【 すとりーと おぶ ふぁいやー 】
                              かぱちゃぱ





  日曜日の田中家。
「ふ〜ん♪ふ〜〜〜ん♪」
  キッチンで軽やかに鼻歌を歌いながら紅茶ポットとケー
 キを用意するのは優春だ。

  今日はホクトが優秋から勉強を教わると言う名目で遊
 びに来ているのだった。
「そろそろ・・・・あの二人キスくらいはしたのかしらね〜。」

  理解ある親を自負する優春は、この初々しいカップル
 を応援、もとい面白がっているのだ。
  そして今もオヤツの差し入れと称して、込み上げる笑顔
 を噛み殺しつつ、からかいに行こうとしていた。

「よ〜しっ。それじゃ行きますか。(ニヤリ)」
  二人分のお茶の用意が出来ると、トレイに乗せ、なるべ
 く足音を忍ばせながら娘の部屋へ向かう。

  ゆっくりと部屋の前に立つ優春。
「・・・・・あら? やけに静かね。あ、ひょっとして♪ナニかし
てるのかな〜〜?(ニヤ)」
  などと、想像しつつも乱入する事に変わりは無く。
  むしろチャンスとばかりにノックをする。

  コンコンッ♪

  そして、期待に弾んだ声で言った。
「―――優。オヤツ持ってきてあげたわよ〜〜♪」
「お、お母さん? ・・・・・・・・うん。いいよ、入ってきて。」
  室内からゴソゴソと音がし、そのしばしの間の後、母親
 に入る事を承諾する優秋。

「(おおっ?! これはもしかして・・・・・・・)」
  よからぬ事に想像を巡らす優春。

  ガチャッ、

「シー―――――っ。静かに。」
  ドアを開け、中に入る母親に優秋は口に指をあて”お静
 かに”のサインを送る。
「―――――? な、何よ?・・・・・・あ、なるほどね。」
  優秋の視線の先を一目見て、納得する優春。


「・・・・・・スー―――、  スー――――、スー――――」  
  同じ顔の女性二人の見ている中で、小柄な少年が安ら
 かな表情で寝息を立てていた。


「夕べ、今日の予習で殆ど徹夜だったんだって。」
  優秋が困ったような照れた顔で言う。
「予習って・・・律儀な子ね〜。今日の勉強会だって言ってみ
ればアンタに逢う為の名目でしょうに。」
  呆れつつも、暖かい目でホクトを見詰める優春。

「フフっ。なんか起こすのがもったいなくってね。」
  優秋は肘をついたまま腕を伸ばし、可愛らしい顔にかか
 った前髪をその白い指で払ってあげた。
「―――で、アンタはずっと見てた訳だ。まったく、私の娘に
しては不甲斐ない・・・・・・・(苦笑)」
  と、残念そうにいいながら、参考書が乗った小型テーブル
 の上の開いたスペースにトレイを置き、優春はカーペットに
 腰を降ろす。



  そして、暫らく二人をジッとホクトの寝顔を眺めていた。



「この子・・・・・・綺麗な顔してるわね。流石は倉成とつぐみの
子だわ。(ウンウン)」
  頷きつつ、素直な感想をポツリと言う優春。

  その端正な顔立ちは、パーツパーツは武に似ていたが全
 体のバランス、というかシャープな造りはつぐみ似だった。
  少年期特有の線の細さも相まって、全体的に中世的なイ
 メージが色濃い印象が強いのだ。
  逆に沙羅の顔は、武の柔らかさを受け継いだのだろう。

「可愛いわね〜。こういうのを見てると・・・・・・・昔の血が騒ぐわ。」
  優春が悪戯っぽい表情で明らかに妙な発言をした。 
「――――うん、そうね・・・・って、 お母さん?今なんて言った?」
  なにやら不穏当な母親の言葉に、フと我に帰る優秋。


「優・・・・ちょっと見ててね。絶対に起こさないように。」
「お、お母さん?何をする気よ――――?」
  何を思い付いたのか、娘の声を無視し、興奮気味に立ち
 上がり、足早に、かつ足音も立てずに部屋を出て行く優春。




