〜好き!すき!!田中先生〜
【その3の後編「オルタナティブ」】
                              かぱちゃぱ


     ――――― 午後7時25分 鳩鳴館女子校  ――――――
  ここは鳩鳴館女子校の多目的ホールに設置された、恒例のクリスマス
 パーティー開場。思い思いに着飾った学生達に加え、招待客も華やかに
 場を盛り上げていた。
  特に優秋は淡い紅を基調にした装いが、その容姿に相まってとても
 美しく開場の照明に映えており、綺麗な顔立ちの年下と思われる少年に
 エスコートされているのも合わせて、当然ながら人目を引いていた。

「ねえ、ホクトのお父さんってどんな人なの?」
  グラスを片手に、優秋はそんな事をイキナリ言った。
「僕のお父さん?・・・って、倉成武の事?」
  一瞬、何の事を言っているのかホクトには判らなかった。
「ほら、私が知ってるのはフリをしてた桑古木だから―――」
「あっ! そうか・・そうなんだよね」
  やっと納得したホクト。確かにこの「優」は「倉成武」を知らない。
「でも、どうしてそんな事を聞くの? 」
「う〜ん。何度か顔は合わせてはいるんだけどね〜〜。なんて言うか・・」
  流石に自分の母親(+自分のオリジナル)である所の優春が心底惚れ込
 んでいる相手だから娘として聞いておきたいとは言えない優秋。
「僕は好きだよ。沙羅もお母さんもお父さんの事が大好きなんだ。(笑顔)」
「そう! それも不思議なのよ」
「な・・何が?」
  手に持ったジュースで喉を潤してから一気に捲くし立てる優。
「だってそうでしょう? 目が覚めてイキナリ自分と変わらない歳の息子と
娘、おまけに自分の知らない所で子供を産んでた、数日前に会ったばかりの
女性をなんであんなすんなり受け入れられるの?」    
  優の勢いに圧倒されたホクト。まあ、優秋が言わんとしている事も判る。
 もし、自分が同じ立場だったらと考えると・・・(冷汗)
「・・・でも、それを受け入れちゃうのがお父さんなんだよ。」
「ふ〜ん、ずいぶんと信頼してるのね。会って日が浅いのに」
  そんな様子のホクトに、なんとなく納得していない優。
「僕は、ほら。BWを通して17年前の時の事を実体験として知ってるから」
「あ! そうか。」
「あの時のお父さんは格好よかったんだよ。IBFで全員TBウイルスに―――」
「・・・・」
  少し興奮気味に当時の事を話すホクト。それを優は黙って聞いていた。
「その時、お父さんはこう言ったんだ。(キュレイで死ねない身体になったと
しても、お前達と一緒なら俺は喜んでそれを受け入れる!)ってね。」
「そ・・・そんな事言ったの? 倉成・・じゃなくてホクトのお父さん!?」
「うん! その時のお父さんって―――――」
  もはや優秋の耳にはホクトの声は聞こえてはいなかった。
「(なるほど、これはお母さんが惚れた訳だわ。そして17年間ずっと・・)」
  心の中で掌を合わせる優秋の頭に[因果応報]という言葉が浮かぶ。


  ちょうどその頃、優達とは別に人目を引く二人がいた。
  お揃いのシックな造りの黒いパーティ用ドレスで一見してよく似た顔立ちの
 二人はいつものツインテールとリボンを解き、髪を下ろしている沙羅と、大人
 っぽく綺麗な長い髪が印象的なつぐみだった。 
  ちなみにこの端正な顔立ちの二人、歳の近い姉妹に見えるが実は本当の母娘。
「あ、あっちの方にケーキ類がありそうでござるよ〜〜。ほら、急いでママ。」
「もう、そんなに急がなくても。ほらっ、危ないわよ。」
  それは、頑固で我侭で手を焼かせる娘を心配する母親・・・10数年前に失われ
 た二人の時間を戻したかのように見える光景だった。

  ホクトが居て沙羅が居て、そして武が居る・・・ そして自分を追う者も無く
 街を渡り歩く事も無い・・・ つぐみが狂おしいほど望んだ事・・
  今、[家]があり、そこには自分の[家族]が住んでいる幸せ。  

