春よ、来い。 キラ |
《桑古木視点》 「遅い!!」 「本当にごめん!」 あれから少したってから俺は用意をして待ちあわせの場所についた。優が指定した喫茶店は落ち着いた雰囲気を醸し出していた。しかし待てど暮らせど優のやつは来ない。結局優が来たのは約束の時間から1時間半後であった 。「ホントにごめんなさい!」 来てから優はずっとこの調子だ。最初は俺も怒っていたが… 「怒ってる…よね?」 だから〜こんなかわいい声で言われたら怒れないって!…というわけで今は怒ってないが怒ってるふりをしている。理由は…一生懸命謝っている優がとてもかわいかったから…。でもまぁそろそろかわいそうだしな。 「もう怒ってないからいいよ。」 「ホント?」 「ホント。」 「よかった〜。」 優の顔は笑顔に変わった。まるで春のように暖かい笑顔に。 「で何の用だ?」 とりあえず今回は仕事の事ではなさそうなので聞いてみた。 「??何が?」 「なんでこんなところに呼び出したんだ?」 「??お茶しようって言ったでしょ。」 「それだけ?」 「うん。」 「ホントに?」 「……。実はね…」 来た。恐れていたことが来てしまった!いったいどんなことを言われるんだ〜!! 「実は一緒に買い物して欲しいの!」 ………。 「はぁ?」 俺は想像と現実のギャプに驚いたあまりそんな声が出てしまった。 「あ、や、やっぱり駄目だよね。そうだよね。変な事言ってごめんなさい。」 優の顔は真っ赤だ。 「なんだ、そんなことか〜。」 俺は顔が緩むのを感じた。 「そんなことならお安いご用さ。」 「いいの?」 「ああ、いいよ。」 「じゃ、じゃあ今から行かない?時間もないし。」 「ああ、じゃあ行こうか!」 「うん!」 そして俺たちは喫茶店を後にした。 喫茶店を出て道を歩いていると他人の視線が痛くてしょうがない。もちろんそれは俺に向けられているものはほとんどなく大半は俺の隣りにいる優に向けられている…。道行く人々が振り返るのを見て改めて優のかわいさに気付いた。ちなみに俺に注がれている視線は男たちの羨望のまなざしのみである。当の本人はというと…。 「桑古木〜早く〜」というかんじで無邪気に歩いている。 「はいはい。」 と言いながら俺はついていった…。 そして買い物が終わった。俺の手に優の買い物袋が握られているのは言うまでもない。ゆっくりと冬の寒空の下を歩いている。すると優が…。 「ねぇ、ちょっと公園寄ってかない?」と言った。 もちろん俺は…。 「ああ、いいよ。」とそれに応じた。優はさっと公園の中に入って行った。俺もそれを追う。優は淡い電灯に照らされた白いベンチに座っている。俺もその隣りに座った。時間はもう6時を回っている。冬の6時となればあたりはもう真っ暗で、もちろん人もいない。この公園は俺たちの貸しきり状態だ。 「…。」 「…。」 気まずい沈黙が訪れる。どうしようかと話題を考えていると、優の方が先に口を開いた。 「ねぇ?」 「ん?何だ?」 「いきなりなんだけど…ココの事はもういいの?」 「…。ココかぁ〜。」 ココ―八神ココ―とは17年前の事故の犠牲者で俺と優が今までの時間をかけて助けた少女だ。今では元気に暮らしている。 「ああ、ココの事はもういいんだ。ココにはあいつもいることだしな。」 「そうね、彼がいるものね。」 彼、彼とはBWの事だ。BWは119Mの深海からココを助けたのだ。そしとBWとココは互いに惹かれていった。というわけだ。しかしBWは4次元的存在…つまりほとんど会えないというわけだ。最初は俺もその不幸な恋に反対した…しかし今ではココが幸せならいいじゃないかと思うようになった。そして俺はココの事を諦めた。まあ理由はそれだけじゃないが…。 「それに俺はココじゃない誰かを好きなんじゃないかって思い始めてさ。」 「ふ〜ん。」 そう言った優の声は少し沈んでいた…。 《春香菜視点》 桑古木には好きな人がいる…。それは誰かわからない。私かもしれないし、他の誰かかもしれない。私は少し沈んでしまった。 「なあ、優?」 「何?」 自分でも元気が無いことがわかる…。 「優こそ武のことはいいのか?」 「倉成ねぇ〜。」 倉成―倉成武―は17年前の事故にココとともに巻き込まれた犠牲者である。私は倉成のことが好きだった。しかし彼には妻も子もいる身だ。必然的に私は彼を諦めなければならなかった。もちろんその頃には桑古木のことが気になり始めていたのでつらくはなかった。今よりは全然楽である。 「倉成のことはもう気にしてないわ。…。それよりもあなたに聞いて欲しい事があるの。」 「俺に?」 彼は少し驚いている。 「ええ、実は…わ、私…あなたの事が…。」 声が震えている。 怖い!もし駄目だったら今の関係が崩れてしまったらと思っている。それでも溢れる思いを止めることはできない。 「私は…あなたの事が…。」 「優!」 不意に彼が私の言葉を遮った。 「俺は…俺はお前のことが好きだ!!」「……。」 私は一瞬これが現実なのか困惑した。 桑古木も私のことを…? 彼の顔を見る。笑っていた。まぶしかった。 「ずるい。私が言おうとしたのに。」 「武ならこうするかなと思ってさ。」 「うん…。」 そう言って彼に抱き付いた。 「俺は武じゃない…ぞ?」 「分かってるわよ!私はそんなバカじゃないわ!」 「そうだったな。はは!」 「うふふ。」 私たちは笑った。とてもくすぐったかった。そして同時に幸せだった…。 「あれ?田中先生と桑古木さん?」 「ホ、ホクト!?」「ホクト君!?」 「あっお母さん!」「ユウ!お前まで!」 「ちょっとユウ!いつからそこに居たの!?」 「今来たんだよね?」 「うん。」 ホクト君は笑いながら答えた。笑いごとじゃないけど…。 「さて、私たちは邪魔だから行こうか?ホクト?」 「そうだね。じゃあ二人ともまた。」 そう言って彼らは走って行った。 「おいちょっと待て!」 彼は追いかけようと走ろうとしていた。私はその光景を見て笑っていた。 「おい!優!早く行くぞ!」 そう言って手を差し出した。 「うん!」 私は彼の手を握り締めた。 《桑古木視点》 優が笑って手をにぎる。そのとき…俺はやっと気付いた。 俺は…俺はこの笑顔が…この春のような笑顔が好きなんだ…。そう確信した。 こうして俺は…17年間な時を経て…やっと…やっと…春を捕まえた…。 |
あとがき はじめまして。キラと申します。 こんなSSを読んでくれてありがとうございます。 初めて書いたものなのでいろいろへたれていますがそこは許した下さい。 これからもっと書いてうまくなろうと思います。 ではまた〜。(^0^) |
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