【 おにょにょのぷ〜〜  】
                              かぱちゃぱ


  日曜日の昼下がり。武は4歳になった幼い娘の沙羅を連れて
 近所の公園へ散歩に来ていた。
  ただの散歩だと言うのに沙羅はお気に入りのピンクのリボン
 に余所行きの可愛らしい赤いワンピースだ。

「ねえ、パパ〜。 あのね・・・・・このおようふく・・似合う?」
  手を繋ぎながら遊歩道を歩く沙羅が、父親の顔を見上げなが
 ら、ちょっとマセた事を言う。
「ん? 随分おめかししたな〜。沙羅はママに負けないくらい美人
だぞ。うん、パパは嬉しいぜ。」
「〜〜〜〜〜〜〜♪ (赤面)」
  武がそんな自慢の娘に優しく微笑んでそう言うと、沙羅は本当
 に嬉しそうにポっ、と頬を染めた。  

  それも当然、強烈な父親LOVEの沙羅にとってはこれも立派な
 デートなのである。
  例えそれが近所への散歩であっても父親のエスコートなら、そ
 れだけで沙羅には武を独り占め出来る至福の時間となった。

「パパだ〜いすき〜〜〜♪(にへら)」
  堪えきれなくなった沙羅が、人目も気にせず満面の笑みを浮か
 べてピョンっピョンっ、と跳ねて武に抱っこしての合図を送る。
  武はそんな沙羅に気がつくと、腰をかがめて両手を広げて娘を
 しっかりと受け止める。
「おおっと! そっかそっか〜。パパも沙羅が大好きだぞ。(二コリ)」
  しがみ付いた沙羅をそのまま抱っこした形で武は歩き出す。
「えへへっ♪ パパぁ〜〜〜♪(はーと)」
  父親とのスキンシップが何より好きな沙羅は蕩けそうな表情で
 頬を摺り寄せていた。

『(ま、こんなのも今の内だけだよな。近い将来、男親なんて邪魔モ
ノ扱いされちまうんだろうかね〜。)』

  などど、考えてしまい少〜し、しんみりする武。
  まさか娘のこの”激パパLOVEモード≠ェ、このまま十年後も継
 続するとは夢にも思わず――――。(合掌)



          §        §


  現在から遡る事5年前、運命の2017年 5月7日。
  LeMU圧壊危機の最中、TBに侵されるも、つぐみから採取した
 キュレイウィルスで彼等は九死に一生を得た彼ら。
  そして、意外な人物の手引きによりに救出され保護されたのだ。

  田中先生と呼ばれる女性、”田中ゆきえ≠ノよって。

 その時、無事に保護された生存者6名。
  倉成 武
  小町 つぐみ
  田中 優美清春香菜
  記憶喪失の少年 (桑古木涼権)
  八神 ココ
  田中 陽一

 
  数日後、内通者により兼ねてから計画されていた、ライプリヒ製薬
 への強制捜査が行われた。
  これにより、つぐみは田中先生の保護下、ようやく平穏な生活を手
 にする事が出来たのだ。
  愛する伴侶、そして二人の子供と共に・・・・・・・・

  ちなみに当の武はと言うと・・・・ あれから間髪入れずに戸惑うつぐ
 みを両親に紹介。 と、同時に同棲を宣言。
  更にその数ヵ月後には学生の分際で出来ちゃった結婚と洒落込ん
 だのだ。

