【 倉成武の青春白書 熱血編 】
                              かぱちゃぱ




  2017年 LeMU事故少し前の緑川教授宅。

『わぁー――――ッッ!!?』
  ドカッ! バサバサッッ―――  ドサッ、

  男性の凄まじい悲鳴と共に、何か大きな物が倒れ
 る物音が家中に響いた。

「な、なんだ?どうしたってんだ!?」
  武は慌てて廊下へ飛び出すと、物音のした部屋へ
 駆けつけた。

  物音は緑川教授の書斎からだった。
「この部屋・・・・・。教授?緑川教授っ!?」
  声をかけたが中から返事は聞こえない。
  嫌な予感が武を襲う。
  
    ガチャッ
  ドアには鍵は掛かってはおらず、スッと開いた。

「教授? ・・・・・教授・・・・・なっっ―――――?!」
  鼻をついたのは血の匂い。そしてその目に飛び込
 んできた光景に愕然とする。
  武が見たものは、散らかった室内。そして頭から血
 を流し、力無く倒れた恩師、緑川教授の姿だった。

「教授っっ! どうしたんだよ、緑川教授っっ!!」
  武は緑川を抱き起こし声をかけるが死んだようにピ
 クリとも動かない。
「ちくしょうっ! ・・・・・一体何が?」

  その時――――――

「キャー―――ッッ!?」

  若い女性の悲鳴があがった。

「瑠璃子?」
  武が首を後ろに向けると、そこには緑川教授の一人
 娘の瑠璃子が呆然とこちらを見ていた。

「そ、そんな・・・・武さんが・・・・・お父様を?嘘・・・・・」
  信じられないものを見た様子で顔を覆い、後ずさる瑠
 璃子。
「ち、違う!誤解だ。俺は・・・・・違うんだよ!」
  武は必死に訴えるが、瑠璃子は疑いの目を恋人であ
 る男に向けたままだった。



           §        §




『ちがう・・・・・瑠璃子・・・・・・・違うんだ・・俺は・・・俺は』
           ・
           ・
           ・
           ・
「―――武・・・・・たけし? しっかりして!武っっ!」
  段々とハッキリしていく意識の中、自分を呼ぶ声が聞
 こえて来る。

  重いまぶたを開けるとそこは武とつぐみの寝室だった。

「・・・・・・・大丈夫?すごくうなされてたのよ。」
  自分を心配そうに覗き込む黒の夜着姿の少女。
「・・・・・・・・・・・・つぐみ? ああ、つぐみ・・・おはようさん。
今朝も綺麗だぜい。」
  武はいつもの調子で自分の妻に挨拶をする。
「馬鹿、まだ夜中の3時よ。・・・・・・・・すごい汗。」
  そう言って枕もとのタオルで武の額を拭ってあげた。

「・・・・・悪い夢を見たの?」
「ああ・・・・・昔の・・・・夢を見たんだ。」
  武は天井を見上げてポツリという。
「寝言で・・・・・・瑠璃子って女の人を呼び続けたわ。」
「へ、そ、そうか・・・・。そんな事まで言ってたか。」  
  海の底でずっと眠っていた武の事。
  既に17年は経っているのだから終わった過去の話なの
 は分っていた。
  だが、やはり武の口から女性の名前が出たのが気に
 なるのだろう。

「・・・・・・・・・あ、もしかしてお前?(ニヤ)」
「ち、違うわよ。別に気になんかなって―――――(赤面)」
  と、顔を赤らめて否定するつぐみ。恋愛ごとに疎く、ち
 ょっと拗ねた所が実に可愛らしい。


「・・・瑠璃子ってのは俺の大学時代の先生の一人娘でな。
その縁で受験の時は勉強をみてやったりして・・・・・・」 
「・・・・・・・・・・付き合ってたのね?その人と。」
「ああ・・・・・・・・・ でも別れた。」
「今の夢、その別れた理由と関係・・・・・・・あるの?」
  少し考え込んだ後、武はこう言った。
「聞いて・・・・・・・・・くれるか?」
「うん・・・・・・・・・・」
  つぐみは寄り添うように武のとなりに身体を横たえた。




「あれは俺が教授の家に呼ばれた日の夜だった。突然、
教授の悲鳴と物音がして・・・・俺が駆けつけた時には教
授は頭から血を流して倒れてたんだ。」

  その肩に手を回し、武にとってはついこの間の、そし
 て既に過ぎ去った昔の話を始めた。

「俺が血まみれの教授を抱き起こした時、ちょうど瑠璃子
が入ってきて・・・な。」

  ここでさっきの武の寝言が繋がった。
  もちろんつぐみは武が犯人なんて思わない。
  しかし武はその時、心を許した女性に疑われたのだ。
  その気持ちがつぐみには痛いほどに分った。 

「・・・・・・・・・・・武が犯人と勘違いされた・・・のね。」
  傷ついた心を暖めてあげる様に、そっと武の胸に顔
 を埋めるつぐみ。  

「――――いや。問題はそこじゃないんだ。」
  それまでの流れを断ち切る武の発言にとまどうつぐみ。
  思わず顔をあげて武を怪訝な顔で見詰める。
「――――? それ、どういう事なの?」
「ああ。そん時、俺さ。ちょうど風呂に入ってて駆けつけ
た時は腰にタオル巻いただけだったんだな。」

  そう。あの時、瑠璃子が見たものはタオル一枚巻いた
 裸の武に抱かれた父親の姿だったのだ。
  自分の恋人と父親がそんなシチュエーションで目の前
 に現れたら、それはショックだろう。当然。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(眉間にシワ)」
  予想だにしかった話の展開に言葉もでないつぐみ。

「教授は落ちてきた辞書に頭打って起きてくんないし、瑠
璃子は勘違いしっぱなしで、ありゃあ今、思い出しても悪
夢のような出来事だったぜい。・・・・・・・あれ?つぐみ?」
  ふと気が付くと、つぐみは背を向け布団に潜りこんで
 いた。
「お〜〜い、つぐみ? 聞いてんのかコラ?」
  つぐみは顔を見せないように一言つぶやいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿。」

  かくて武の苦い青春の一ページが明らかになった。  
  ちなみにこの話を後日、優に聞かせた所、思いのほ
 か受けまくったとか。  




         【 あとがき 】

 分る人には分るネタですね〜。
 ”タケシ”ときたら緑川教授。瑠璃子。あとは”おやっさん”
がいれば完璧!
 


/ TOP  / BBS /  








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送