「どうしたのママ? 」
「ん。・・・なんか、幸せだなって。幸せすぎだなって思ったの」
  暖かく確かにそこにある感触を確かめる様に、きゅっと繋いだ手を握るつぐみ。  
「ママ〜(はーと)。拙者はいなくならないでござるから安心してよ、ね?」
「うん。」
  そして二人は、無くなる心配がある数量限定の特製ケーキをその手にするべく
 仲良く手を繋いで向かっていった。



  賑やかな会場内の中でも一際賑わいを見せている一角があった。
「えへへ〜、コメッチョはこれにてお終い〜〜〜♪」
  パチパチパチっとの拍手と共にココが桑古木の元へ駆け寄ってくる。
  ココは可愛らしいセーラー服タイプのドレスだ。
「ホイ、コメッチョ独演会ごくろう様。」
  ねぎらいの言葉と一緒にオレンジジュースを差し出す。
「ありがと〜。少ちゃんも楽しかった?」
「ああ、とってもね。・・・それより少ちゃんは止めてくれないか?」
  別にイヤじゃないけど、今更少ちゃんと呼ばれ少し困った顔の桑古木。
「え〜、少ちゃんは少ちゃんだよ〜。ね、少ちゃん♪」
「・・・ま、いいけどね(苦笑)」
  ココにそう言われては返す言葉も無い。照れ隠しに自分もノンアルコールの
 カクテルを口に運ぶ。
「たけぴょんもなっきゅも空さんも来れればよかったのにね。」
「空は・・まあしょうがないけど、武と優はそれなりに楽しくやってると思うよ」
  勘のいいココは桑古木の何気ない一言に何かを感じ取った。
「へ〜、たけぴょんとなっきゅは二人で楽しくやってるってるんだ?」
「(うっ? ヤ、ヤバイ)さ、さあな〜♪(汗))
  慌てて誤魔化そうとするが桑古木。その時―――
「あ、つぐみんとマヨちゃんだ〜〜♪ お〜〜〜〜いっ!」
「ん? あ、ママ! あそこにココちゃんがいるでござるよ」
  ココに気付いて沙羅とつぐみが近づいてる。
「え?(なんでこのタイミングで・・・)」
  嫌な予感が神ならぬ身の桑古木に降り注いでくる。
「あれ〜? 桑古木とココじゃない。こんな所にいたんだ〜(悪戯顔)」
  絶妙のタイミングで優秋とホクトもやって来た。
「う!?チビ優にホクト?(助けてBW〜〜〜)」
  更に嫌な予感が強くなってくる・・・・  

「ね〜、みんな知ってる? 今、たけぴょんとなっきゅはね〜―――」
  と、ココ。
「知ってるわよ、優がなんか思い詰めてるみたいだからって武が――――」
  それを受けてつぐみ。
「へ〜。つぐみって寛容なんだ。お母さんが今日、勝負を賭けてるの知っ――」
  つぐみの言葉を最悪の状態で曲解したのは優秋。しかも正解なのが洒落に
 ならない・・・
「え〜〜〜? パパ(お父さんと)田中先生が―――――」
  流石は双子というべきか、同時にホクトと沙羅。  
 
 全員がしばらく顔を見合わせた後、一斉に桑古木に視線が集まる。

「――― な、なあ、まずは俺の話を聞いてくれないか?(汗)」
  このすぐ後、桑古木は自分がつくづく交渉事に向かないと思い知る事に。
  

―――― 同時刻   第401研究室 ――――
  研究所内は、何時終わるとも付かない[事後処理]が続いていた。
「・・・・なんで我々、クリスマスにこんな事やってるんでしょうね?」
「年末、特にこの日が一番、官民共にチェックが甘くなるんだ。それが我々の
狙い目と言う訳さ。一度通ってしまえば後はそれまでってな」
  牧の手伝いをしている内に段々と『401研究所』が判って来た野村。
「あああ、いいな〜、桑古木さん。今頃は鳩鳴館女子のパーティーで・・・」
「ま、あいつは基本的に『非常時』や『緊急時』が専門だからな」
  書類を一枚、又一枚と処理していく二人。そしてそれを別の所員がキーボー
 ドで打ち込んだり、封筒に入れ何処かへ持っていったりの繰り返し―――
「・・・どうせなら桑古木さんも手伝ってくれたらいいのにな〜。」
  野村がそう言うと、牧の手がピタリと止まり、首だけを向け、
「いいか、絶対にあいつには『事後処理』とか『交渉事』は頼むなよ。」
「・・・・・あの人に頼むとまずいんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さあ!仕事、仕事!」
  牧は答えなかった。ただ誤魔化した。しかし、相当に具合の悪い事が遭ったに
 違いないのはよ〜〜〜く判った。


