【 仮面ライダーEver17 クウガ編 第一話 】
                              かぱちゃぱ


  2017年 5月7日。 事件は幕を開いた。
  東京湾岸沿いのとあるロフトを改造した若者向けの飲食店
 で、殺人事件が起こったのだ。
  店員、客、合わせて12人が切り刻まれ、薙ぎ倒されてまるで
 猛獣に襲われたかの様な有り様で惨殺されていた。
  そして壁一面に被害者の血で書かれた奇妙な文字の様な落
 書きが残されていた。

  現場の目撃者は現場から立ち去る”長い髪の綺麗な少女”を
 見たとの証言も―――――。



           §        §


      【 仮面ライダークウガ OP 】

♪恐れるだけの歴史をゼロに巻き戻す
  英雄は只、一人でいい
  今、あの崖を飛び越えて
  クウガ 声無き声が  クウガ 君を呼んでる
  クウガ 強さの証明
  No Fear No Pain  壊す者と護る者
  No Fear No Pain  答えは全て そこにある
  頂上疾走 俺が越えてやる
  超変身 仮面ライダー クウガ

○手に光の輪のようなモノが繋がれている”武=B
○鉄条網の向こう側で、悲壮な顔をしている”つぐみ=B
○椅子に座り、思いを馳せる”空=B
○巫女のような服を着て古代文字をその手で象る”ゆきえ”。
○”つぐみと同じ顔の少女≠ェ燃え盛る炎の中、無邪気な顔で
微笑んでいる。
  ・・・と、こんな場面を↑の歌詞でイメージしてください。



           §        §



    (サブタイトル 【 EPISODE1 変身 】)



  ――――― 城南大学 考古学第3研究室 ――――――

「今日のニュース見た、倉成くん? 世の中も物騒になったもの
よね〜。私も気をつけなきゃ。」

  思いついたようにイキナリそうフったのは、白衣を着た女性。
  まだ、30歳前なのだが大学の研究室を持っている教授である。
  名前は”田中ゆきえ”。中々の美人なのだが性格に難あり。
  ちなみに彼女には既に、旦那と幼い娘が居たりする。

「ああ、あのニュースなら今ちょうど、ほら、やってるぜ。」

  書類棚の上に備え付けの14型TVに見入っている若い男。
  ゆきえのゼミの生徒である3回生の倉成武は椅子に持たれか
 かりながら今、自分が見ている朝のワイドショーをさして教えた。
  背が180あったり、素肌にそのまま着た色つきのYシャツの胸
 ボタンを3つあけていたりとルックスも良く、結構美形である。
  もっともシャツはカッコつけでなく暑いからそうしてるだけ。

「アンタ、朝一で研究室に顔を見せたと思ったらそんなもん見てた
の? 暇ね〜。」
「田中先生こそ、昨日はまた此処に泊り込みだったんかい?・・・て
ことは〜、3日くらい家に帰ってないだろ? いいのかよ?」
  フフンっ、と、ゆきえはそんな生徒の余計な心配を一笑に伏す。
「大丈夫よ、一週間やそこら帰んなくてもあの人と優は、私の事を
ふか〜く愛してくれてるんだからね。(すまし顔)」
  といいながらゆきえは愛用の作業用デスクを離れ、TVが見え
 る位置にあったパイプ椅子に腰を降ろす。

「あっそ。 あ!?ほら、この建物の中で全員殺されたんだとよ。」
  現場の映った画面を指差し、ゆきえを促す武。
「ふ〜〜〜〜〜ん? ん! んん!! こ、これは!?」
  ガタンと椅子から立ち上がり、奇妙なリアクションを伴いながら、
 ゆきえは身を乗り出し画面に見入る。

「フ、ウフフフフフフフフフ・・・・・・・・・・・・・(ニヤリ)」
「・・・・・? どうした、先生?(汗)」
  ゆきえの不気味なリアクションに思わず引き気味の武。

「倉成くん・・・・お姉さんのお願い、聞いてくれるかしら?」
「――――― は?(唖然)」
  先程までの眠たげな表情が一転。溢れんばかりの好奇心を目
 から光らせ、今、ちょうどここにいる生徒に命令する。
「今からカメラ持って現場に行って来て。今すぐ。」
「---------なんでやねん?」
  当然の如く、ツッコミを入れる武。
「見えなかったの? ほら・・あ? 今はもう映ってないけど、確かに
現場の建物の壁に古代文字らしきのが書かれていたのよ。あれは
間違いなくレムリア大陸の古代文字だったわ。」
「―――――うそ? て言うか、よく見えたな?」

  普通ならにわかには信じがたいが、恐らく田中先生の言ってい
 る事は本当なんだろうと、付き合いの長い武は思った。
  確かに変わり者だが、間違いなくこの田中ゆきえ教授は天才だ
 と言う事を武は”身をもって”知っているから。

「少なくとも、先生の鼻は外れた事がないからな〜。しかし、何で又、
超マイナーな古代文字なんか現場に書き残しやがったんだ?」
「さあ? とりあえず事件の真相よりも、この私の目に映ったあの文
字を解読するのが最優先よ! さあ、倉成くん、GO!!」
  この人相手に反論や文句を言うだけ時間の無駄と、武は研究室
 を出た。



