【 ばじりすく −松永忍法帖− 】
                              かぱちゃぱ




  まだ沙羅が鳩鳴館女子に入学間もない頃のハッキング
 同好会の部室での事。

  優、部長、沙羅の3人は特にやる事もないので、持ち寄
 ったお菓子を摘みつつ雑談に花を咲かせていた。

「・・・・・ねえ。マヨってさ。どうして忍者にこだわってんの?」
  ふと、以前からの疑問を唐突に聞いて来る優。

      ピクっ。

  その質問に沙羅はお菓子を摘む手を止める。
「いつか・・・そう、いつかはその質問が来ると思ってたでゴ
ザルよ。(ニヤリ)」
「ということは・・・・・・何か・・・あるのね?」
  やけに勿体ぶった、そして何かありげな口ぶりの沙羅
 に期待の眼差しを向ける優。。

「・・・・・・・まさかそれって、単なる山田風太郎のファンとかっ
てオチじゃないわよね?(チラリ)」
「と、当然でござる。実は拙者、この両の眼に正真正銘の人
ならざる力を秘めているのでござるよ。」
  と、一瞬ギクリとしつつ部長の突っ込みをかわす沙羅。


  さて、こういう話になると否が負うにも忍者小説よろしくの
 人外の業と称えられる程の術が使えるのを期待してしまう
 優と部長。 

  優も部長も、既に沙羅の生い立ちから現在に至る経緯を
 沙羅本人から知らされていたし、それと同時にハーフキュレ
 イとしての人並みはずれた能力も承知していた。
  それでいて尚、彼女達は沙羅の理解者であり味方なのだ。
  理由はひとつ。一緒に居ると面白いから。
  かくして、優の行動力に沙羅の能力を加えた事により数々
 の伝説(悪行)が生まれるのだが、これは別の話。

  彼女達にすれば沙羅の人並みはずれた能力も暇つぶし
 の隠し芸みたいなモノなのだった。 


「目に秘めた超常の力・・・・・・それってあれみたいね。見た
ものを石に変えるっていう・・・・・・ほら、なんだっけ・・・・・・そ
うよっ! ”アラベスク”!」
「先輩。・・・・・それを言うなら”バジリスク”ですよ。」

  部長の素早い突っ込みをモロに喰らい、気まずい空気
 が部室内を流れる。


「ちょ、ちょっとした間違いよっ!で、それってどんななの?」
  顔を赤くしながら慌てて話を沙羅に振る優秋。

「フっ・・・、その術の名は。そう、人読んで”猫目瞳術”!!」

  腕を組み、得意満面な顔の沙羅を余所に、神妙な表情で
 顔を見合わせる2人の先輩。

「猫・・・・目?」
「ねえ、それって・・・もしかして暗い中でも見えるって事?」
「如何にも!これこそ拙者に流れる特異な血の成せる・・・・
・・・・って、なんで盛りさがってるでゴザルか〜〜〜!(涙)」
  気が付くと、優たちの興味は既に自慢げに忍術を説明す
 る沙羅から目の前のお菓子に移っていた。

「へ? だって〜〜。夜目が利くなんて忍法というにはあまり
にもありきたりだもん。」
  ポテチをくわえながら文句を言う優秋。
「そうよね。私てっきり相手の正体を見極める外道照射光線
くらいは使えると思ったのに。」
  と言いつつ、”ば〜れ〜た〜か〜”の身振りをする部長。
  ・・・・・・・・・ていうか、それ忍者と関係ないし。

「そ、それはそうだけど・・・・・・。でもほら!拙者の目は赤外
線視力と言ってハーフキュレイならではの極めて特殊な・・・」
「赤外線?・・・それって寒い時、ホッカイロの代わりになる?」
  とにかく突っ込み絶好調の部長。
「ううん・・・・・それは・・・さすがに・・・・・熱線は・・・(汗)」
  言いよどむ沙羅。
  こればっかりは根性ではどうしようもない。
「う〜〜ん。結局の所はコタツ以下ってところね。マヨ、あなた
修業が足りなくてよ。と言う訳で・・・・・却下!(ビシッ)」
「ええ〜〜〜。ガクっ。(涙)」
  かくて優から手痛い駄目出しを喰らった沙羅であった。




