ムーの一族
                              かぱちゃぱ


  その時、中央制御室のモニターに女性の姿が映る。
「おかあ・・・さん?」
  優はその女性を見た時、確かにそう言った。
  ノイズ交じりの映像だったが、その女性には確かに優の面
 影が感じられる。
「違うんでしょ?貴方は・・・・本当は私のお母さんじゃないんで
しょ?」

(・・・・・・似てると思うけどな?)

  しかし、客観的な少年の感想などしる由も無く、優の言葉は
 手厳しかった。
『ええ・・・ そう。 私は・・・あなたの母親じゃないの。』
  その画像に移った女性は優と同じ声でそう言った。

(―――― え〜〜?)

  極限状態で繰り広げられる、切羽詰った親子劇場。
  よく似た同じ声、同じ顔の親娘で繰り広げられる余りにも見
 事な掛け合い・・・いや、会話に声をかける間が少年には見つ
 けられない。

  そして二人の会話は更に熱気を増す。
「ひどい・・・・ どうして今まで黙ってたの!」
『今はまだ・・・・・それは言えないの。』
  責める娘の激しい声に、ただ穏やかな声で済まなそうに答
 える女性。
「どうしてよ。今までさんざん騙してきたくせに!この期に及んで
まだ隠し続けるつもり!!」
  昂ぶる感情を押さえ切れない優。
『騙してきたんじゃないのよ。確かに私はあなたの母親とは言え
ないかもしれない。でも、貴方は間違いなく私がお腹を痛めて産
んだ子なのよ―――― 信じて。』
  どうしても伝えきれない想いを飲み込みながら、あくまで母親
 である自分を信じてくれと訴える女性。
  それに対して優はこう言った。
「まさか私がこんな目にあってるってのに、お酒でも飲んでる訳
!? 酔って訳わかんない事ばっかり言わないでよっ!」

『な!? い・・・・言ったわね〜〜〜?(怒り)』
  今の優の一言で女性の口調が変わった。
「大体いままでだって、お母さんの口車に乗ってやりたくもない考
古学部に入ったりでろくな目に―――――― 」
『徹夜続きで休む暇も無いってのに・・・・言うに事欠いて酔ってる
だの口車だのアンタって子は昔っから人の気も知らないで――』
  二人とも疲れがピークに達しているのが災いし、段々声が荒く
 なって来る。
  少年の心配を余所に、LeMU圧壊の危機に続き、田中親娘の
 絆の危機が迫る。
「ね・・・ねえ、優? 今はそんな場合じゃ・・・・」
  何故か向こうの女性のキレッぷりにデジャブを感じつつ、何と
 か場を収めようとした少年を二人は凄い形相で睨みつけ、

 ―――― 「うるさい!!!」 『うるさいわね!!!』――――

  と、見事に息の合った二人の声がハモル。

「ガタガタ言う前にさっさと上に上がって来なさいよ!そうしたら気
の済むだけ謝ってあげるし、文句でも呪詛でも好きなだけ聞いて
あげるからっ!!」
「・・・・・その言葉に嘘は無いね? よ〜し、首洗って待ってなさい
よ!絶対にお母さんにはこのツケと一緒に、もらえなくなった分の
バイト代も払ってもらうからっ!!」

  ”ピキッ!”  お互いの一言に親娘は完全に切れた。

『ゆう〜〜〜〜〜〜!!(激怒)』
「おかあさん〜〜〜〜!!(激怒)」

  そう言うが早いか二人はその場にあった椅子を持ち上げる。
  そして、まるで合わせ鏡の様な一連の動作で二人は同時に掲
 げた椅子をモニターにぶつけ様とした。
「優〜〜〜!ちょっと駄目だって!!落ち着いてよ〜〜!」
『先生〜〜〜! 落ち着いてください!何をやってんですか?』
  少年が済んでの所で優を抑えると、画面の向こうでも職員が
 暴れる女性を取り押さえていた。

  ”ブンッ。”そんな事をしていると、突然画面がぶれて消えた。
「あ〜〜〜〜! 逃げたな〜〜〜!!」
「あれ? でも完全には通信が切れてないよ?」

 ―――『何で一週間貫徹でキレる寸前の先生を出すんだよ!』
    『いや、だって、先生がどうしても自分が出たいって。』
  『アホか!?こうなる事ぐらいわかるだろ!』
    『と・・とりあえず先生をあっちにお連れしろ!』
  『頼んだぞ! 後は俺が上手く説明する―――― 』―――
 
  そんな会話が聞こえて来て2人を唖然とさせる。
「な・・・・なんなのよ。この人たち?」
「あ?!ほら誰か別の人が画面に出て来たよ?」 
  パッ。今度は別の男性が映し出され、気まずそうに何か話し
 始める。
『あ〜〜〜。聞いてくれ。これから脱出方法を説明する。浮き島
上にある―――― 』
  簡潔に、かつ手際よく3時間後の脱出計画を説明する男性。
  訳も分らず、優と少年は聞くしかなかった。
「――― それまでは全員その場で待機していて欲しい。」
「あなた・・・・誰なの?」
  まさか知らない男性に当り散らす訳にもいかず、少し落ち着
 いてから優は聞いた。
「全ては、君たちが浮き島に来てからいうつもりだ。なんせこん
な画面越しに説明するのもなんだからね〜。」
  男性は至極軽い調子でそう言う。
「LeMU脱出って・・・すごく・・・・簡単そうだよ、優?」
「なんか・・・・・逆に腹立つわね。」
  顔を見合わせる二人。目出度い事なのに、何故だか納得が
 いかない。
「だけど、ゆう。君に一つだけわかってもらいたい事があるんだ。」
「な・・・なに?」
「お母さんは、誰よりも君の事を愛してるよ。」
  とって付けたようにそう、一言いうとディスプレイから画像が
 消え、通信も完全に途絶えた。
  再び静寂が中央制御室に戻り、ポカンとする少年と優。
「なんだったのよ・・・・・ 今の―――?」
  思い切り使いどころを外したその言葉に毒気を抜かれた優。
「・・・・・・・ さあ?」
  彼等が信用出来るのか。そして自分達が無事に脱出出来る
 のかはともかく、あの女性は間違いなく優の本当のお母さんだ
 と言う事を確信した少年だった。 




