アカギ IN LEMU 
−深海に降り立った天才ー

                              鳴きの虎

終章 再会

数日後、赤木は優の働く研究所を訪れることになった・・・。
赤木と優の面会には、同時に3人の男が同行する形となった。
かつての東西戦の東の総大将、天貴史。
天と行動を共にし、最年少ながら東西戦を決勝まで勝ち進み、
現在麻雀講師を勤めている、井川ひろゆき。
東西戦の発案者であり、現役の裏プロ最強の呼び声高く、
同時に関西の有数の巨大暴力団の組長である、西の首領(ドン)、原田克美。
赤木達は、原田の用意したリムジンに乗り、数人の黒服(笑)達に護衛される形で
優の研究所に到着した。

「どうぞ・・・。田中先生がお待ちかねです。」

研究所の職員に案内されて、赤木、天、ひろゆき、原田は
研究室の扉を開けた。

「久しぶりね・・・。赤木しげる。
 また会えて嬉しいわ。」

「よう・・・。暫く見ねえうちに、随分といい女になったじゃねえか・・・。」

16年ぶりの再会に際し、握手を交わす二人。
優は赤木から、彼自身の放つ独特の凄みを16年ぶりに感じ取っていた・・・。

「それにしても、随分と人騒がせなことをしてくれたわね・・・。
 下手すれば、あなたのせいで、私達の16年間は全て無駄になるところだったのよ。」

「ククク・・・、俺は別にあんたらの為に生きてるわけじゃねえ・・・。
 まあ、その辺は俺の勝手だ・・・。」

「相変わらず我儘ね、あなたって・・・。」

「ククク・・・、我儘なのはお互い様だ・・・。
 俺みたいな50過ぎの年寄りを、わざわざ呼びつけたんだからな・・・。」


「おい、田中優・・・とか何とか言ったな・・・。
 悪いが俺達は世間話してるほど暇人じゃねえ・・・。
 とっとと話を始めろ・・・。」

無駄話に業を煮やし、原田が口を開く・・・。

「わかってるわ。それが目的で来てもらったんだから。
 それにまだ、お互いに自己紹介も済んでないでしょ?
 それじゃ、初めまして。
 この研究所の所長を務める、田中優美清春香奈よ。
 それと、こちらが私の助手の、桑古木涼権。」

「どうも・・・。桑古木涼権です。
 おじさん・・・、いや、赤木さん、お久しぶりです。」

「・・・あの時の“少年”か・・・。
 随分と男前になったもんだな・・・。」
赤木の言葉に、桑古木は懐かしさが込み上げてきた・・・。
ココや、自分にあの場所でいつも向けられていた赤木の優しい視線は、
16年経った今も変わらない・・・。
タフで頼り甲斐のあった武を目指して、少しは逞しく成長したつもりではあったが、
赤木にとっては彼は16年前と変わらぬ“少年”にしか映らないようだ。
自分を一目であの時の“少年”であることを見抜いたことが、それを物語っている。

次に、顔に無数の傷をもつ男が口を開く。
「あ、俺は天貴史です・・・。」

続いて、他の二人も自己紹介を始めた。
「田中さん、桑古木さん、初めまして・・・。
 井川ひろゆきといいます。今後ともよろしく・・・。」

「原田克美だ・・・。」

「ふう・・・。
 それにしても、随分な顔触れが揃ったものね・・・。
 かつての東西戦で東の総大将を務め、無類の勝負強さで数多くの修羅場を潜り抜け、
 不敗の赤木に土を付けたただ一人の男、天貴史・・・。
 東西戦において最年少ながら、その抜群のセンスと緻密な戦略で決勝進出を果たした
 東の雄、井川ひろゆき・・・。
 かつての東西戦の発案者にして、現役の裏プロ最強の呼び声高く、
 同時に関西有数の巨大暴力団の組長でもある、原田克美・・・。」

「随分と詳しいじゃねえか・・・。俺のことはともかく、天や原田、ひろゆきのことまで
 知ってやがるとはな・・・。」

「今回の計画を進めるのには、随分と骨が折れたわ・・・。
 正直、あまり誉められない手段も使ったりしてね・・・。当然、裏の事情には詳しくなるわよ。
 あんた達みたいな、海千山千の連中と渡り合わなければ、ここまで来れなかった・・・。」

