十七夜月の出来事
                              かぱちゃぱ


  鳩鳴館女子校の土曜の下校時。花壇の倒れていたプランターを丁寧に
 土を入れ直し、中の花を整えていた女生徒が居た。
「あれ? あの人誰だっけ?」
「ああ、あの人・・・って何ボケてんのよ? 忘れたの? 生徒会の―――」
  誰もやらないような事なのに、それを楽しそうに片している眼鏡の3年
 生が、沙羅の印象に強く残った。
「じゃね〜、マヨ。また来週〜〜〜。」
「またね〜〜。」
  校門で友人と別れた沙羅は、ふと足を止めると又、花壇の所へ戻って行き
「あら、松永さん。どうしたんですか?」
「拙者も手伝うでござるよ。え〜と・・・あれ?」
  どうしても目の前の先輩の名前が思い出せない沙羅。
「クスクスっ。酷いですね〜、松永さん。私の名前を忘れるなんて・・・折角
先輩思いの後輩にお昼をご馳走してあげようと思ったのに・・・・」
  からかい気味に言うと済まなそうに慌てる沙羅。
「わっわっ! 御免でござるよ先輩〜。」
  しかし、気持ちとは裏腹に中々思い出せなかった。


          夕食時の倉成家。
  以外にも家庭的な武はエプロンを付けて台所に立つ事が多かった。 
「さあ、出来たぞ〜。俺特製の激辛カレーちょっとカカオ風味だ。」
  皿に程よく煮込まれたカレーを盛り付け、家族に配る武。
「・・・意外よね。チョコとカレーがこんなに合うなんて」
「う〜〜。辛いけど美味しいよね。」
「・・・・・・・・・・は〜〜〜。(溜息)」
  武の手料理を美味しそうに食べるつぐみとホクト。しかし、何時も
 なら一番パパの喜んで食べる筈の沙羅はスプーンを弄ぶだけで中々口に
 運ぼうとしない。
「どうした沙羅? どっか具合でも悪いのか?」
「え? ううん、そうじゃないの・・・只・・カレーはちょっと・・・
お昼に先輩からカレーご馳走になって・・・」
  武が心配して尋ねると沙羅は申し訳なさそうに言った。    
「珍しいね、沙羅が昼夜カレーが続いたくらいで食欲なくすなんて?」
「言われてみればそうよね。 ねぇ、本当に大丈夫なの?」
  あまりにゲンナリした様子の沙羅を心配する双子の兄と母親。
「その先輩、カレー大盛りにカレー丼にカレーピラフに牛丼合い合せカレー
にカツカレーに納豆カレーを拙者の目の前で食べ切ったんでござるよ〜」
  それを聞いた武、つぐみ、ホクトは『うっ』と声をもらし一斉にスプーン
 を置いた。
「なんだ? そのカレー魔人みたいな先輩は」
「温和で面倒見のいい先輩なんだけどな〜。あれはちょっと・・・」
  溜息一つついて沙羅はテーブルの上に突っ伏した。


  次の日の午後、つぐみは夕飯の買い物に街へ出かけた。
  落ち着いた色合いの丈の長いワンピースに長い髪、一見高校生くらいの
 美少女然とした若奥様の買い物客は商店街では、やはりと言うか悪目立ち
 していた。
  そんな中、明らかに気配の違う誰かがつぐみを見ていた。
「―――――!?(何、今の?・・・気のせいかしら?)」
  一瞬、誰かが自分をつけていた気がしたつぐみは辺りを見回す。
  つぐみをナンパしようと考えていたらしい大学生風の若い男が彼女と目が
 合ったが睨まれたと思ったらしくアタフタとその場を離れていった。
「(間違いない・・・誰かが私を見ていた)」
  得体の知れない予感に立ち尽くすつぐみ。


