【  かのっさの屈辱   】
                              かぱちゃぱ





  この日は日曜日。
  バイトも無く、暇を持て余した優秋は今日も今日とて用
 も無いのに倉成家に遊びに来ていた。
  もう自分の家同然と言わんばかりに合鍵を使って、気
 が付けば其処に居るといった程に倉成家に馴染んでい
 るのだ。

  そして、沙羅の部屋で遊んでいる時の事。
「あら?」
  真新しい服を沙羅が着ている事に優秋は気付いた。
「へ〜、今日は可愛い服着てるのね。似合う似合う。」
「ふふっ♪ 実はこれパパが選んで買ってくれたんでござ
るよ。」
  嬉しそうに優の目の前でクルリと回ってポーズをとって
 みせる沙羅。

「なるほど。ああ見えても倉成はマヨのお父さんなんだもん
ね〜。・・・・意外とらしい事してるんだ。」
  と感心した様に言う優秋の表情には、何か淋しげな物
 が混じっていた。
「・・・・・・・・・・お父さんのプレゼント・・・か。」
「―――? なっきゅ先輩?」
  そんな優秋を心配そうに覗き込む沙羅。
「あ、ごめんね。ちょっと・・・・考え事しちゃって。」
  あわてて取り繕う優秋。
「考え事・・・・・ですか? 」
「うん・・・・・・・でも何でもないから気にしないで、ね?」
  気遣うようにそう言うが、やはり表情は曇ったままだ。

「(あ!? そっか。 なっきゅ先輩・・・・・・・・)」
  沙羅は思い出した。優秋が自分の父親をずっと探し求
 めていた事を。

  そして、彼女が求めた先にあった真実は、衝撃的な物
 だった。

『ゆう・・・・あなたは私の妹。私の子供。私自身。そして私
の総てなのよ。』

  ゆきえ。いや、優美清春香菜の知らされた真実・・・・。
  自分が母親である優香のクローンだった事。
  そして、父親と思って来た、いや思わされて来た人物が
 実は厳密には自分の祖父だった事。
  それは即ち、自分には初めから父親が存在していなか
 った事に他ならない。

『私は私。それは分るけど、でも・・・・・・・・・』

  最初はこの真実に優秋は思い悩んだ。そしてこの事を誰
 かに知られてしまう事を密かに恐れた・・・・・・・

『あ、それなら大丈夫よ。だってもうみんな知ってるから。ぜ〜
〜んぜん心配する事なんてないわ♪(ニッコリ)』
『・・・・・・・・・・・・・・・オイ。(怒)』

  そう。既に母親の優春が17年前のLeMUにおいて、皆の
 前でカミングアウトしていたので、気が付けば知らない者が
 いない状態。(オイオイ)
  だから、だ〜れも突っ込まない。

  それに今更自らカミングアウトした日には、せいぜい武あ
 たりが、
   『え?・・・・・・ああスマン。そこは笑うトコだったんだな。』
  と、センチメンタルを遥か彼方に吹き飛ばすツッコミをくれ
 て、オチはいつものド付き合いというのは目に見えていた。
 (オイオイ)

  更に、キュレイやら第3視点やらコメッチョやら、周りが周
 りなので―――
『・・・・・・・アホらし。ま、悩むだけ損よね。』
  優秋は、その日のうちに思い悩むのを止めたのだった。




  とはいえ、やはり父親が恋しい気持ちが消えた訳では無
 い。
  ついこの間まで。LeMUでのあの出来事があるまで優秋
 はずっと自分の父親が生きていると信じていた。
  そして、もし逢えたならその時は聞きたい事も、話したい事
 もたくさんあった。今まで出来なかった分も甘えたかったのだ。
  もう・・・・叶わぬ願いなのだが・・・・・・・


  そんな優秋の気持ちが伝わり、沙羅の胸がズキンと痛んだ。
「(なっきゅ先輩・・・・・・・・・ あ、そうだ!!)」

「先輩! ちょっと待っててくださいね。」
「え? マヨ?」
  何を思いついたのか、そう言うと沙羅はそそくさと足早に
 部屋を出て行ってしまった。
  ポツンとひとり残される優秋。
  
「あっちゃ〜。マヨに気を使わせちゃったかな。」
  無二の親友ともいえる後輩に、いらん心配させてしまった
 事を後悔する。
  少なくとも沙羅が、やっと逢えた父親と幸せで居てくれる事
 が、自分の救いでもあるのだ。
  だから、妙な気は回さないで欲しかった。
「もう、お父さんの事は整理がついたんだから。しっかりしなさ
い優美清秋香菜!!」  
  パンパンっと、自らの頬を掌で叩き、気分を入れ替えて沙
 羅がお茶かお菓子でも持って帰って来るのを待った。
  
