お兄ちゃんカッコよかったんだから。あ、そうだ!今度
はパパとも行きたいな〜〜〜♪」
「そ・・・そうだね。そうしてくれると・・助かるな。」
  ゲーム世界での父親とのデートを期待する沙羅と、す
 がる様な目で武に助けを求めるホクト。
「武・・・・・・(涙目)」
  武を案じるつぐみが寄り添うように夫の肩に手を置く。
「大丈夫だ、つぐみ。俺は死なない。(汗)」
  嫌なゲームにハマったな〜と、沙羅以外の家族はそう
 思った。





    【 茜ヶ崎家(?)の場合 】

  何の事は無い、普通のリビングのソファーに白いター
 トルネックを着た茜ヶ崎空と、彼女に良く似た面差しの
 見た目12歳くらい、空のご要望でフリルの目一杯付いた
 ドレス風洋服を着せられた少女が腰を降ろし、お茶を飲
 みながら甘い新婚夫婦が題材の昼メロドラマを見ていた。
  ちなみに熱心に見ているのは空だけで、少女の方は只、
 付き合っているだけのようだった。

  場面が、若奥さんが旦那の帰りに合わせて夕食を作る
 映像になる。
「う〜ん。倉成さんってどんな手料理が好きなのかな?」
「・・・タツタサンドだけは止めた方がいいわよ」
  と、空の呟きにボソッと答える少女。
  今度は画面に可愛らしい服を着た女の子が映る。
「あ、この服、素敵。 倉成さん、私が着たら気に入って
くれるかしら?」
「・・・ベビードールの寝巻きは好みじゃないと思うけど。」
  また、律儀に答える少女。
  ドラマもクライマックス。口げんかで拗ねた若奥さんを
 旦那が四苦八苦しながらなんとか機嫌をとるシーン。
「知ってる?倉成さんって困った時の顔がすご〜く可愛いの」
「・・・そうね。(そうなんだろうけど私に振らないでよ)。」
  答えてから、ふ〜っ、と溜息を付く少女。
「―――? どうしたの、エアリス?」
「・・・ママ。私、確かに『茜ヶ崎空』の補助演算並列処
理システムなんだけど・・・・・好きな男性の好みとか、
お惚気の他に受け渡す情報って何か無いの?(潤んだ目)」
「え・・えええ・・・・え?」
「世界にも類を見ない奇跡の電脳システムが二人揃ってお茶
飲んでTV見てるなんて・・・・・(涙)」
「そ・・・そうね。え〜と・・・その・・・あ! 今一番美
味しいブルーベリータルトの店は何処かな?(困り顔)」
「・・・駅前のアーネンエルベ。」
  娘に言われて、慌てて考えるが、コレと言ってそんな事
 しか思い浮かばない。そしてそれにも律儀に答える少女。
  とは言え、『感情』のデータの受け渡しなど、まあ、そ
 れはそれでスゴイ画期的な事なのだが少女は納得出来ない
 らしい。
  ちなみにエアリスは古典SFドラマの「ナイトライダー」
 「謎の円盤UFO」「スタートレック」が大のお気に入りだ
 った。
  ちょっと泣きそうな表情の娘を、困った顔で見つめる
 母親がそこには居た。




   【 あとがき 】
 どこでどう記憶間違いしたんだか・・・優ってオカルト好き
だったんですよね。(汗)
 慌てて書き直した、最近疲れてる私です、ハイ。(おいおい)
 思いつきの小ネタショートに、ついネタ振りをしてしまいました。

 ・・・・ベビードールの寝巻きの空さんか。いいかも。(オイ)



え〜とですね。空を限りなく実体に近い立体映像にする実験の話が
『ちっちゃな空』なんです。この時点ではシステムを制御できるの
は『茜ヶ崎空』しか居らず、その空でさえも完全にデータを処理出
来なかった為、知性と身体が幼児にしか維持出来なかった。
 
 それなら空と同じスペックの演算処理が出来る人工知能があれば
いいと考えたけど、空は正に『奇跡』としか言いようの無い只ひと
りの存在で、空のシステム本体は複製が出来ない。
 
 じゃあ、空の同一のプログラムシステムを一から育てればいいん
じゃないか、という武の一言が元になって『空の子供』と言えるプ
ログラムを生み出す計画が持ち上がる。
 空と同一の知性、感受性を持ち、違うパーソナリティーの演算補
助並列処理プログラムシステム、通称『サイエンスの幽霊』が生ま
れる。
 
 名前は空が好きな絵本と優にちなんで『空・・・亜利栖」と長たら
しい名前を考えたが、『本人』が却下。それなら
   『エア・アリス(Air-alice)』
 はどうだと武が提案したが、
 今度は『超音速攻撃ヘリ』みたいだからイヤです、と空に嫌がられ
 た為、『エアリス』で落ち着く事に。

 この擬似生体ホログラムシステムを作ったのは第401研究室の
岡崎信彦、神谷誠一、神崎士郎の3人。



  【BGM】家族計画OP 「同じ空の下で」KOTOKO


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