「スー――――、スー―――――、スー――――― 」
  周りの騒動も気付かず、いまだ静かな寝息のホクト。




  シュター――――ンッッ!
「お・ま・た・せっ♪」
「――――わっ!?早っっ!!(汗)」
  加速装置もかくやとばかりのスピードで、戻ってきた優春。
  しかも小箱を小脇に抱えて。
「シー――――。」
「へ?・・・・・・ああ。」 
  不覚にもビックリしてし声をあげた優秋に、今度は優春が
 ”お静か”にのサインを送る。


  優春はホクトに前に小箱を置くと、中から次々と化粧品を
 取り出す。
「・・・・・・・何をするつもりよ。(汗)」
  目の前で奇行を続ける母親へ質問をぶつける優秋。
「いや・・・ね。この子、化粧栄えするだろうな〜〜〜って思った
のよ。」
「思ったのって・・・・・・ま、まさか?(汗)」
  信じられないものを見る様な娘の視線も構わず、テキパキ
 と準備を続ける。

「昔・・・・・そう、私が優と同じ年だった頃ね。私、ボー○ズラブ
にハマってたのよ。」
  突然始まった母親のカミングアウトに眉を顰める娘。
  しかも、何処に突っ込んだらいいか分らない。
「・・・・・・ちょっと?その頃ってもう私が生まれてた時じゃない
のよっ!?」
「それでね、あの頃は生で美青年と女装美少年の絡みを見る
のが夢だったのよね〜〜〜。(ウットリ)」
  幼い娘の相手をしながらボー○ズラブ系を読みふける自分
 と同じ顔の母親を想像して泣きたくなった優秋。

「と、とにかく、バカな事は止めてよねっっ!」
  優秋が止めさせようとした時、優春は一言こういった。
「・・・・・・・・・・見たくないの?(ニヤリ)」
「うっ?!そ、それは・・・・・・・・・・・・・・・(ギクリ)」
  流石は遺伝子レベルまで瓜二つの二人。その一言で、ピタリ
 と優秋の手が止まる。
  何故か逆らいがたい誘惑に戸惑う優秋が見守る中、優春は
 娘のボーイフレンドの顔にファンデーションを塗り終わっており、
 次に作業に移っていた。
「ここは・・・・・うん、この色で・・・・・・よし!こっちは・・・・・・」




「スー―――――――――、スー―――――――――――、」
  こんなやり取りがあってもホクトは目を醒まさなかった。




  メイク作業はホクトが途中で起きないように細心の注意を払
 って続けられる。
  オペ中のブラックジャックもかくやの緊張感だ。
  しかし優春のノリも、化粧のノリも実にテンポは良い。
「ここはこの色で・・・・・いいわいいわ〜〜♪次は・・・・・」
「あ、あは・・・あははは・・・・・・・どうしよ。(汗)」
  もはや母親の凶行を止める時期を逸した優秋は、ただ事の
 成り行きを見守るしかなかった。

「よ〜しよしっ♪これで、最後にぃ、かつらを被せて・・出来た♪」
  パサッと、黒いセミロングのウイッグを被せる。
  するとそこにはつぐみや沙羅と似て非なる少女がいた。

「か、完璧だわ♪ ほらほら見なさいよ優〜。可愛いわね〜〜。」
  服装も男女の区別の無い大きめのトレーナーとカジュアルパ
 ンツなのでもう女の子にしか見えなかった。
  しかも素材の良さに優春のメイクの腕の見事さも相まって、相
 当レベルの高い美少女である。
「あはは・・・あははははははははは・・・・・・・・・・・・(大汗)」
  ボーイフレンドをここまでされて、情けないんだか何やら分ら
 ない優秋の張り付いた笑顔での乾いた笑い声が室内に響く。



「あ、そうだっ!カメラカメラっ、カメラは何処だっけ・・・・・」
「あははは・・・・・・ ちょっとマテやコラ、お母さん。(ギロリ)」
  このホクトの姿を残そうとカメラをとりに席を立つ母親を追い
 かけ、ドスの利いた声で廊下に引き止める優秋。
「何よ?今急いでるから後でね―――――」
「だ〜か〜ら、待てといってるんでしょうが!しばくぞコラ!(怒)」
  優秋は、コメカミの辺りをヒクつかせつつ、無視して行こうと
 する優春をなおも引き止める。