    パタパタパタ・・・・・・・

  暫らく後、こちらに向って来る足音が聞こてきた。
  てっきり沙羅が戻って来たと思いきや、

    ガチャッ。

「よう!」
  ドアを開け、気さくに手をあげて挨拶を交わす、優秋と歳の
 かわらないくらい若い男。
「・・・・・・・・・倉成? 」
  優秋の前に現れたのは沙羅ではなく沙羅の父親である武
 だった。

  自分に何の用かと思っていると、武は一言こう言った。
「はっはっは♪信じられんがお前にも女の子らしい所があった
んだな〜。いや、いい事だ。」
「―――――はい?(眉間にシワ)」
  いつにも増して掴みはオッケーな武だ。
  その様子に早くもムカつく優秋。 

「何かしらんが日頃のお礼の気持ちを込めて、肩を揉んでくれ
るんだって?(ニヤリ)」
「―――― はあ?(眉間にシワ×2)」
  更に訳の分らんセリフに、思いっきり生暖かい視線を優秋
 は放射するが、それには全く気付かない武。

「実はな。ちょうど昨日は沙羅の奴に一日付き合わされて、え
らく凝ってたんだ。いいだろう。思う存分叩くがよい。」
  と、一人納得した様子の武は優秋の前に背中を向けて座
 り込んでしまった。
  沸々と怒りが湧いてくるのを感じる優秋。
   
  そして、ピキッ!と何かが音を立てて彼女の中でキレた。


  いつもの優秋なら、ここでスックと立ち上がり、 
『・・・・・あんたねぇ?イキナリやって来て、一体何を得意げに
訳の分らん事いってんのよっっ!!(大激怒)』
      ゲシッッ!!――――――
  と、ちょうどよい位置にある武の後頭部に踵落しを喰らわす
 のだが、今日は少し違った。


  準備運動とばかりにブンブン腕を振り回す優秋。
「じゃあ・・・いくわよ?」
「おう。しっかり力を込めてくれい。」
  優秋は武の背後に膝立ちになると、渾身の力と全体重を込
 めて床をけり、気鋭一閃!!
「――――ふんっっ!! 」
  落下速度を加え、右肩を狙って肘で撃ち抜く―――――
  俗に言うジャンピングエルボードロップを喰らわしたのだ。
  
      ドカッッ!!――――

「ぐわっっ――――!? あっ?あああっっ?なあっ!?ヘぁ
アっっ! ダァァっっ!?」
  右肩を貫く突然の衝撃に暫らく声も出せない武。
  もがきのた打ち回るその声と姿が何となくウルトラマンの
 様に見えたり聞こえたり。

「あら〜?肩たたきはもういいのかしら。」
  そんな武に優秋はシレっとこう言った。
「お、おおおおお前? ・・・・・・いま、エルボーやったろ?」
  痛みを堪え、武はなるべく穏やかに聞く。
「さぁ、何のことかしら。で? もう終わりにするの?(ニヤ)」
  と、すっ呆けた答えをする優秋。
「・・・・・・そうか。そうかい。・・・・・・・・・よぅし、続けてくれい。」
  これを挑戦と受け取った武は、このまま逃げるのも癪なの
 で・・・・・・・続行を希望した。(オイオイ)

「じゃ、続けるわよ――――― ふんっっ!!」
 
   ゲシッッ!!――――――

「ぐはぁっっ――――‐!?(悶絶)」
  と、今度は反対の肩にエルボー!
  両肩を押さえ前のめりに痛さにうち震える武。

  武は痛みを堪え、息を整えると不自然な笑顔を浮かべて
 ゆっくり振り向く。
「ふ、ふふふ・・・・・・・・・・・・・・やったな? お前、今度もエル
ボーやったよな?(ニッコリ)」
  そして感情を押さえ込みつつ不気味なほど穏やかな顔で
 言う。
「さぁ〜? 何のことだか分んないわ。(ニッコリ)」
  それに対しフフン、とムカツク仕草を加えて更にすっ呆け
 る優秋。

    二人の間をピリピリした空気が流れる。
    それは正に一触即発のそれだ!

「そうか・・・・そうかそうか。お前がそのつもりなら・・・・・・・やっ
たろうじゃないかいっっ!!!(クワッ)」
  武はゆらりと立ち上がると、バッと上着を脱ぎ投げ棄てる。
  両手を大きく広げ顎をシャクったその構えは伝説の闘魂!
 猪木の構え!
「上等よ・・・・さあ!かかって来なさいっっ!!(ビシッ)」
  こちらも橋本真也のストロングスタイルで迎え撃つ!