  そして現在。武とつぐみはライプリヒ製薬の研究員と言う形で最低
 限の管理下ではあるものの十分に平凡で幸せな生活を家族4人で送
 っていた。


          §        §



「ね〜、ね〜〜。パパ〜・・・・・。」
  抱きかかえられたまま沙羅は、モジモジしながらも出来る限り真剣
 に武を見詰める。  
「うん? なんじゃい、沙羅?」
  武も微笑ましげに目を細め、腕の中の小さな娘を見詰め返した。
「あのね・・・沙羅ね・・・大きくなったらパパのお嫁さんになるの〜。」
「そっか〜、パパのお嫁さんか〜〜。・・・・ん? 」
  軽く聞き流そうとしたが、どうやら沙羅は本気のプロポーズだったら
 しく、痛々しいほど不安そうな顔で武の返事を待っていた。
「・・・・・・・・パパぁ?(潤んだ目)」
  ここで断るのも大人げないと、思いついた答えはこうだった。
「よし!じゃあ沙羅がパパより大きくなったら結婚しようか。」
  至極、軽い気持ちで娘を喜ばすつもりでそう言ったのだが、
「わ〜〜♪ うん、沙羅がんばって大きくなるね〜〜♪(ニパっ)」 
  満面の笑みを浮かべた沙羅はその小さな手で父親の顔を挟むと、
 チュッっと武の頬に可愛いキスをした。
  嬉しくも気恥ずかしい小さな娘の親愛の印に、結構マジだったんだ
 な〜、と武はここでようやっと気が付いたのだ。

  まあ、子供との約束だしとタカをくくった自分の考えが甘かった事を
 このあと思い知る事になる武であった。 





  しばらくした後、散歩から家に帰り着いた武と沙羅。
  あれから、沙羅は父親の抱っこから離れようとしなかった為、武に
 とっては結構な運動にはなったのだった。

  自室に戻った武は、冷えた珈琲などを飲みつつそのまま暫くのん
 びりと夕食前の時間を過ごしていた。

「・・・・・・・武。 」
  いつの間にか自分の前にエプロン姿のつぐみが立っていた。
  しかもやけに神妙な面持ちで――――
「―――――? どうしたつぐみ。眉にシワなんか寄せて。」
「・・・・・・・・・・寄せたくもなるわよ。」
  のん気な夫に対して大きく溜息をつく。
  しかし、武にはイマイチ事情が飲み込めないで居た。
「オイオイ? だからどうしたってんだよ。」
「ふ〜〜。武、今日の散歩の時、沙羅に自分より大きくなったらお嫁さ
んにするって約束したんですって?」
「ああ、言った言った。沙羅の奴、随分と真面目に受け取ってたっけな
〜。」
  腕を組み、うんうんと頷く武。
  それを見て、つぐみはまた一つ溜息をついた。
「あ? なんだお前〜。もしかして沙羅にヤキモチか〜?(ニヤリ)」
  こう言うといつもなら、
『(ば、馬鹿――――――(赤面))』
  の恥ずかしがって怒るリアクションなのだが、今日に限って何故かそ
 れがない。
  つぐみは表情を変えずにこう武に言った。

「・・・・・・・・・・ちょっと一緒に来てくれるかしら?」
  


  つぐみに案内されて、一緒にキッチンに向かう武。
「これ・・・・どうする気?(ジロリ)」
「な・・・なんじゃこりゃ?(呆然)」
  そこで見たものは買い置きの牛乳パック2つを空にし、更に3つ目を
 開封している沙羅の姿だった。
「――――けぷっ。 あっ!パパぁ〜。沙羅・・がんばるから待っててね。」
  武を見つけると、そんな事を言いながら愛用のコップに牛乳をなみな
 みと注ぐ沙羅。
「がんばるって・・・・牛乳飲んで大きくなるってことかい?」
  コクン、と小さく頷く沙羅。
「本当の愛にはシレンは付き物だって、なっきゅお姉ちゃんが言ってたも
ん。きっとこれがそうなんだよ。だから負けないんだもん。」
  父親に向ける健気な笑みが実に良い顔だった。
  そう、言うなれば覚悟を決めた漢の貌――――――(オイオイ) 