「なんて口の利き方なのかしら・・・・お母さん悲しいわ。」
  ワザとらしく顔を手で覆う優春。もちろん泣きまねだ。
「泣きたいのは私の方よ!どーすんのよ、アレ!!」
  こっちはというと、乱暴な語気とは裏腹に、本当に泣きそうな
 顔だった。

「――――さあ? とりあえず写真をとるのが先決でしょうが!」
「アンタね〜!こんな事しててホクトが起きたらどうするのよ!」
  思考回路にメルヘンが入っている今の優春には優秋の説得
 など利く筈も無く・・・・・・・・
「ふあぁ〜〜。ちょっと忘れ物をとりに行ってくるね・・・・・。」
  なおも不毛な言い争いが続く二人の前を誰かが通って行った
 のに彼女達が気付くのには少しの間が必要だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いま、誰かそこを通らなかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気のせい・・じゃ・・ない・わよね?」
  事の急展開に、呆然と佇む二人の優。



          §        §



  優秋がいない部屋で転寝から目が醒めたホクトは、勉強会
 で寝てしまった事のみっとも無さに激しく後悔した。
  そして、眠気覚ましと照れ隠しも兼ねて、ちょうど足りなかった
 ルーズリーフを買う為にコンビニに向ったのだ。

「う〜〜〜、日差しが目に染みるな・・・・・・」
  徹夜明けに半端な寝方での睡眠で、いまだにボーっとしてい
 るホクト。

  田中家は駅から近い、立地条件のいい所にあるので駅前商
 店街は歩いてすぐだった。
  眠い目を堪えながら人の流れを見ていると、見知った顔が見
 えた。
「―――あれ? お父・・・・さん?」
  見間違う事などある筈もない。ホクトの父親である武が向こう
 側からちょうどホクトの方に歩いていた。
  見ると武は手に買い物袋を持っていた。多分、買い物ついで
 に本屋でも回っているのだろう。

「おとうさ〜〜〜んっ!」
  自分がいる事に気が付いていない武に手を振って声をかけ
 るホクト。

  しかし、武は目の前のホクトに無視し、そのまま脇を通り過ぎ
 ていった。
「―――――え?(呆然)」
  大好きな父親に無視され、あまり事に愕然とした。
  そしてすぐ思い直す。武が自分無視するはずが無い、と。
  そうなると、答えはひとつ。
「そんな?・・・・・僕が・・・・・・・分らなかったの?」
  まるで違う世界に紛れ込んでしまった恐怖に襲われてその場
 に立ち尽くすホクト。
           ・
           ・
           ・
           ・
           ・
  凄く長く感じた一瞬の後、ホクトはそんな不安を振り切るように
 通り過ぎていく武を追う。
「待って!待ってよっ!!お父さんっっ!!!」
  息を弾ませ、ホクトは縋りつくように武の袖を掴み、叫んだ。

「――――――っ!? な、なんだ?・・・・・ん?」
  不意に強く袖を掴まれた武はよろけながら振り返る。
  そして怪訝な表情で自分に縋りつく、目の前の小柄な少女を
 見詰める。

「お父さん・・・・分らないの?僕だよ!・・・・おとうさぁん。(涙)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、ホクト・・・・・・か?(眉間にシワ)」
  暫らくの繍順の後、武はホクトの名を呼んだ。
  安心からフッと、ホクトの身体から力が抜け、半ば倒れるよう
 に武の胸に顔を埋める。


「よかった・・・・・・・。お父さんが僕の事を分らなくなっちゃったか
と思って・・・・僕・・・・・僕・・・・・・・」
「ああ・・・すまんな、ホクト。俺も修業が足りんかったって事で、許
してくれい。しかし・・・・お前も中々やるな。」
  何故だか嬉しそうに二コっと笑うと、人目もはばからず父親の
 胸に抱き付く息子を安心させる為ポンポンっと軽く背中を叩いて
 やる武。

