田中先生シリーズ
 ぷりずなー No.6 

                              かぱちゃぱ


  田中家から一番近い駅前広場。
  人通りの多い中、一際目立つ女性が二人、立ち話
 をしていた。
  もちろん美人だからなのはいうまでもないが、そ
 の綺麗な顔がふたつ並んでいれば、2倍目立つのも当
 然の事。
「じゃあ、今日は家に帰らないのね?」
「そっ♪ とりあえず、可愛い娘からのプレゼントは
期待してるからね。」
「はいはい。どうせお母さんの事だからまた何か企ん
でるんでしょ?」
  浮かれ気味の母親に嫌な予感を感じる優秋。
「フフフッ♪ さあ、どうかしらね〜。」
「――――(汗)。ま、がんばってね、お母さん。」
  事情はどうあれ、母親の幸せを願い応援するのが
 娘の務めと声援を送る優秋だった。
  そして次の日には早くも後悔する事に・・・・

「あれ? 優じゃない。お〜い! 優〜〜〜!」
  ちょうど二人の前を通りすがった、優秋の友人であ
 る少女が声をかけてくる。
  洒落っ気のあるカジュアルを着込んだ、優秋と同じ
 ショートカットの可愛い子だ。
「ん? あ、美千代じゃない。今から講義?」
「そうなんだけど〜〜〜。ねえ、この人、優にそっく
りだけど、お姉さん?」
  優秋の友人の『お姉さん』に敏感に反応する優春。
「こんにちは。優の母の優美清春香菜です。」
「え・・・・・!? 優の・・お母さん・・ですか?」
  やはりと言うか、殆ど双子のような田中親娘を交
 互に見比べ、目を白黒する美千代。
「フフッ。 じゃあ、私は行くからね。それじゃあ、
美千代ちゃん。」
  踵を返し、しなやかな足取りで街の雑踏へと消え
 ていく優春を見送る二人。
「あの人・・・・本当に優のお母さんなの?」
「そ。間違う事無く、この優美清秋香菜の母親よ。」
  目の前の優秋と比べると、髪もセミロングと長く、
 ノースリーブのタイトスカートを着こなして大人っ
 ぽくはあったが、寸分違わぬ同じ顔。しかも――
「 若すぎない?」
  普段は外出時には眼鏡をかけているので、親娘で
 並んでもさほど気にされないのだが、今日はつけて
 いなかったのだ。
「まあね。でも、お母さんってまだ35・・あ、今日
で36だから若いと言えば若いわよ。」
  オマケに最近は気も若い、とまでは言わない優秋。
「でも・・あれはちょっと。髪切っちゃえば優と区別
つかないんじゃないの?」
「そうね〜。ま、ライプリヒ製薬の関係者って言えば
納得してくれるかしら?」
「え? でも、優のお母さんって、海洋テーマパーク
『LeMU』の企画部にいるって言ってなかったっけ?」
「元々はそっちに居たんだけど、親会社のライプリヒ
が引き抜いて、LeMUの企画7課と本社勤務を兼任する
事になったとか何とか・・・・」
 
  表向きはそうなっていたのだが、実は母親がライ
 プリヒ製薬の非公式研究機関に所属していて、あま
 つさえ、社が保存している根絶した筈のティーフ・
 ブラウを奪い、更にライプリヒが今までやって来た
 人体実験他の違法実験の証拠を楯にライプリヒ全社
 を乗っ取っていたのは最近まで優秋も知らなかった
 りする。

「なるほど〜。あのライプリヒ製薬だったら老化を抑
制する薬を作ってても不思議じゃないよね〜。」
  不思議も何も、研究していたのは事実なのだが。
  とりあえずは納得してくれたらしい。
「さ〜てとっ! 講義に行きますか。」
「――――― あ、そうだった!」
  すっかり優春のファンになってしまった友人を促
 し優秋は大学行きのバスに向かった。




『まずい!桑古木がターゲットに捕まったぞ。計画は
失敗か?』
『いや、目的は果たした。我々はこのまま撤収する。』
『おい!? どう言う事だ?じゃあ桑古木は?』
『奴がターゲットの手に落ちた時点で計画は成功という
のが先生の計画だったんだ。・・・・分るな?』
『・・・・・じゃあ、あいつが捕まるのも計画の内だっ
たのかよ? でも、あいつはそれでいいのか?(汗)』
『いつもの事だ。今度、酒でも奢ってやろう。』
『では、桑古木涼権の未帰還を持って、この作戦は成功
という事で―――― さようなら、桑古木。』
『さようなら・・・桑古木。明日、会社で会おう。』
『帰って来いよ。桑古木、さよなら。』
『桑古木さん。さようなら〜。』
  そんな事を口走る、かなりの数の人間が駅の構内に
 散っていった。