 
        某大学構内 第401研究所。
「見張られてる? つぐみが? 誰によ」
  相談を受けた優春は一笑に伏した。
「でも、確かに誰かが私の事を見てたわ・・・何か・・獲物を狙うような目で」
「誰かって、その時近くにつぐみをナンパしようと思ってた男が居たってオチ
なんじゃないの?」
  優春は座ったまま作業用の机の横に備えてあるコーヒーメーカーで2杯分の
 コーヒーを作り、一つをつぐみに手渡した。
「ありがとう・・・ 確かにあの時変な目で私を見てた男が居たわね(苦笑)」
「ほらね。 そんなの私なんかもしょっちゅう見かけるわ(悪戯笑)」
  かつてつぐみや沙羅を監視していたライプリヒという組織は既に全ての活動
 が優春の管理下にあり、今更彼女の生活を脅かす存在は無い筈なのだ。
「仮に何らかの組織がキュレイに興味を持って、つぐみに接触して来たと考えて
もライプリヒを敵にまわすリスクを考えたら有り得ないしね」
「そうね・・・ ごめん優、私、こういう生活に馴れていないから・・」
  しかし、その和やかな空気を一変させる様にバタンッッ!! と大きな音を
 立てて桑古木が研究室に駆け込んできた。
「涼?! 何よイキナリ。びっくりするじゃない!」
「桑古木・・・  !? 何かあったの?」
  只ならない桑古木の様子を察するつぐみ。
「優・・・なんだつぐみも来てたのか・・・ちょうどよかったよ。昨日、誰かに
見張られた。誰かが俺を・・・」
「・・・・今日は私がつけられたわ。」
  マジかよ!? とつぐみの顔を見る桑古木。その表情は暗かった。  
「まさかそんな・・・・ つぐみに続いて涼まで?」
     
  その時、第401研究所がある某大学構内に眼鏡を掛けたショートカットの少女
 が居た。彼女が着ていた制服は鳩鳴館女子のものだった。
「ライプリヒ製薬出資の非合法研究機関・・・ですか。まあ、こちらは私にとって
は関係ありませんね。逃げ足の速い『彼』より『彼女』の方が協力的みたいですし
今晩辺りお誘いしてみましょう。」


  帰り道、つぐみの手には優から渡された緊急回線内臓の携帯電話があった。
「誰が・・・何の為に・・・・」
    トゥルルル トゥルルル――― 
  いきなり着信音が鳴った。
「優・・・なの? ―――― もしもし?」
『あ、今晩は。松永沙羅さんのお母様ですね?』
「・・・・貴方・・誰? どうしてこの携帯の番号が?」
  電話の声の主の若い女性は、凄む訳でもなく淡々と話を続ける。
『クスっ、用件だけ言いますね。実は娘さんの沙羅さんを預かってまして』     
「―――――!? 私の娘に、もし何かあったら・・・殺してやる!」
『心配要りませんから。迎えに来て頂けますね?・・・今すぐに』