           §        §



 ――――― 東京湾 近郊 殺人現場 ――――

  まだ昼には時間があるのに、既に現場は結構な人だかりだった。
  その中に、高校生くらいの髪の長い、綺麗な顔立ちの少女がを現
 場を遠巻きに見ていた。
  何と言うか・・・・罪の無い、透明な印象を持った少女だ。
「―――――― 始まったのね。」
  小さくそう呟くと、その場から離れようと踵を返す。
「―――――!? 」
  思案するように俯いて歩いていた少女は、その場に駆け込んで
 きた武とぶつかりそうになってしまった。
「おっと!? ごめんよ〜〜〜。大丈夫かい?」
「―――――― 。(二コッ)」  
  怒りもせず、少女は只、武に対して微笑むと、何も言わずにそこか
 ら立ち去っていった。
「なんだありゃ? ま、いっか。美人だったし。」
  気にする様でもなく、武はカメラを手に人垣を分け入って行く。

「ご、ごめんなさい、どいてください〜〜〜。 キャッッ!?」
  同じように分け入ろうとしていた女性が押されて倒れこんでしまっ
 た。
「ん? ちょっとごめんよ〜、はいご免よ。―――― 大丈夫かい?」
「え? あ、はい・・・ 大丈夫です。・・・・ありがとうございます。」
  駆け寄った武は手を貸して、その女性を立たせてやった。
  女性は魅力的な笑顔で武に礼を言った。
「あ、いや。怪我が無くてよかったよ。」
「はい。」
  改めて見ると、その女性は本当に美人だった。明るい色の長い髪
 に、スタイルもモデル並に均整がとれているのがスーツ姿の上から
 でもわかった。
「あの・・・あなたは新聞記者かTV関係の方ですか?」
「いや、俺は只の学生だよ。」
  武がそう言うと女性は困ったような顔をした。
「そう・・ですか。困りましたね。それだと、これ以上は先に入れないん
ですよ。」
「え?・・・そうなん? しかし困ったな〜。 せめて写真だけでも撮らせ
てもらいたいんだけども――――― 駄目かな?」
  武はそう言ってポケットの小型デジカメを取り出して見せた。
「殺人現場の写真なんか撮って・・・・どうするんです?」
「うん。今朝方TVであの殺人現場が映った時、犯人が書き残したあの
落書きが、実は古代文字で何か意味があるんだって言ってね。」
「まあ・・・・古代・・・文字ですか?」
  付き合いが良いのか女性は興味深深で武の話に聞き入っている。
「そ。それで詳しく調べてみたいって先生の仰せでバイクに乗ってここま
でカメラぶら下げて来たった訳なのさ。」
  困ったような顔の武を女性は暫く見詰めると、突然ニコっ、と魅力的
 な笑顔で、
「分りました。それでは私達に協力して頂くという形で立ち入りの許可を
出しますから、 私と一緒に来てください。いいですね?」
  と、実に自然にそう言った。
「は?―――――はあ。よろしく・・・・・(呆然)」
  そして武は状況が飲み込めてはいなかった。




           §        §



  ――――― 城南大学 考古学第3研究室 ――――――

「へ〜〜。じゃあ、その女性が事件の担当責任者だった訳だ?」
「だとさ。いや、俺も驚いたぜ。 まさかあんな若い女の子が――― 」

  本庁勤務 茜ヶ崎空と名乗ったその警部が、特別の便宜を図ってく
 れたお陰で武は現場の建物の中まで隈なくカメラに収める事が出来た
 のだった。

「キャリア――――って奴だね。それも相当なエリートだよ、君〜。」
「・・・・とてもそうは見えなかったんだけどな〜。」
  物腰の柔らかな、なんとなく初恋の幼稚園の先生にも似た暖かな雰
 囲気の人だったな〜、と武に好印象の空だった。
「人は見かけによらないって事よ。それより、なんか相当気に入られた
ようじゃない? もしかして玉の輿に乗れるかもよ〜〜〜♪」
  武をからかいつつも、手はパソコンのキーボードを休み無く叩き続け
 きっちり仕事をしているゆきえ先生。
「ま、そんな事を心配するより一応の所は解読の結果を出してくれよ?
捜査の協力って事で特別に現場に入れさせてもらったんだからさ。」
「おやおや? ひょっとして私は二人のダシにされたのかな〜〜♪」

  可愛い生徒のからかいの種と、何よりも研究対象が手に入り、実に
 上機嫌な先生だった。

「どうでもいいから頑張ってくれよな? 今コーヒー煎れるからさ。」
  暫くすると研究室には、カタカタ・・・・とキーボードを打つ音とコトコトと
 備え付けのキッチンで沸かすコーヒーポットの音だけが聞こえてた。

  ―――― ガチャッ! 
  そんな中、不意にドアが開く音が室内に響いた。
「ここは・・・・田中先生の研究室かしら? 考古学の研究者の。」
  そう言いながら入って来たのは、先程、例の殺人現場で武とぶつか
 りそうになった髪の長い少女だった。
「あれ? アンタはさっきの――――?」
「 ―――?  何の事かしら・・・・・・私は貴方なんか知らないわよ。」
  とぼけている訳ではなさそうだ。どうやら少女の方は本当に武の事を
 覚えていないらしい。
  そして、その事は少女にとってはどうでも良い事のようだ。
「ねえ、 田中・・・先生は今、ここにいるのかしら?」
「へ? ああ。ほら、あそこでパソコンと格闘してる人がそうだ。」