  所は戻って、パーティー会場。桑古木は今、二人が何処にいるか、そして何故
 自分がその事を知りつつも手を貸したかを説明していた。 
「俺はな、優の事を思えばさ、幸せになって欲しいと、唯それだけを考えて―――」
  イマイチ要領を得ない桑古木の言い訳。それが聞き手にとってはどうしても桑古
 木が優を炊きつけた元凶としか取れないのは不幸としか言いようの無い・・・
「・・・つまり、貴方にとって私の「ささやか」かつ「慎ましやか」でそれでい
て心穏やかで愛と希望と幸せに満ちた人並みの生活などはゴミ以下チリ以下、地球
上の大気圏外から見下ろした東京都江戸川区東江戸川三丁目の空き地くらいに価値の
無い詰まらない物・・・と、そう言いたい訳ね?」
「なんかママ・・・別の人みたい」
「う・・・うん」
  と、双子の兄妹。・・・何やらキャラが代わりつつある小町つぐみん。桑古木を
 睨みつけたまま一歩、又一歩と詰め寄る。
  周りを見るといつの間にかギャラリーが集まっている。どうやらコミックコント
 か何かだと思っているらしい。救いはココは既に優秋が別の場所に連れ出している
 事か――――
「え? おい俺はそんな事は・・・・ただ優にこそ幸せになって欲しいなと・・・」
「 ・・・・・死になさい。(慈愛に満ちた笑顔)」
  にっこりと穏やかな笑顔をたたえた後――――常人では分らない、同じキュレイ
 である桑古木でさえも捉えられない動きでつぐみの腕が一閃! ゴンッッッ!! 
 と言う風を凪いだ様な音が聞こえ桑古木は宙で3回転した後床に崩れ落ちた。
   ――――― 『おお〜〜〜!!!』 パチパチパチっ ―――――
  オチが付いたと思われ、周りからは歓声と拍手が聞こえた。
  
 
       ――――― 同時刻 ―――――――  
  優春がシャワーを浴びて、リビングに戻ると武は何やら考え込んでいた。しかし
 焦燥した感じではなかった。
  バスローブ姿の優春は武の隣にそっと腰掛る。
「・・・後悔、してるの? 私とこうなって・・・・」
「ん? いや、そんな事はないぜ。 」
  いつもと代わらぬ様に振舞う武。 
「ただ、背負う物が20歳にしては多いなって思ってたのさ」
「―――― ? クスっ、なにそれ。(笑)」
  こんな事になっても武は、優からもつぐみからも逃げようとはこれっぽっちも考
 えてはいなかった。只、自分が抱えて、そして支えていく事だけを考えていた。
「優、これからもよろしくな」
「はい、ふつつかものですがお願いします。・・え・・と、武(照顔)。」
  

  イルミネーションが光る夜の街並み。その雑踏を歩く恋人同士の中を紛れるように
 ホテルを出た武と優春は居た。
「ふふっ♪ こうしてると暖かいよね。」
「ああ、そうだな。」
  武の腕に身体ごと預けるように腕を絡ませる優春は、まるで見た目道理の二十歳そ
 こそこの女の子だった。
「・・・・・優。」
  二人を見つけたのは、その人波に逆らう様に佇む黒いコートを着た少女。
「つぐみ・・・」
「武――――。」
  目を逸らす事も無く、自分を見つめる武を静かに一瞥するつぐみ。
「――――――っ!」
  静かに歩み寄るつぐみに対し、優春は更に強く武に腕を絡めた。
「優・・・どういう事か話を聞かせなさいよ。」
「――――っっ!! イヤっ!」
  武から引き剥がそうとするつぐみの手を、優春は乱暴に跳ね除ける。そして駄々
 を捏ねる子供の様に、更に強く抱きついた。
「ゆ・・優? ・・・―――――――っ!!!(涙目)」
  一瞬、呆然としたつぐみ。みるみるその目に悔し涙が溜まって行き・・・
「バカ・・・武のバカ・・・・」
「お・・おい?つぐみ??」
   ガバッッッ!!!!! 自分も武の空いている腕に抱きついた。

