〜好き!すき!!田中先生〜
【その3の前編「果てしなき暴走」】
                              かぱちゃぱ


  『例えどんな時でも、好きな人の為なら女は命がけなのよ』       
  『恋する女の子に怖いものなんか無いわ』
  昔から良くあるステレオタイプな乙女心のキャッチコピー。
  しかし今、まさに田中優美清春香菜はこの状態であった。
     それはつまり・・・・

      ――――2034年12月24日午前10時 第401研究室 ――――
  いつに無く騒然としている研究室内。
「何! 田中先生が見つからない!?? 期限はあと3日だぞ!?こんな時に
又、秘湯温泉めぐりとか言うんじゃないだろうな?あの人は!!」
  珍しく大声を立てるのは応用化学担当の牧。
  室内には殺人的ともいうべき恐ろしい量の資料の山が・・・
「はい。自宅にも、ライプリヒ本社は元より、関連施設全て調べたんで
すが・・・・それで、お嬢さんの話では――― デート・・・とか」
「な・・なんだと? と、とにかく桑古木に連絡を付けてくれ。必ず今日中
に先生を見つけ出して、お連れしてくれとな」
「わ、わかりました」
  野村の報告に呆然とする牧。いや、牧だけでなく他の研究員達も天を
 仰いで絶望感に打ちひしがれていた。
  救いは優春が今、この街にいる確立が高いと言う事だ。もしまた前人未到
 の温泉を求めて人知れぬ山中にいたら1日では見つけようもない。
「・・・・どうします、三沢先輩?」
「どうすると言われてもな〜。田中先生がいない事には...」
  三沢がその大きい身体で机に突っ伏していると、
「―――― やるしかないだろう。」
『なに?』『おいおい』『やるのか?いや、やれるのか』
  動揺する三沢や他の職員を無視するように様に、物理学担当の神埼は
 ひとり黙々と書類整理を始める。
「神崎先輩・・・ 本気ですか?」  
  絶望的な量の資料を前に弱音を吐く野村に神崎は感情の読めない声で
「ああ、お前も命が惜しければやれ。このままだとお前、死ぬぞ。」
「え?」
  ・・・・何かとんでもない事を聞いた気がした野村。
「そうだな・・・それしか生き延びる道はないんだよな。ノム、お前はこの偽造
書類の方を頼む」
「はい?偽造書類? じゃ、じゃあ、そっちの書類は―――?」
「バカ!! お前は見るんじゃない! 早くそっちの書類をデッチあげろ!」
  牧の手元を覗き込もうとしてイキナリ怒られた野村。もはや訳がわからない。
「は・・はいっっ?!!(死ぬ?偽造書類?デッチあげ?)」
「もっと急ぐ!!!!」
  まだ日が浅い為、今の危機的状況を読めない野村に鬼気迫る勢いで激を飛ばす牧。
『そう、やるしかないんだよな』『よし、やるぞ!』『俺は生き残るんだ!!』
  それに呼応したかのように活気ずく研究員達。それもその筈、実はこの書類郡
 は全て優春以下401研究室の面々が行ってきた非合法活動の証拠なのだ。
  例えばLeMU事故においての破壊活動に使った人員、起爆装置設置箇所のリスト。
 そしてそれを起こす事を前提としてそれ以前にIBFから強奪していた貴重な非合法研
 究資料及び実物標本(TBウイルス他)のリスト等などなど・・・・

「牧! ヤバいぞ。 これ例の事件の―――― 」
「ああ、それなら顧問の北岡弁護士に連絡して揉み消しを―――― 」
  更に不穏当な会話が放射線学担当の吉野と牧の間に飛び交う。
  今までもあらゆる非合法手段でライプリヒ内での権力を手にして来た『401研究室』
 だが、今年は例年を遥かに上回る証拠隠し、及び、関係者への根回し、書類の偽造
 が必要だった・・・・
  そして現在、悪魔の如き采配を振るう田中先生が行方不明―――――。
  

   
      【〜好き!すき!!田中先生〜その3の前編「果てしなき暴走」】


  ――――2034年12月23日午前9時47分 田中家 ――――
トゥルルルル トゥルルル  トゥルッ
『もしもし?』
「あ、倉成? 私、優だけど。 あの・・あのね。今日、空いてる? 」
  心臓が破れんばかりに緊張しながら返事を待つ優春、しかし―――
『ああ、優か? う〜んと、悪い。今日は駄目だ。つぐみとちょっとな。』
「―――― ! あ、そう・・なんだ。・・・・うん、わかった」
  意を決した誘いを『つぐみ』の名を出されて断られ電話口からもわかる位
 沈み込む優春。流石にその気配を無視出来る武じゃなかった。
『(優? 何かあったのか?)―――でも、明日ならいいぜ。』
「え? いいの?だって明日は・・・」
  信じられない武からの誘いに、自分でもわかる位に頬が熱くなる。
『明日は沙羅の学校の主催のなんとかでな。つぐみは沙羅の付き添いなんだと。
ホクトはお前ん所の、ほら、優〜秋のお誘いな。んで俺は暇なんだよ」
「う、うん(は〜と)。じゃあ、明日――――で待ち合わせでいいかな?」
『OK! 明日一日はどこでも付き合ってやるからさ、楽しみにしとけよ』
「うんうんっ♪ ・・・期待してるからね。『・・・武(小声で)』。」
   