「修業? なんのことなの? それに、どうしてお父さんはさっき、
僕が分らなかったの?」
  落ち着いてきたホクトが顔をあげ、不思議そうに聞いて来た。
「どうしてって・・・・・・お前、俺にそう聞くか?」
  むしろ俺の方が知りたいとばかりの武の言葉に益々首を傾げ
 るホクト。
「――――え? それって・・・・・どう言う事?」
「・・・・・・・・まあ、とりあえずこっち来いや。」
  そう言って武はホクトを手招きし、近くのベーカリーのショウウイ
 ンドウを覗かせた。

「見てみろ。・・・・・・・・・で、どうだ?」
「お父さん。僕は別にお腹なんか減ってない・・・・・・・・・・・・・・え?」
  ホクトは見た。ガラスに映った武の横にショウウインドウを覗い
 ている髪の長い何処と無くつぐみに似た少女の姿を。
           ・
           ・
           ・
           ・
           ・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な?! こ、これって?」
  顔を撫でてみる。ガラスに映りこんだ薄化粧の美少女は寸分違
 わず自分と同じ動きをした。

  
「お前、確か今日は優の家に行ってたんだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・う、うん。」
  武の質問に力無く返事をする少女の格好をした少年。
「なるほどな〜〜。つまりは・・・・・そういうこった。(苦笑)」
  ポンポンっと、息子の肩を叩く武。
「・・・・・・・・・・・・・う、うう、ううううううう――――――(ピキピキッ)」
  俯きつつ、小刻みに震えるホクト。その表情は見えないが笑っ
 ていないのは確かだ。

  そして・・・・・ホクトはキレた。

「お、おい?・・・・・ホクト?――――わっっ!?」
  顔を上げたホクトの形相に思わずビクっとする武。
「―――――優・・・・・・許せないっっ!!(怒)」
  ホクトは本気で怒っていた。その貌は、怒った時のつぐみに
 酷似した鬼の形相。
  そして、怒りの勢いそのままに優の家に殴りこもうとしていた。
  慌ててホクトを宥めようとする武。
「ホ、ホクト? おい、待てって。」
「―――――放してよっっ!(ギロリ)」
  先ほどの父親の胸に顔を埋めていた弱々しさは何処へやら、
 掴まれた腕を強引に振り解いた。
  ホクトは完全にマジギレしていた。こんなになったホクトを見た
 のは初めての武。

「(そういや涼権が、マジギレしたホクトはつぐみそっくりで、えらく
怖かったって言ってたっけな〜。)」
  今更ながら、武はその事に納得する。

「こんな事されて!知らないでこんな人の多い所にこんな格好で
歩いて・・・・・・(大激怒)」
  更に怒りのボルテージが上がる。
  武なら洒落か冗談で済ませられるだろうが、根が真面目な
 ホクトにはそんな思考回路はなかった。
「OK、ホクト!時に落ち着け、な?」
「・・・オマケに・・・・お父さん・・・・お父さんに・・・・・・・(超激怒)」
  情けなくて、悔しくて、目に涙が滲んでくる。
  確かに肉親に女装姿で街中を歩いている所を見られたらショ
 ックだろう。
  ていうか、パターンとしては最悪だ。


「まあったく・・・・・大丈夫だって。なぁホクト、ほらっ。」
「え?―――お、お父さん?」
  武にイキナリ抱き締められて驚くホクト。
  しかも街中なので、道行く人がチラチラと二人を見ている。
  傍目から見れば、二人は大学生と高校生のカップルにしか
 思われなかった。
  誰も抱き合ってるのが父と息子だとは想像もしないだろう。
  そして当の本人である武とホクトも自分達がどう見えている
 かは気付いていなかった。(オイオイ)

