十二月に入りめっきり寒くなった。雪こそ降らないが、誰が何といおうと、季節は立派
な冬である。
 あちこちに建つコンクリートのビル。それらの無機質な色彩が、寒さに拍車をかける要
因の一つである事は間違いないだろう。そんなビルの一室が、俺の仕事場だった。

Present for you
                             魔神 霊一郎




 倉成探偵事務所所長。それが俺の肩書きだ。開業から既に六年。従業員数十六人、平均
月間依頼数二十件、年商約三億。事務所の状態を羅列するとざっとこんな感じか。諸経費
を差し引いた俺の年収は、ざっと一億前後。優なんかは、倉成のくせに私より高給取りな
んて許せない! ってかんじで喚いてたが、あいつの場合は副収入が多いので、結果は下
手すると俺以上の稼ぎだろう。
 従業員の方はその優の伝手を頼って、信頼出来る人間を回してもらった。口が堅いし、
事情もおおよその所は解ってるから、キュレイの事は気にしなくても良いとは優本人の談
。事実、六年経っても変わらない俺を見ても、眉一つ動かさないし、そうでもないかぎり
従業員など雇えない。俺にとっては実にありがたい事だ。尤も交換条件として、時たま優
の仕事を無条件で手伝わされるのだが。
 まあ、結論から言うと俺の事務所はおおむね順調だった。そんなある日のこと。
「あの、倉成探偵事務所はこちらでよろしいでしょうか?」
「そうですよ、ご依頼ですか?」
「あ、はい。少し、相談したい事が御座いまして」
「それではこちらにどうぞ」
 受付の子が、応接ソファに依頼人を案内する。それを見計らって、俺は所長室から出た
。「どうも、所長の倉成です。何かご相談との事ですが?」
 軽く頭を下げながら、依頼人の前に腰を下ろす。年の頃は、おそらく還暦前後。人当た
りがよく、穏やかな老婦人。ドラマや映画に出てきそうな雰囲気を持った人だ。
「ええ、人を…探して頂きたいのです」
「家出人か何かですか」
「いえ、実は…」
 倉成探偵事務所、今年最後の依頼は、開業以来の最難関依頼となった。




