時は来た・・・
青き悪鬼の群れは、その牙を研ぎ終えた・・・!
そして、鏡の向こうにある「生」を喰らい尽くさんと、
舌舐めずりを繰り返す・・・!
最早、我慢できぬ・・・!
牙は疼き、喰らい付く瞬間を待ちきれない・・・!
そして、その群れは鏡を飛び出した!
底知れぬ絶望と共に・・・。
だが、その目の前に、男が姿を現す・・・!
止まれ!奴がいた!
男の発する、「狂気」の前に、魑魅魍魎は跳ね返される・・・。
常人には計り知れぬ、幾多の地獄を垣間見た神域の男・・・!
一片の淀み無く、ひたすら一時に殉じるその命・・・!
・・・裏社会に君臨し、数々の伝説を築き上げた男・・・。
あの、赤木しげるだった。

アカギ IN LEMU 
−深海に降り立った天才ー

                              鳴きの虎

第3章 勝負

5月4日にアカギと「生命」について語り合った武は
後の数日間において運命を共にする仲間たちの背負ったものを知ることとなった・・・。
つぐみの背負った過酷な運命と孤独、そして悲しみ・・・。
優が犯したという、たった一つの「罪」・・・。
人に非らざる空の、知り得ないもの・・・。
時に彼等は、己自身を曝け出して感情をぶつけ合い、
時には互いを思いやり、刻一刻と迫る過酷な現実に対し、
懸命に向き合おうとしていた・・・。
そしてその間、アカギは己の抱くものを若者たちにぶつけることも、
諭すこともしなかった。
ただ、過酷な運命に懸命に立ち向かう若者たちに対し、
その成り行きを、静かに見守っていた・・・。
そして、終焉の時は彼等に刻一刻と迫っている・・・。


2017年 5月 6日
(武視点)
今日この日、ココが吐血したのをきっかけに、俺たちは
自分たちに課せられた運命の過酷さを改めて実感した・・・。
ココを、俺を、そして優の身体を蝕みつつある
青い悪魔の名前が、明らかになった。
ティーフ・ブラウ・・・。
極めて致死性の高い悪性のウィルスであり、
致死率は85%に達すると言う・・・。
この事態を打破すべく、俺たちはLEMU内部の研究施設、
「IBF」へと向かった・・・。
スキャンの結果・・・、俺も、優も、少年も、
ティーフ・ブラウに感染していた。
そして、俺と少年に、ティーフ・ブラウの症状が
徐々に現れ始めていた・・・。
ピピの持ってきたアンプルによって、一時はその症状を
和らげることには成功したものの、所詮は一時凌ぎに過ぎない。
だが、その中でつぐみとアカギには、その症状は現れていなかった。
スキャンを行った結果、アカギはティーフ・ブラウに感染しているものの、
キュレイ・ウィルスのキャリアであるつぐみは既に、抗体によって
ウィルスを駆逐していた。
苦肉の策で、俺はつぐみの体内で生成された抗体を摂取し、ティーフ・ブラウを
駆逐することを提案した。
キュレイとしての過酷な運命を知るつぐみは無論反対したものの、
全員の命には替えられないとして、納得させることに成功した。
そして、それぞれがつぐみの体内から精製された抗体を摂取し、
俺もそれを終えた後、あることに気付いた。

「・・・最後はアカギの番だ・・・。あれ?アカギ?」

アカギの姿が、俺たちの前から消えていた。

「おい、優、アカギは?アカギはどうしたんだ?」

「え?アカギ?さっきまで、その辺に・・・。」

優も俺も、周囲を見渡した。アカギの姿が、どこにも見えない。

「くっ!くそっ・・・!こんなときに、どこに行ったんだよっ・・・!」

この非常事態に、忽然と姿を消してしまったアカギに対し、俺は
怒りにも似た感情を覚えた。

「俺・・・、アカギを探してくる・・・!」

「だ、ダメだよ倉成!今は、寝てなくちゃ!」

「寝てる場合じゃない・・・!あいつも、ティーフ・ブラウに感染してるんだ・・・!
 このままじゃ、アカギも・・・。」

何とか意思を保ち、前へ踏み出そうとする。
だが、身体は言う事を聞いてくれないようだ。
俺は、次第に意識が薄れていった・・・。

俺は深いまどろみから覚めた。
何とか賭けは成功したようで、少年も優もまだ眠っているようだが
顔色を見る限りは、回復しているように見える。
意識を取り戻した俺は、ある重大なことに気が付いた。
アカギは、まだ抗体を摂取していない!
俺は抗体を入れた注射器を掴むと、通路へ飛び出した。

