重かった。果てしなく重かった。耐えられないくらいに。部屋の空気が。
 今、俺は戦場に居る。そこで繰り広げられているのは、女の戦い。ここまで言えばもう
判ると思うが、優春、空、つぐみの三人による、俺を巡る争いである。
 一応言っておくが、この事態を招いたのは断じて俺のせいではない。俺は優春と空の二
人には、きっぱりと気持ちに応えられないことを告げていた。某同人ゲームの主人公の様
に、あやふやな態度をとった覚えもないし、絶倫超人と呼ばれたこともない。にもかかわ
らず、この三人はことあるごとに俺を取り合っていた。その理由の大半は優春にあること
が多く、今回もその例にもれなかった。
 事の始まりは、一時間前・・・・・・・





田中式人生ゲーム
〜勝利の方程式は闘技場のスライム理論〜
                             魔神 霊一郎


「倉成ーーーー。ゲームしない」
 休日の午前。やって来るなり、そんなことを言い出す優春。
「はあ、ゲーム!? いや、別にそれはいいけど、何でまた急に」
「いやー実はね、ゲーム創ったのよ。私」
「創ったあ!」
「うん。ほら、最近のゲームって一人で遊ぶやつ多いじゃない。大勢で遊べるようなゲー
ムがなかなか無いからね。だったら、創ってしまおうかなと」
「まあ、確かにそういうゲームは少ないが、創るとなると手間かかったろ」
「そうでもないわよ。ごく古典的なボードゲームだから。コンピューターゲームだと、や
っぱり人数が制限されちゃうからね。大勢の場合はこういうタイプのゲームの方が便利よ」
「成る程。確かにそうだな」
「で、完成したので試しに遊んでみようかな、と思って持ってきたのよ」
 そう言って、優春は傍らにたたずむ空からそれを受け取る。
「どう、やってみない」
「俺は別にかまわないが…つぐみは」
「そうね、やってみてもいいわ」
「よし。じゃあ、やってみるか」
「OK。そうこなくちゃ」
 俺は、後にこの台詞を後悔することになる。




「このゲームのルールは簡単よ。普通の双六と同じ。賽子を振って、出た目の数だけ進み、
止まったマスに書いてあることを実行するだけ。マスの内容は、人生ゲーム的なものが多
いわね。ただ、マスの内容は実際に行うこと。それだけが、普通の人生ゲームとは違うわ
ね。でも、マスの内容は実行可能な物しかないから安心して」
 成る程、確かに簡単そうだ。つぐみも以前、優の家で一度この手のゲームをやったこと
があるので、ルールの方には何の問題もなかった。
「よし、じゃあ始めるか」
 俺の、この一言が合図となってゲームが開始されたのだが、この時点で気付くべきだっ
た。人生ゲームというものは、作者の人生観を反映しやすいゲームだということに。そし
て今回の作者は、あの田中優美清春香菜だということに・・・・・
 そう、この時点で気付くべきだったのだ。



「じゃあ順番は、倉成から順に時計回りで、空、つぐみ、私の順でいいわよね」
「ああ」
「かまいません」
「ええ」
 それぞれに答える。
「それじゃあ、倉成。まずはあなたからよ」
「おう」
 優に促され、賽を振る。
 コロコロコロコロ・・・・・ピタ
 賽が止まる。のぞき込むと賽は4で止まっていた。
「4だな」
 自分の駒を手に取り、それを動かす。
「1、2、3、4っと。えーなになに、合コンに行く。寄った勢いで左隣の女性に抱きつ
かれる。って、ちょっと待て。なんなんだこれは! お前さっきマスの内容は実行可能な
物だって言ってなかったか!?」
 俺が叫ぶのとほぼ同時で、左隣の空が勢いよく抱きついてくる。その行動には、逡巡の
カケラもなかった
「実行可能じゃない、これくらい。現に空は嬉しそうよ」
「お前は俺に死ねってのか!?」
 つぐみの嫉妬深さといったら、すごいものがある。近所のコンビニのバイトの女の子と
少し話し込んだだけで、浮気者と詰られたくらいだ。
「えー!? だってこれ、田中先生の恋愛人生ゲームってタイトルだから」
「ちょっと優! そんなこと聞いてないわよ!?」
「ええ、言ってないもの。それより早く進めましょ。次は空よ」
 俺は、不安を隠すことが出来なかった。そして、不幸なことにその不安は的中する。そ
の後も出てくる出てくる、不穏な内容のマスが。
 近所の人気者。お隣さん(右)にキスしてもらう。
 職場の人気者。同僚に告白される。
 等々、つぐみの怒りのバロメーターが、駒が進むごとに上がるようなものばかりだ。こ
れらは、俺か、優春か、空の時のマスの内容だ。これでつぐみも同じような内容ならば、
それほどに怒りを募らせることもなかったのだろうが、流石というか、ここまでやるかと
いうか、つぐみの時だけ、
 デートをすっぽかされる(他のプレイヤー、つまりは優春と空、とベタベタする)。 
 詐欺に会う。愛想を尽かされ別居(座席が1つ遠くなる)。
 などの暗い内容のものばかり。というか、これらのマスは俺の見る限り均等に配置され
ているのに、なぜつぐみにばかりヒットするのだろう。賽子も同じものを使っているとい
うのに。ひょっとして優春は、サイコキネシスでも身につけたのだろうか?
 不安がますます大きくなっていく俺を後目に、ゲームはどんどん進んでいく。息苦しさ
さえ感じるのは、決して気のせいではないだろう。
 そうして一時間が経過した時。場は戦場になっていた。



