【 続・ムーの一族 】 
                              かぱちゃぱ


  夜中、自室でレポートを書いているパジャマ姿の優秋。
  机に向かい、カリカリと愛用のシャーペンを走らせながら、
「・・・・これ、ムーに投稿したら受けるんじゃないかな〜。」
  なんて事を、ふと考えていたりする。

  まあ、大体がやりたくてやっていた訳でもない考古学。
  しかも幻のレムリア大陸やらレムリア人の3つの目とかのトンデ
 モ系で、教材はむしろオカルト誌に近いものだし。
  それもこれも母親の優美清春香菜の策略と知った時にはマジで
 止めてやろうかと思ったが、ホクトが一緒に考古学をやりたいと言
 っている以上、そんな訳にもいかなくなった次第・・・・
「ふ〜〜。ま、惚れられた弱みと言うか・・・・ 」
  自分に告白した、年下の少年の可愛い顔を思い出しながら少し
 口元がにやける。

  しばらくそのまま筆を動かしていたが、突然パタンと机に置く。
「う〜〜〜〜〜〜ん。 疲れた〜〜〜〜〜。」
  背伸びをする優秋。眠くは無いが小腹が空いていた。  
「 冷蔵庫になんかあったかな?―――― よしっ!」
  ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、キッチンへと向かう。

  廊下を歩いていると、居間の方から明かりが漏れていた。

(あれ? お母さん、まだ起きてたんだ。)

  トコトコトコと足音を立てながら居間を覗くとやはりそこに居たの
 は優春だった。
  テーブルの上にはお酒のボトル、手には琥珀色のグラスを持ち
 気だるげに椅子に腰掛けている優春。
  薄明かりの中、少し憂いの入った表情の優春が、氷の入ったグ
 ラスをカランっと傾ける。
  パジャマ代わりの少し大き目なシャツのはだけた胸元とすらりと
 伸びた足などは実に大人っぽい色気が漂っていた。  

(我が母親ながら実にサマになってるわ〜〜。)
 
  優秋が、同性ながら思わず見とれていると――――――

「やってらんないわよっ! ばっかやろ〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

  と、くだを巻きながらグラスの中を一気にあおり、また酒瓶を手に
 とりグラスをなみなみと満たす。
  そして、その足元には空の酒瓶がいくつも転がっていた。

(こ、これは―――――? 自棄酒だったか・・・・・?)

  関わりたくないな〜、とコソコソその場から逃げ出そうとした瞬間、
 優春の顔がギギギギ・・・と、自分の方に向き直る。
「ゆう〜〜〜〜。ちょっとこっちに来なさい。」
「ううっ? ・・・・・・・は、はい。」
  見つかってしまった優秋だった。 

  
「で? 今夜は何をそんなに荒れてるのよ?」
  娘の問いに、優春は無言で手元にあった葉書を娘に手渡す。

「・・・・なになに? 『私たち・・・結婚しました。しあわせで〜す』――?」
  そう書かれていた葉書にはウエディングドレスを着た30半ばくらい
 の妙齢の女性が新郎の男性と中睦まじげに映された写真がプリント
 されていた。

  目の前の母親はキュレイの影響でまだ学生の様に若々しいので
 一瞬ピンとこなかったが、恐らく鳩鳴館女子時代の同級生なのだろう。
「これ、お母さんの友達でしょ?お目出度い事じゃない。」
「・・・・全っ然・・目出度くなんか無いわよ! 」
  不機嫌そうに言い返す優春。

「(なるほど。これが自棄酒の原因か?)」
  身体が若いとは言え30代半ばの独身女性としては焦りや嫉妬み
 たいなものがあるのだと娘は理解した。

「私の知らない間に次々とゴールインした挙句に自慢げにこんな写真
を送ってくるなんて―――――― 」
「え? お母さん、友達の結婚式に呼んでもらえなかったの?」
  意外そうな娘の声に、コクリと頷く少しいじけた表情の優春。
「それは友達として酷いわね〜。」
「・・・・・・酷いでしょ? まったく女友達なんて――――― 」
  酒を煽りつつ、愚痴る母親をちょっと可哀想に思えて来た優秋。