  指定された場所は先程までつぐみが居た場所からあるいて15分くらいの
 柄の悪い連中がたむろしてそうな裏路地だった。
「わざわざ来ていただいて済みません。松永さんのお母さん」
  つぐみを呼び出したのは、数時間前、某大学構内に居た少女だった。しか
 し先程とは違い、眼鏡は付けておらず服装も鳩鳴館の制服ではなくカトリック
 系シスターが着る様な法衣だった。
「貴女が・・・沙羅を・・・?  あの娘は何処!?」 
「松永さんならここには居ませんよ。用件が終わり次第、ご案内します」
  口調は丁寧ではあるが、彼女は決して見かけの様な大人しい少女ではない。
「で、用件って何なのかしら? 」
「小町つぐみさん・・・貴女という『存在』の見極めです。』
  少女がスッと、両の手を動かすと
  ――― ジャキンッッ! ジャキンッッ!! ―――
  と、何処から出したのか、刃まで黒く塗られた西洋風の剣が現れる。
「・・・・・・・・・ 」
  つぐみが見つめる中、剣と剣をちょうど十字に構え
「我が名はシエル。法王庁が従える埋葬機関の第七位の司祭にして神の代理人
神罰の代行者。我、その使命に基づき 汝に試練を与える」
「―――― !!ハッ!!!!!」
  一呼吸の内に間合いを詰、つぐみに切りかかる。
「クっ―――!!!(何なの? 彼女もキュレイ?)」
  その信じられない速さの漣激を、これまた人間離れした動きでかわす。そ
 して、かわした身体をそのまま回転させ、つぐみが背後の壁を蹴り上げる!
  ゴゴゴンッッ!! と人間が蹴ったとは思えない音を立てて破片と埃を撒
 き散らして二人に降り注ぐ。
「―――!? こ、これはもう人間の動きではありませんねぇ・・・松永さんの
お母さん?」
「・・・・・五月蝿い黙れ!!!!!! 」
  シエルが鍛えぬかれ、計算された技で攻め込み追い詰めると、つぐみは
 殆ど長年蓄えた勘と経験でかわし、反撃を繰り返す。
  しばらくするとつぐみの身体のあちこちに、剣で斬られた傷痕が増えてい
 くがキュレイの回復力が次々に塞いでいく。そしてそれはシエルも同じだった。
「はあ、はあ・・――― !!!? 貴女・・・まさか、貴女もキュレイに?」
  想像を絶するつぐみの力で殴られ、先程まで脇腹や肩等に付いていた、まる
 で10トンダンプに当て逃げされ様な傷痕が段々薄くなっている。
「ふう・・・そうではないんですよ。まあ、似たようなものですがね・・・」
  お互いに致命傷どころか、手傷を負わす事も敵わない闘いは膠着状態でしか
 なかった。これはもう消耗戦より性質が悪い。
「・・・・そろそろ、決着を着けますか?」
  シエルは一旦、両の手に握られた剣を消し、何やら唱えるとポウっと白く光る
 剣を一つその手に出現させた。
「そうね・・・晩御飯をこれ以上遅らせたくないもの・・・・」
「――――――!  行きますよ  」 
  ――――ブンッ!!! と、風を切る音と共に剣がつぐみに投げられる。
「くっ!?――――――!!(しまった?)」
    ジャキッ ジャキッ ジャキッ ジャキッ ジャキッ―――――!!
  かわそうとしたつぐみの目の前でシエルは両の手の指に挟み込むように計8本の
 剣を出現させていた―――――
「勝負!!!!!!!!!」
  掛け声と共に、先に投げた剣がつぐみに届かない内に投げ付けられる8本の剣。
「疾ッッッッ――――――!!!!!」
  細く吐き出した呼吸と共に、つぐみは目の前に迫った一本目の剣を、切り裂ける
 のも構わず受け止め、無傷の右手で柄を掴み構える!
「ッッッッッッッッッ―――――!!!(一本!二本!三本!・・・・・)」
  キンッ!!! キンッ! キンッ! キンッ!!キッ!! キキンッキンッ! 
 確実に身体に当てるつもりで投げた黒鍵の軌道が災いし、最初に投げた法術処理
 された剣が砕け散ると同時に全て撃ち落されてしまった。
  そして、 流石の二人も力を使い果たしフラフラになりながら歩み寄って行き
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・ ツッ――――!!!!」
「ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・  ッッッ――――!!!!」
  バキッッッ! ボグゥッッ! 壮絶なクロスカウンターの末、その場に倒れこんだ。


「・・・埋葬機関はこれ以上、あなたに干渉しません。松永さんもお返しします。」
  倒れ伏したままシエルはそう呟いた。
「な・・何よそれは? もっと納得できるよう説明しなさいよ・・・」
  こちらも疲れ果て、起き上がる気配がない。
「私の仕事は・・言うなれば化け物の殲滅なんです。それも不死に分類されるのの
専門でして」
「・・・・・で? 私はあなた達のお眼鏡に敵わなかった訳ね?」
「はい。元々キュレイウイルスなるものは自然発生したモノですし、それによって
死や老いを免れるならそれは神の意思と言う物でしょう」
「そうかしら・・・・・」
  いまいち神論者の言い分は納得できないつぐみ。
「それと、先程私が投げた法術処理された黒鍵を掴みましたよね?」
「・・・それが何かしたの?」
  言われて、今は傷がふさがっている剣を受け止めた左手を見る。
「アレは我々が敵とする輩ならば、触れただけで只では済まないシロモノなのです。
アレをその手で掴み、尚且つ8本の黒鍵を打ち落とすなど、正に神の与えた奇跡!」
「・・・・・・もういいわ。 で?沙羅は無事なんでしょうね?」
「ええ。私のアパートで眠ってもらってます。そろそろ迎えに行きましょうか?」