  ピッッ 会話電源を切るが優春は中々、携帯を手放そうとはしなかった。
「明日・・・倉成と二人で・・フフッ♪・・・クリスマスイブ、か。(照顔)」    
   
  しかし、今の会話をドアの隙間から聞いていた人物が一人いた。
  忘れ物を取りに戻っていた優秋は自分の母親の秘め事を偶然耳にし、グッと
 拳を握り締め
「明日・・・倉成が二人で・・フフッ♪ やる気ね、お母さん。(悪戯顔)」
『ファイトよ!』と見えない様に爽やかな笑顔でサインを送った。  

  

   ――――2034年12月23日午後11時18分 倉成家 寝室 ――――
「え? 明日、優と会うの?」
  ベッドに腰掛けたつぐみが驚いた様子で聞き返してくる。
「ああ、電話口だったけど何か思い詰めた風だったんでな。ほら、あいつには
いろいろ世話になったから、俺に出切る事ならなんか手を貸してやりたいし」
  む〜〜〜、と傍にあった枕を抱きしめ武に抗議の意を向ける。その様子が
 パジャマ代わりに着ている大き目のTシャツと相まって実に可愛らしい。
「なんだ、ヤキモチか? 」
「べ・・別にそんなんじゃ―― 」
  真っ赤になりながらも、意地になって否定する。
「言っとくけど、お前が俺の誘いを蹴ったんだからな?」
「だ、だって・・・ 沙羅が学校主催のクリスマスパーティーにママと行きた
いって言うんだもの。断れないわよ。」
  くるくると、武の恋人としての顔と、沙羅の母親としての顔を代わる代わる
 見せるつぐみが急に愛しくなり、武はギュっと抱きしめた。
「んっ―――― 。バカ・・・」
  憎まれ口を叩きながらも抵抗せず、武のされるがままのつぐみ。
「いいか? つぐみ・・」
「うん、いいよ武。いっぱいして・・・ いっぱいさせてあげる。」
  部屋の明かりが消え、二人がベッドに倒れこむ音だけが聞こえた。

  まだ、明かりが点いている沙羅の部屋。寝付かれないらしく、椅子の背もた
 れを抱く形で座っていた。
「パパには悪い事しちゃったかな〜? でも、拙者の小さい時しか知らないママ
に、どうしても拙者の晴れ姿を見て欲しいんでござるよ。こんな健気でありなが
らも悪い娘を許してね、パパ(はーと)。」
  などと独り言を言っていると、カサカサっと何かが室内を走る音が聞こえ
「チュウっ(遊びにきたのだ、沙羅。)」
  いつの間にかチャミが沙羅の肩に乗っていた。
「おおっ、チャミ師匠!。コンバンワでござる。フフフ〜♪流石にあの若夫婦の
アツアツ振りには耐えられなかったでござるな♪」
「チュウっ(夫婦、仲良き事は良い事なのだ。)」  
  何故か会話が成立している二人。
「よしっ! 明日に備えて今日は寝ますか、ね? チャミ師匠♪」
  電気を消し、沙羅がベッドに潜り込むとチャミは行儀良く布団に顔だけ出す
 様にして横に並んで身体を丸める。
「チュウっ(沙羅も大きくなったな〜。小さかった頃、ボクがよく遊んであげた
のをもう覚えてないのかな?)」
  そんなチャミの思いの中、寝つきの良い沙羅はもう寝かかっているようだった。
「なんか・・チャミ師匠が傍にいると安心するでござるよ〜〜。お休みでござる。」
「チュウっ「おやすみ、沙羅」
  こうして倉成家の夜は更けていった―――――。


   その3の後編「ブルークリスマス」に続く。


   【 あとがき 】
  当初、考えていた話からBBSでの銀狐さんの書き込みが、えらく参考になりかなり
 路線変更してしまいました〜。おまけにえらく長い話に・・・・
  と言う訳で、その3のテーマは「修羅場」。
 
 そして、徐々に明らかになる「第401研究室」。ま、これに関しては笑って
ください。元ネタが分った人はいるかな〜?




2002



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