「アカギッ!アカギッ!どこだ?」

必死にアカギの姿を追い求め、俺は廊下を走る。

「おいっ!アカギッ!どこだ!何処にいるんだよっ!」

ウィルスに蝕まれ、上手く動かない身体を必死に動かしながら俺はアカギを探した。

「アカギッ!」

廊下の灰皿の置かれた近くに、アカギはいた。
まるで何事も無かったように、煙草を吹かしている。

「ククク・・・、倉成か。何だ?随分慌ててるじゃねえか。」

「ば、馬鹿野郎っ!こんな所で何やってるんだよっ!」

「・・・見て分からねえか?一服してるんだ。
 お嬢ちゃんたちのいるところで、吸うわけにはいかねえからな。」

さっきまで、皆の命に関わる重大な局面に瀕していたというのに、この余裕は何だ?

「あんた、何考えてんだよっ!」

俺は思わず、アカギを怒鳴りつけた。

「あんたも、ティーフ・ブラウに感染してるんだぞ!
 このままじゃ、本当に死んじまうんだ!
 早く、この抗体を・・・!」

俺はアカギに、抗体の入った注射器を差し出した。
俺の手にある注射器を、アカギは見つめた。
何だ、この目は・・・?
まるで、子供が興味の無い玩具を見つめる目のそれだった・・・!

「いらねえよ・・・!」

「な・・・?」

俺は思わず、耳を疑った。

「いらねえんだよ、そんなもん・・・。」

「な、何言ってるんだよ!あんたが死ぬことを恐れていないのは俺も知ってる!
 だけど、それと生きる可能性を放棄することは別の話だろ!」

「・・・倉成、お前・・・、さっきから俺が死ぬ死ぬってぬかしてやがるが・・・、
 そうあっさり決められちゃあ、少し不愉快だ・・・!」

アカギの表情は変わらない。穏やかな笑みを浮かべたままだ。

「でも、ティーフ・ブラウは、具体的な治療法は今のところ見つかっていないんだ!
 それに、致死率も85%以上だって・・・。」

「・・・だからって、俺が死ぬと、誰が決めたんだ・・・?」

アカギは煙を吐き出し、ゆっくりと言葉を続ける。

「致死率85%だって・・・?面白いじゃねえか・・・!
 つまり、100−85で、15%は俺が勝つ可能性もあるってことだ・・・。」

「そんなの、ただの数字の上の話だろ!?」

「・・・じゃあ、その85%とやらも、数字の上の話じゃねえのか・・・?」

「いい加減にしてくれ!こんな時に埒のあかない理屈なんか、聞きたくない!」

「まあ、聞け・・・。」

興奮する俺を制して、アカギは話し始めた。

「その抗体を使えば、俺の中の何かは変わっちまう・・・。そうだろ?」

「だからって、何なんだよ!死ねない身体になるかもしれない・・・。
 それがどうした!?あんたほどの人なら受け入れられるはずだ!
 この先どんな過酷な運命が待っていようと!」

「倉成、お前は、根本的な所で俺を勘違いしている・・・!」

「勘違い!?どういうことだよ!」

「お前が俺にそいつを差し出して、俺がそれを断った時、
 お前は、俺が死ねない身体になっちまうかもしれないから、そいつを断った・・・。
 死ねなくなったとしたら、まあ、それはそれで大変だわな・・・。
 だから俺は、断った・・・。
 そう思っただろ?」