           §        §






  あの後、無事に救出された優秋は、あてがわれた船室で優
 春と桑古木と共にようやく人心地をつけていた。
  そして、つぐみ、沙羅、ホクト、そして武は優春の配慮で親子
 水入らずで別の船室にいた。

「ふ〜〜。まっさか、マヨと少年がつぐみの子供だったなんてね
〜。おまけにあんなに若い父親まで・・・・もう驚いたわよ。」
  その結末に未だ夢見ごご地の優秋。
  堅い椅子を揺らしながら熱いコーヒーを啜る。
「はははっ。そう言えば、武も秋香菜をこっちの優と間違えてた
っけな〜。」
  笑いながら自分と優春の分のコーヒーを持って席に付いた
 桑古木。
  彼もようやくも肩の力が抜けたようだ。
「ああ・・・あの人が本物の倉成だっけ? いきなり馴れ馴れしく
話し掛けてくるんで、アンタ誰?って言っちゃったよ〜。」
  その時のショックを隠せない武の顔を思い出し、気まずい表
 情の優秋。
  なにしろ、ココと一緒にハイバネーションされていた武にとっ
 ては17年前の出来事はついさっきの事なのだ。
「ふふっ。そうでしょうね〜。それに全然変わってないつぐみと一
緒にあんな大きな子供が二人なんだもの。」
  17年越しの想いを秘めた優春にとっては複雑だが、やはり
 彼等には家族揃って幸せになって欲しいのだ。

「ま、マヨ達が幸せなのはいいんだけど・・・・・・」
「――― ? 優?」
  コトン、とカップを机に置く。そして真剣な表情で母親である
 女性を見詰める優秋。
「ねえ、お母さん。答えて。 もし・・・・LeMU脱出が失敗したらっ
て、考えなかったの?」
「それは――――――」
「もしそうなったら私・・・・死んじゃうのよ? お母さんは―――」
  そうなっても平気なの、と言おうとしたが、優春はそれ以上
 言わせなかった。
「―――― バカっ!。そんな事、そんな事ある筈ないじゃない。」
「お母さん―――?」
「あなたは私の大切な・・・たった一人の血を分けた娘なのよ?」
  優春は優しい目でそっと娘の髪を撫でる。
  その暖かさにちょっと涙ぐむ優秋。
「で・・・でも。だって――――― 」
  しかし母親の仕掛けた人為的な圧壊事故で死にかけたのは
 事実なのだ。
  娘の疑問を察した優春はニッコリと笑いかけ、こう言った。
「今回のLeMUの事故はね、ブラフなのよ。」
「――――――― え?」
  一瞬なんの事か分らず、聴き返す優美清秋香菜。
「いい?2034年のLeMU事故はあくまでもB・Wを騙す為に起こす
事が目的だったの。
「う・・・うん。少年からそう聞いた。」
「だったら、最小の被害に特殊効果を交えて、後はLeMMIHの自
己診断システムにハッキングして大事故であるように認識させて
LeMU圧壊を演出すれば、少なくとも命の危険はないでしょ?」
「なんだ・・・そうだったんだ。もう・・酷い。酷いよ・・お母さん。」
  泣き笑いの表情で文句を言う優秋。
しかし、優秋はもう母親を恨んでも疑ってもいなかった。
  どんな事情があれ、間違いなくこの暖かく自分を見詰める女
 性が自分の母親だと、今心から感じる事が出来たからだ。

  その時、この雰囲気を壊す言葉がある人物から発せられた。  

「・・・・・・そう・・・だったのか?(唖然)」  
  その心底意外そうな声を発したのは誰あろう、桑古木だった。
「――― え? 何言ってんのよ。あんたお母さんの仲間でしょ?」
「いや・・・・今、初めて聞いたぜ。そんな話・・・・・」
  呆然と聞き返す優秋以上に桑古木が呆然としている。
  その彼に対して優春はこう言った。
「敵を欺くには先ず味方からっていうでしょ?」

(む・・・むごい・・・ むごすぎだわ〜。)

  あさっての方を向き、その場に固まったままの桑古木を愉快そ
 うに眺めてコーヒーを啜る母親に、また認識を新たにする優秋だ
 った。



    【 あとがき 】

 改めてゲームをやってて気になったのが、あの中央制御室で
の会話のシーン。
 もしあそこで優春がキレてたら・・・・・(オイオイ)
 ちなみに私のSSのタイトルは昔の番組か海外ドラマからとって
るのであまり内容とはかんけいありません。(笑)
 感想お待ちしております〜。


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