           §        §



  さて、時は変わって2034年の倉成家。


  蝋燭が一本灯る、仄暗い薄明かりの部屋の中。
  そこには目を閉じて瞑想する武と、それを見守るホクトと
 沙羅の正座する姿があった。

「・・・・・・・・では、始めるでござる。」
  少女の合図に、ゆっくりと目を開けていく武。

    ヒュィィィィィィィ――――――

  見開いた武のその目の隙間からは、まるで蝋燭の光を吸
 い込んだような灯が宿っていた。


「・・・・・・・・どう? 」
「フ、フフフ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ニヤリ)」
  ホクトの問いに武は不敵に笑って見せた。
「・・・・・見える。見えるぜ。この部屋全部。それにお前達の表
情も着てるものの柄も全部・・・な。」
  そう。今の武の目には暗いはずの部屋の総てが昼間のよ
 うに見えていたのだ。

「やった〜〜♪ それが松永忍法”猫目瞳術”でござるよ!!」
  嬉しそうな声で何やら大層な呼び名を読み上げる沙羅。

  まあ、ようするにキュレイの赤外線視力である。



  はてさて、事の始まりは遡る事、一時間前。
  沙羅の部屋でのちょっとした会話の中で例のペンダントが
 出て来た時の武に一言だった。

「なあ。そのペンダントに俺の顔が写ってたんだってな?」
「・・・そうだよ。今のパパと同じ・・・そのまんまの顔。だからパ
パに逢えた時、すっごく嬉しかったんだ。・・・・ずっと逢いたか
ったから。」
  と実に可愛い事を言ってくれる沙羅の頭をに思わず撫でる
 武。
「ええ娘だ。本当に沙羅はええ娘じゃのう。(ホロリ)」
「ふふふっ♪ パパぁ。(ゴロゴロ)」
「あ!ずるいぞ沙羅!僕だって・・・って。・・・・あれ?でもその
言い方だとお父さんもしかして。」
  いい雰囲気の二人にヤキモチを妬いたホクトは武の言葉
 に、フと何か気付いた。
「ああ。実はな。俺にはそのホログラフが見えてないんだよ。」

  などと今更ながら不思議そうなに武の言葉を受けて沙羅が
 こう言ったのだった。
「ならば拙者がパパに忍法を伝授してしんぜよう♪ニンニン♪」


  つぐみもホクトも沙羅も、当たり前に持っているこの能力だ
 が普段は意思で制御して使ってない。
  スイッチというかちょっとしたコツがあるのだが、目覚めた
 ばかりの武は自分の能力を使いきれていないのだった。



「ふ〜〜。結構コツを掴むのが大変だったけど・・・・・これって
面白いな〜〜〜〜♪」
「そうなんだ?僕も沙羅も生まれた時から自然に見えてたから
そう思った事はないな。」
  
「甘い!甘いでござるよ、倉成武っっ!!!」
  満足げな武を一喝する忍法の師である沙羅。

「実は、この瞳術にはまだ先があるのでござる。」
「――――ほう?」
「拙者が修業の末に辿り着いたそれは・・・・邪なる目、人呼ん
で”邪眼瞳術”!!」
「あ!!? ちょ、ちょっと沙羅? それは止めた方が・・・・・」
  慌てて止めに入るホクト。しかしそれが更に武の好奇心を
 煽る結果になった。