「・・・・・・・・俺達の娘ながら見事な心意気だぜ。なぁ、つぐみ?(ニヤリ)」
「この状況で言いたい事はそれだけかしら?(ジロリ)」
  もはやこの似たもの父娘のノリに溜息すら出ないつぐみ。
  まあ、確かに何かをやり遂げ様とする娘のこの行動は感心に値する
 物であるような気がしないでもないつぐみ。
  しかしこのままほっておく事も出来ない訳で・・・・・・
「ふう・・・ 確かに心意気は認めるけど、このままじゃお腹壊すわよ。」
「―――――――それもそうだな。」
  テーブルの上に転がる2つの空パックを見て流石に武も心配になって
 来た。

「私、何回も止めたんだけど・・・言う事を聞かないのよ。」
  つぐみは沙羅にとって優しくて大好きなママだが、事、武に関しては譲
 る事の出来ないライバル同士の認識だった。
  この母親に対しての強い対抗意識は、恐らくはつぐみが少女のまま歳
 を摂らない事も関係あるのだろう。
「つぐみが言ってもきかない・・・かと言って俺が無理やりに止めるのも何
か筋が違う気がするしな。」
「筋って・・・・・・・・もうっ! じゃあ、どうする気?」
  二人が見守る中、既に沙羅は3パックめを片付けて4パック目に取り
 掛かる気でいた。  

  もう一刻の猶予も許されない!

「となると・・・・・あれしか手はないな。」
  武は考え、そしてある結論に達した。
「――――――? 武?」
「いいから俺に任せておけ。」
  武は沙羅の一挙一動を見、何かを図っているようだった。  

  トクトクトクとまたカップに注がれた牛乳に口をつけ、
「っっぷ〜〜〜。 うん! がんばるぞ〜〜〜〜〜。―――――んくっ!」
  口の中に含んだそのタイミングを武は逃さなかった。
  武は愛すべき娘に向けて恐るべき言葉を放ったのだ。

  かつて恐るべき威力に自らが封印した・・・・幼稚園、小学校、中学校、
 高校と幾たびも級友をパニックに陥れた呪文にも似たそれ――――

  
     「 おにょにょのぷ〜〜〜。 」


「―――――っっ!? ぶぼっっっ!!? 」
  絶妙なタイミングを突かれ、思いっきりむせ返る沙羅。
「けほっ!けほっ!けほっっ!」
  しかもかなりのツボに嵌ったらしく、鼻から牛乳の上に目から白い涙 
 まで流して仰向けにパタリと、倒れ伏した。
  愛娘の惨状に、慌てて駆け寄る父親と母親。
「さ、沙羅っ!? 沙羅っっ――――――――」
  床にこぼれたカップもそのままに、慌てて娘を膝枕で寝かしハンカチ
 で顔に付いた牛乳を拭うつぐみ。
「や、ヤバ・・・・・ おい沙羅? しっかりしろ!!(呆然)」
  まさかここまで見事なリアクションが帰って来るとは思ってた武。
「ぱ・・ぱぱぁ・・・・ままぁ・・・ぐすっ・・ぐすんっ・・・(涙目)」
  心配そうに自分を見詰める父親と母親に、弱々しい声で言う事を聞か
 なかった事を後悔する沙羅。
「ごめんよ、沙羅。でも、がんばったな。」
「もう・・・・無理はだめよ?」
「ぐすっ・・・・・・うん。」
  どうやら甘えん坊モードにスイッチが入ったようだ。
  落ち着いた沙羅はそのまま母親の膝枕の心地よさと、頭を優しく撫で
 てくれる父親の手の暖かさを感じ、安らいだまま眠ってしまった。


  ちょうど、外から帰った来たホクトの眼前に広がる感動の場面。
「・・・・・・・一体何があったんだろう?(汗)」
  テーブルの上に置かれた空の牛乳パック、
  中身のこぼれた妹愛用のカップ、
  そして父親と母親に抱きかかえられながら牛乳まみれで安らかに眠る
 妹を見て、何の事だか全く状況が飲み込めず立ち尽くしていた。