「・・・違うのか?」

「前に言ったな?お前に・・・。
 俺は、いつ死んでもいいと・・・。
 俺にとっては、この場所が潰れて死ぬことも・・・
 その妙なウィルスによって死ぬこともあまり大したことではない・・・。
 それよりも、俺にとっては、俺が『赤木しげる』として死ねなくなること・・・。
 こっちの方が問題だ・・・。」

「どういうことだよ?それって・・・。」

「・・・つまり、俺はまだ、勝負していない・・・!」

「勝負だって?」

「そのウィルスと、俺自身との勝負のことよ・・・!
 確かに、その抗体を俺の身体に打てば、ウィルスそのものは消えるかもしれねえ・・・。
 だが、俺が勝負して、勝ったことにはならねえじゃねえか・・・!
 俺は、してみたいのさ・・・!
 俺とウィルスとの、生き死にの勝負(ギャンブル)・・・!」

「そんな馬鹿げた勝負、わざわざする必要がどこにあるんだよ!
 この抗体を使えば、命が助かる可能性はある!
 それなのに、自分から命をドブに捨てるような真似をして、あんたに一体何の得があるんだ!」

「ククク・・・、だからかえっていいんだよ・・・。
 元々俺は、損得で勝負などしていない・・・。
 ただ、勝った負けたをして、その結果、
 人が死んだり不具になったりする・・・、
 そっちの方が望ましい・・・。
 少なくとも、俺にとってはな・・・。
 その方が・・・、博打の本質であるところの・・・、
 理不尽な死・・・!
 その淵に近づける・・・。
 醍醐味ってヤツだ・・・!」

「博打?何だか、言ってることはよくわからないけど、
 死んじまったら何もかも終わりなんだぞ!」

「終わりか・・・。だが、俺が『赤木しげる』として死ねるならば、
 そのこと自体に何の問題も無い・・・!
 俺が俺として生きるためには・・・、
 『死』そのものが、常に俺の近くに有らねばならない・・・。
 『死』そのものが、不可欠なんだな・・・。
 俺として、生きるために・・・、勝負するためには・・・。
 そう、俺にとっては、生き死にの勝負ができるということが、
 人生の全て・・・!
 『赤木しげる』の人生は、勝負することが全てなんだ・・・。
 『生』と『死』、どちらか一方が欠けたら、勝負は成り立たない・・・。
 『赤木しげる』そのものが、成立しなくなる・・・。
 だから、困るんだよ・・・!
 お前の持ってるそいつで、死ねなくなったとしたら・・・。」

「何だよそれっ!アカギが今まで何の勝負をしてきたかなんて、俺は知らない!
 だけど、そんなの滅茶苦茶だ!
 勝負が、人生の全てだなんて・・・!
 アカギ!あんたは偏ってる!偏りすぎてないか!?」

聞いていて、頭を抱えたくなってくる。
俺には分からない・・・。
この、赤木しげるという男が・・・。

「ククク・・・、そう、俺は偏っている・・・!
 だが、俺は、それを唯一誇りにして、今まで生きてきた・・・!
 だから、仮に間違った考え方だとしても、
 今更俺が、別人になれるわけでもねえ・・・!
 30年以上、在り続けてきた、俺の在り方、思考だからよ・・・!
 結局・・・、もう直らねえってことさ・・・。
 ほら、よく言うだろ?バカは死ななきゃ直らないって・・・。
 だから、勝てば、俺は生きる。
 だが、負けたら、死なせろ・・・!」

俺にはもう、アカギを説得する言葉は見つからなかった。
しかし、アカギがこれまで、どのような人生を送ってきたのか、
少しは見えたような気がした。
恐らく、文字通り己の生死を賭けた修羅場を、この男は何度も潜り抜けてきたのだろう・・・。
それが、一体どのようなものか、俺には分からない。
しかし、そのような中に身を置き続けてきたからこそ、
アカギは己自身を完成させるに至ったのかもしれない。
それは俺にも、誰にも届かない・・・、
何人たりとも侵すことのできない、アカギだけの境地、世界・・・。
だからこそ、持ち得るのかもしれない。
何者にも左右されない、己だけの持つ「死」という感覚を・・・。