 つぐみの入れた紅茶を飲みながら自宅のソファに座り、天井を見上げ考える。傍目に見
ればぼーっとしているようにしか見えないだろうが、頭の中身は高速で回転していた。
 そのままの姿勢で身じろぎもせずにいると、突然つぐみが視界に入る。
「何考えてるの?」
 どうやらつぐみには、俺が考え事をしていると解ったらしい。この辺りはさすがと言う
所か、俺は少し嬉しくなった。
「今日受けた依頼の事だ。これがまた…」
 俺は思い出しながら、つぐみに依頼内容を話す。本来なら守秘義務で話す事は出来ない
のだが、時々こうやってつぐみに話す事がある。大抵は、彼女の力を借りたい時だ。
 依頼者の名前は水原千恵子、六十二歳。街の中心から外れた場所にある、孤児院の院長
をしている。この孤児院では毎年クリスマスパーティーを行うのだが、前もって孤児達に
欲しい物を書いた紙を出させるそうだ。その紙に書かれた物を職員が集め、クリスマスの
夜寝静まった頃、子供達の枕元に置いていくらしい。
 今回の依頼はそのプレゼントが原因だった。
「その孤児院にな、赤ん坊の頃、孤児院の前に棄てられてた子がいるらしい。慎也って名
前のその子が今年書いた欲しいものってのが、お父さんとお母さんらしいんだ」
 つぐみは黙って聞いている。瞬き一つせずに。
「何とかかなえてやりたいので、探し出してくれないか。っていうのがその人の依頼だ。
他の探偵事務所には全て断られた、もうここしかない。そう言うんだ、思い詰めた顔して
、な。実際、そうだろう。相手の顔も、以前住んでいた所も、名前すら解らないんじゃ普
通受ける探偵はいない。見つかりっこないからな」
「じゃあ、断ったの?」
「いや、受けた」
「どうして?」
「………あいつらの事が、浮かんでな」
 つぐみの顔に変化はない。おそらく、俺がこう答えるのを予想していたのだろう。
 ホクトと沙羅。俺たちの子供。だが、決して幸せな環境で生きてきた訳ではなかった。
「俺は、あいつ等を育てられなかった。俺が海の底で寝てたばかりに、辛い思いをさせた
。その罪滅ぼしって訳じゃないし、そんなものになりはしない事も解ってる。解ってるん
だが、放っておけなかった」
「でもそれは、あなたのせいじゃないわ。全部ライプリヒのせいよ。本来なら、あなたは
死ぬ必要なんて無かったんだもの。あいつらが…」
「そうかもしれない。けど、俺はそう簡単に割り切れない。現にお前だって、あいつ等の
事でずっと罪悪感を抱いてきたんだろ」
 それだってつぐみのせいじゃない。好きこのんで子供を棄てる親などいない。
「あの子の親も同じ、か」
「え」
 ぼそりと呟いた、俺の声に反応するつぐみ。きょとんとした顔。こういう時のつぐみの
顔は、十七歳の少女のそれだ。
「その慎也って孤児の親もおそらく同じだろう。その子が棄ててあった時、中には十分な
暖房がしてあった。毛布、携帯懐炉、他にもミルクなどの食料品があったらしい。さらに
封筒があって、その中に『訳あってこの子を育てる事が出来ません。許されない事とは承
知していますがこの子をお願いいたします』そう書かれた手紙と、現金で二十万入ってい
たそうだ」
 言葉を切り、紅茶で唇を湿らせた。ティーカップをテーブルに置き、続ける。
「つまりは、この親は子供が邪魔になって棄てたんじゃないって事だ。もしそうなら、な
りふり構わずコインロッカーの中にでも棄てるだろう。ましてや、二十万なんて大金置い
ておくはずがない。なら、探しようもある」
「どうやって?」
「まず一つ。その子が棄てられていた孤児院は、街の中心から外れた場所にある上に、そ
の性質上宣伝などはいっさいしていない。にも係わらず、その前に棄てられていたと言う
事はその孤児院の事をよく知る人物となる。つまりは、この街に住んでいた可能性が高い
。次に、親である以上子供の事は絶対に気になるはずだ。つぐみ、お前のように」
 静かに頷くつぐみ。あのころを思い出しているのだろうか。
「我が子の成長も見たいだろう。なら、この街に来た事があるかもしれない。さすがに住
んでいるなんて事はないだろうが、様子を見に孤児院の近くまで来た事があるかもしれな
い。そうなれば、誰かに目撃されている可能性もある」
「それにしたって、凄い数になるわよ」
「そうでもない。あそこの立地は郊外だ。人通りがそれほど多いという訳じゃあない。ま
してや、のぞき込んだり様子を伺うなんて事をすれば、下手すりゃ警察を呼ばれかねない

「それは、確かにそうね」
「その聞き込みと並行して、住民票を調べる。その子が棄てられた七年前に、この街から
出た人間。住民票に異動がないのに、実際にはいない人間。更には、転入してきた人間も
しらべる。これは、七年前から今までが期間だな」
「相当な人数に及ぶんじゃない」
「だろうな。だが、やるしかない。徹底的な人海戦術でな。後は聞き込みで得た情報と、
住民票の該当者を照合していくだけだ」
「だけって…」
 そんな顔するなよ、つぐみ。こっちまで萎えるだろ。わかってるよ、俺がどれくらい無
謀な事しようとしてるかぐらい。けどな。
「絶対に見つけてやるさ。大丈夫、なんとかなる」
 さんざん言い続けた決まり文句。それを聞いたつぐみが、溜息を吐く。
「それじゃあ…」
「おっと、今回つぐみには別のことをやってもらいたい」
「別のこと?」
 自分も手伝う。そう言いかけたつぐみの先を制し、仕事を押しつける。
「ああ、それはな…」




 翌日から捜索が始まった。所員の半数以上をつぎ込んでの捜索は、まさに大捜査線とい
った感じだ。踊ってはいなかったが。
 そして予想通り捜査は難航した。つぐみの言うとおり、住民票の調査は膨大な数に上り
、丸一日かけても一向に減る様相を見せなかった。更に悪いことに、孤児院の周辺にも不
審な人物を見かけたという情報も、全くあがらなかったのだ。はっきり言ってこれはまず
い。
 なぜ、網に引っかからない。子供のことが気にかからないはずはないんだ、棄ててあっ
た時の状況がそれを示している。それとも七年の間に、子供のことなど忘れてしまったの
だろうか。いずれにせよこれでは…。
 その後も捜査に進展はなかった。いたずらに時間だけが過ぎていき、カレンダーはクリ
スマスまで、後五日に迫っていた。




