青き闇に閉ざされた楽園・・・
運命という名の歯車は、楽園を脱出不能の牢獄に変える・・・!
無限に広がる巨大な鏡は、人の真実を映し出す・・・!
絶望・・・恐怖・・・そして、「死」・・・!
鏡を見つめる魑魅魍魎にとって、それはこれから始まる晩餐会の
最高の舞台劇となる・・・!
悲鳴・・・!怒号・・・!阿鼻叫喚・・・!
聞こえてくる戦慄の音色は、最高の愉悦・・・!
となる、筈だった・・・!
何者だ!?この男は!?
鏡の中から、冷笑を浮かべて魑魅魍魎を見つめる男がいる・・・!
その目に見据えられた時、奴等は恐怖に怯え、目を逸らす・・・!
男の眼から放たれる、「狂気」という名の黒き光・・・!
在り得ない!何故だ!?何故このような男が存在する・・・!?
赤木しげる・・・!神域の男と呼ばれ、裏社会を震撼させた男・・・!
あの、アカギだった・・・!

アカギ IN LEMU 
−深海に降り立った天才ー

                              鳴きの虎

第2章 生命

2017年 5月4日 

(武視点)
昨日は、LEMU全体に関わる事態が発生した。
空によると、ツヴァイトシュトックの倉庫の圧力制御管に
異常が見られるという。
これは、LEMUを覆っている多重隔壁、その内部の圧力調整を行っているパイプだ。
これが破損した場合は、空でも修復することは出来ない。
そこで、俺はつぐみとココと共に、ツヴァイトシュトックへと向かった。
だが、修理の途中において、俺は大失態を犯してしまった。
廃材の積まれた山を崩してしまったのだ。
落下する廃材からココを庇い、つぐみは負傷した。
なんとか救護室へ駆け込み、負傷したつぐみの治療に取り掛かった。
縫合経験のある優の緊急措置のお陰で、何とかつぐみは一命を取り留めた。
日付は変わったが、まだ世の明けきらない時刻、俺はつぐみの所へ向かった。
自分の不注意でつぐみが負傷したことを謝り、
ココを助けてくれたことに対して、礼を言うために・・・。
だが、目を醒ましたつぐみの口から出た言葉は思いがけないものだった・・・。
「私はただ、死にたかっただけ。」
この言葉をきっかけに、俺とつぐみは「生命」に対する互いの価値観をぶつけあった・・・。
そして最後に、つぐみは俺にこう投げかけた。
「良くわかったわ。あなたが、偽善者だってことが・・・。」
その言葉は、俺の心の中に突き刺さったままだった・・・。
そう・・・、まるでどうしても抜くことのできない棘のように・・・。
俺は、もう一度床に就こうとしたが、どうしても寝付けなかった。
再び廊下を、意味も無く歩いていく途中、アカギの姿が目に入った。
アカギは、煙草を吹かしている。
その姿に、俺はしばし見とれた。
同姓の俺から見ても、様になっている。
何か遠くを見つめているような目は、俺達の届かない別の世界、別の境地を
見据えているかのようだった。
そして、若さでは体現することの出来ない、渋みと独特の凄み・・・!
アカギが何者なのかは、未だに分からない。
しかし、日常からかけ離れた危機的状況において、少しは発達しているのか・・・、
俺の第六感ともいうべきものが、アカギが今までの俺では到底窺い知れない世界に
生きてきたことを告げている。
そんなことを思い浮かべながらアカギの姿を見ていた俺に、
俺の存在に気付いたアカギがこちらを見た。
「・・・吸うか・・・?」
アカギは煙草を俺に差し出した。
「いや、俺は煙草は吸わない。」
「そうか・・・。」
そう言って、アカギはもう一本煙草に火を付けた。
「なあ・・・。」
「ん?」
唐突に、俺はアカギに尋ねる。
「アカギ、“生命”について、考えたことある?」
「随分といきなりな質問だな。
 生きるとか、死ぬとか、そういう類のことか・・・?」
アカギは、ゆっくりと口から煙を吐き出す。
「まあ、“生命”って一言で言っても、俺には上手く言えないけど。