「ななななな・・・何が・・一体!?」
  火事だった。沙羅が寝ている筈のシエルのアパートは派手に燃えていて消化作業
 の最中だった。
「―――――ッッ!! これは一体どう言う事なの!? 沙羅は、沙羅はまだ中に?」
  呆然としているシエルの胸倉を掴みあげるつぐみ。その時、携帯が鳴った。
   トゥルルル トゥルルル――― ピッ!
『もしもし〜 つぐみ? あなた無事だったのね。沙羅なら無事よ。』
「優? え? 沙羅が無事って――――」
『この街のセキュリティをフルに使ってあなた達をモニターしてたのよ。どういう訳か
あなたはロストしてしまったんだけど、沙羅はアパートに連れ込まれたのが確認できた
んで、ウチの所員を使って救出して、敵のアジトは燃やしたって訳♪ 』
  優春の『燃やしたって訳♪』と言うところでピクっと反応するシエル。
「・・・・燃やす必要あったの?」
  不自然に景気良く燃えるアパートを見つめるシエルが憐れになったつぐみ。
『どんな組織かは知らないけど、下手に突いて蛇を出すより事故に見せかけて出先機関
の資料やら何やら全部灰にした方が後腐れも遺恨も少ないでしょ?』
「そ・・・そう?」
  耳が良いらしく携帯での会話は全て聞こえているらしいシエル。
「全部灰?・・・後腐れ・・・遺恨が・・・少ない? 」
  何やらブツブツ言っているが、さっきまでと違いまるで駄目っぽい。


「あ! お〜〜〜い、つぐみ〜〜〜。」
  火事の見物客の喧騒のなかで、つぐみは自分の名を呼ぶ声を聞いた。
「ア・・アルクェイド? 貴女、どうしてここに?」
「な〜んか逢いたくなってね。それにしても変わらないね?・・・あれ?」
  のーてんきに且つ、無暗に親しげな様子でつぐみに話し掛ける金髪、紅瞳で
 白い服を着た日本語が流暢な外人は、火事を呆然と眺めるシエルを見つけ、
「シエル? あんたなんでこんなとこで火事なんか眺めてるの?」
「・・・あ・・アルクェイドさん? 貴方こそ・・いえ、もうどうでも良いです」
  持ってきていた法術関係の魔法書、儀式済みの法衣、その他諸々の私物に
 加え全財産も燃えてしまったのが余程ショックだったようだ。
  間の悪い事は続くようで、今度はシエルの携帯が鳴った。
     トゥルルル トゥルルル――― ピッ!
『――――― 私だ。』
「あ!? ナルバレック局長? はい、任務は全て完了しました。」
『ほう?何時になく手際が良いな。何時ぞやの真祖の姫君が絡んだ事件の時には
3年もかかっていたのに。 よろしい、帰還を許可する。今すぐにな』
「い・・今すぐにですか?」  
  帰れる訳が無い。なにしろ支給された備品は全て灰なのだから。
『どうした? 何か遣り残した事でもあるのか? それとも身包み全て火事に巻き込
まれて灰になって帰るに帰れないとかいうんじゃないだろうな、第七司祭?』
「いえ、実は( ・・・・この人、分ってて言ってんじゃないか?)」
『なんだ? 私は物分りのいい上司のつもりだ。理由があるなら便宜を図るぞ?』
「実は・・この街にはあの真祖、我等の宿敵、アルクェイド=ブリュンスタッドが
いるんです。」
『ほう!?なるほど、それはつまり宿敵に背を向けてはオメオメ帰れないと言う訳か』
「イ・・・イエッサー」
『食べる物も着る物も無く、住む所すら失おうとも一矢報いるまでは泥を啜ってでも
戦い続けると言うんだな?』
「イ・・・イエッサ〜(くっそ〜、分ってる。絶対何処からか見ているんだ〜)」
『よし、許可する。・・・・成功を祈ってるぞ。ハハハハハハ――――』
     ツー―――ツー―――ツー――――  ピッ

  アルクもつぐみも哀れすぎて声を掛けようか迷っていると、
「・・・・アルクェイドさん。・・・戦ってください」
  つぐみとの死闘で疲れ果て、優春の策略で衣食住全てを無くした今、残された 
 道は・・・戦い続ける事しか彼女には無かった・・・・・・
「え〜と、さ、シエル。ジャンケンにしない?ほら、じゃ〜んけ〜んポンっっ♪」
  
      ―――――あえなくシエルは負けた―――――


    【 あとがき 】
 ほとんどノリで一日で書きました。わかんない人には分りませんね。
 某、同人ゲームの格闘ゲームをやっててピンと来てしまいまして。
 
 感想おまちしてます〜。 







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