「分かってくれるか?倉成・・・。
 俺が恐れているのは、俺が俺で無くなること・・・、
 『赤木しげる』が、生き死にの勝負ができなくなること・・・。
 それだけは、御免だ・・・。
 俺は・・・、
 例え勝つにしろ、負けるにしろ・・・、
 赤木しげるとして勝ち・・・、
 赤木しげるとして、負けたいのだ・・・。」


この言葉を聞いた時、俺にはアカギの言うことが少しだけ理解できた。。
アカギは、決して自分から死のうとしているわけではない。
ただ、俺たちとは、「死」との距離の置き方が少し違うだけなんだ。
だからこそ、できるのかもしれない・・・。
彼自身の語る、人生の全てだという“勝負”を・・・。

「もういいよ、アカギ。
 あんたには、この抗体は必要ないってことは分かった・・・。
 ただ、一つだけ確認したいんだけど、
 あんたは死ぬために、ティーフ・ブラウと
 勝負するわけじゃないんだな?」

「そうさ・・・。
 勝つか、負けるか・・・、
 生きるか、死ぬか・・・、
 それはあくまで結果に過ぎない・・・。
 俺は、俺自身として、勝負することを選んだだけだ・・・。
 な?別に死ぬために勝負するわけじゃねえんだよ・・・。」

「でも、どうなったとしても、俺はあんたに、死んでほしくない。
 あんたも、俺たちにとって、大切な『仲間』だから・・・。
 あんたが死んだら、俺も、ココも、みんなも悲しいんだ・・・。
 そのことを忘れないで、勝負してくれ。」

「ありがとうよ・・・、倉成・・・。
 俺のような男には、勿体無い言葉だ・・・。」

アカギが言葉を終えた瞬間、突如、低い金属音が響いた。

「おおっと、そろそろヤバくなってきやがったな、この辺も・・・。
 おい、倉成・・・、お前、こんな所にいていいのか?」

「え?」

「いるんだろ?お前を待ってる奴が・・・。
 かけがえのない、大切な女が・・・。
 今のお前にとっては、俺なんかの生き死によりも、
 そっちの方がよっぽど大事な問題のはずだぜ・・・。」

「な・・・!ななな・・・?」

いきなり、何を言い出すんだこの人・・・。
思わず、顔が赤面する。

「早く行ってやれ。お前だけだ・・・。
 あの娘の孤独を癒してやれるのは・・・。」

「なあ、その・・・、前にもそんなこと言ってたけど、
 どうしてそう思えるんだ?」

アカギは笑って言った。

「・・・印象だ、ただの・・・。
 意外と、お似合いなんじゃないかって、お前とあの娘を初めて見たときから、
 勝手にそう思ってただけさ・・・。
 次に会う時が、楽しみだぜ。お前らに・・・。」

さっきとは、別の意味で、言葉が浮かばない・・・。

「じゃあな、倉成・・・!
 お前たちと過ごしたこの数日・・・楽しかったぜ。
 大事にしろよ、あの娘と仲間・・・真っ直ぐなお前自身を・・・。」

アカギは、俺に背を向けて歩き出した・・・。

「お、おい、何処に行くんだよ、アカギ・・・。」

「決まってるじゃねえか・・・。勝負だよ。」

「あ、アカギ・・・!?」

俺達がいる場所が揺れ始めた。
最早、立っていることさえおぼつかなくなる。
そんな中、アカギは足運びが乱れることもなく悠然と歩いていく・・・。
俺にはもう、彼を追うことはできなかった。

「アカギ・・・!アカギ・・・!
 アカギーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

俺の絶叫が、廊下にこだました・・・。
徐々に崩壊の一途を辿る楽園の中に、アカギはその姿を消していった・・・。
勝ってくれ、アカギ・・・!
俺も、勝負してみせる・・・!
この先、どんな過酷な運命が待ち受けていようと・・・。
俺は、死なない。
大切な仲間を、誰一人死なせやしない。
最後まで諦めない、絶対に・・・。

第3章 勝負
END






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