     (BGM 猪木ボンバイエ)


           §        §



「・・・・・・・それで、そう言ってお父さんを優の所に行かせちゃ
ったの?」
「うん。拙者としては先輩にも父親の暖かさを知って欲しいので
ござるから。ニンニン♪」

  満足げな笑顔の妹を神妙な顔で見詰めるホクト。
  どうやら沙羅は本心から幸せのおすそ分け的な思いで、こ
 のような暴挙、いや行動に出たのだろう。
  ホクトにもその気持ちは痛いほど分る・・・が、何かが根本
 的に間違っている事に沙羅は気付いていない。

  いや大体、それ以前に説明不足もほどがあったり・・・。

「あのね、沙羅・・・・もう遅いかもしれないけど、その計画は完
全に間違って――――――」
  ホクトがそう言いかけたその時、

   ゲシッ――――!  ドタッ!  バタンッ! ドカッ!!
『うおりぃやぁぁぁぁっっっー――――――!!』
『ほぉあちゃぁぁぁぁぁっっっっ――――――――っ!!!』
  ホクトの言葉を遮るように、沙羅の部屋から物凄い物音と
 香港映画のような奇声が聞こえた来た。

「な、何事?(パチクリ)」
「うわぁ・・・・やっぱり遅かったぁ。(汗)」
  何が起こったかを察し、頭を抱えるホクト。
「え?あれって?ええ? もしかして、私の計画って大失敗?」
「・・・・・・うん。それもかなりヤバイかも。」

  要するに、優秋と沙羅では理想の父娘像が違うのだった。
  それも根本的に。徹底的に。壊滅的に。
  別に武と優秋の相性が悪い訳では無く、むしろベクトル的に
 限りなく同じ方向なのが問題な訳で・・・・・・・・
  いうなれば優春を挟んだお互いの認識が、馬鹿で出来の悪
 いと思っている歳の近い兄と妹の関係が二人のソレなのだか
 ら、片方が偉そうに振舞えばこうなるのは必然なのであった。

     もっと穿った言い方をするなら
  武は優秋があまりに乱暴なので、女とは認識しておらず。
  優秋は武があまりに馬鹿なので、人間とは認識できない。
     である。(マテ)

   ・・・・まあ、どっちもどっちと言う事か?(ΦωΦ)クワッ!

           §        §



「――――攻撃しやすい所にアンタがいるから悪いんじゃない
のよっ!(怒)」
「――――んな言い訳あるかいっ!?(怒) 」
  沙羅とホクトが駆けつけた時、二人は特撮番組の後半もか
 くやの乱闘の真っ最中だった。
  奇しくも優秋はライダー1号のファイティングポーズ。
      ピキ―――ンっ!
  それに対し、武は何故か第一話の蜘蛛男に酷似した構え!
      ――― クワっ!
  いかん武。それは、それは負け役のポーズなんだ!(え?)

    そして――――――

  次の瞬間、優秋は渾身の力を込めてジャンプ!、
「てりゃぁぁぁっっっ!!!!」
    バシィィッッ!!!!
  二人の目の前で優秋の延髄ギリが武の後頭部に決まった!
「ぐわぁぁっ!? ・・・・・・み、見事。(ニヤリ)」
    ドサッ。
  自ら負けを認め、爽やかな笑みと共に倒れ込む武。
「ダー―――――っっ!!」.
  そして優秋は見えない観客に対し、人差し指を天に向けて
 突き出し勝利のポーズを決めたのだった。

     (BGM 猪木ボンバイエ)

「なっきゅ先輩・・・・・・・かっこいいでござるよ。(涙)」
「お、お父さん?しっかりしてよ〜〜〜。(涙)」
  そんな優秋に見惚れる沙羅と、倒れた武に駆け寄るホクト。

               ・
               ・
               ・
               ・
               ・
               ・

「・・・・・・って言うのが、沙羅の計画だったんだってさ。」
「ごめんでなさい、二人とも。私が変な事を考えちゃったか
ら。」

  良かれと思ったのにその結果は大乱闘。
  沙羅はシュンとしてしまったが、責める者は誰もいない。

「マヨったら。それならそうと一言いってくれれば。」
  可愛い後輩の説明に、今更得心した優秋。
「いや、お前は一言あっても同じだったと思うぞ。」
  蹴られた首をコキコキ鳴らしながら、すかさず突っ込み
 をいれる武。
「・・・・・・・・・なんですって!?(怒)」
「・・・・・・・・・なんだよ!?(怒)」
  早くも第2ラウンド開始と思われた。