  しかし・・・何か頭に引っかかるものがあり、こう切り出す。
「で? お母さん・・・・何をやらかしてシカトされてる訳?」

  その一瞬、優春が確かにギクっとしたのを娘は見逃さなかった。
「べ・・・別にそんな・・・”大したこと”はやってないわよ〜。(汗)」
「へ〜〜〜。じゃあ、やっぱり何かやったんだ?」
  とぼける母親をジト目で見詰め問い詰める優秋。

  ふ〜〜、と観念した優春は溜息をつく。
  コトン、とテーブルの上にグラスを置くと、どこかやるせない様な
 大人の表情をして見せた。
「あれは・・・・そう、いまから4年くらい前の事だったわ。」
  遠い目をして告白を始める優春。
  優秋は肘をつき、じっと聞き耳をたてている。

「高校時代の友人が10年間付き合ってた彼と30歳にしてようやく結
婚出来る事になったって―――― 彼女、凄く幸せそうだったわ。」
「ふんふん・・・・」
  ここまでは普通の良くある話だな〜と思う優秋。
「でね、私も嬉しくなって2人でお祝いしようって飲みに行ったのよ。」
「ふんふんふん・・・・・」
  酒が絡んできた時点で何かいや〜な予感を感じる優秋。
「最初はよく相手を捕まえて放さなかった!よくやった!感動したと
かで盛り上がったんだけど、いつの間にか私の方に話が寄って来た
のよ。」
「・・・・・・・・ふんふん・・・(汗)」
  だんだん嫌な予感が強くなってくるのを感じる優秋。
「ほら、私って母一人子一人の上にアンタを高校生の時に産んで子
連れで通学したりとかで彼女にも世話になったから色々心配してく
れてとの事だとは思うんだけどね。」

「・・・・・・・子連れ・・通学?そんな事やってたの? 」
  覚えていないとは言え我が身の事に驚く。自分を遥かに越える
 エキセントリックさの母親に畏怖する優秋。
  というか、呆れた。

「延々延々くだくだと、あんたも早く結婚しろだの一人身は淋しかろう
だの余計な事を酒の勢いでいってくれちゃってね・・・・」
「――――― で・・・・どうなったの?(大汗)」
  嫌な予感が決定的に強くなったのを確信する優秋。

  グイっとグラスの中の強いアルコールを煽ったあと、フッ、と優春
 は含みのある笑みを浮べる。
「あんまり悔しかったから当日、思いっきりめかし込んで結婚式場に
乗り込んでってやったのよ♪ あはははははははは〜♪」
「そ・・・そりゃあ・・・目立ったでしょうね〜。花嫁さんより。(超汗)」  
  思い出した光景が酔った頭のツボに入ったらしく、優春のけたた
 ましい笑い声が部屋の中にこだまする。

  ただでさえレベルの高い美人の優春が気合を入れて本気で着飾
 れば会場内すべての男性の視線は釘づけ状態だった事は容易に
 想像出来た。
  多分・・・いや絶対にその男性たちの中には新郎もいただろう。
「(花嫁さんも・・・可愛そうに。)」
  一世一代の主役を奪われた母親の友人に同情する。

「で、それ以来だれも私を結婚式に呼んでくれなくなっちゃったのよ。」
  思わずテーブルに突っ伏す優秋。
「(あ・・・当たり前よ!全部自業自得じゃない!)」
  これはもう優春を敵にまわしたのが不運だったとしか言いようがな
 いと優秋は引きつるコメカミを押さえる。
  もう付き合ってらんないと、立ち上がる優秋。
「――――― 私・・・もう寝るから。 おやすみなさい。」
「つ・・冷たいわね〜。そりゃアンタはいいわよ。可愛いボーイフレンド
がいてね〜。私なんか・・・・・」
「あ、そうだ、お母さん。 これだけは言っておくけど――――」
「―――― ? 何よ。」
  優秋は愚痴る母親の前にグッと顔をつきだし、
「私も自分の結婚式にはお母さんは絶対に呼ばないからね!!!」
「ええええええ〜〜〜〜〜〜〜???」
  そう言うと、振り向きもせずに優秋は自室に帰っていった。

  ポツンと残された優春は、またグラスにお酒を注ぎ、またあおる。
「あ〜あ・・・ 私だってウエディングドレス着たいわよ〜。きっと凄く似
合うのに〜〜〜。(涙)」
  似合うからと言って、着れるとは限らない。
  しかし簡単に諦めきれない魔力があるのがウェディングドレス。