「何だ? それってそんなにヤバイ術なんかい?」
「え? いや・・・・その・・・・・何て言うか・・・・・・・・・(赤面)」
  その様子からホクトもその瞳術とやらを使えるという事は
 分るが、何故かモジモジと言いよどんでいる。
  そんな兄に代わって澄まし顔の沙羅が話を切り出した。

「邪眼瞳術とは即ち、敵が服の中に隠し持つモノをその目で
捉え戦いを有利に導く秘術なり!!」
「な、何ッッッ!!!? そ、それはまさかっっ!!!」
  思わず身を乗り出す武。

  ようするにそのまんま赤外線透視の事だった。
  まあ、他に説明の仕様が無いとは言え身も蓋もない。

「マ、マジか? そんな凄い事が出来るのか?おいホクト!」
  凄い勢いで息子を問い詰める武。
「う・・・・・うん。まあ、ね。」
  顔を紅くして照れながら頷く。
「ほほ〜〜。オイこら?お前・・・・これで可愛いクラスの女の
子の下着をチェックし放題か? この〜〜〜♪」
  恥ずかしがるホクトを小突きながらからかう武。
「僕は別にそんな事してないよ! ホントだってば〜〜。」
  必死に無実を主張するホクト。
「ホントかよ〜〜?でも優のは・・・・一回くらいは見た事あん
だろ?なあ?(ニヤリ)」
「お、お父さんってば〜〜〜。そんな事、絶対に優には言わ
ないでよ!お願いだから〜〜〜。(涙)」
  本気で焦るあたり、図星だったのだろう。まあ、男の子な
 んだから当然と言えば当然である。
  

「ようしっ!! 沙羅!!いや師匠っっ!!!」
  やる気満々の武。こうなると沙羅も師匠冥利に尽きると
 いうもの。
「さあ、パパ!特訓の再開でござるよ!さあさあ♪」
  おもむろにそう言うと、沙羅はベッドの上に移動するとそ
 のまま二人の前で寝転がる。
「フフッ。・・・・・・・・パパぁ。(はーと)」
  そしてミニスカートが捲くれるのも気にせず、色っぽくしな
 を作り、何やら悩ましげなポーズを決めていた。

  沙羅の奇行に思わず目が点になる武とホクト。

「・・・・・・・・・・・・で、俺にどうしろと?(汗)」
「もう、パパったらぁ。ほらほら〜〜。ちゃんと拙者に意識を
集中してよう。うふふっ。(はーと)」
  と、誘うように微笑む沙羅。
  つまり自分の下着を当ててみろと言う事なのだろう。
「ああ、なるほど。そういう事か。なら――――――」
  無防備に足を投げ出し、グラビアアイドルの様な際どい
 ポーズをとる娘の前に正座し、凛々しいまでの真剣な眼差
 しでそれを見詰める父親。
「沙羅〜〜〜。お父さん〜〜〜。なんだかな〜〜。(汗)」
  一種異様な光景に呆れるホクトを尻目に二人は真剣そ
 のものだった。
  もう二人の保護者役が板についてきたホクトはその場を
 離れる事も出来ずに見守るしかなかった。
           ・
           ・
           ・
  ――――――― 30分くらい経った頃。

「・・・・・・・・・う〜〜ん。やっぱ・・・沙羅じゃあ駄目だな。」
  そう呟くと、武は立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
「――――え?」
「――――あ、やっぱり。(ウンウン)」
  そしてそれを呆然と見送る沙羅。
  ホクトはこうなるだろうと予想していたようだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パパぁ?そ、そんな〜〜。(涙)」
  突然駄目だしを喰らいガクリと落ち込む沙羅。
「そりゃ・・まあ・・ね。そうだろうな〜〜〜。(苦笑)」
  いくら仲がいいとはいえ、武が沙羅に萌えを感じる筈も
 なく。
  邪眼瞳術に必要なのは文字道理、邪なる意識なのだ。