  優秋が優春と分かれた時間から少し後の某駅構内。
  今日に限ってやけにひと気の少ないこの空間、 そ
 こでは髪の長い少女と若い学生風の男がふたり、言い
 争いをしているのが見えた。
  ・・・いや、一方的に男の方が締め上げられている
 と言った方が正解だろう。
「さて・・・どう言う事か聞かせてもらえないかしら、
桑古木涼権?」
「あ〜〜〜、奇遇だな。まさか同じ電車に乗ってたなん
てよ。」
  静かに睨み付けるつぐみに、もはやヤケクソとばか
 りのワザとらしい言い訳をする桑古木。
「・・・・武はどこなの? 今回の件もどうせ優がから
んでるんでしょ?」
「なんだ、武も乗ってたのか? なるほど、さっきの車
両は混んでたからな〜。はぐれちまったのかな?」
  静かににじり寄るつぐみ。桑古木の額に嫌な汗が滲
 んでくる。
「そう言えば、クリスマスの時も似たような真似をして
くれたわね?」
「そ・・・・そうだったか?」
  更に追求を逃れようとする桑古木の顔を掴み自分の
 方に強引に向けさせる。 
「要するに私は、誕生日を3人で祝おうと言う優の言葉
に騙されて、指定の電車に乗った私たちの後をつけた貴
方は仲間と共に人波を使い、私と武を離れさせ、予め調
べた武と同じ服を着た貴方に私の注意を引かせ、その間
に武ひとりを優の元に連れて行った・・・と言う訳ね?」
  よくもまあ、こんな手の込んだ事をと呆れつつも感
 心してしまいそうなつぐみ。
「ま・・まあ今回はさ。武が帰って来てからの優の初め
ての誕生日なんだし、目をつぶってくれよ。」
「う、それは・・・・・・・・・・。」
  そう言われると弱いつぐみ。少し気勢がそがれた所
 で桑古木は更に説得を続けるが―――――
「武だって今頃は拉致された事も忘れて天国気分で――
― あっ!?」
  また余計な事を言った桑古木。気付いた時にはつぐ
 みは『あの時』と同じように慈愛の笑顔を怯える桑古
木に向け、
「死になさい(ニッコリ)」
  白く細い指をゴキリと鳴らした後、桑古木の顔を鷲
 づかみにする。

   メキメキメキメキ――――――――

「あああああああああああああああああ???!!」

   ゴキンッッ!!

  嫌な音を立てて意識を失った桑古木は、そのままつ
 ぐみの腕一本でささえたれたまま手足を力なくブラン
 っとさせる。
「・・・・・10分もあれば復活するわね。」
  自分を上回る圧倒的な膂力と握力でアイアンクロー
 を決められた桑古木はそのままの状態で近くのベンチ
 まで持っていかれ、
  ドサッ、と椅子の上に降ろされ座ったまま前のめり
 に倒れる。
「優・・・またやってくれたわねーーーー」




「・・・・う〜ん? ここは・・どこだ?」
  強烈な眠気から意識を回復させようとする武。
  見覚えの無い部屋の景色に、ソファーから身体を
 起こそうとすると、良く知った顔の女性と目を合わ
 せる。
「おはよう、倉成。 気分はどう?」
  はにかんだ笑顔で聞いてくる優春。どうやら彼女
 に膝枕をしてもらっていたらしい武。
「・・・・優か。 で、ここはどこ?」
  なんとなく、何があったかを理解し、改めて武は
 問い掛ける。
「もう、倉成ったら。私の誕生日をお祝いしてくれる
って約束したでしょう。(は〜と)」
  何やら海辺の景色が見晴らしのいい窓辺。部屋の
 内装も落ち着いて大人っぽく飾られテーブルにはワイ
 ンが既に用意されていた。
  そして優春本人も薄化粧にノースリーブのミニのタ
 イトスカートを着込み、元々10人中10人振り返る
 であろう美貌がいつもの5割増は綺麗になっていた。
「だ〜か〜ら〜。一体ここはどこなんじゃい!大体今日
は俺とつぐみ二人を招待したんじゃなかったのかよ!!」
  まあ、知らない間に拉致されてきた武にとって問題
 はその事ではないのだが、それは優春も同じ事だった。
「フフフッ。今は二人ッきりなのよね〜♪」
  至福の笑顔を自分に向ける上機嫌の優春を見て、
『また捕まったか・・・・・(汗)』
  と、頭を抱える武。
  ―――――― 実際に拉致だったりするのだが。