  こちらの方に全く気が向いていないゆきえ。正にいまノリに乗ってい
 ると言った感じで仕事に精を出している真っ最中だ。

「・・・・・ずいぶん、若いのね。 意外だったわ。」
「本人の前でそう言ってやれば? 凄く喜ぶと思うぜ〜。」
  武の言葉を無視し、しばらくそのまま佇む少女。
  シュンシュンと音を立て、お湯が沸いたので武が火を止めに少女の
 傍を離れたと同時に少女は仕事中のゆきえの方に歩いて行った。
「田中先生・・・・・・・ いいかしら?」 
「――――――? ん?」
  いきなり話し掛けてきた少女を訝しげに見上げるゆきえ。
「・・・・・・・調べて欲しいモノがあるんだけど。」
「あっと・・・・誰か知らないけど悪いわね、いまちょっと・・・・・・」

  やっと来客に気がついたゆきえがそう言うと、少女は肩に架けたバッ
 グから何やら大きな物体を取り出す。
  ゴトンっ!と大きな音を立て机の上にそれを置いた。

「わっ!? な、何よ?(ギロリ)」
「これを調べて欲しいの。」
  驚かされて不機嫌なゆきえを無視し、少女は言葉を続けた。
「ふ〜〜、まったく何よこれ・・・・お? お? おおおおおおお!!!?」

  その机の上に置かれた物体を見た瞬間、ゆきえの目の色が変わる。
  見事な曲線で作られ、いたる所に古代文字が彫られた石造りの何か
 の装飾品の遺跡物だった。

「こんないいモノ・・・・・本当にもらっちゃっていいの?(ニンマリ)」
「・・・・・・貴女にあげたんじゃないわ。(汗)」
  目の前のお宝に目の眩んだ、ゆきえのマジボケにその綺麗な眉をひ
 そめる少女。
「ああ、先生はいつもこうなんだ。あんまり本気にしない方がいいぜ、な?」
  煎れ立てのコーヒーが入ったカップを3つお盆に載せた武が2人の所
 にやって来た。

「何を言ってるのよ? 私は本気よ。(真剣な目)」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜。(眉間にシワ)」
「―――――― マジかよ?(汗)」

  呆れる二人を尻目にお盆からカップを取ると一口すすり、
「いい? この遺跡に書かれているのは古代レムリア文明のモノと見て間
違いないわ。彼等は第3の目を持っていたとされ、過去を・・・そして未来を
見る事が出来たと言われているのよ。」
  突然、抗議、いや講義を始めるゆきえ。
「・・・・ああ、俺も先生の授業でそれは聞いたよ。で? だからそれが?」
  ゆきえは溜息をつき、出来の悪い生徒をたしなめる様に続けた。

「だからね? もしかしたらこれは古代レムリア大陸の人が私に送ってくれ
たモノかもしれないじゃない。いや、きっとそうなのよ!ほら、ここの所の文
字なんか-----」

  恐ろしいまでの自己中心な3段論法に返す言葉が無い武。

「・・・・・・・・・・・・調べてもらえるかしら?」
  少女はゆきえをまるで相手にしない風に、冷たい声でそう言った。
「OK!まかせなさい! レムリア大陸関係は私の専売特許みたいなもの
だからね。」
  ゆきえはさっきにも増してノリノリだった。
「お願いするわ。 報酬は―――――― 」
「いらない。」
  バッグから結構厚い封筒を取り出し手渡そうとした少女の手をゆきえが
 止めた。
「――――― え?」
「だから、いらないって言ったの。これでもスポンサーは事欠いてないのよ。」
  あっけらかんと報酬を受け取ろうとしないゆきえに、少女は疑いの目を向
 けるが、
「いままで貴女に何があったかは知らないけど、少しは肩の力を抜いて人を
信用してみなさいよ。ね?」
  何かを見透かした様に言うゆきえ。

「先生・・・・ そこまで言っておいて実はわかりませんでした―――ってのは
なしだぜ。(ニヤリ)」
  優しく少女を諭すゆきえ。そして、すかさず突っ込みを入れる武。
  だが、少女はその息の合ったやりとりを見ても笑おうとせず、
「・・・・・私は平気よ。 裏切られる事には慣れてるから。」
  と、表情の読めない声でポツリとそう言って、部屋を出ていった。

     バタンッ!

  少女が出て行ったドアを見詰める残された2人。
「なんかほっとけない娘ね・・・・。 倉成くん――――― 」
  視線で、武に追いかけなさいと合図するゆきえ。
「あ?ああ。ちょっくら行って来るわ。 それと、先生。」
「何よ?」
「あの娘の依頼もいいけどさ、例の事件の落書きもキチンと頼むぜ?」
  何しろ便宜を図ってくれた美人警部が結果を聞きに足を運んで来るとい
 うのだから、やらない訳にも行かないだろう。
「わ、わかってるわよ。ま、だいたい辺りはついてるから後はヒラメキがあれ
ばバッチリね♪」
「――――― あっそ。じゃ、頼むぜ〜〜。」
  そう言って武は少女の後を追った。