  となると、術の完成を求めた武が向った次なる修業の場
 とは―――――


           §        §


  ちょうどその時、つぐみはキッチンで夕飯の支度をしてい
 た。
  長い髪の後ろをゴムで纏め、沙羅の選んだ可愛らしいフ
 リル付きエプロンを着けたその姿は若奥様というよりは食
 事を作りに来てくれた初々しい恋人の様に見える。

「―――――? 」
  つぐみが後ろに気配を感じて振り返ると、武が真剣な顔
 で見詰めていた。
「 武・・・・どうしたの?」
「ん?ああ・・・気にすんな。只こうしてつぐみを見てるだけだ
からさ。」
  と真顔で言われても、気にならない訳が無い。

「・・・・・・・また何か悪戯する気?」
  疑わしげな目を向ける。
  ちなみに”また”と言うところがミソ。
「別に〜〜〜。だから、お前のその可愛い姿を見たいだけな
だけど・・・・駄目・・か?」
「――――――――もうっ。馬鹿っ。(赤面)」
  プイと武から顔を背ける。
  武に優しくこう言われると、何か腑に落ちない物を感じつ
 つも、顔を紅くして何も言えなくなってしまう。
  こういうつぐみは本当に可愛らしい普通の少女に見えた。

  そして武の視線からの照れ隠しに料理に没頭するつぐみ。

          ・
          ・
          ・ 

「・・・・・むっ!・・・おおっ?・・・・・・今朝のとは・・・違うな。」
「え?・・・・・・・・・・キャッ!?」
  その武の呟きにハッとなるつぐみ。

      ポチャンっ。
 
  具が煮えてきた鍋をかき回すお玉から手を離すと、その開
 いた手で後ろ手にバッと、お尻を隠し、振り返る。。
「――――た、武?・・・・・・まさか?」
「やばっ!?」
  その刹那、武はバレた事を悟った。
「そう。そうだったの・・・(赤面)」
  考えてみれば、沙羅やホクトが使える邪眼瞳術をつぐみが
 知らない訳も無く・・・・・・
「あ〜〜っと。なあつぐみ?だから・・・その・・・・・・(汗)」
「・・・・・・・・・・・・・・た・け・し?(ギロリ)」
  胸元を手で押さえつつ武ににじり寄るつぐみ。
  その貌は正しく鬼の形相であり、眼光は正に”バジリスク”
 のそれだった。
  壁際に追い詰められた武は蛇に睨まれた蛙の如く、身動
 きが出来ない。

「ああ・・・・えっと。OKつぐみ。時におちつけ。」
「そうなの・・・・・・・その目で・・・・・・覗いてたのね?」
  今更下着を覗かれたくらいで怒る事もないのだろうが、そ
 こはやはり女心。
「何か言い残す事は無いかしら?」
「色までは分んないんだが、それって白の、――グワッ?!」

   ゴンッ!   ドサッ――――

  やはりいつものパターンで、微塵の手加減も無いフライパ
 ン攻撃を頭部に喰らいその場に崩れ落ちる武。


  そんないつもの場面をなすすべも無く見守る沙羅とホクト。
  そして武を介抱するのは沙羅の、怒り心頭のつぐみに武
 に代わって謝るのがホクトの役目だ。
「・・・・・・まさかママが相手の動きを封じる蛇眼瞳術の使い手
とは!?流石は拙者のママでゴザル。(うんうん)」
「・・・・・・・・・・だからお父さんには教えちゃ駄目だって言った
のに〜〜〜〜。(涙)」



           【 あとがき 】

 先日、勇栄さんの所のBBSで沙羅は山田風太郎のファン
なんじゃないかな〜〜って話になりまして。
 その時にふと、思いついたのがこの話でした。
 ハッキング同好会の眼鏡の部長は勇栄さんの4コマのキャ
ラで、今回は友情出演ということです、ハイ!
 ・・・・・・爾後承諾ですみません、勇栄さん。


  (BGM : 影の軍団OPテーマ)


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