  そんな時、ふと目に止まったのが仕事用にいつも持ち歩いている
 ノート型の小型パソコン。
「――――! そうだ。 」
  何かを思いついた優春は、ノートのふたを開け起動するとそのまま
 カチャカチャと何かをよびだし。
「え〜と、これとこれ・・・あ、あった。これが・・・・よし!」
  酔っているにも関わらず、鮮やかな手付きでウインドウを開き、操
 作していく。
  その画面の中に、武と自分が写っている写真が現れる。
  その写真に何かを操作し、加工し始めた。
「で、これとこれを組み合わせて〜。うん、ドレスはこれがいいわ♪」
  オンラインからウェディングドレスのカタログを呼び出すと、それに
 何やら手を加えていき・・・・・・・・・
「できた〜♪ いいな〜。こいうのっていくつになっても憧れちゃうわ♪」
  優春がうっとりとして見ている画面には、タキシードを着た笑顔の
 武に、ウェディングドレスを着た優春がはにかみながら抱きついた姿
 が映し出されていた。
  元は二人で飲みに行った際に勢いで撮ったモノだったのだが、強い
 念がこもったのか、素人が作ったとは思えないほど見事に見事に結
 婚記念写真へと加工されていた。

「あとは、この写真をここに載せて、ここをこうして知り合いの住所を
入力すれば〜。」
  悪戯ごころを出した優春は、カチャカチャと結婚代理店のHPを呼び
 出すと、友人が自分に送った絵葉書を作成し、郵送するサービス部
 門に色々と書き込み始めた。
「よし!これで準備OKね。あとは倉成がプロポーズしてくれるのを待つ
だけよ〜♪ なんてね〜〜〜♪」
  上機嫌な優春はピッ、とノートの電源を切り、そのまま自分の寝室
 へ戻って行った。
  流石にしたたか酔ってはいたが、理性が残っていたらしく、”決定”
 はクリックしなかった。

  ――――― 筈だったのだが ―――――



           §        §



  数日後・・・・・・

  鳩鳴館女子大学キャンパス。
  優秋が朝一の講義を受ける為に構内を歩いていると、見覚えのあ
 る顔がズラリと彼女を待ち構えていた。
「おっはよ〜。なによみんなして集まっちゃって何かあるの?」
  何のけなしにそう聞くと、友人の一人である清美が恐ろしい事を口
 走る。
「何かじゃないわよ!優ったらいつの間に結婚してたの?」

「―――――――― はい? 結婚? 私が? (呆然)」

  イキナリ結婚と切り出され、何の事だか分らない優秋。
  頭の中は真っ白になっていた。
「とぼけないでよ。皆にこんな物を送っといて白を切る必要なんてない
じゃない。」
  清美がそう言うと、みんな一斉にそうだそうだと頷く。
  その手には皆一様に葉書のようなものを持っていた。
「いや・・そんな事いったって私には何の事だかサッパリ――― 」
「ほほう?じゃあ、この葉書にプリントされてる写真は何かな〜?」
  差し出された葉書を優秋は受け取る。
「――――  何よこれ、絵葉書?・・・・・・ え?ええ?ええええ??」
  そして、それを見た時、愕然としながらも全てが理解できた。
  その結婚通知の葉書には正装した自分と同じ顔の女性と男性が
 仲良く写っていたのだ。

「(――――!? お・・お母さんと・・倉成? どう言う事?) 」

「さて・・・それでは説明してもらおうかしら?アンタいつの間にこんな
イイ男を捕まえたのよ?(ニヤリ)」
「ちょ・ちょっと!違うのよ、 これ・・・私じゃないよ〜〜〜〜〜〜。 」
  誰もが写真の人物を優秋だと思い込んでいる。
「な〜にいってんのよ。かつらまで被って気合入れてるくせに。」
「ほらほら〜、照れない。で、新婚生活はどんな感じ?(ニヤニヤ)」
「こ・・後学の為に聞きたいんだけど・・初夜は・・どうだった?(赤面)」
  あまりの事に茫然自失の優秋を見て勝ち誇ったように友人達が
 事の顛末を問い詰めてくる。