「俺はな。例えお前がキングアラジンの格好してようが何処でだ
ってこうしてやるよ。」
「あ・・・・・・・・・・・・・」
  武は何があってもホクトを受け止めてやると言っているのだ。
  何も心配する事は無いのだと。
「それに子供ってのは思いっきりこれくらいのバカやって、親を
笑わしてくれた方が有り難味があるってもんだぜいっ。」
「もう・・・・・・バカってのは酷いよ。別に僕は好きで――――」
  何だかんだ言いつつ、自分を理解してくれる父親がいる事が
 とても幸せに感じられた。
  そして、こうして抱きすくめられると、とても心が安らいだ。
  ホクトは、沙羅がいっつも武に抱き付く心境が理解でき、そん
 な妹を少し、羨ましく思った。


  道行く人もこの和やかな雰囲気を読んで、二人を変に受け取
 らずに、自然に通り過ぎて行った。

  この瞬間までは――――


「ああ―――――――っ!?(は〜と)」
「ああ―――――――っ!?(驚愕)」
  そんな二人の耳に、微妙にニュアンスの違う同じ声が聞こえ
 てきた。
  いつの間にか、目の前に優春と優秋が立っていたのだ。
「な、なんだ?―――って、お前らかい。(眉間にシワ)」
「・・・・・・・・・・・・・優?!(怒) 」

  事の元凶の登場である。どうやらホクトの後を追って来たらし
 い。
  収まった筈の怒りが、また込み上げてくるホクト。

「こここ・・・・これはどういう事なのかしら?(は〜と)」
「こここ・・・・これはどういう事なのかしら?(愕然)」
  またも見事にハモる田中母娘。
  抱き合う武と女装したホクトを見て、優春は実に嬉しそうだ。
  それに対して優秋は激しくカルチャーショックを受けた様子。

「くっっ!!どうもこうも―――――っ!!(大激怒)」
「まあまあ。どうって・・・・・・・ほれ、見ての通りだが?」
  お前らの所為で暴れるホクトを取り押さえて宥めてるんだと
 いう含みで、武は至極自然にそう言う。

「ってことは・・・・・・そう・・・・なの?(は〜と)」
「ってことは・・・・・・そう・・・・なの?(唖然)」
  しかし、目の前の母娘は違い意味で受け止めたようだった。
  それがホクトには、またからかわれたみたいに聞こえた。
「なんだよ!僕にこんな事しといてその態度はっっ!!バカに
してるのかよ!」
  そんな優春と優秋の態度に怒りが収まらないホクト。
  抱き寄せる形でなんとかホクトを押さえ込もうとする武を小
 柄な体格に反した凄いパワーでズルズルと引きずる。
「―――なあ!?おいホクト、落ち着けっ。ほら周りを見ろって。」
  そして、自分達の周りを見ろと促す武。
「周りって・・・・・・・・・え?」
 
  気が付けば、彼らを取り巻くように見物人が増えていた。
  まあ、結構な大学生風の男前に、まだ幼い美少女が縋り
 つく場面から始まり、言い争いの後、和やかなラブシーンを経
 て今度は2人の見目麗しい女性が現れて、また修羅場。
  おまけに美少女は現在、荒々しくマジギレだ。
  これでは人が寄り付かない訳が無い。

『ねぇねぇ。あの中学生くらいの娘、騙されてたのかしら?』
『仲直りしそうだったのにな〜。ここに来て更に2人が乱入か。』
『じゃああの男は3股だったの?ひど〜〜いっ!』
『なんだなんだ?ドラマの収録か何かか?』


  好奇の視線にサー――っと、ホクトの頭が冷えてきた。
  ここに至ってようやく自分の置かれた状況が理解できたようだ。
  このまま人が集まってきて、もし万が一、学校の友人にでもこ
 の姿を見られたら、そりゃあもう大変だ。
「ど、どうしよう。」
  助けを求めるように父親の顔を見上げるホクト。その不安げな
 仕草がまた愛らしく注目を集めていたりするのだが・・・・・
  
「どうするって・・・・・・・・・・・・・・・・・・フッ、そうだ・・・な。(ニヤリ)」  
「―――――え?お、お父さん?(汗)」
  その時、ホクトは武の雰囲気が変わった事に気付く。
  更に最悪のパターン。武の芸人根性に火が着いたのだ。
  まあ当然と言えばこれも当然の事である。
「そう・・・見ての通り、こういう事だったのさっ!愛してるぜっ!!」