           §        §



   ――――― 城南大学 学生広場 ―――――

「ようっ! こんな所にいたのか。」
  少女は学生広場から少し離れた所に居た。
  行き来する人通りを、只眺める少女。武にはそれが、淋しそうに、そし
 て少し羨ましそうに見ているように感じた。
「―――――― 何の用?よく私を見つけられたわね。」
  そして本当に意外そうな顔を武に向ける。
「なんとな〜く・・・な? ここに居るんじゃないかってさ。」
  武を一瞥し、また、視線を学生たちに向け、眺め続ける少女。
  武も少女に習い、隣に陣取ると同じ風景を眺め始めた。
「ねえ、・・・・・・・ 」
「ん? なんじゃい?」
「生きてるって・・・・・楽しい?」
「――――はあ〜!? こりゃ又、いきなりヘビーだな〜。 」
  少女の変わらない表情の中に、武は何か自分にすがり付くような何か
 を感じた。
  武は腕組みをし、唸りながらも言葉を選んで話始める。
「ふ〜〜〜。俺はさ、生きてるって事はそれだけで素晴らしいって思うよ。」
「・・・・・・そうかしら?」
「だって死んでしまったらそれまで・・・・だろ? 終わりを選択するのは楽な
のかもしんないけど、もしかしたらその続きに何か良い事があったかもしれ
無い―――― 」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
  一言も発せず、武の言葉の続きを待つ少女。
「ほら、そう考えるとすっげぇ悔しいよな? 生きてるって事は、それだけで
美味しいって事なんじゃないかって考えてるんだよ、俺はさ。」
「私は・・・・・・そんな風に考えた事なんかないわ。」
  俯き、また人通りを眺める少女。長い髪が風に揺れてそれが彼女のや
 るせない過去を現しているかのようだった。
「まあ、偉そうな事言っちまったけどな。俺は悩んでも答えが出ない事に関
しては考えない様にしてるんだ。ただそんだけ。」
  柄じゃない説教をしてしまった事に苦笑いする武。
「・・・・・・・貴方って・・・変な人ね。」
  小ばかにした言葉ながらも、少女は少し微笑んでいた。
  そしてさっきより武に対する態度が柔らかくなったみたいだった。
「ものは考えようって事だぜ。あんまり一方通行で思い詰めたら良い事なん
て絶対に見えないし、思いもつかないからよ。」
  気が付かない内に打ち解けていたのに気付いた少女は不思議そうな顔
 で武を見詰める。
  武は照れ笑いを浮かべ、鼻の頭を掻いてみせた。



           §        §




  ――――― 城南大学 考古学第3研究室 ――――――

  コンコンっ! とノックする音が聞こえた。
「――――― はい?」 
「失礼します〜。田中先生はいらっしゃいますか?」
  ―――――ガチャッ とドアが開く。
  中に人が居るのを確認すると、若い女性は一礼して入ってきた。
「私が田中だけど――――― あ、アンタ茜ヶ崎警部でしょ?」
「え? ええ。 警視庁の茜ヶ崎ですけど・・何処かでお会いしましたか?」
  初対面の人間に名前を言い当てられて少し面食らった表情の空。
  相当な美人なのだが、仕草が実に可愛らしく好感が持てる女性だと、
 ゆきえは感じた。
「いや、こうして会うのは初めてよ。こんにちは、田中ゆきえです。」
「あ、はい。茜ヶ崎空です・・・・・  」
  なにやら掴み所のないゆきえにたじろぐ空。
「貴女の事は、ウチの生徒・・・ 倉成武から聞いたのよ。スッゴク可愛い
美人の警部さんから捜査協力を頼まれたってね。(ニヤ)」
「え、ええ?・・・ そ、そんな事・・倉成さんが?(赤面)」

  見た所、20代も前半くらいの若さながらの可愛らしい警部はこの手
 の会話に慣れていないらしく、照れて頬を染めている。
『(フフ〜ン? これは今まで彼氏はいなかったって顔だね。)』
  ゆきえの洞察力は・・・・・無駄に鋭かった。

「彼はもうすぐ戻ってくると思うからさ、今のうちに写真の事を説明したい
んだけど、いいかな?(ニヤリ)」
「――――――え? は、はい。お願いします。(大慌て)」
  我に帰えり、ゆきえに薦められて、パイプ椅子に座る空。ゆきえも向
 かい側に座り、朝、武が撮影してきた写真をテーブルの上に並べる。

「これ・・・・あちこちの壁に書かれたもの、全て古代レムリア文明の文字
と見て間違いないわ。な〜んか変なアレンジが入っているけどね。」
「レムリア・・・・文明、ですか? それで、何と書かれていたんです?」

  ゆきえは勿体つけたように少し間を置く。
  ジッと、次のアクションを待つ、空の仕草がやけに可愛い。
「―――――― なんなんだろうね、これ?」

  あっからかんと丸投げするゆきえ。

「・・・・・・はい?(汗)」
  あまりにもな解答にキツネにつままれた様な反応をする茜ヶ崎警部。
「いや、大体の解読は出来たのよ。でも、あとひとつの・・・何て言うか、ヒ
ラメキが無くてね〜。」
「は・・・・はあ。」
「いい? このレムリア大陸の古代文字はね、大体ひとつの意味がある
言葉がすべてに影響しちゃうのよ。例えば―――――」

  そう言って、予め用意していたレポート用紙を何枚か机に並べる。

「この文字なんだけど、『水』の文字ね。で、こっちに書かれているのは文
字通り、『水の流れ』なんだけど、こっちの碑文では『清い心』の意味にな
ってる訳。」
「・・・・・・同じ文字なのに、全く意味が違う使われ方をしていたのでは、解
読のしようが無いって事にないですよね。」
「だ〜か〜ら〜、その大本の意味となるのが何かが解ればね〜。」
 