「お・・・おかあさんの・・バカー―――――――――っっ!!!!」

  しかし、そんな優秋の叫びは女の子達の喧騒にかき消されてし
 まっていた。



           §        §



  同時刻 ライプリヒ研究施設内 LeMUアトラク部企画第七課。

  優春がいつもの様に研究施設内に入る。
  すると研究員たち注目が一斉に優春に集まりだした。

「あ、先生。おはようございます。とうとう・・・ですか。」
「やりましたね、先生。僕等もうれしいですよ。」
「先生〜。おめでとうございます。」
  どこか・・と言うか、何かみんなの様子が変なのに気がつく。
「・・・おはよう。――――――? どうか・・・したの?」

  ―――― 『――――― え? 』―――――

  キョトンとした感じの優春に、研究員達も一緒に面食らった顔をす
 る。

「とにかく・・・・何があったのか説明しなさい。」
「は・・・・はあ。 説明・・・ですか?」
  優春は毅然とした調子で研究員を問い掛けるが、逆に彼等も面食
 らっている様子なのだ。
「え・・・とですね。 これ・・・僕等に送ったの・・先生ですよね?」
  そう言って、お茶くみ兼秘書の沙織が一枚の絵葉書を差し出す。
「――――  何よこれ、絵葉書?・・・・・・ え?ええ?ええええ??」
  
  その絵葉書にプリントされた武と優春の結婚記念写真は確かに数
 日前に優春本人が悪戯半分でつくったものだった。
  しかし何でこの写真が結婚代理店を通して優春の知人や関係者に
 郵送されているのかどうしても思いつかない。
「ま・・・まさか? あの時、”ENTER”をクリックしちゃった・・・・の?」
  
  葉書が研究員にくまなく行き渡っていると言う事は、恐らくパソコン
 のデータベースの住所録をそっくり入力させてしまったのだろう。
「(と言う事は・・・・・・倉成の家にも・・・届いてるわよね。今頃・・・)」
  静かに・・・しかし心の奥底で怒り狂っているであろう、つぐみを想像
 し頭を抱える優春。

  しかし、改めて見るその自分と武の結婚写真。
  元になった写真の状況は違うけど、武に寄り添う自分は本当にイイ
 顔をしていたのに気付く。
  幸せそうにはにかんだ・・・過ぎ去った年月を埋めているかのような。

「フ・・・ いつかはこうなる事を考えれば、今こうなったら同じ事よ。」

  ついに開き直った優春。
  口元に浮かぶ笑みが、ただ、やけに清清しかった。(オイオイ)



           §        §



  同時刻  子供たちも学校に出かけた後の倉成家。

  近所でも評判の美少女若妻(実は41歳)のつぐみはエプロン姿で
 家事に勤しんでいた。
「―――― ? 手紙? 誰からかしら。」
  ふと、玄関を通った時に郵便受けに見えた一枚の葉書。
  それが穏やかな倉成家の優しい朝を一変させた。
「――――― ! なによ・・・・これ?(激怒)」
  その写真が刷り込まれた葉書を手にとって見た時、つぐみの顔が
 オニの様に険しくなる。
  そこへ武がやって来て、つぐみの様子がおかしいのに気付く。
「つぐみ〜。 どうした? なんかあった――― っ !!?へ?」
  出会った頃より遥かに鋭い視線を武に投げかけると、つぐみはそ
 の葉書をピッ!!、と投げ付けた。
  コンっ!、と小気味良い音を立てて紙である筈の葉書が武の顔
 数センチの横をかすめ、壁に突き刺さった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・(ギロリ)」
  無言でつぐみはその葉書を読んでみろと言っているのを武は理解
 した。
  促され、突き刺さった葉書を引き抜き見てみると・・・・
「お・・・・おう。 え〜と・・・な?なななな・・・・なんだこりゃ!!?」
  その葉書には白いタキシードを着た武とウェディングドレスの優春
 がプリントされていた。
  そしてその幸せそうな二人の写真には

     『私たち 結婚しました。 幸せで〜す。』

  の書き文字が大きく載っていたのだ。

  あまりの事に、武は流れる汗も拭わずに硬直する。
  そんな武をつぐみはジッ・・・・っと見ていた。
  表情が全く無いのが逆に怖かった。
「・・・・・・・・・・・ 武?」
「(ビクっ!!) 知らん・・・・ぜんぜんっ知らんぞ。俺は。」
  それに気付いた武が、ブンブンっと首を振り身の潔白を主張する。
  つぐみは無言で暫く夫の目を見詰めている。