「そうか・・・。」

「まあ、そんなことはどうでもいいわ。
 これから、今回の計画について話すわ。
 涼権、資料を持ってきて。」

優は、自分が進めている計画の全貌を、赤木達に明かした・・・。

「その、よく分からないけど・・・、LeMUって所に閉じ込められてる、
 倉成って人ともう一人の女の子を助け出すことが、今回の目的なんですね?」

資料を手にして、ひろゆきが尋ねる。

「そうよ・・・。だけど、そのためには、16年前と同じ事故の状況を、そのまま再現しなくてはいけないの。
 だから、あの時あの場所に居合わせた、赤木がどうしても必要なのよ。
 今回赤木は、特別何かをしてもらう必要は無いわ。
 ただ、今回の計画のことは終わりまでくれぐれも内密にして、あの場所にいてほしいの。
 いかにも、偶然居合わせたという状況を装ってね・・・。」

「でも、赤木さんはこれでもまだ病み上がりなんだ。
 俺達としては、あまり無理はさせたくねえんだが・・・。」

赤木の身の上を心配して、天が口を開く。

「その点に関しては、こちらも最善を尽くすわ。
 少なくとも、よほどのことが無ければ命に関わるようなことにはならないはずよ。
 ただ、全てが計算通りにいくとは限らないから、その点は涼権を含む他のメンバーと協力して、
 目的を達成できるように頑張ってもらうことになるけど・・・。」

「・・・だが、相手はあのライプリヒ製薬だ・・・。
 俺のような筋者が言えた義理じゃねえが、相当えげつない真似をやってきた連中だ・・・。
 事実上、潰れかけてるとはいえ、奴等が手出ししてこないという保障はあるのか?」

黙っていた原田が、ようやく口を開いた。

「ライプリヒは、内部告発で事実上崩壊してる。ただ、今回の計画をきっかけに奴等か、もしくはそれに関係した輩が
 何もしてこないという保障は確かに無いわね。
 ただ、その点に関しても私の力で、ある程度どうにかなるわ。」

「ある程度・・・ではどうにもならんな。
 物事を進めるなら、不確定要素は絶対に排除しておく必要がある。
 その点に関しては、俺がどうにかする・・・。」

「え?あの・・・、私達が必要なのは赤木だけであって、わざわざあなたに
 出てもらわなくても・・・」

「・・・おい。」

「はっ!」

優の言葉に耳を貸さず、原田が黒服に何か命じるとアタッシュケースを携えた
黒服が4人入ってきた。
黒服は目の前の机の上に4つのアタッシュケースを置く。
優が目を丸くしていると、黒服がそのアタッシュケースの一つを開けてみせた。
その中身は、札束・・・!
一つのアタッシュケースに、一億は入っていそうだ。

「俺はライプリヒ製薬の幹部の一人に、資金を援助したことがある・・・。
 何の研究かは知らなかったが、銭を貸した際に、奴等につけ込む手段は見つけてある・・・。
 残っている古参幹部の連中には、俺が徹底的に圧力をかける・・・!
 それからこの金は、計画の実行の為にお前等の好きに使ってくれればいい。返せとは言わん・・・。
 赤木の命を保障してもらうための、言わば契約金とでも言ったところか・・・。
 それと、数日中にライプリヒ製薬に関する情報を俺に回せ・・・。
 さてと、俺も忙しい身でな・・・。無駄話にこれ以上費やす時間はねえ・・・。
 これで失礼する。」

原田は黒服達と共に、部屋から立ち去った。

「自分の言いたいことだけ言って、即トンズラかよ・・・。
 相変わらず原田も勝手な奴だな・・・。」

かつての強敵の変わらぬ態度に、天も苦笑する。

「何なんだあいつ・・・。呼ばれもしないのにこんなもの置いてって・・・。
 優、あいつのこと、本当に信用できるのか?
 相手は、西日本最大級の暴力団の組長なんだぞ。」

