世界は・・・変わった。
「仲間」によって世界は変わり、
世界によって・・・私も変わった・・・。
そう・・・あのときから・・・。

変わるもの、変わらないもの。
                             By.海月


「はぁ、はぁ・・・。」
!!・・・光が見えた!
あの先が・・・インゼル・ヌル!
私はその光に吸い込まれるように走った。
そして、その光に包まれたと思ったのもつかの間、とっさに身を隠し、逃げた。
ここにもライプリヒの連中がいるはず。
そうやすやすと捕まるもんですか!!
雑草を踏み分け、林を縫うように走り、私は身を潜めた。
ここなら大丈夫。後は乗れそうな船を待つだけ。

・・・そういえば・・・あの時も・・・。

たしか17年前。
武を失った日・・・。


あの日も私はこうして身を潜めていた。
私が始めて愛した男が残した言葉。
「生きてる限り、生きろ。」
それが支えだった。
あの人がいない世界なんて考えられない。
逃げる気力も失っていた私のなかに響いたのはこの言葉だった。
止まらぬ涙をぬぐうことなく走った・・・あの日。
あの日を再現しているのだろうか?
誰かが私の悲しみを呼び起こそうとでもしているのだろうか?

「娘と息子に会わせてやる・・・。」

電話の向こうで男はそう言っていた。
沙羅にホクト・・・。
あの子達は今どうしているのかしら?
ちゃんと逃げられたのかしら?
大丈夫よね。あの子達はあの人に似ているから。
2人は私と武が愛し合った痕跡でもあるんだから。
強くなくちゃ困るわ。

・・・でも・・・
もう会えないのかしら?あの子たちには。
だからといってここで出て行けば、ライプリヒの連中が・・・。
捕まるわけにはいかない。
武との約束だから。
「俺は・・・死なない!」
武は約束した。
そう。彼は死なない。
武は約束を守ってくれる。
だから、私も!!


「お母さん・・・」
「ママ・・・」
あの子達は私をそう呼んでくれた。
私は2人を見捨ててしまったのに。
そばにいてあげられなかったのに。
もう呼んではもらえないでしょうね。
私はまたあの子達を見捨てるの?
見捨てたくない。当たり前だ。
でも・・・どうしようもないのよ・・・。

それと、「奴ら」。
武の名をかたる男と優に良く似た女。
やすやすと武の名を語るなんて!
武はあんなんじゃない。
あんな男に武だなんて名乗られたくない。
奴らもライプリヒなのかしら?
データでも取っているのかしら?
どこまで私を弄べば気が済むのかしら!?

もう1人・・・空。
空までが奴らの仲間だったなんて。
もしかすると空が首謀者?
考えたくない。あの空が・・・私を?
それはないか。
空は操られてるだけ。RSDだから。
空はAIだから・・・。


そのとき、なにやら周りが騒がしいことに気づいた。
あ・・・船が着いたみたい。
あれに乗って逃げよう。

―――と。

「(―――優!?)」

そこには幾多の警察官と、優が立っていた。

いや、正確に言えば優に似た人物。
多少年をとったような気がするが、あの日のままの優がそこにいた。
胸には
「ライプリヒ製薬  You.T」
のプレート。

「!!(優がライプリヒの社員!?)」
頭が真っ白になった。まさか優までもが・・・。
何故!?それに・・・警察。
あれもライプリヒの息のかかった連中だろうか?
このままではマズイ。一刻も早く逃げなくては!

駆け出そうとしたとき、腕が何かに引っ張られた。

「小町さん!!」
「!・・・空!?」

そこには空がいた。
―――空も奴らの仲間―――
その考えが頭に浮かび、すぐに腕を振り払おうとしたとき、私はやっと異変に気づいた。

「空、つかんでる!?どうして・・・?」

その問いには答えず、空は事務的に言った。

「田中先生がお待ちです。」
「田中先生?優のこと?・・・ふざけないでよ!ライプリヒの人間が何の用?先生だなんて呼ばれちゃって!!そんなに私が憎い?嫌い?いいかげんに・・・」

そこで言葉はさえぎられた。

「・・・空?」
「・・・。」

空は泣いていた。
地面に落ちても消えない、本物の涙を流して。

「・・・行ってみてください・・・小町さん・・・。」
「・・・。」

敵意は薄れていた。
何かを感じた。
空の涙から「憎しみ」は感じられなかった。
ましてや「喜び」すら感じた。

「わかったわ。案内して。」
「・・・はい。」

真っ赤になった目から零れ落ちる雫をぬぐい、空は歩き出した。
私も無言でついていく。
不思議なことに、ライプリヒの連中はどこにもいなかった。

「こちらです。」

空に案内されたのは白い建物。
ただ、白い、研究所のようだった。
しかし、私は小さいころとは違う雰囲気を感じた。
なにか温かみのある色だった。
どことなく、クヴァレのクラゲゴンドラを思い出させた。

重い扉を開くと、そこにはソファーに腰掛ける優がいた。
私に気づくと

「つぐみ・・・久しぶりね。」
「・・・。」

私はもう敵意は感じていなかった。
優の周りの空気はあのころと変わらず、温かかった。

「・・・何の用?」

しかし、用心に超したことはない。
利用されてるだけかもしれない。
私は努めて硬く聞いた。

「ごめんなさい。こうするしかなかったの。」

何が言いたいのだろうか?
私が眉間にしわを寄せると、

「実際に会ってもらったほうが早いわね。信じてもらえるわけないし。」
「・・・誰に?ライプリヒの人間なんて顔も見たくない!吐き気がするの!」

一瞬で警戒心がよみがえってきた。
これは罠だったのだろうか?
この扉の奥に・・・奴らが・・・!?