 ・・・何ていうか、それ以前に俺自身が何を聞けばいいのか分からなくて・・・。」
「・・・そうか・・・。」
暫くアカギは黙り込んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「俺たちは人間の前、何だったかな・・・?」
「え?」
「人間としての俺が生まれる前の話さ・・・。犬コロか・・・、鳥か・・・、
 俺達の閉じ込められてる周りを泳ぎ回ってる魚か・・・、
 いや、海に溶けた微生物だったかもしれねえ・・・。」
「・・・・・。」
「まあ、何であっても不思議じゃない・・・。
 人は、いや、全ての生き物は、海に溶けた塵だの砂利だの、
 淀みみたいなものだったんだろ。
 そこから原始的な生命が生まれ、進化に進化を重ね、人間になった・・・。
 だとすれば、つまり、無生物の中に生き物の素、種があったことになる・・・。
 その種ってのは、ある“意思”、つまり、生命になろうって気持ちみたいな
 ものがあったから、無生物は生き物に変わり得た・・・。
 あるいはこんな風にも考えられる・・・。
 要するに砂や石や水、今、俺達の周りに腐るほどある、
 通常俺たちが生命じゃないと思ってるものも、
 永遠といっていい長い時間の中で、変化し続けている・・・。
 そう考えれば、それはつまり、俺達の計りをこえた・・・、 
 “生命”じゃないかと、俺は考えてる・・・。
 つまり、死ぬってことは、その命に戻ることだ・・・!」
「じゃあアカギ、少なくともあんたの考えでは
 “生命”ってのは、消滅しないのか?」
「ククク・・・、消滅しようがねえのさ。
 今既にあるものは、存在し続ける・・・。形を変えてな・・・。
 そういう意味では・・・、まあ、不死だわな・・・。」
俺は黙って、アカギの話に聞き入っていた・・・。
「凄いなアカギは・・・。そんな風に“生命”について考えられる人を
 俺は今まで見たことが無いよ。」
「ククク・・・、別に凄いわけでも何でもないさ・・・。
 ただ、俺自身が勝手にそう思ってるだけだ。」
そう言ってアカギは、吸い終えた煙草を灰皿に捨てた。
「いつ頃だったかな・・・?俺がそんな風に考えるようになったのは・・・。
 だが・・・、そう思い始めた頃から、俺はいつ死んでもいいと思えるようになった・・・。」
「え・・・!?」
さっき、つぐみが「死にたかった」と言ったことが脳裏に蘇った。
しかし、話を聞いている限り、俺にはつぐみとアカギでは、「死」に対する考え方が
決定的に違うように思えた。
もっとも、、俺にはなぜつぐみ自身が死を望むようなことを口にしたのかは分からないけれど。
少なくとも、アカギはつぐみのように、“生命”を否定するような言葉は、
一言も発していない。
「なあアカギ、あんたはそれじゃ、このLEMUで、死んでもいいっていうのか?」
「・・・結果的にそうなったとしても、俺は構わない。
 さっき言った通りさ、生命はまた再生される・・・。
 今俺達が閉じ込められてる場所は、まさにその、全ての“生命”が
 生まれた場所じゃねえか・・・。
 悪くない・・・。まるで、悪くない・・・!」
「・・・・・・。」
俺には、返す言葉が無かった。やはり、アカギは俺たちの手の届かない場所にいるのだ。
こんな人間に、どんな言葉をかければいいのか・・・。
俺は、沈黙から逃れられなくなっていた・・・。
「・・・おい。」
「?」
アカギが、不意に俺に声を掛けた。
「今度は、お前の番だぜ。倉成は、“生命”について、どう考えてる・・・?」
何とか沈黙から逃れると、俺は答えた。
「上手く言えないけど、生命が生き続ける理由ってのは、
 つまり、死ぬってことがどういうことなのか、
 終わるってのかどういうことなのか、
 その現実を見極められるまで、待てってことだと思う。
 もちろん、俺もみんなも、今はその時じゃない。
 少なくとも、アカギみたいに考えられるようにはなってないんだ。