怪訝そうな顔をして、桑古木が優に尋ねる。

「・・・そうね。何を考えてるのかまでは分からないけど、
 少なくともあの人の態度に嫌なものは感じなかった。
 何か他の目的があるようには見えなかったわ。」

「・・・ハハハ。」

困惑する二人に、赤木が口を開く。

「ああいう奴は、俺達みたいな“バカ”じゃねえと分からねえだろうな・・・。
 俺達はな・・・麻雀なんて卓の遊びに、金や財産どころか、てめえの身体、命まで張っちまうような
 筋金入りの大バカだ・・・。
 だから、見てみたいんだろう・・・あいつも・・・。
 惚れた女の為に、命を張っちまったバカ、倉成のことを・・・。
 まあ、このご時世では、倉成みてえなバカは貴重だろうな。
 “惚れた女の為に命を張る”、映画やドラマには、腐るほど転がってるネタだが、俺の知る限り、そんな真似をしやがったのは
 倉成だけだ・・・。」

「・・・おじさん。」

桑古木は感極まった表情で、赤木を見る。
何故だろう・・・。この人がいてくれると不可能だと思っていたことが、可能なように思えてくる。

「ところでおじさん、一つ聞きたいんだけど・・・。」

「ん?」

「この新聞・・・。何でこんな、人騒がせなことをしたんですか?
 俺達、正直頭がおかしくなりそうだったんですよ!」

「・・・ああ、葬式のことか?
 これについては、俺も聞きたいことがある・・・。
 俺がアルツハイマーで、自分が自分でいられなくなる前に、てめえの人生を終わらせようとした瞬間、
 不思議な声が聞こえてきたんだ・・・。
 何でもそいつは、倉成の子供だとか言ってやがったが・・・。
 ありゃあ、一体何者なんだ?」

「それこそが、私達の計画の要、BW(ブリックヴィンケル)・・・。
 それを来年、この世界に正しい形で発現させてこそ、この計画を成功に導くことができるの。」

「そいつが俺に話し掛けてきた瞬間、妙に頭が冴えてきてな・・・。
 昨日医者に診てもらったら、俺の死んだ脳細胞が復活してやがった・・・!
 BWって奴は、そんなこともできるのか?」

優が、驚きの表情を見せる。

「そ、それは、私もBWについて全て知っているわけではないけれど・・・、
 BW自身に、そんな能力があるなんて聞いたことないわよ・・・!
 アルツハイマーで死んだはずの脳細胞が、復活したですって・・・?
 ホント、常識じゃ計れないわね、あんたって人は・・・。
 それに、あなたは16年前TBに感染してたはずだし、
 あの状況で、一体どうやって海の底から脱出したのよ・・・。」

「おいおい、人を化け物みたいに言うな・・・。
 大体、似たりよったりじゃねえのか?俺もあんたも・・・。
 でなけりゃ、こんな馬鹿げた計画、俺達じゃなきゃ誰も信じやしねえぜ・・・。」

「ふふふ、そうね・・・、あ・・・、ってことは、ここにいる全員、似たもの同士ってわけで・・・
 要するに・・・。」

「ああ、バカってことだ・・・。
 まあ、“類は友を呼ぶ”ってとこじゃねえのか?」

その言葉を聞いて、桑古木、天やひろゆきも吹き出した。
その笑いの中で、優は心に誓った・・・。
倉成を、ココを、必ず助け出す・・・!
そして、みんなで笑い合おう・・・必ず・・・!






2034年 5月7日
かくして、計画は実行に移された。
計画は無事成功し、倉成武、八神ココの二人は17年ぶりに救出された。
彼等は、優春の手配してくれた船上で、風を受けていた。
計画に加わったかつての仲間達は、お互いの再会を喜び合う。
17年待ち続けた、愛しい人との再会。
そして会えるはずはないと思っていた、生き別れた家族が一同に集い、
新たに結ばれた絆を喜び合う・・・。
それぞれの17年に思いを馳せて、彼等は笑い合った。
そして、そんな彼等を離れた場所で見守る、あまりに場違いな心優しき男達・・・。