「これはこれで・・・ハッピーエンドかな?」
  自分の母親の修羅場を見てそんな事を思う優秋。
「なっきゅ先輩的にはOKでござるか?」
「どの道、どっちかとくっ付いて誰かが不幸になるくらいなら、あれが
ベストなのよ。きっとね。」
「僕もそう思うな。BWでもこうは上手く出来ないよ。流石はお父さんだね。」
  意外と逞しい子供達である。   
「お母さんもつぐみも、あの様子じゃお互い引く気は無いんだから。後は、
本人達の折り合いの問題ね。」
  子供達が見守る中、二人の美女に両腕を捉まれたまま武は歩き出した。そ
 の足並みを見る限り三人とも息があっており、そこが微笑ましい。
「じゃあ、僕の家で2次会はどうかな?軽い食事だったら僕が作るからさ」
「いいでござるね〜♪ お兄ちゃんの料理は中々の物なんだから」
「へ〜、ホクトの手料理か。ではそこら辺で飲み物を買って――――」
  
「やれやれだよ。ま、結果オーラ一イって事でいいかな。」
  子供達もその場から去って行き、ココは既に開場で別れ、桑古木は煌びや
 かな街の中、ポツリと一人。そんな時、
「チュウ。(元気出すのだ、桑古木。僕がいるよ)」
  つぐみの胸元から抜け出したチャミが桑古木の肩に乗っていた。
「――――お前? そうか。俺をなぐさめてくれるのか」
「チュウ。(桑古木はよくやったのだ。君のお陰で丸く収まったんだからね。)」
  テンパっているからかどうなのか、チャミと桑古木の会話が弾む。
「よし、今日は俺とチャミの二人だけのクリスマスだ。いい店知ってんだよ。」
「チュウ。(今日はトコトン付き合うのだ。さあ行こうなのだ♪)」
  ・・・・そうして桑古木もチャミと共に街の喧騒の中へ消えていった。

  公園のベンチ。武の両脇に腕に抱きついたまま体を預けているつぐみと優春。
「・・・武・・バカ・・」
「暖かい・・・武・・・・」
  つぐみも優春の散々泣きはらした目なのに穏やかな顔をしている。そんな二人
 にされるがままの武は、澄んだ冬の星空を眺め、聖夜の奇跡に感謝した。
「メリークリスマス。 つぐみ、優 ――――― 」 

  倉成家でも楽しそうな声が聞こえていた。
「さあ、出来たよ〜。海老のチリソースに鳥の手羽先揚げに湯豆腐の餡かけに―――」
「美味しそう♪ 流石は拙者のお兄ちゃんだな〜 」
「・・・なんか・・誰がこの家で一番家事をしてるか分るわね。(汗)」 


  第401研究室はと言うと
「なんか、疲れてきた方が皆の効率がよくありませんか?」
「まあな。ここまで疲れてくればもう一々、罪悪感なんか感じないだろう。」
  更にヤバイ状況になりつつ・・・・


  居酒屋「多々良」では、桑古木とチャミがいた。壮絶な誤解の末、つぐみに
 殴られたりもしたけど、酒が美味く感じられた。
「なんかさ、今日はいい気分なんだよ。そう思わないか、相棒?」
「チュウ。(お疲れ様なのだ。さ、もっと飲むのだ。)」
  器用に前足を使い、桑古木のお猪口に酒を注ぐチャミ。

       こうして、聖夜は更けて行った・・・・・
  ――――――――その4に続く。


   【 あとがき 】
 詰め込むだけ詰め込んでやっと【その3】が終わりました〜。
 周りを巻き込むだけ巻き込んでしまうのが田中先生と言う事で。(笑)
 桑古木も最初はカッコ良かったんですが、まあそういう役回りというか。

 感想をお待ちしてます。どんな意見でもお聞かせください。
 
BGM 鬼塚ちひろ 「月光」







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