「どうでしょうか? あれから、その…」
「申し訳有りませんが、状況は芳しくありません。何一つ手がかりが出てこないのです」
 孤児院を訪れ、現況報告をする。正直言って、心が重い。
「やはり、無理なのでしょうか?」
「…………………」
 そんなことはありません。そういえればどれほど楽か。だがそれは出来なかった。俺は
プロだ。プロが無責任なことを言うことは出来ない。俺に出来るのは。
「まだ、五日有ります。出来る限りのことは、私の力の限りのことは、させて頂きますの
で」
「お願いします」
 静かに頭を下げる院長。俺の心はますます重くなった。出来るなら、このまま逃げ出し
たいぐらいに。
 コン、コン
 顔を上げてくれるよう言おうとしたその瞬間、院長室のドアがノックされた。
「…どうぞ」
 顔を上げ、ドアに向かって院長が呼びかける。がちゃりとドアが開いた。入ってきたの
は、三十代前半の男性だった。
 俺に対して、軽く会釈してから院長へ向き直る。
「院長、そろそろ昼食の時間です。みんなもう集まっていますよ」
「あら、もうそんな時間ですか。倉成さんもよろしければご一緒に如何ですか」
「いえ、私はこれからもまわる所がありますので」
 俺は丁重に辞退する。やはりここにいるのは、辛い。
 席を立ち、短い辞去の言葉を述べる。既に食堂に向かったのだろう、男性の姿はもう無
い。そう言えば…。
「どうも違和感がありますね、男性の従業員というのは。孤児院で働いていらっしゃる方
は、女性が大半というイメージがありますので。現に今まで、女性の姿しか見かけなかっ
たから尚更です」
 これ以上ない偏見だとは思うが、つい口をついて出た。だが、院長は気を悪くした様子
もなく、答える。
「確かに、孤児達を育てるには女性の方が向いていると思いますけど、男性も必要です。
私達は親代わりですのに、母親しかいないというのは不自然ですからね。それであの方、
志賀さんとおっしゃるんですが、を雇い入れたんです。丁度、五年ぐらい前になりますか
しら。ご夫婦でこの街に越して来てらして、以前も福祉関係のお仕事をしていたそうなの
で、丁度よい感じでそのまま…」
 子供達もよくなついてくれてます。そう答えながら穏やかに微笑む。
 俺はもう一度辞去の言葉を述べ、孤児院を後にした。




「針のむしろだな。それにしても、本当に見つかるのかどうか少し自信なくなってきたな
…。つぐみには大見栄切ったんだがな。それに、つぐみにやってもらってることも無駄に
なっちまう。見つけてやりたいんだがなあ」
 どうするか…。
 悩みながら道を歩く。目撃者が出ない以上、虱潰しに住民票をあたるしかないか。実際
、BWの力を使えばあっさり解決するのだろうが、あれはこの世界のものではない。それ
に頼りすぎれば、いつか痛い目を見る。この世界の事はこの世界のものが解決する。俺は
そう思う。思うのだが、やはりあの膨大な量を思うと気が滅入るのは避けられなかった。
「それでもやるしかない、か…。よしっ」
 気合いを入れ直して事務所に向かおうとしたその時、頭の中に稲妻が走った。
「……そう、か。は、ははっ。ははは! そりゃ見つからないわけだ。そりゃそうだ。は
はははは!」
 俺は笑いながらPDAを取り出し。事務所に繋ぐ。
「俺だ。今から言うことを至急調べてくれ。いいか…」