「大丈夫。警戒しないで。あいつはつぐみに危害なんて加えないでしょ?」

『大丈夫』
その言葉が私に1歩を踏み出させた。
あいつ?私も知っている人?
『仲間』・・・なの?



そして私は

  静かに―――

    その扉を開いた―――。



「!・・・・・・・・!!!!!!」
「・・・。」

扉の向こうには私の良く知る人物がいた。
優しい瞳。
薄い唇。
すらりとした体。
そして
その中に秘めた熱く、やさしい心・・・。

まさしく彼、本人だった。


「・・・。」
「・・・。」

無言の時が流れた。
それは私には10分とも1時間とも思えた。

そして、

「・・・た、たけし・・・。武・・・な・・の・・・?」
「・・・つぐみ・・・。」

久しぶりに聴く心地よい声。トーン。
その声は今まで私を抑えていたものを一気にかき消した。

「武――――――っっ!!武!武!!武!!武っっ!!!」
「――――――――つぐみっ!!つぐみっっ!!!!」

どちらからともなく抱き合い、唇を重ね、またきつく抱きしめあった。
涙の味がした。
武は私の唇を噛み、私は武の唇を噛んだ。
血の味がした。
息をするのも忘れるくらい、私たちはお互いを貪りあっていた。
もう・・・離さない!!何があろうと!!




「・・・おほん。それじゃ、いいかしら?」

ちょっと震えた声で優が話し出した。

IBFに取り残されたココ、地底で沈む武。
17年前の忌まわしい事件の記憶。
事件の首謀者BW。
「奴ら」の正体。桑古木と優の娘、優美清秋香菜。
ライプリヒの最期。
武が生きている理由・・・。

話を聞く間も私たちは抱き合っていた。
もう離れたくなかった。
どんなときでも彼のそばにいたかった。


「そろそろ行くわよ。本土に帰らなくちゃ。」

「・・・武・・・。」
「『大丈夫』だ。俺はもうどこへも行かない。いつでも一緒にいるから・・・。」
「・・・うん。」

船には沙羅、ホクトが待っていた。
優は2人には何も話していなかったようだ。
ただ、ホクトは目が真っ赤にはれていたので、知っていたのだろう。
あ、そうか。優が言ってたっけ。
BWはホクトの視点を借りてたって。
船の上ではまた感動の再開が繰り返された。

沙羅、ホクトと武。
空と武。
優(春)と武。
桑古木とココ。
私とココ。
武とココ。
ココとホクト(BW?)

そして、私達「家族」。

長い長い時間の後、船は静かに出港した。
LeMUに別れを告げるように・・・。


そして、私はいま、船室の中にいる。

どこからか聞こえてくるいとしいあの人の声。

「俺はなぁ、意味のない質問には答えないことにしたんだよ。」

武と子供たちの声が聞こえる。

世界は・・・変わる。
「仲間」によって世界は変わり、
世界によって・・・私も変わる・・・。
そう・・・この瞬間から・・・。


私は、完全防備で船室を出た。
武のところに歩み寄る。

「武・・・。おかえりなさい。」
「あぁ、ただいま、つぐみ。遅くなって・・・悪かった・・・。」

武は私を抱きしめながら言った。

「それにしても・・・相変わらずかわいいな、お前・・・」
「えっ?えっ?えっ?や、やめてよ・・・そんな・・・」

「いや、だってあまりにも可愛いからさ。」
「どうしちゃったのよ、いきなり・・・。」

うれしい反面、ちょっと恥ずかしくなって顔が熱くなる。

「可愛すぎて、食べちゃいたいくらいだ。」
「や、やだ・・・なによ・・・なんでそんなこと・・・」

武の笑顔に心臓の鼓動が激しくなる。

「うむ、やっぱりお前はチャーミングだ。チャーミングだからチャミ。・・・いい名前だな。」
「・・・えっ?」

私は彼の胸から、強引に体を引きはがした。
彼の視線は、私の肩先にあった。
自分の肩を見る。
チャミがチョコマカと手足を動かし、毛づくろいをしていた・・・。


世界は・・・変わった。
「仲間」によって世界は変わり、
世界によって・・・私も変わった・・・気がしていた。
でも、変わらないものもある。
その変わらないものも、たまらなく愛しかった。
変わらないもの・・・
変わらない彼を失うことのないように。
変わらない私は、これからの大きな期待と一抹の不安、そして・・・
いつまでも変わらない二人の愛を願って、大きな声で言った。



「もぉ―――っ・・・
     武のバカァーッ!!!!」



**********あとがき***********************

このたびは、私の作品を読んでいただいてありがとうございます。

この作品は私の初めて作ったSSということで・・・
才能ないですね〜。(乾いた笑い)

う〜・・・もっと進化しないといけないでござるなぁ・・・。

つぐみ視点(?)ということで。
つぐみと武が17年ぶりに再会したシーンを感動的に書きたかったのですが。

うぅ・・・できれば掲示板か何かで批評をいただければ幸いです。

これからも頑張りますので、よろしくです!







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