「うっうっ・・・!良かった・・・!本当に良かった・・・。」

「バッ、バカヤロォッ!ひろ、いい年して大人がみっともねえ顔して泣いてんじゃねえっ・・・!」

「な、何言ってんスかっ!天さんの方がもっと涙ボロボロでひどい顔して・・・!
 大体、こういう話に一番弱いのは天さんのくせに・・・!」

「う、うるせぇっ!これは、潮風が目に染みただけだっ!」

離れた場所で、赤木と原田が彼等の様子を見守っている。

「チッ・・・!甘ったるくて見てられねえぜ・・・!」

素っ気無い素振りを装う原田・・・。しかし、そのサングラスの奥に光るものを、
赤木は見逃さなかった・・・。

「なあ、赤木よ・・・。」

「・・・何だ?」

「こんな事に手を貸すのは、これが最初で最後だ・・・!
 お前がこうして生きている以上、俺達の勝負は終わっちゃいねえっ・・・!
 天にも伝えろ・・・!
 次に会うときの俺は、裏プロ最強の男でも、西日本の首領(ドン)でもねえ・・・!
 ひとりの漢(おとこ)、“原田克美”として、必ずお前達の前に立つ・・・!」

「・・・ああ、分かってる。
 俺が生きていればな、その日まで・・・。」

赤木との会話を終えると、原田はその場を離れた。
そして、原田と入れ替わる形で、倉成武が赤木の前にやってきた。

「久しぶりだな、倉成。」

「ああ・・・。とは言っても、17年も経ったなんて、まだ実感湧かないけど・・・。
 でも、ありがとう。俺達を助けるために、わざわざ来てくれて・・・。」

「礼ならあの名前の長い姉さんに言いな・・・。
 俺は特に、何もしちゃいねえ・・・。
 それにしても、お前もつくづく大した奴だ・・・。
 あの状況で、ガキを二人も作ってやがったとはな・・・。」

「な、ななな・・・!」

「ハハハ・・・。ま、再会できて良かったじゃねえか・・・。
 カミさんと子供たち・・・、無くしちまった17年間は、決して軽くはない・・・。
 時の重さは、俺達ろくでなしが一番良く知ってる・・・。
 今度は、何があっても離れるなよ・・・。」

「ああ!俺が17年間、海の中で眠ってたせいで、つぐみにも、ホクトや沙羅にも、
 本当につらい思いをさせた・・・。
 偉そうなことは言えないけど・・・、つぐみやあの子たちの為にも、それから再び俺達を
 巡り合わせてくれた仲間達のためにも・・・、
 みんなで、精一杯幸せになってみせる・・・!」

「・・・その意気だ。倉成・・・。
 変わってねえな・・・相変らずいい目をしてやがる・・・。
 この台詞はあの時以来か・・・、
 倉成、お前はお前であり続けろ・・・!
 これから先、何があろうとな・・・。」

「ああ・・・。」

そして倉成武は、家族と仲間達の所へと走る・・・。
愛妻をからかい、手痛いしっぺ返しを喰らい、それを子供たちや仲間に笑われながら、
再び動き出した新しい時間を共に歩んでいく・・・。
彼等の命が続く限り、それらは再び失われることはないだろう。
赤木はそうあることを、心の奥底で願った・・・。
この世の不合理、有り得ぬ事象や時の流れが紡ぎ出した多くの奇跡・・・。
進み行く船の上で、風に身を任せながら赤木は呟いた。

「これも、不合理ってヤツか・・・。
 悪くない・・・。本当に悪くない・・・!」

アカギ IN LEMU −深海に降り立った天才ー   完




あとがき
というわけで、「Ever17」の世界と福〇ワールドのクロスオーバー、
いかがでしたでしょうか?
伝説のENDを覆してしまうわ、年代は思いっきり無視するわ、有り得ぬキャラクター達が続々登場するわで、
正直もうムチャクチャだなと思いつつも、書かせていただきました。
特に、アカギが死の決意を翻す点についてはやるべきかどうか大いに悩みましたが、
ここまできたら、やるしかないだろうと思い実行に移しました。
ああ、もう焼き土下座じゃすまないかもしれない・・・。
もしかして、地下懲役1050年!?
もし最後まで読んでいただけましたら、是非とも感想などお聞かせください。
BY 鳴きの虎


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