【 シワヨセの代価 】
                              かぱちゃぱ





「―――――で、何だって?」
  眉間にシワを寄せた優春が、うんざり気味に聞き返す。
「・・・・だから、不安なのよ。幸せだから。今が幸せすぎるから。」
「ふ〜〜〜ん?・・・・・そんなに幸せなんだ。」
  今まで見た事もないくらい不安気な表情のつぐみの話を、さら
 にうんざり気味を強調して、再度聞き返す優春。

「朝起きると・・・隣りに武がいて、おはようって言ってくれて、ホクト
も沙羅も明るく私に笑いかけてくれて・・・・・それに―――」
「ねぇ、つぐみ。もしかしてワザワザ惚気にこんな所まで来たのか
しら?(怒)」
  ギシギシと威嚇するように腰掛けた椅子を揺らし、つぐみの言
 葉を遮るように言う優春。


  ちなみにここはLeMU事業部ビル企画七課の優春のオフィス
 である。
  思い詰めたつぐみは優春の帰宅時間を待てず、ここに押しか
 けたのだった。


「・・・・・ごめんなさい。急にたまらなく不安になってしまって。」
「くすっ。・・・・・・・冗談よ。」
  痛々しく俯くつぐみに優春は勤めて明るく話し掛けた。

「不安・・・・・ね。まぁ、分らない事も無いけどさ。アンタはちょっと
重症みたいだわね。」
  困ったように溜息をつく優春。

  望んでも叶えられないと思っていた、武との再会。
  どれほど憎まれ、責められても仕方ないと思っていた子供達
 が、まだ自分を母親と慕ってくれた事。
  そして家族4人での平和で穏やかな生活。

「・・・・・失いたくないのよ。もう、何一つ。」
「別になくなりゃしないわよ〜。何一つ、ね。」
  優春は気楽に笑ってみせて励ましてはみたものの、気休め
 にもなっていないようだった。

「幸せには代価って・・・・・・必要なのかしら?」
  ポツリと言うつぐみ。
「代価・・・・・ねぇ。」
「優は・・・・・・・・・どう思ってるの?」
  縋るような目で、つぐみは優春に答えを求めた。
  つぐみも優春が神ならぬ身と理解しつつも、『例の計画』を遂
 行した観点からの意見が聞きたかったのだ。


「そう・・・ね〜。私はほら、余命幾ばくも無いって知った時、ヒトと
しての禁忌を犯してでもって、あの子を、優美清秋香菜を生んだ
じゃない。」
「・・・・・(コクン)」
  つぐみが頷いたのを確認し、続ける。
「私ね。あの子が生まれた時・・・・私はもうどうなってもいい。ただ
ユウに逢えた事だけで凄く幸せで、この子の為なら地獄に落ちて
もいいって本気で思ったわ。」
「・・・・うん。」
  聞き入るつぐみ。彼女にも覚えがある感情なのだろう。
  少し落ち着いてきたらしく、母親の優しい顔になっている。
「―――でも、私は生きてる。色んな事もあったけど、結果オーラ
イでオマケに今も二十歳そこそこのオマケつきでね。あ、ここは
つぐみにすごく感謝してるわ〜♪」
「優・・・。そうよね。この先、どうなるかなんて、誰にも分らないわ
よね。」
  そこに行き着いた時、つぐみは憑き物が落ちた様に気分が軽
 くなったのを感じた。

「・・・・・ありがとう。何か、気がすごく楽になったわ。」
「フフッ。どーいたしまして。でもね〜。私にしてみれば、贅沢な悩み
よね、全く――――。」
  笑いあう二人。
  この和やかな雰囲気の中、いきなりドアが開いた。

   ―――――ガチャッ

「オッス・・・・ 優はいるかい?」
  ドアを開けたのは桑古木だった。しかも何故か先ほどのつぐみ
 同様に疲弊しきった様子だ。
「―――涼?今日は千客万来ね〜。で、アンタは何の用よ?」
「ちょっと・・・・な。(汗)」
  なんとなく、バツが悪そうに口ごもる桑古木。
「何か・・・あったの?」
「ん?つぐみもいたんか。いや、実は、さ。・・・・・・・・事故った。」
  中に入った桑古木は椅子に腰を降ろしながらそう言った。
「事故って、・・・まさかこのあいだ納車したばかりのインプレッサ
潰したの? バッカね〜。」
「は、ははは・・・・・酷いよ優。(涙)」
  優春の容赦のない言葉に涙を浮かべ、肩をうなだれる桑古木。
  その様子に、自分もさきほどまで同じ様に打ちひしがれていた
 事を忘れてしまいそうなつぐみ。


「まったく〜。アンタっていっつもどっか抜けてるのよね。」
  困った弟をたしなめる様な口調の優が、桑古木に珈琲の入った
 熱いカップを渡す。
「お、サンキュっ。いや、それがな。最近ずっと変なんだよ。」
  受け取った桑古木は,熱い珈琲を啜りながら、苦りきった口調で
 言った。
「―――? 変って・・・・何が?」
  気になり、ふと、そう聞くつぐみ。
「何て言うのかな〜、ツイてないんだわ。例えるなら運から見放され
たようにってやつさ。」
「はい?」
「――――え?」
  その言葉に目を丸くする優と、眉を顰めるつぐみ。


