田中先生シリーズ
 ねこな と きつねつぐ 
                              かぱちゃぱ


  田中家の朝。夕べはかなり遅かった優春がまだ寝ていたので
 娘である所の優秋は、コーヒーにバタートーストといった簡単な
 ものでひとり朝食を済ませていた。
   パタ パタ パタ――――
  コーヒーを飲んでいた優秋の耳に母親が起きてきたであろう
 物音の後に近づいてくる足跡が聞こえて来る。
  ガチャッ! ドアが開く。優春はお気に入りであるクリーム色
 のパジャマを着たまま入ってきた。
「う〜〜〜ん、おはよう・・・ 優 」
「おはよう、お母さん。 夕べは遅かったけど一体何を――?!」
   ――― ブッッ!
  夕べはお楽しみだったであろう母親に向けてからかい気味に 
 そう言いながら振り向いて思わず口に含もうとしていたコーヒー
 を噴いてしまった。
   ――― ゴホッゴホッゲホッ・・・・
  しかも思いっきりむせ返った。
「ゴホッゴホッ・・・ううっ、苦しかったぁぁ・・・・」
「ちょ・・ちょっと大丈夫? いきなりむせ返ってどうしたのよ」
  むせ返る娘に駆け寄り背中をさする優春。ポケットからハンカ
 チを取り出し口元を拭いながら優秋は鏡を指差した。
「なに?―――― 鏡を見ろっての?」
  母親の問いに無言でコクンと頷く優秋。とりあえず訝しげに思
 いつつも鏡を覗くと・・・・・
「え?えええええ? な・・何よこれは〜〜〜〜!!!?」
「ふ〜〜、夕べは倉成と『何を』してたんだかね〜。」
  鏡に映る自分の姿に驚く優春と、母親の『御乱行?』にニヤリ
 と笑いが隠せない優秋がそこには居た。



 

 カタカタカタカタ―――――
  優が打つキーボードの音が鳴り響く第401研究室。
  そんな中、ザワザワザワとかヒソヒソヒソ等の所員達の呟き
 がそこかしこから聞こえて来た。
「あの〜、先生。」
  研究室のまとめ役でもある牧が、まるで質問する生徒の様な
 動作で手をあげつつ優の前まで来た。  
「あら 何かしら、牧くん?」
  優はニコヤカかつ穏やかだったが、ツマラナイ事を聞いてき
 たら只じゃおかないという気迫が十分に伝わってきた。
  その迫力に蹴押されるように口ごもる牧。
「あ・・え〜とですね。 あ〜、それ――どうしたんです?」
  ゴクっと息を呑んで研究員達が事に成り行きを見守っている。
「それって・・・そこに転がってる『涼みたいな』物の事?それと
も私の髪の毛の事かしら?」
  確かに、優の作業用ディスクの横にさっきから蹲ったまま動か
 ない同僚も気になる事は気になるが、それよりも優先して気にな
 る事が彼等にはあった。
「あ〜、ズバリ聞きますがね、先生。・・その・・ネコ耳・・何な
んです?」




  そう。今日の優は何故かネコ耳だった。
  朝方、出勤してきた優は珍しく大きめの毛織の帽子を被って来
 た。服装は普段と変わらぬタイトスカートと上着だったのに、そ
 の愛らしさに所員全員が、ほぉっと溜息をつく。
  しかし、それだけでは終わらなかった。パサッと小さな音をた
 て帽子を脱ぐとそこには・・・・ピョンっ!ピョンっ!
     おおおおおおおお〜〜〜〜〜〜っ
  と、感嘆の声を漏らした。その帽子の下、にはネコ耳があった
 のだった。

―――『!?ネコ耳』 『まさかそんな』 『いや、アレは確かに』
   『そ・・そんな何故先生が?』 『あれか?例の倉成とか言う
   奴に趣味か!?』『か・・可愛い!』『可憐だ〜〜』―――

   と、何故かネコ耳をした優を見て誰もがその愛らしさにそれぞ
  れの感想を思いはしたが、面と向かっては口にはしなかった。
   そう、たった一人をぬかしては・・・・・

  そんな時、ガチャっ! ドアの開く音がした。
「おはようさん! ん? なんだみんな。どうしたんだ?」
  ちょうど、優が入ってきてから2分後に桑古木が来て、ネコ耳姿
 の優を見て一言、
「なんだそりゃ?コスプレって奴か?」
「ピキっ!――――――――― 」
  明らかにその一言が優の怒りの電源に火を点けた。  
「優〜、歳は考えようぜ。あれ? しかもえらく不機嫌そうだな。あ、
分った!昨日はそのネコ耳で武に迫ったんだけど元に戻そうとして失
敗したんだろ。全く―――――」