 う〜ん、と腕を組んで天を仰ぐゆきえ。
  何かヒントはないかと、考えを巡らす真面目な空は碑文のコピーと現
 場の写真と睨めっこする。

「あの・・・古代レムリア文明ってどんな人たちだったんですか?」
「ん? ああ、そうね〜。これがまた面白いのよ。 例えばね、彼等には
争いと戦うっていう概念が無かったって言われてるわ。」
「まあ・・・それじゃあ私は失業してしまいますね。」 
「あはははっ♪ たしかにそうなっちゃうわね〜。」
  空の天然さに、思わず吹きだしてしまうゆきえ先生。
「でも・・・素敵な所だったんですね。 そこは。」
「ま、それでも彼らは滅んじゃったけどね。それで時代をゼロから始め
た結果の私たち人類は既にこのヨゴレ具合だもん。人類もいつリセット
かかるか分んないわよ〜?(ニヤリ)」
  言っている事はキツイが、実に理知的かつ楽しそうに子供の尾時話
 みたいな学説を語るなゆきえを見ていると、初対面ながらなんとなく変
 な、 いや面白い人だと思う空だった。



           §        §



  ――――― ガチャッ!  

「ち〜〜〜すっ! 今、帰ったっスよ〜〜。 」
  ドアを開けたのは購買で買ったスナック類が入った紙袋を抱えた武
 だった。
「おかえり〜。 あら?あの娘は?」
  少女と一緒ではない武を見て、ゆきえがそう言う。
「ああ、なんか暫く一人で考える事があるからって。」
「ふ〜ん? あ、そうそう。例の女刑事さんが来てるわよ〜。」
  自分に気付いた武に、空は丁寧に挨拶をする。
「こんにちは、倉成さん。」
「ああ、こんちは。茜ヶ崎・・・・さんだったよな。それとも刑事さんって呼
んだ方がいいかな?」
  武は紙袋を棚に置き、空に挨拶を帰した。
「えっと・・・出来れば・・・・名前の方の”空”って呼んでくれた方が嬉しい
ですね。」
「え? いいのかよ。呼び捨てで。」
「はい。私、職場ではいつも苗字か”警部”付けなので、なんか疲れてし
まって。だからちょうど名前で呼んで欲しかったんです。」
「なるほどな〜。 うん、おっけ〜。 じゃあ空、先生の解読は役に立っ
たのかい?」
「はい。・・・・えっと・・それが・・・その・・・・」
 困ったようにチラチラとゆきえの方に視線を送る空。
  当のゆきえは溜息をつき、
「あははは〜。ホントに後一歩なのよ。その一歩が・・なかなかね〜。」
  と、いつもの調子のゆきえは空ほど困ってない様子だった。

「やれやれ・・・ じゃあ、彼女のアレはどうなったんだ?」
「彼女のも・・・・・・・ 後一歩って所なんだけどね。」
  そう言うと、作業ディスクの上にある例の物体を持ってきた。
「これ・・・・なんでしょう? 随分と凝った装飾が刻まれてますね。」
  化石化して色褪せていたが、欠けた所も無く見事に刻まれた古代
 の遺物に空は夢中になっている。
「う〜〜〜ん。何て言うか・・・後ひとつなのよね〜、これも。」
  何一つ進展が無いのにまたもや気楽な返事を返す先生。

「あのな〜。で、結局は何が引っかかってるんだ?」
「例えば、この遺物・・・ね。何に使うものかが解れば――― 」
  ゆきえがツンっ、と指で突くのを武が取り上げる。
「全く――― これが――― !? え!? なんだ!?」
 
   キィー―――――――――ンッッッ――――――


 遺物を手にした瞬間、何かが武の頭にフラッシュバックする。

「なに?!どうしたの? 倉成くん?」
「倉成さん?!  どうしました?」

  バチッ! バチバチッ! と武の頭に映像が映る。
  それは、誰かが何かと戦っているよな情景だった。
  人間じゃない・・・異形の集団と、髑髏の様な面を付けた赤い甲冑
 の誰かが―――――――

「いっ―――― !? はあ・・・はあ・・・ なんだ?今のは?」
  弾かれたように正気に戻る武。
「何って・・・・一体何がどうしたの?」
  心配そうに覗き込むゆきえの顔をボ〜っとして見返す武。
「仮面をつけた・・・・髑髏みたいな顔の・・・・赤い鎧を付けた奴が、化
け物と戦っているのが見えた―――――― (呆然)」
  夢見ごこちが続いているように武はそう言った。
「 何を言ってるのよ、貴方。(眉間にシワ)」
「あ、あの・・・・ほんとうにお気分は大丈夫ですか?(アセアセ) 」

  心配する空を尻目に、呆れ顔のゆきえ。
「な〜にが髑髏の仮面だか鎧だかTVゲームの戦士じゃあるまいし・・・
・・・・・・戦士?」
  しかし、次の瞬間、武のそれが染ったかのように放心していた。

「―――― それよ・・・・それだわ! 」
  ガタンっ! と音を立てて立ち上がると、今度は興奮気味なゆきえ。
「全て解読できた! その遺物もあの殺人現場の落書きも!!」
  よくわからない展開の中、武と空は顔を見合わせて首を傾げた。