  それから目の醒めた沙羅は汚れた身体を洗い流す為、お風呂に入っ
 ていた。
  ついでに妹のお目付け役にホクトも一緒なのは当たり前。
  仲良く広目の湯船に並んで首だけ出した二人。
  もちろんお湯は肩までつかるのがお父さんとの約束だ。

「と、いう事があったの〜。」
  チャプンッと。お湯に浸かりながら沙羅は、まだちょっとツンツンする鼻
 の奥を気にしながらホクトに事の顛末を話していた。
「じゃあ、沙羅はお父さんのそのたった一言であんなになっちゃったんだ?」
「すっごいんだよ〜。あれはきっと”にんじゅつ≠ネんだよ。うん、せっしゃは
しゅぎょうが足りなかったでござる、ニンニン♪」
  たった一言で自分を倒した例の葉の威力に、沙羅はまだ興奮気味だ。
  まあ、確かに一種の不思議体験とも言えるのだろうか・・・・
「う〜ん。今聞いてもなんともないのに、そんな力があるなんて・・・・・・・。」
  発動の瞬間を見た訳では無いので、にわかには信じられないホクト。
  しかし、呪文と言うか、そういう物には興味深々なのはやはり男の子だ。
  とにかく何故だかすっかり感心した感じの子供達。

「―――――― 僕にもできるかな〜? ぷくぷくぷく・・・・・」
「ふぇ? おにいちゃん、 何か言った? 」
  熱めのお湯にのぼせ気味だった為、ボソッと言った双子の兄の言葉を
 聞き逃してしまった沙羅。



          §        §


  次の日、二人が通う幼稚園。
  給食の時間となった桃組の教室内は、給食を乗せた座り用机を輪に
 して囲むように並べ、子供達はいただきますの声を待ち構えていた。
「沙羅ちゃん、どうしたの?」
  隣りの女の子が、沙羅が牛乳パックと睨めっこしているのを不思議が
 ってそう聞くと、
「・・・・・・・ねえ、これあげる〜。」
  沙羅はその子のテーブルに自分の牛乳パックを乗せた。
「え〜〜? いいの、もらっちゃって。」
「うん。・・・・・・沙羅ね、なんか牛乳は飲みたくないの。」
  昨日の今日だから飲みたくないのは当然と言えば当然か。

『(あれ? おにいちゃん?)』

  ふと、沙羅は双子の兄が何故か牛乳パックを手に持ちながら、周りを
 見渡している事に気付いた。
「ま、まさか・・・・・・おにいちゃん、アレをやる気なの〜〜〜?(汗)」
  しかし、気付くのが遅かった。

「じゃあ、みんな準備は出来ましたか〜。ではいただきま〜〜す。」
  先生の合図で一斉に先ず、牛乳パックにストローを通し口いっぱいに
 吸い込んだ。
  そのタイミングで例の呪文がホクトの口から放たれた―――――


    「 おにょにょのぷ〜〜〜〜。 」


  ――――――次の瞬間、教室は白い地獄と化した。

  かくして悲劇は繰り返され、そして瞬く間に他のクラスにも伝播したの
 だった。
  まあ、誰も傷つかないし魂が獲られる訳でもないんだけど迷惑な話。









     【 あとがき  】

 もともとはこの話、明姐さんの描かれた武が小さい沙羅を抱っこした
イラストのイメージSSだったんですよ。
 あの絵、大好きです。
 でも、そのままだと投稿するには余りに短いので加筆した所、どういう
訳かこんな話になってしまいまして・・・・・
 ごめんなさい、明姐さん。(オイオイ)

 この話は『あなざー・らいふ』の更にあなざー版と言う事で、ゆきえさん
が田中先生です。 


 ――――――絶対に真似しないでくださいね。(マジです)

 BGM  映画 リング 主題歌 「feels like “HEAVEN”」




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