――― 『な、何と?』 『そ・そうだったのか!?』『羨ましい!』
   『やるな倉成!』 『尊敬するぜ倉成!!!』―――――

  例によって桑古木の軽口。そして真に受ける研究員達。だが、今
 回は運の悪い事に桑古木の冗談は冗談では無かったのだった。
  確かに夕べ、優は武と一緒だった・・・ それをこんな所で、しか
 も変な誤解を受ける様にバラされては優が黙っていられる訳が無い。
「涼〜〜、ちょっとこっち向いてくれる?」
  近くにあった何か大きい物を鷲づかみにし、軽々と持ち上げ、
「――― え?」
    ゴン!! バキッ ゴスッ ガスッ  
  彼が最後に見たものは自分の頭上に迫り来るパソコンのモニター
 だった。





「いっとくけどね、牧くん。これは寝癖よ、ね・ぐ・せ!」
「はあ・・・寝癖、です・・か?」
  事実、そんなプレイをした事もしようと思った事も無いのだが、なん
 となくいいかも・・・と一瞬思う辺り、まだまだ若い優春。
  まあ優春の心情や事実はともかく、いまいち納得のいかない返事の牧。
  それも当然。誰が見ても何処から見ても立派なネコ耳だった。しかも
 可愛い!

――― 『はっ!?俺は何を見とれてるんだ?』『最高です、先生』
 『生きてて良かった〜!』 『神様、ありがとうございます!』
 『倉成って奴は先生にあんな格好をさせて・・羨ましい!』――――

  優ほどの可愛い系美人(童顔)がメガネ、白衣、そしてネコ耳とく
 れば職場の人間の手がつかなくて当然であった。  
  そしてこんな優にゴロゴロと甘えられて、あんな事やこんな事も出来
 てしまう(であろう)武に対しての嫉妬と尊敬(?)も所員の間で膨ら
 んで来て居た。

「と言う訳で、先生がそんななりでは皆、仕事に手がつきません。」
「・・・・・そんなって・・どんななりよ?」
  牧は優の質問に極めて冷静かつ、適切な表現で答えた。
「いわゆる・・・『萌え』・・ですね、先生。」
「うっ―――――――!」
  渋面の優春。まさか冷静かつ理論派な牧の口から何時もと変わらない
 表情で、『萌え』なんて言葉が出るとは思ってもみなかった優は返す言
 葉も思いつかなかった。
  しかも優美清春香菜、御歳35歳で『萌え』認定!
『う〜ん・・・もしかして倉成も喜ぶ・・・・かな?』
  乙女心は幾つになっても現役であった。  





  その日の倉成家の朝。昨日は遅くまで遊びに来ていた優春と飲んで
 明かした為、いつもより武とつぐみの目覚めは遅かった。

「やだ・・・なんでこんなのになったのかしら?」
  洗面所で、パジャマ代わりの大き目のTシャツを着たままのつぐみ
 が鏡を見ながらしきり髪を櫛で整えていた。
  その屈み込んだ姿勢からスラリと伸びたおみ足から僅かに覗く白い
 下着が見えそうになっていた。
  そこへタイミングよくつぐみに声をかけ様として近付いて来た武が
 その美味しいポイントに気付くや否や―――――
「―――武っ! 」
「わわっ!? あ、いや なんかいい眺めだな〜ってな。」
  釘を刺したつもりがアッサリ引き抜かれ、顔を赤くするつぐみ。
「バ・・バカ! 何言ってるのよ。昨晩はあんなに見たくせに・・・」
  こういう会話にはからきし弱いつぐみだった。動揺の所為か、段々
 と言っている事が嬉しくも恥ずかしい方向になって来て苦笑いする武。
「で〜、その寝癖 まだ治んないのかよ?」
「・・・うん。洗って濡らしても整髪料使っても全然ダメ」
  そう言ってピンっ!ピンっ!と跳ねた寝癖を指で弾くつぐみ。
「何て言うか・・・キツネの耳みたいだよな?」
「・・・言われてみればそうね。」
  流れる長い黒髪、10代特有の少女っぽさを残した美人系のつぐみ
 にTシャツおんりーと言うだけでも最凶なのにキツネ耳までついている
 のだ。ここで何も行動を起こさなければ武の男が廃るというもの。
「なあ・・つぐみ・・」
「朝からなんて嫌よ―――」
  
 という訳で、にべも無く断られ――(夜まで)お預けとなったとか。



  【 あとがき 】
 maoさんの描いたネコ耳なっきゅ先生から妄想を暴走させて煩悩
のみで書きました〜。
 そして、更なる妄想がキツネ耳つぐみんと言うイメージを・・・
 で、オチはお約束のバカップル・・・・
      
       すみません。私が悪うございました。


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