 ――――― ピピピッ! ピピピッ! ピピッ ―――――
  その時、空の携帯電話が鳴る。
「はい、茜ヶ崎です。―――――え? 分りました。今すぐ向かいます。」
  それまでの優しげな雰囲気が一転し、真剣な顔を空は皆に向ける。
「すみませんが、私は行かなければならなくなりました―――――」

「例の殺人事件関連でしょ?現場は・・・多分・・・カトリック系の教会。」
  恐ろしく物騒な事を口にするゆきえ。 

  空はというと、真剣な雰囲気が又一転、ポカンとしー―――、
「え? ええええ? なんで分ったんですか?」
  見事言い当てたゆきえに、あっけにとられる2人。
「説明してもいいんだけどね・・・・ まあ条件と言ってはなんだけど、私
たちも現場に連れてってもらえないかしら?」
  交換条件に現場に連れて行けと迫るゆきえ。
「俺もかよ? ―――って、何でアンタが行く気なんだ?」
  当然、武の言葉は無視。
「ええ!? でも、危険ですよ?!」
  当然、彼等を危険に晒す訳にはいかず、反対する空。
  しかし、ゆきえも引かなかった。
「あの落書きを実行した犯人が何なのか、実際に見てみたいのよ。も
ちろん職業的興味って事もあるけど、次の犯行を防ぐ方法が見つかる
かもよ?」
  そう切り出されては、断る事が出来ない空だった。 

  空が迷っている時、少女が部屋に入ってきてこう言った。
「私も・・・・連れて行って。」




           §        §



  現場に向かう空が運転する車の中には、助手席にゆきえ。後部座
 席に武、そして少女が乗り込んでいた。

「先生・・・なんでわかったんだ?」
「――― 例の落書き。あれは予告だったのよ。次の殺人現場のね。」  
  ゆきえはバサッ、と写真を広げみんなに見るように促す。

  『屋根 十字の掲げられたる場所 次 狩場。』
  
  これが、現場に残されたメッセージだった。
  空も運転しながらチラチラと覗こうとして、運転が荒くなっている。
「盲点だったのわ。なにかアレンジを利かせていると踏んでたんだけどね、
まさか『戦意』が込められてたメッセージだったなんてね。思いもしなかっ
たわよ〜〜〜。」
「で、でも、レムリアの人間って・・・・争いをしなかったって――――」
  空はさきほど聞いた説明を反芻する。
「だからよ。込められてる意味が変われば、メッセージ全部が変わってし
まうのが古代レムリア文字なの。」  
「・・・・・・・・じゃあ、この遺物に刻まれた文字の意味は?」
  と、少女が車に持ち込んだベルト状の遺物に触ろうとした武の手を、
 ペシッ! と叩くゆきえ先生。
「コラっ!! アンタは触んない方がいいみたいね。 狭い車内でまた暴
れられても始末に悪いし。(ギロリ)」


「そうそう、貴女・・・・えっと、名前、まだ聞いてなかったわね。」
  遺物を持ってきた本人である少女に問い掛けるゆきえ。
「緑川・・・瑠璃子。」
「―――それ、偽名でしょ? それに、この事件と同じ時期にコレを私の
所に持って来たのは偶然じゃない筈よ? 」

  警戒の目でゆきえを睨みつけたまま、何も答えない少女。
  ゆきえも目を見詰め返して言葉を続ける。
「私は貴女の力になりたいのよ。信用して。」
「乗りかかった船って言うしな。俺もトコトン付き合うからさ。名前くらい教
えてくれよ?」
「私も・・・・・職務から離れた上で協力します。ご安心を。」
  三人の心が伝わったのだろう、険しい視線を下に向け、唇をゆっくり
 と開いた。
「小町・・・・つぐみ。」
  やっと名乗った少女、つぐみ。二人はそれを見て笑顔をこぼした。
  空も、運転しながら3人のやり取りに、自然と笑顔になる。
「つぐみ・・・ね。 これからは”つぐみん≠チて呼んでいい?」
「・・・・・・お断りよ。」
  ちょっと、本気で頭に来たつぐみ。

「じゃあ、つぐみちゃん。いい?コレに刻まれている文字の意味も全て 
”戦い”に関する記述よ。」
「それで・・・ それらの意味を踏まえた上で、解読は可能なのかしら?」
「う〜ん。そうね〜。 あの落書きに輪をかけて曖昧だから、時間はかか
るけど、なんとか―――――」
「それじゃあ・・・それじゃ駄目なのよ!! 遅すぎるわ・・・・ 」

  いきなり声を荒げるつぐみに3人は驚く。彼女がここまで感情を露に
 するとは思っても見なかったからだ。
  そして、多分、こちらの方が本性なんだろうと、理解した。

「やっぱり何か、今回の事件と関係があるのね?」
「・・・・・・・・・・・ それは――――」
「いいの、無理には聞かないから。でも、ひとつ聞かせて。これを解読す
る事が例の殺人事件を解決する事に繋がるのね?」
「――――― ええ、そうよ。」
  つぐみの言葉に複雑な顔をしたのは空だった。その綺麗な顔に苦悩
 の表情が現れるが、ふーーーっと、溜息をつく。
「安心してください。今の会話は全てオフレコと言う事にしますね。その代
わり、小町さんにも協力をお願いしたいのですが?」
「・・・・・・・・分ったわ。 でも、今は・・・・これ以上――――」
  また、感情を隠そうとするが、やはり辛そうな顔を覗かせるつぐみ。
「あ〜〜、もういいって。な? 皆、お前に手を貸すって言ってくれてるん
だから、んな辛そうな顔すんなって。」
  武はこの謎めいた少女に勤めて軽く笑いかけた。