  次の日、開放され疲れ果てた様子で、何事もなかっ
 たように帰宅した武には一瞥もせず、つぐみは何も持
 たずに家を出た。


「・・・・じゃあ、家を飛び出してきたの?」
「・・・・そうよ。」
  夜半過ぎの田中家に突然、つぐみが訪れた。
「倉成とはちゃんと話し合ったの?」
  涼しい顔の優にそう聞かれるとつぐみは首を横に振
 った。
「ねえ、つぐみ。何があったかは知らないけど、もう少
し素直になってもいいんじゃないかな?」
「優・・・・」
  静かに俯いた顔を少し上げるつぐみ。上目ずかいに
 優を見るその目は笑っていなかった。
「な、何?」
「その原因が『貴女』だっていう事を理解しててそんな
事を私に言うの?」

 『・・・・・・・・・・・・・・・』 

  見つめ合い、しばし無言になる二人の美女。

「だ・・だって私も、ほら〜。ね、わかるでしょ?」
  ワザとらしく、いや可愛らしく媚びを売る優。
  優ほどの美人がコレをやったなら、世の男性なら大
 抵の事は誤魔化されてしまうのだろうが、目の前の相
 手にそんな手が通じる訳も無く。 
「・・・・・貴女は自分の欲望に対して素直すぎるんじ
ゃないかしら?(怒)」
「(ピキッ!)・・・・・言ってくれたわね?(怒)」
  確かに求める物には恐ろしいほどに前向きで、何が
 あろうと諦めない振り向かないと言うスタイルこそが
 優の優たる所以なのだろうが・・
  ただ、やる事が極端にもほどがある事も確か。
  しかしそれがあるからこそ、優美清秋香菜はこの世
 に生を受け、武やココも再び地上の土を踏める訳なの
 だが。



「あっちゃ〜〜? 一触即発じゃないの〜〜。(汗)」
  無言で睨みあう二人をこっそりと覗き見る少女がひ
 とり。優春の娘である所の優秋がその手の電話の小機
 をいじっていた。

  ピピピッ ピピピッ ピピッッ!

『―――――ハイ! もしもし〜、ママ?』
  電話口に出たのはつぐみの娘である沙羅だった。
「あ、もしもし〜、マヨ? 私、優だけど。」
『なっきゅ先輩? どうしたんですか。今ちょっと我が
家は大変な事になって解決したかと思いきや、今度はマ
マがどっかに行っちゃって、すったもんだ――― 』
  こっちはこっちで大変な剣幕だけど、向こうも向こ
 うで大変そうな雰囲気が沙羅の口調で感じられた。
「あ〜〜〜〜あのね、沙羅。つぐみ、今、家にいるから
安心して―――っては・・言えないけど。(汗)」
『ええっ!? ママ、先輩の家にいるんでござるか?
じゃあ、昨日、パパがママとなっきゅ先生の所に行く途
中に突然いなくなったのって・・・・・・もしかして、
なっきゅ先生の――――?』
「・・・・・みたいね。」
 
  素直に驚く後輩に対し、やるせないような、申し訳
 なさそうな顔の優秋。
  多分、今度という今度は実の母親のご乱行に呆れて
 いるのだろう。
  しかし、けしかけたのは誰あろう娘の自分だったり
 するから始末が悪かったりする。
『・・・・・ なっきゅ先生って、すごい事するんです
ね〜。どうやって『あの』ママの目を掻い潜って電車の
車両内でパパと桑古木をすり替えたんですか?』
「さあ・・・・どうやったのかしらね?」

  確かに、武と桑古木は背格好は似ているから、人が
 多い車両内では、その人の気配が薄くなってしまうの
 は仕方ない。
  それこそ、車両内の人間は『全員』で『計画的』に
 つぐみの目を人垣でそらしつつ、『連携』して二人を
 入れ替えない限り、出来ない筈。

  つまる所、優春は『それ』をやったのだった。

「とりあえず、私、今からマヨの家に行くから今日は泊
めてね。」
『え!? じゃあママと先生はどうするんですか〜〜?」
「大丈夫。手は打っておくから、後は本人達次第よ。」
『そ、そうですか? じゃあ待ってますね、先輩』
「ん、じゃあね〜。なんか差し入れ持ってくわ」
  そう言って、ピッ!と切ると次はまた別の何所かに
 電話をかける優秋。

 ピピピッ ピピピッ ピピッッ!