「どうしたのよ、つぐみ。早く賽を振りなさいよ」
 優春が、リビングの入り口付近のつぐみに向かって話しかける。とうとうつぐみは、入
り口にまで追いやられてしまっていた。優春の陰謀によって。いや、優春と空の陰謀によ
ってというべきか。
(それにしても、ここまでやるとはね)
 俺は驚きを通り越してあきれていた。この二人が俺を取り合って、争いを繰り広げるの
は何も今回が初めてではない。最近では、その方法もかなり過激になってきてもいたが、
それにしてもここまで陰湿かつ直接的に来るとは、思ってもいなかった。
 部屋の空気は、これ以上ないくらいに重くなっていた。同時につぐみの怒りメーターも
そろそろ限界だろう。
「ねえ、優。ひとつ聞きたいんだけど」
「なにかしら」
「どうして、このゲームのマスには告白だのキスだのが多いのかしら」
「それは言ったでしょ。恋愛人生ゲームだって」
「ええ、聞いたわ。でも、私が聞きたいのは…」
「聞きたいのは?」
「何故、殊更に武を標的として考えたとしか思えないマスばかりなのか、って事よ」
「何だそんなこと」
 優春は、まるで愚問だと言わんばかりに言い切った。ものすごくさわやかな表情を浮か
べながら。
「決まってるじゃない、それが目的だもの。待っててね、倉成。今すぐ助けてあげるわ」
(いや、俺を苦しめてるのはむしろお前の方なんだが)
 心の中でそうつっこむ。口に出さないのは、それが無駄な行為だと知っているからだ。
 一方、優春はそんな俺の心情などお構いなしに、ますます自分の世界へ潜り込んでいく。
「そう、今日こそ倉成を助け出すのよ。この第二十六次倉成奪還計画によって!」
(そうか、もう二十六回目か。もう殆ど恒例行事となりつつあるな)
 半ば現実逃避気味に思う。実際に逃避出来ればどれだけ楽だろうか。が、そんなことは
不可能だった。つぐみのあの表情を見てしまったから。憐れむような、蔑むような、丁度
Lemuの中で俺に偽善者と言ったあの時の表情だ。
「ねえ、優。あなた、小学校からやり直した方がいいんじゃない。奪還計画? この際だ
から言っておくわ。いい、奪還っていうのは取り戻すことを言うの。でもあなた、武を取
り戻すことは出来ないわ。何故なら、あなた最初から武に相手にされてなかったものね。
だから、奪還計画って言うのはおかしいわねえ」
 ビキッ
空気が凍った。重くなった。息苦しくなった。今まで以上に。更に。当社比(?)五倍位
に。重さには物理上限界が無いというがさすがにこれはないだろ。この空気の重さの中で
は、例え超○イヤ人でも、耐えられないに違いない。
(またこの展開か。どうせ一番の被害を被るのは俺なんだかろうな)
 二十六回目の恒例行事ともなれば、この後の展開も読めてくるというものだ。
「つぐみ、ちょっと調子に乗りすぎじゃなくて」
「あなたほどじゃあないわ。友人だからって今まで見逃してあげていた情けを、仇で返す
あなた程じゃあね」
「おほほほほほほ」
「うふふふふふふ」
 高まる緊張感。二人の体から闘気のようなものがたちあがっているのが見えるのは、決
して気のせいではないだろう。
 俺はさりげなく二人から離れ、いつでも逃げられる場所に避難する。二人とも俺のこと
など眼中になく、お互い真正面に睨み合っていた。もう限界だな。そう思った瞬間。
「消えなさい、つぐみ! 倉成は私がいただくわ!」
「逝きなさい、優! 平穏な家庭にあなたの存在は邪魔よ!」
 二十六回目のガチンコファイトが始まった。




「はあ、結局はこうなったか。優のやつ、最近はほんとに過激だな」
「そうですね。本当はさりげなく、小町さんの倉成さんへの評価を下げて愛想を尽かさせ
る、というのが今回の目的だったんですけど」
「そこまで行く前に、こうなるのは判りそうだがな。つぐみの性格から考えて」
「ですよね」
 二人してしみじみと、溜息をつく。
「昼飯、どうすっかな」
「それでしたら、倉成さん。今度駅前においしいイタリアンレストランが出来たんです。
そこへ行きませんか」
 空の誘いに少し考えるが、結局は空腹感には勝てなかった。
「そうだな、一度行ってみるか。では、茜ヶ崎君。案内を頼むよ」
「はい! 倉成先生!」
 空と連れだってリビングを出る。出際に一度後ろを振り返ったが、二人のファイトはま
だまだ終わりそうになかった。
 俺はもう一度溜息をついて、空の後を追った。
第二十六回倉成争奪戦結果

田中優美清春香菜、倉成月海
半ば自滅によるダブルノックアウト

茜ヶ崎空
不戦勝
Fin




後書き

 途中から何を書いているのか判らなくなりました。当初はギャグのつもりだったのです
が… タイトルも訳判りませんね。DQシリーズをプレイしたことのある人なら、ひょっ
として判るかもしれません。
 ま、ともあれ書き終えることが出来たのでほっとしています。もしよろしければ、感想
をください。お待ちしております。
 それでは皆様、縁が有ればまたお会いしましょう。最後になりましたが、拙作を受け取
って下さった、明さんに感謝を。

魔神霊一郎


/ TOP  / BBS









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送