  今回の事件もやはり都内だった。犯人は逃げる事も姿を隠す事もせ
 ず、街の中で息を潜めて潜伏し、次の犯行の機会を伺っていたのだ。
  前回の事件現場から少し離れた場所に位置する教会は、今や地獄絵
 図と化していた。




「みなさんは危険ですから、ここから動かないようにお願いします。」  
  現場に着くなり、空はそう3人に言うと車から降り、警察指揮車の方に駆
 けて行った。

「さ〜て、私たちはどうしようかね?」
「どうするったって・・・・・・ ここで事件が解決するのを待ってるしか無いんじ
ゃないかい?」
  車の中からでも見た所、かなりの警官隊が周りを固めていた。
  これを突破して逃げるには、犯人が銃火器で武装した集団で無い限りは
 無理だろう。
「田中先生・・・・武。二人とも、何があっても私から離れないで。」
  つぐみの口から出た意外な言葉に、武とゆきえは顔を見合わせた。
「離れないでって・・・あ!? お前、怖いのか? 」
「あらあら〜。つぐみちゃんってばクールな癖に結構可愛い所あるのね〜。」
  何処にいても変わらない、よく似たノリの教授&生徒にそれと分るように
 溜息を付いてみせ、毅然とこう言った。
「勘違いしないで。 勝手に動かれたら貴方達を守れないからよ。」




  何処から入り込んだのか、痩せた浮浪者の格好をした男が警察の包囲
 の中に入って来ていた。
「おい! そこの君! ここは危険だから早く――――― なっ!!?」
     ブンッッ!! ゴッッッ!
  ドサッ! 男に近付いて来た警官が突然倒れた。
  男がその細腕に似合わない力でなぎ払ったのだ。


「あれ? あそこで何かあったんかい?」
  車の中で退屈していた武が辺りを見渡していた時、ちょうど倒れた警官
 気がつき、そこに居た男と目が合ってしまった。
『ヅギパ・ガギヅバ』
  何やら異様な発音の言葉を武に向けて放つと、そのまま武たちが乗る
 車に向かってきた。
  偶然に目の合った武が次の獲物と認識されたのだ。
  しかしそんな事になったとは露知らない武。
「先生! 先生ってば。ほら、あそこ。なんかあったみたいだぜ。」
  武が指差した先では、警官が男を取り囲んでいた。
「――― ん? もしかしてアイツが犯人なのかしら?」
  次の瞬間、警官たち数人が男に弾き飛ばされた。


「―――――――?! アイツ・・・・・・やっぱり。」
  その様を見たつぐみは唇を噛み、そう言った。
「ちょっと? アイツ何なの。なんかこっちくるみたいだけど」
「ヤベェ・・・・ さっき目が俺と合ったからかも?(汗)」
  二人が慌てる中、男は猛烈な勢いで武を目掛けて突進して来た。
  
   ゴゴゴゴグゴグゴグゥゥ――――――――シュゥゥゥウウン

  武たち、そして警官隊の目の前でその男は蜘蛛に見える装飾を持つ異
 形の化け物に姿を変えた。
「おい!? いま何か変な事しなかったかアイツ!!(驚愕)」
「変身って奴ね・・・・・・凄いもん見たわ。(汗)」
  この状況でも自分のスタンスを見失わない芸人師弟コンビに、頭を抱え、
 柄にも無く激しいツッコミを入れたくなったつぐみ。
「チッ! いい? ここから動かないで!」
  つぐみがそう言ったのを無視して武は素早く車のドアから出て蜘蛛の化
 け物の前に立ちはだかる。
「ちょっと!?  倉成くん!!!!!(唖然)」
  慌てて引き止める事が出来なかったゆきえの代わりに、つぐみが反対
 側から外へ出た。

   ジャキィィイイインッッ!!

  化け物の腕から鍵爪の様な刃物が飛び出し、武へ振り下ろす。
  だが、それよりも早くつぐみが武を庇う形で立ちふさがり鍵爪を受け止
 めた。
  いや、受け止めたのはつぐみと化け物の間に現れた、目に見えない 
 ”何か≠セった。
『――――――ッ!? バンザ・ボセパ?』
「・・・・・・・・・・お前の相手は私よ!」
  化け物は威圧するように自分を睨みつけるつぐみを警戒し、俊敏な動
 きで後ろに飛び退いた。
「――――馬鹿っっ! なんで飛び出したのよ。死ぬ気?」
「いや・・多分コイツ俺を狙ってたみたいだったから、俺の近くにいたらお前
や先生が危ないかな〜って・・・・・・」  
  怒ったような呆れたような表情で武の顔を見るつぐみ。
「なあ・・あのバケモンとお前が持って来たアレって何か関係あるんか?」
「っ・・・・・・・・・・・・・。」
  武から顔を逸らし、答えないつぐみ。しかし、それが回答になった。

「そっか・・・・。よ〜し!お陰でこの場を切る抜ける良いアイディアが浮か
んだよ。(ニヤリ)」
「――――――武っ!?  貴方、なにをする気?(汗)」
  武の様子に嫌な予感を感じたつぐみが武を睨みつけ、問いつめる。
「見えたんだよ、さっき。アイツとよく似たバケモンと闘ってる奴がアレと同じ
モノを腹に付けてるのをな。もしかしたらアレを使えば―――――」
「馬鹿!! 何て事を言うの?! アレは・・・・・・・」  
  そう言うと、つぐみの静止も聞かず、化け物が警察官の銃声に反応した
 隙に、車の中のゆきえに叫んだ。