  そして、不意に二コっ、と穏やかな微笑で武に笑いかける。
「・・ちょっと出かけてくるわね。夕御飯までには”カタ”がつくと思うから」
  エプロンを外し、余所行きの上着を羽織るとそのまま玄関のドアに
 手をかけた。
「お・・・おう。 気をつけて・・・・な?(冷汗) 」
  つぐみは心配そうに見送る夫の方を振り返らず、何処かへと姿を
 消していったのだった・・・・・・。  



           §        §



  もう何がなにやら分らず、そのまま玄関に立ち尽くしていた武。
「―――― ま、いつもの事だし・・・・ 」
  と、気を取り直して居間に戻ろうとしたその時、
  バタンッッ!! と、凄い勢いでドアが開く音が聞こえた。
「な、なんだ?」
  武が振り返ると、そこには空がいた。
  どうやら上手い事、つぐみと行き違いになったようだ。
「そ・・・・・・空? 」
  空は絵葉書を見るなり、居ても立ても堪らずに飛んできたのだ。
  部屋着かそれとも寝巻き代わりなのだろうか、うすい桃色のトレ
 ーナーとトレパンがとても似合っている。
「く・・・倉成さん! け・け・けけけ結婚って・・・・どういう・・どう・・・・」
  凄い剣幕の空は武を見ると、捲くし立てようとしたが口が回らない。
  なにやら興奮気味で、おまけに泣き腫らした後がある。
  しかも相当に慌てていたらしく、靴もサンダルとパンプスが互い
 違いだった。
「あ〜、空? とにかく落ち着けよ、な?」
  なだめ様と肩にポンっと手を置くと、空はその手に自分の手を重
 ねて来た。
  そして、熱っぽい目で武の目を見詰め、濡れた唇が何やら呟く。
「ずるい・・・ずるいです。倉成さんと田中先生が・・・・ 。」
「あのな? 空、聞いてくれよ。あれは―――― 」
  優のいつもの冗談だ、と言おうとしたが、空はブンブン首を振り、
 言い訳なんて聞きたくないというそぶりをした。
「私・・・・・私・・・・・」
「・・・・・・・・空。」
  うつむき、溢れる感情を押さえる空。
  武はなだめる様に優しく、泣く子供をいたわるみたいに涙に濡れ
 た頬を撫でる。
「私も・・・」
「――――― ?」
  不意に顔を上げ、武を見つめる空。それは何かを決意した目だ。
「私も・・・倉成さんのお嫁さんにしてください。」
「―――――― なんでそうなる!?」
  あまりの展開に狼狽する武を追い詰める勢いで空はにじり寄る。
「だめ・・・・ですか?」
「いや、駄目とかそういう事じゃなくて――――。」
  空の目がジワっと涙で潤み、重ねた手に力がこもる。
「私が・・・・人じゃないからですか?」
「いや、そんなのは問題でもなんでもなくて―――――。」
  泣きたいのは武も同じだった。なんでこんな事になったのかと・・・・・

  空はそっと武の手を自分の胸に押し当てた。
「――――― !? そ・・空?」
  ビックリした武は手を退けようとするが、空がそれを許さなかった。
  更に力を込められ、柔らかな弾力と暖かさが武の手に伝わってくる。
「私・・・私だって・・・・ 御願いです、倉成さん。私を・・・・・・・・」
  言葉の最後の方は掻き消えてしまった。そして、張り詰めた糸が切
 れたかのように空は武の胸に飛び込んで行った。

  その刹那、武の脳裏に浮かんだ言葉は、空の自分への想いの返事
 ではなく、伝説のコメディアンの締めの一言だった。
「・・・・・・・・・・・・だめだこりゃ。(ガクン)」

  意外な伏兵の存在に気が付かない優春とつぐみはその日丸一日、
 天下一武道会顔負けの大喧嘩を繰り広げたとかなんとか。





     【 あとがき 】

 この話、ほんとうは優秋の「私も結婚式にお母さんは呼ばない――」で
オチが付いて終わりだったんですが、maoさんの「ウエディング先生」に触
発されて大幅に加筆してしまいました〜。
 武と優春も普通に3017年くらいにくっ付いていれば何の問題も無いんで
しょうけどね〜。(笑)
 



  『BGM』See-Saw/あんなに一緒だったのに


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