   ガバッッ―――

  そう言って、優たちの目の前で、芝居がかった動作でホクトを
 きつく抱き締める武。
「お、おおおおお父さん――――っっ!?(超赤面)」
  ホクトの抗議をかき消すように、辺りからオオー―――ッ、と
 の歓声があがる。

「キャアッッ♪ じゃあ、やっぱり〜〜〜〜っっ♪(は〜と)」
「キャアッッ? じゃあ、やっぱり――――っっ!(呆然)」
  今度も黄色い声が完全にシンクロした。

  ほんの僅かな時間の間に一体何があったのか。
「――――倉成とホクトが路上でラブラブ?ああ・・・まさかこん
な事になるなんて。これは夢かしら?(涙)」  
  経緯はともかく、目の前にある現実は過酷だった。
  実は勘違いなのもいい所なのだが、生憎と優秋は頭がテン
 パっていた。
「ああ・・・見たかったのよ、こういうシチュエーションが♪これは
夢じゃないわよねぇ♪(は〜と)」
  夢見る表情でご満悦の母親にカチンと来た優秋。
「ちょっと、お母さん? お母さんだって倉成の事好きなくせに
アレを見てなんでそんなに喜んでいられるのよ!?」
「バカねぇ。恋愛とボー○ズラブは別腹なのよ。むしろわたし的
にはこの組み合わせはOKだわっ♪グッドよっっ♪」
「よく考えれば、み〜〜〜んなアンタの所為じゃない!!!」
「フッ・・・フフッ・・・・素敵よ。倉成ぃ。あうっ!あううっ!!」
  娘に襟首を掴まれ、ガクガク振り回されながらも、笑顔の途
 切れない優春。

  ボー○ズラブとは、誠に業の深いものである・・・・・・


  さて、倉成親子はと言うと・・・・・
「おとうさん〜〜〜。何てことするんだよ〜〜〜〜〜。(涙)」
「あ〜〜、いや済まん。この状況が実に美味しくて、つい・・・・」
  あまり事に本当に泣いてしまったホクト。しかもマジ泣きだ。

  LeMUでは救いとなった芸人根性も業の深いものだった。



  落ちがついたと見た観衆から拍手が巻き起こる。
『あ〜〜。面白かった。これって何時TVで放送されるのかな?』
『いやいや、いいもん見たな〜〜。』
『これからも頑張ってくださいね〜。』
『お代はこの缶の中でいいのか?』
  結果、ギャラリーたちは路上パフォーマンスか何かという事
 で納得したようだった。



          §        §



  また、人波が動き始まる中、佇む4人も、とりあえず帰ること
 にした。
  もちろんホクトはこの格好のまま帰るわけには行かないので
 優たちと一緒に田中家に行く事になるのだが・・・・・・・
  道中、すっごく気まずいのだった。
「あ〜〜、ねえホクト・・・・・ ゴメン・・・ね?」
「・・・・・・・・もういいよ。どうでも・・・・・・・。(ガックリ)」
  只々、疲れ果て、肩を落として歩く優秋とホクト。

  それに対し、二人の親たちは元気で満足げだった。
「楽しませてもらったわよ、倉成♪(ニヤリ)」
「あっはっはっ。なんか知らんが俺も面白かったぜい♪(ニヤリ)」

「あ、あんたたちね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!(大激怒)」  
  この会話にキレた優秋によって更に路上で一悶着あったの
 だが、それはまた別の話・・・・・・・・・



         【 あとがき 】

  目の前にいるホクトを武が気付かないというシチュエーションは
 かなり前から考えてたネタなんですが、いい設定が中々思いつか
 なかったんですよ。
  なんとか形にしたくて色々考えてみた結果、思いついたのは
 ホクトの女装でした〜。(オイ)
  自分でもなんだか分らないものになってしまい・・・(オイオイ)
 

 BGM 『Tonight Is What It Means To Be Young。』 by(Fire Inc.)


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