『はい? ――――誰だ?』
「私よ、涼。」
  先程とはうって変わって落ち着いた声の優秋。
『あ!? 優か〜〜。 どうだった?お前はお楽しみで
よかったよな〜。俺なんて今度はつぐみに顔を握り潰さ
れたんだぜ〜。』
  まさか電話の向こうの相手が優春の口真似をしてい
 る優秋だとは気付かない桑古木。
「そ・・・そう。ご苦労様(汗)」
  相変わらず負のベクトルを歩いているらしい桑古木
 になんとなく同情する優秋。
  本人は慣れているのか諦めてるのか、あまり気にし
 てはいないのが尚、憐れ。
『あ〜あ、俺も武とイチャイチャしたいぜ〜。』
「・・今日のアンタ、絶対におかしいわよ?(大汗)」
  明らかに言動が変だ。引き気味になる優秋。
『そうか?いや・・・ひょっとしたらまだ完全にダメー
ジが回復してないのかもな・・・なんかが頭の奥にある
ようで落ち着かないんだよ。』
「(うわ〜〜〜〜〜〜?)」
  壊れてしまった桑古木の内部をちょっと想像してし
 てしまった優秋。とりあえず気をとりなおし、
「しょうがないわね〜。ちょっと家に来なさいよ。診て
あげるついでに安定剤用意しとくから」
『あ、悪いね〜。んじゃ今からいくわ。』

  ピッ!と電話を切る優秋。
「さて、これで生贄は準備できたと。」



「なんで貴女はいつもそう手の込んだ謀を―――――」
「アンタだって18年前、力押しで倉成を――――」
  今にも席を立ってつかみ合いになりそうな気配のふ
 たり。
『うわ〜〜!?何時かこうなるだろうとは思ってた
けど・・・・やはりここは私が何とかしなきゃ。』
  細胞レベルで最強生物に作り変えられたこの見目麗
 しい女性達が暴れたら確実にリビングは原型を留めな
 いほどに破壊されるだろう。
「なんですって?・・・・・・(怒)」
「言ったわね!・・・・・(怒)」
「はいはい〜、ちょっとお一つどうぞ〜〜〜。」
  そんな臨戦態勢の二人の間に優秋が手に相当に強い
 ブランデーとグラスを乗せたお盆を持って割ってはいる。

  カチャカチャと手際よく氷をグラスに入れ。トクトク
 といい音を立てて琥珀色の液体を注ぐ。
  そしてお互いの顔を睨みつけたまま、視線を逸らそう
 としない二人の手にグラスを持たせる。
「ん・・・ゴクッ ゴクッ 」
「ゴクゴクッ・・ゴク。」
「はい、もう一杯、もう一杯♪」
  そうやって空になった二人のグラスに何度も何度も琥
 珀色の液体を満たしていく優秋。

  しばらくすると、無意識のままのみ比べの様相を呈し
 て来たようで、次々に強い酒を煽るつぐみと優春。
  いつの間にか、優秋の酌ではなく、お互いのグラスに
 並々と注ぎ始める。
『しめしめ・・・・』
  飲み続けるふたりのテーブルにありったけの酒瓶を置
 き、そっと席を立つ優秋。 
  そして用意しておいた着替えなどを入れて置いたバッ
 グを担ぐと一目散に自宅の門をくぐり倉成家へ避難して
 行った。


  それから暫くして、優秋と入れ違いに桑古木が田中家
 の門をくぐった。
  ピンポ〜ン♪ ・・・・・呼び鈴を鳴らしたが返事が
 無い。
「なんだ? いないのか? 」
  訝しげにドアノブを捻ると鍵は開いていた。
「空いてんじゃん。 お邪魔するよ〜。」
  ガチャッとドアを空け、中に入る桑古木。
  その、まま人気のあるリビングに足を運んでいく。
「ん? あそこか。呼んだんだからで迎えてくれてもいい
のにさ・・・・まったくよ」
  カチャッっと音を立てリビングのドアを開くと、その
 音に反応して、目の据わったつぐみと優春が首だけを向
 けて桑古木を見る。
「―――――へ?! や、やあ お二人さん。あんな事が
あったのにもう二人で仲良く酒盛りとはね〜。まあ、二人
は武を介して何とか姉妹―――――だしね。ハハハハッ♪」
  やはり、つぐみに受けたダメージの所為か妙にハイテ
 ンションな調子でいつも以上に墓穴を掘り捲くる桑古木。
  