 だから、俺はまだ死ねないし、死にたくない。
 その時が来るまで、俺は生き続ける。」
「ふうん・・・・・。」
アカギは笑みを浮かべて、俺の話を聞いている。
「・・・生命は無条件で肯定されるべきだ。
 生命は皆、生きるために生きている。
 生きるべきものは、ずっと生きるべきなんだ。
 ・・・少なくとも、俺はそう思ってる。」
 現世の成り立ちを説く高僧のような、アカギの言葉に対し、
俺の答えは余りに単純なもののように思えた。
「いいんじゃねえのか?それで・・・。」
「え?」
アカギは、笑ってそう答えた。
「お前を初めて見たときから、大した奴だと思ってたんだが・・・、
 期待してた以上だぜ、お前は・・・。」
どうして、そんな風に俺のことを思えるんだ・・・?
今こうやって話すまで、さほど深い言葉を交わしていたわけではないのに・・・。
「何で俺がこうして褒めてるか、分からないって顔してるな・・・。
 なあに、難しく考えることはないんだ・・・!
 生命(いのち)ってのはすなわち、輝きなんだから、
 輝きを感じる人間は、生命を喜ばせてるって、すぐ分かる・・・。
 どうして生命が喜ぶかといったら、これは、ひどく単純な話・・・、
 動いているからだ・・・!」
「動く・・・?」
「まあ、こんな状況で、お前はお嬢ちゃんや他の姉さんたち・・・、少年のために
 自分で出来ることをしてる・・・、そうだろ?」
「当たり前だろ?そんなの・・・。」
「ククク・・・、当たり前か?真っ直ぐなお前には分からないかもしれねえが、
 誰かのために何かをすること・・・、少なくともこんな状況では難しくなる・・・。
 人間ってのは、危機と相対したとき、その本質が出る・・・、
 我が身可愛さに逃げ出すか・・・、
 恐怖で立ち止ってしまうか・・・、
 それとも或いは突っ込んでいくか・・・。
 少なくとも、お前は逃げていない・・・、違うか?」
「まあ、その話はもういいよ・・・。
 ところで、俺はさっき“生命”ってのは何なのかについて話したけど・・・、
 そんな風に考えてる俺は、“偽善者”なのかな?」
「ククク・・・、偽善者か・・・。
 今、お前は偽善者って口にしたが・・・、
 その、偽善者って何・・・?」
「え?」
「善人ぶってる奴、奇麗事並べ立ててる奴、そういう奴のことか・・・?
 お前が偽善者?何だそれ・・・?まるで分からねえ・・・。」
「それは・・・。」
つぐみにははっきりとそう言われた。俺のまだ知らない悲しみを秘めた目で、
彼女はそう言った。
「人が言うことと、お前自身に、何の関係がある・・・?
 少なくとも、お前は自分が間違っていると思うことをしていないし、
 口にしてもいない・・・。そうだろ?」
俺が正しいと思うこと・・・?俺が正しいと言えること・・・?
「だったら、それでいいじゃねえか・・・。
 何事も、まずは“自分ありき”だ・・・!」
「自分・・・?」
「ま、深く考えることでもねえさ・・・。
 倉成、お前はお前であり続けろ・・・!
 そこに、他人の入り込む余地は無い・・・。
 してやればいいのさ・・・!
 誰かの為に、何かをしてやりたいと思うならな・・・。」
俺が、してやりたいと思うこと・・・?
誰に・・・、何を・・・?
その時思い浮かぶ。
邪険にされながらも、どうしても気になる・・・、
側にいてやりたいと思う女の事を・・・。
アカギは穏やかな笑みを浮かべて言った。
「お前のことを、名前で呼んでる娘は、誰だったかな・・・?」
「アカギ・・・?」
「もうすぐ夜が明ける・・・。お前の出番だぜ。」
「え?」
「メシだよメシ!昨日の騒ぎで、ろくに食えなかったからな・・・。
 一休みしたら、美味いやつを宜しく頼むぜ。」
「ああ、分かったよ。」
そう答え、俺は寝床に向かった。

(武視点 終了)
第2章 END






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