「田中先生! それを俺に貸してくれ!」
「ちょっと! 倉成くん!?」
  武はベルト状の物体をゆきえからひったくると、自分の腹部に当てる。

    バチッ!! ジュジュゥッッ――――――

「―――――っっ!!? あちぃっっ!!!」
  焼け付く痛みを腹部に感じ、うずくまる武。
「き・・・・消えた? ううん、倉成くんの身体に・・・入った?」
  その光景に驚きつつ、駆け寄るゆきえが武の腹を見ると、ベルト状の物
 体と同じ形に服が焦げ、火傷の様な跡が身体についていた。
「いつぅ・・・・な、なんか知らんけど上手くいったみたいだな・・先生?(ニヤ)」
  やせ我慢なのだろうが、冗談めかしてウインクする武。
「倉成くん・・・フ〜ッ、ま、やるだけやってみなさいな。骨は拾ったげるから。」
  こちらも教え子の呼吸に合わせ、笑顔と冗談で返す。
  ゆきえの手を借り、ふらつきながらも立ち上がると、自然に腹部に手を当
 ててみる。

    フイイィィィィ――――――――ン

  すると、一旦は武の体内に消えていった化石の様な物体は光沢を取り戻
 し、腹部にまた出現したのだった。
「思ったとおり・・・・ これならイケルぜ!!」
  それを見て愕然とするつぐみ。
「―――――バカっ!なんて事をしたの!? それを着けたらもう人ではいら
れなくなるのよ!私のように呪われた身体に―――――――!」
「あ――!まだゴチャゴチャ言うか?! いいから見てろ!これが! 俺の―
―――  変身ッッ!!!!!」

   キィン キィィン キィィィン キュゥィィィィー―――ッッ

  ベルト状の物体は光を放ち、明らかに起動したがこれと言って武の身に変
 化は見られなかった。

「起動・・・・・しなかったの?」
  武の身に何事も無かった事に安心し、思わずつぐみがそう漏らす。
  本当は動かして自分が使うつもりでゆきえに解析を依頼した筈なのに起動
 不能を喜んでいる自分に、つぐみはハッとなった。
「――――? ふ・・・不発? お〜〜い倉成くん? 君、大丈夫かい?」
  盛り上がった分、安堵と気まずさの入り混じった妙な空気が辺りに流れる。
「へ? あれ? ・・・・・ま、まあいいや。なんか強くなった様な気がするし。」
  武は今、冗談ではなく確かに力が漲っている事を感じていた。
「気がするって・・君ねぇ? それでやられちゃったら笑えないわよ。(汗)」
「よ〜しっっ! 行くぜバケモン!!!!」
  あっけにとられるゆきえに見守られ、やる気満々の武が蜘蛛の化け物に
 向かって行った。


「うおぉりゃ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
  逃げ惑い倒れ込んだ警官にトドメを刺そうとする化け物の後ろからパンチ
 を喰らわせる武。
  
    バキィィ――――ッッ!!!

『グオオォォッッ!!!?』
  そのパンチには力が漲り、化け物を1発で吹き飛ばした。
  確かに今、武の体内で何が起ころうとしていた。

  更に化け物を追い詰め、一発、また一発とぶん殴る。
    ヒィィィ―――ンッ
  まず、最初に化け物を殴った右腕が変化した。
    ヒィィィィー――ンッッ  
  そして左手も、
    キュィンッ キュィンッッ キュィンッッッ!!!!!
  蹴り飛ばした足、が変わり全身が黒く、そして胸部等が赤い甲冑の様に
 堅く力強い形状に変わっていく。

「うぅおおおおぉぉぉぉー――――――っっっ!!!」
  溢れる力を右手に集め、化け物の顔面をぶん殴り、3メートル先の壁ま
 で吹き飛ばす。
    シュルンッ!
  最後に武の顔が頭部が、まるで髑髏を模した仮面に覆われ、もう何処
 にも武の面影の無い異形の甲冑を身に着けた戦士がそこに居た。

「――――――――――そ・・・そんな。 ・・・武?」
「やっちゃった・・・・・。 倉成くん・・・・・・・・あれが・・・・君なのか?」
  呆然と自分を見詰める2人に気がついた武、いや古代レムリアの戦士、
 クウガ。
  クウガ=武はスッと、拳を二人に向け親指を立てた。
  それは武がよくやる大丈夫のサインだった。


  ――――【 EPISODE1 変身 】  完。       






       【 あとがき 】

 以前、BBSで予告したクウガ編の1話のパイロット版というかネタの下書
きです。
 お恥ずかしい事に、上手く練りあがらずそのままになってました。
 アクションものは難しいです。(T-T)
 そういえば、特撮は脚本の荒さが魅力とか言ってた誰かが居たとかいな
いとか。(オイオイ)
 勉強の為に皆さんのご感想をお聞かせください。

 田中ゆきえ先生のキャラは『あなざー・らいふ』編での田中先生とほぼ
同キャラです。いわゆる謎の人。 
 結構重要な台詞をポンポン言ってます。


/ TOP  / BBS / 感想BBS








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送