「なっきゅ先輩もパパも止めるでござるよう〜〜〜〜。」
  沙羅も目の前の二人はこれで仲がいいのは充分に分っ
 てはいた。
  が、せめて自分の部屋での無制限手加減無用のリアル
 バウト2連戦は勘弁して欲しかった。

「あ〜〜あ。全く、仲がいいんだから。」
  二人の仲のよさにちょっと妬けるホクトがポツリと一言。
  果たしてこの感情は武に向けられたものなのか。それと
 も優秋なのか・・・・・・・

「なっ?!別に仲良くなんか無いわよ。むしろこの拳を音高く
目の前の顔面に打ち込んでやりたいと・・・・・」
「フッ!なら俺は同じくらい音高く撃ち返してくれようぞ!」
  ・・・・太宰治が聞いたら泣くぞ、お前ら。(オイ)

「ほらほら〜。もう分ったってば。僕が悪かったよ、ね?」 
  心得たタイミングで間に入るホクト。
  何気に自分が被る事で仲裁する事が上手い16歳だ。
「そうでござるよ。それに・・・・私たちは家族みたいなものなん
だから。でしょう?」
  この”家族≠ニいう一言にハッとする武と優秋。
  何気なく言った沙羅の言葉が二人に衝撃を与えたのだ。



「(た、確かに。いずれホクトがこいつと結婚すれば必然的にそ
うなるのか?)」
  そういえばそんな未来があるとホクトが言っていた事を武は
 思い出した。
「(まあ、悪いヤツじゃないし嫌いでもないんだが・・・・なんでか
な〜?コイツにお父さんと呼ぶ事を許すとなると、俺の負けに
なっちまうのか? くっそ〜〜!)」
  ・・・・・・・・気の所為だ。


  
「(か、 考えてみればあのお母さんの事だから、いつ倉成との
間に私の弟か妹が出来ても不思議じゃないわ?)」
  優秋も自分の母親の予想できない行動を思い出す。
  そして欲しいと思った時、あの母親は必ず実行に移すだろ
 う事も―――――それは下手をすれば今すぐかもしれない。
「(・・・・・・でも、年の離れた弟か妹ってのも可愛いだろうなぁ。)」
  いい・・・かも。と思い直し始める・・・・・が。
「(あ!あれ?でも私ってお母さんのクローンだから、お母さん
の子供って事は私の子供でもあるの?え?えええええ!?)」
  ・・・・・・・つくづく因果で複雑な母娘である。  
「(それよりも何よりも、倉成をお父さんって呼ぶ事は、私の負け
を認める事じゃないのよ〜〜!? く、悔しい・・・・・・・。)」
  ・・・・・・・なんでそうなる?



「(こ、この爆弾生娘が俺の娘になる・・・・・・・・・・・)」
「(こ、この馬鹿がよりにもよって私の父親・・・・・・・・・・・)」
  逃れられない運命の様なモノを感じ、何故か泣きたいような
 悔しいような負け気分全開の二人。
  その衝撃度は正にカノッサの屈辱級だった。(何だそりゃ)

「(おのれ・・・。この俺にここまでの敗北感を味合わせるとは。)」
「(違う・・・・違うわ。私のお父さんはもっと理知的で物静かでロ
マンスグレーが似合う・・・・・・)」
  お互いにとてつもなく失礼な事を考えていた。
「――――うっっ!?(ビクッ)」
「――――はうぅっっ!?(ビクビクッ)」
  まるでお互いの心の声が聞こえたかのように二人はぎこち
 なく首だけを動かし、そして顔を見合わせ思わずギクっとなる。

「あ〜〜〜。どっちみち、お前とはそうなる運命なのか?」
「は〜〜〜。みたいね。早いか遅いかの問題なだけで。」
  と、溜息と共にやるせない笑顔を交わす二人。
  なんかもう言い争う気力も失せた感じだ。

「ああ・・・・これで何もかも丸く収まったでござるな。仲良き事
は美しいでござる、ニンともカンとも。(ウンウン)」
「多分・・・・収まってないと思うよ。(ジト目)」
  シミジミと綺麗にまとめる妹に心でツッコむホクトだった。





        【 あとがき 】

 私の書く優春は武へ想いをこれでもかってくらいにブッツケ
まくってますね〜。
 で、娘の方は恋愛感情抜きで、今日も今日とてド突き合う。
 まあ、何にしても二人の優にとって倉成家が憩いの場所で
ある事は間違いないと・・・・・・・


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