  そして思い浮かぶのは、先ほどまで話題にしていた、
       ”幸せの代価≠ニ ”生贄
  という二文字。


「(ま、まさかこれって?・・・・・・・・優、貴女ひょっとして・・・・・・)」
  何かしたの、と疑わしげな視線を優に向けるつぐみ。
「(し、知らない!私は何もやってないわよ?」)」
  さも心外とばかりにブンブンと手と首をを横に振り、無実を訴え
 る優。


「今回だってよ。いつも使ってる本社の駐車場に入ろうとしたら、ま
るで・・こう見えない力に引っ張られた感じで縁石にゴンっ!だぜ?」
  ハンドルの身振りで状況を説明する桑古木。
「・・・・見えない・・・・力に・・・引っ張られた?(汗)」
  つぐみの疑念がますます強くなっていく。

「よくコケるし、物は落すし、物忘れも酷いし、ビデオのレンタル期限
は一日間違えるし、あと――――――」
  と、更に思いつく限りの事例を挙げる。
「細かい事も積み重なれば・・・・・ってのの見本ね〜。(汗)」
  偶然も三度重なれば、という言葉が、ふと思い浮かぶ優。

「―――で、終いにゃあ、愛車が一発廃車さ。いや、もうまいったぜ。
もしかしてアレかね?例の一件に対する天罰・・・だったりしてな。」
「う・・・・・・・・・・(ギクっ)」
「あ・・・・・・・・・(ギクギクっ)」

  自分の愚痴でつい暗くなってしまった雰囲気に気付き、冗談めか
 した桑古木のその一言に思わずギクっ!、となる二人の女性。
           ・
           ・
           ・
           ・

「なーんてな。まあ、例えそうだったとしてもココや武にもう一度逢えた
んだからこれくらいは安いもんだぜ♪なあ、そうだろ?」
  二人の心中も知らずに、憎らしくらいイイ顔で笑う桑古木。

「(あ、あいたたたたた・・・・・・・)」
「(これって・・・・ホントに偶然なのかしら?)」  
  桑古木の笑顔と言動があまりに気の毒で、頭を抑える優とつぐみ


「―――って、おいおい冗談だって。んな事ある訳ないだろが〜。」
  と、二人を気遣った言葉をかける。
  どうやら黙りこくってしまった二人を見て、自分がくだらない事を言
 ったから気にしてしまったと思ったらしい。

「・・・・・・・・・・ふ〜〜っ。涼、手を出してっ。ほらっっ!」
  優はポケットを探ると、何かを取り出し桑古木に放る。
「おっと! なんだ?」
  チャリッ、と音が鳴るそれを受け止め、見るとそれは車のキーだっ
 た。
「私の、セブン(RX-7)キーよ。駐車場にある白いFCだから。それ、使
っていいわ。」
「―――え?マジでいいのかよ?」  
  意外な優の申し出に心底驚く桑古木。

「桑古木。・・・・今週の土曜日、ココが遊びに来る予定だったの。暇な
ら遊びにいらっしゃい。夕食ごちそうするから。」
  今度はつぐみからの気遣いに耳を疑う。
「――――え?いいの?行く!絶対に行くぜ。あ、となるとココを迎え
に行ってそのまま一緒ってのもアリか――――(ニマ〜〜♪)」
  普段、ココと会う機会があまりない桑古木にとって、これ以上ない
 くらいに嬉しい申し出だった。  

「・・・・なんか悪いな。俺が変な事言った所為で気を使わせちまったみ
たいでさ。」
「・・・・・・・・・・い、いいのよ。(ギクっ)」
「そ、そうよ〜。全然気にしてないから涼も深く考えないでね。(ギクっ)」
  言う事は優しいが、絶対に桑古木と目を合わそうとしない女性二人。

「そっか・・・・・じゃあ、午後からまた仕事だから。またな。」
  と、やって来た時とは別人の様に満ち足りた顔で部屋を出て行く桑
 古木。

   ――――― バタンッ!

  ドアが閉まってから、つぐみと優はこう呟いた。
「・・・・・・・・・・気をつけるのよ。(汗)」
「ま、まあ何があっても明日には元気よ。こういう時、キュレイって便利
ね。(苦笑)」
  つぐみと優はそんな彼に感謝し、無事を心から祈りつつ見送った。
  そして今日の事は忘れようと、無言で頷きあった。



  果たして今、桑古木の身に起こっているのが本当に幸せなのか、
  それとも実は”シワヨセ≠ネのか。

  それは誰にも分らないし、永遠に答えはでないだろう。


「な〜んだ。なんだかんだいって俺って結構しあわせじゃん。」
  とりあえず、気分は幸せな桑古木涼権だった。



 
           『 あとがき  』

  何故か私は、自分のEver17SSの原点に立ち戻ろうとすると
 絶対に悲惨な桑古木に落ち着くんですよね。(汗)
  不幸がデフォルトとは誰が言った言葉でしたっけ・・・・・
  ――――― あ、私だ。(オイオイ)

 
  BGM: 「メリッサ」 ポルノグラフィティ


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