「みなさん、メリークリスマス。今年もこの日が来ましたね。今年もサンタさんから皆さ
ん宛のプレゼントを預かっていますよ」
 あちこちから嬉しそうな、期待に弾んだ声が聞こえる。だが、慎也はうつむいたまま微
動だにしない。期待半分、不安半分といった所か。
 プレゼントはどんどん配られていき、いよいよ慎也の番がやってきた。院長が俺を見る
。それに頷き、俺は彼の前でしゃがみ、目線を合わせる。
「慎也君。君が欲しいプレゼントは、お父さんとお母さんだったな。どうしてだい」
「どうしてって」
「どうしてお父さんとお母さんがいることが解ったんだい」
「手紙を見たんだ」
「手紙?」
「うん。この子をお願いしますって書かれた手紙」
「あれには、君の名前は書いてないはずだろう」
「でも、最後に僕の誕生日が書いてあったんだ。他に同じ誕生日の人はいないから…。そ
れに、あのお願いを書いた時、院長先生は何も言わなかった。お父さんとお母さんが居な
いんなら、ちゃんと言ってくれる。院長先生は僕たちに嘘を吐いたりしないから」
「そうか。じゃあ、二人にあったらどうしたい?」
「…一緒に、寝て欲しい」
 少し恥ずかしそうに、うつむきながら答える。
「怒ってはないのかい? お父さんとお母さんを」
「うん。ただ会いたいだけだよ。ねえ、お兄ちゃん。知ってるの、お母さんとお父さんの
こと?」
 俺は立ち上がる。そして、
「聞いたか? 強いな、子供ってのは。それで、あんたはどうするんだ」
 俺は問いかける。その目線の先には、一人の男性。あの時、昼食の時間を伝えに来た男
性だった。
「あんたの子供は親に棄てられながらも、ここまでまっすぐに育った。今度はあんたがそ
れに答える番じゃないのか。志賀さん」
「倉成さん、待ってください。では慎也君の父親が志賀さんといわれるんですか?」
「ええ、その通りです」
 種が解ってしまえば、簡単なことだった。いくら探しても不審者など見つかるわけがな
い。従業員なのだから。また母親の方も、従業員の妻と言うことなら孤児院で見かけても
、何ら不思議ではない。
「私には、何のことだか…」
「逃げるのか? サスペンスドラマの犯人のような台詞で逃げるのか! 七年前、資産家
であるあんたは両親に結婚を反対された。だが、奥さんをあきらめられなかったあんたは
二人で駆け落ちを決意した。けど、その時奥さんのお腹には慎也君が居た。だが、あんた
の両親はその時もまだあんた達の仲を裂こうと必死だった。このままでは、子供に落ち着
いた、普通の生活を送らせてやることは出来なくなる。そう考えたあんたは子供を泣く泣
く手放すことにした。孤児院にしたのは、きちんと育ててくれると思ったことと、孤児院
に預けられた子供に危害が加えられるようなことが有れば、大きな問題になる。そう思っ
て。捨て子という形を取ったのは、両親の追跡が子供に及ばないようにと配慮と、そして
、自分たちが子供への未練を断ち切るためだろう。まさしく苦悩の決断だ。それは解る。
だが、もし今回逃げればその時は…」
 言葉を切った。そして、志賀から一瞬足りとて目を逸らさずに続ける。
「その時こそ、あんたらは本当にその子を棄てることになるんだ! 親の資格を自ら捨て
去ることになるんだ! あんたはそれで良いのか! 自分の腹を痛めた子だろう!」
 玄関の方を向いて、叫ぶ。そこには人影が二つ。一つはつぐみ。もう一つは…。
「美紀…」
 志賀が呟く。志賀の妻であり、慎也の母親である女性。
「あんたらは自責の念で、五年もの間名乗れずにいたんだろう。だが、子供の方から歩み
寄ってきたんだぞ。親の温もりを求めてきたんだぞ。それを、その手を払いのけるのか。
七年間を取り戻すチャンスなんだぞ。どうすればいいかなんて、解ってるはずだろうが!
」 沢山の子供の前だ。怒鳴り声などあげるべきではないかもしれない。それでも俺は言
わずには居られなかった。
「先生、おばさん。本当に、二人が本当に僕の、お父さんとお母さんなの…」
 ふらふらとこちらに近付いてくる。
 二人の目に、涙が浮かんだ。嗚咽混じりの声で、慎也に語りかける。
「ああ、そうだ。私達が、お前の、お父さんとお母さんだ」
「本当に」
 頷く二人。その二対の瞳からは、止め処もなく涙があふれ出る。
「お…父さん、お母…さん。うわああああああ!」
 慎也は泣きながら、両親の元へと飛び込んだ。二人はしっかりとそれを抱き締める。
「す、まん。すまない、慎也」
「ごめん。ごめん、ね。慎也ぁ」
 それ以上は言葉にならない。二人とも、ただ己が息子を泣きながら抱き締めている。よ
く見ると泣いているのは、彼らだけではなかった。院長も、他の職員も、そして、
「泣いてるのか、つぐみ」
「ええ、そうよ。だって、仕方ないじゃない。こんなの見れば、誰だって」
「別に責めてる訳じゃないさ」
 再び、抱き合う親子に目を向ける。あの姿は家族三人が今ようやく一つになれた、その
確かな証明だろう。
 今年最後の依頼は、こうして幕を閉じた。