   ガタンッ!!! 
  と、美女二人は席を立ち、異様な迫力を纏いつつ目の前
 の生贄に迫っていった。
「な・・・な・・なんだ?おい!ちょっとまて!!??」

  バキッ! ゴスッ! ゴスッ! ボキッ!!×8

  嫌な擬音と声にならない悲鳴が部屋に響いていった。



  次の日の朝。痛飲した所為か、目が覚めても恐ろしく
 白濁した意識の中を彷徨うつぐみ。
「・・・・・・ん 」
  ベッドの中の自分がパンティとブラの下着のみを着て
 いる事に気がつく。
「昨夜は・・・・シャワーも浴びないまま寝ちゃったのね」
  頭を抑え、いまだハッキリしない意識の中、ボウッと
 していると
「う〜〜〜ん。倉成ぃ・・・・・」
  と、となりから自分の夫の名前を甘い声で呼ぶ優春が
 同じくランジェリー姿で寝ていた。
  その色っぽい艶姿にギョッとするつぐみ。
「ま・・・まさか夕べは酔った勢いで優と・・・!?」
  こういう場面には全然なれていないつぐみは、完全に
 パニックに陥ってしまっていた。
「ちょっと! 優!! 起きて!! ユウッ!!!」
  クールなつぐみらしからぬ慌て振りで、優を揺すり起
 こす。
「んー――――? 何ようるさいわね〜〜。折角いい夢を
見て・・・・・ え? つぐみ?」
  やはりと言うか、流石の優春パニクっていた。なにし
 ろ自分は下着姿で、同じく下着姿のつぐみと同じベッド
 で寝ている。
  しかも前夜の記憶が一切無い!
「えっと・・・ んっと・・・あ、大丈夫ね。 」
  優は飛び起きると、自分の身体をあちこち調べ、
「安心してつぐみ。夕べは何もなかったわ。(安堵顔)」
「・・・・・当たり前でしょう!(赤面)」
  いまだほろ酔い気分でテンションハイな優春に対し、
 呆れ顔で返す悪酔い状態継続中のつぐみ。
「でも、もしつぐみと酒の所為とは言え、こうなってしま
ったならいっそ、倉成も交えて3人で―――― 」
「私は絶対にそんなのは嫌よ!!! この酔っ払い!」
  夕べの酒が抜け切らない状態で下らない会話をしてい
 ても、一向に気分は良くなる筈も無く―――。
「とりあえず、コーヒーでも煎れるから。」
「――――― そうね。いただくわ。」
  身支度を整え、足取りも重くキッチンへ向かう二人。
  しかし前日のわだかまりは酒気と共に抜けていってい
 るようだ。もともと相性がいい二人なのだから、仲直り
 も早いのだろう。
  もっとも男の好みも同じだから問題も起きるのだが。

「ま、夕べの事と例の事は酒に流したと言う事で、忘れよ
うよ、ね?」
「ふ〜〜〜。もういいわよ。でもね、やり方ってのがある
でしょう?」
  そんな事をいいながらキッチンのドアを開ける。
  そして二人が見たものは―――――

「―――― !? 桑古木?」
「涼――――!?  一体何が!?」
  そこには食事用の長テーブルに身体をくくりつけられ
 身動きが出来ず、まるで羊達の沈黙のレクター教授の様
 に磔の如く壁に立てられた桑古木が佇んでいたのだった。

  どうにも嫌な空気が3人の間に流れる。

「・・・・・・・・・(唖然)」
「・・・・・・・・・(呆然)」
  お互いの顔を見やる二人。しかし夕べ何があったのか
 全然思い出せない。
  しかし、事実は目の前にあった。
「この先に、美味しいコーヒーを出す喫茶店があるんだけ
ど。・・・・行く?」
「・・・・ええ、いい考えだわ。」
  思考回路の低下、記憶の欠如、そして現実逃避。それ
 らの導き出した答えは・・・・ 放置。

  キィイイイイイイ―――― バタンッ!

  玄関の閉まる音を桑古木が聞いていたかどうかは誰も
 知らない。

   真実はそこにあるのに・・・・・・・・

[ EDテーマ 『怪奇大作戦 主題歌』 恐怖の町 ]



     【 あとがき 】
 何故か調子が戻らないので、リハビリ代わりに書いて
みました〜。
 田中先生シリーズの原点はと言うと――――
『ちょっとH』 『暗躍する優春』 『暴走するつぐみ』
      そして『不幸な桑古木』
 ですね。(オイオイ!?)
 いわゆる不条理物海外TVドラマ風の落ちをつけようと
思ったのですが、単に桑古木が不条理な目にあっただけ
のような?
 なんか考えていたのとはちょっと違うかな〜?(汗)
 ちなみに今回の元ネタは先日、ケーブルTVで見た、
「プリズナーNO.6」と「怪奇大作戦」です。
 分った人はまずいないと。(笑)
   感想をお待ちしております〜。


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