「本当に何とお礼を申し上げてよいか…」
 俺は院長室で院長と二人、向かい合って座っていた。広間の方からは楽しそうな声が聞
こえてくる。あちらはパーティーの真っ最中だ。
「あの子の両親を見つけて頂いただけでなく、パーティーの方でも協力して頂いて…。本
当に」
「いえ、私の所でもパーティーをするつもりでしたので。どうせなら一緒にと思いまして
ね。こちらこそご迷惑ではなかったですか?」
「とんでもありません。例年以上に賑やかで楽しげなパーティーとなりましたわ」
 俺がつぐみに任せた仕事がこれだった。クリスマスのプレゼントとして両親を見つける
のなら、ついでにそのお祝いのパーティーもしてやろう。そう思って、つぐみに様々な準
備を頼んでいた。後一歩で無駄になる所だったが、何とかそうならずに済んだ。
「それでは報酬をお支払いしなければなりませんね。百万、用意いたしました。これが私
に出来る精一杯の金額です。足りるでしょうか?」
「ご心配なく。うちの料金は両親設定ですよ」
 冗談でそう返しながら、札束を受け取り数える。
「確かに」
 領収書に百万の額面を書き込み、サインをする。それを院長に渡した。
「では、これが領収書です。それと…」
 そのまま、院長に受け取ったばかりの百万を渡す。目を丸くする院長。
「あの、これは」
「私からのあの三人へのプレゼントです。そうですね、親子三人、静かに暮らせる環境を
整えるのにでも使ってください」 
 そう言って笑う。院長は驚きに固まっていたが、やがて涙を浮かべ。
「有難う御座います、倉成さん。本当に、何と…」
「いいんですよ。それより、あちらへ行きませんか。少し空腹気味でね。放っておくと料
理が無くなりそうだ。何しろ食べ盛りの子供達が多いですから」
 そうですわね。そう言って、院長は穏やかに微笑む。
「では、お先に」
 背を向けドアに向かう。その背に院長の声が掛かる。
「倉成さん。本当に、有難う御座いました」
 軽く微笑む。お気になさらず、そう気持ちを込めて。俺は今度こそ広間に向かうために
ドアをくぐった。
 広間へ続く廊下の窓から外を見ると、雪が降り始めていた。明日の朝、あの親子が新た
な生活を始める頃、雪は大地を埋め尽くすだろう。泥も汚れも塗りつぶして真っ白に。そ
れはまるで彼らを連想させた、今日の出逢いが過去の全てを塗りつぶし、真っ白な状態か
ら全てを築き上げようとする彼らを。
「Merry X'mas」
 一言呟き、俺は広間に向かった。


 

Silent night, holy night
All is calm, all is bright.
Round yon Virgin, Mother and Child.
Holy infant so tender and mild,
Sleep in heavenly peace,
Sleep in heavenly peace.

fin




                         後書き

 クリスマスネタです。少々速いかもしれませんが、無性に書きたくなりましたので。
 ストーリーそのものに深い意味はありません。純然たるシリアスストーリー、少しダー
ク混じってるような気がしないでもないですが…。
 シーズンネタは難しいです。特に今回のような、世界規模のイベントを絡ませるとなお
ですよ。皆さんが様々なネタを思いつくので、かぶらないようにするために苦労します。
そのような経験、皆様おありではないですか。
 何はともあれ、今作もお楽しみいただければ幸いです。そうでなければ、御容赦を。も
しよろしければ、御感想など頂きたく存じます。
 それではこの辺りで。最後に、拙作をお読み頂いた読者諸卿と、公表の場を与えて頂い
た、明様に感謝を。

                                            魔神 霊一郎


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