エバセブ闘牌伝 
ー代打ち集団LeMU−

                              鳴きの虎

第5章 ホクトの意地


ー2回戦開始直後ー

ホクト:「(まさか、たった1回の勝負で、僕の能力に気付くなんて・・・。
      赤木さんの言った通りだ・・・。
      この人達、どんな手を使ってでもこの勝負に勝つ気でいる・・・。)」

秋香奈:「ちょっと!あんた達何やってるのよ!
     まさか何か仕組んでいるんじゃないでしょうね?」

ー牌を伏せ、その上に片腕を置いている烏丸ー

ホクト:「(相変らず、優は強気だな・・・。)」

 烏丸:「いや、特にこれといった意味はないが・・・。
     すまんね、お嬢さん。
     少々疲れているので、年寄りにとってはこの姿勢の方が楽なんだよ・・・。」

秋香奈:「あ、そう・・・。(不機嫌面)」

ホクト:「(でも、幸い親は僕からだし・・・。
      何とか優の手牌だけは見えるから、その点を上手く利用していかないと・・・。)」

秋香奈:「(ホクト!ホクト!聞こえる?」

ホクト:「(え?あ、ああ、聞こえてるけど・・・。)」

秋香奈:「(いい?こうなったら私達も手段は選ばないわ!
      私に作戦があるから、よく聞いて!)」」

ホクト:「(え?作戦って?)」

秋香奈:「(2回戦以降は、スピード勝負で行くわよ。)」

ホクト:「(・・・安くてもいいから、早く和了るってこと?)」

秋香奈:「(それは場合によるけど、私が大物を作った時には
      それに対してホクトが振り込んで速攻でこの勝負を終わらせるのよ。
      一応私の手牌は透視できるんだから、問題ないでしょ?)」

ホクト:「(ええっ・・・。僕が振り込むの?)」

秋香奈:「(そうよ。
      ホクトがハコテンになれば、その時点で試合は終了。
      トップ賞で私に20000点入るから、トータルで私達の勝ちが決定するわ。)」

ホクト:「(で、でも、僕が振り込んでお終いなの?
      なんかちょっと、カッコ悪いなあ・・・。)」

秋香奈:「(何言ってるのよ!1回戦は勝ったけど、もう少しで危ないところだったんだからね!
      もうあなたの能力はばれちゃってるから、まともにぶつかったって勝てないわよ!
      いい?私が大物手を作るから、ホクトは私に当たりそうな牌を揃えておいて。
      それから、大物手にならない時は今の親番をできるだけ長引かせるのよ。
      2、3局もすれば、私が役満クラスの大物を作るから、その時がチャンスよ。
      いいわね?この作戦でいくわよ。」

ホクト:「(わ、分かったよ・・・。)」

ー近い将来、優の尻に敷かれるであろう自分の姿を想像するホクトであった・・・。ー

東:ホクト 南:烏丸 西:北本 北:秋香奈

東1局 ホクトの親番

ホクト:「(優の手牌は、暗刻が二つ・・・。
      優、どうする? )

秋香奈:「(これじゃイマイチね・・・。
      ツモでないと三暗刻にならないし・・・。
      ホクト、そっちはどう?)」

ホクト:「(一応、ピンフ系でテンパイしてるけど・・・。)」

秋香奈:「(私の手牌に、ホクトのロン牌はある?)」

ホクト:「(うん、四萬が僕の当たり牌だよ。)」

秋香奈:「(じゃあ、サシコミするから和了って、親を続行して。)」

ー秋香奈、四萬切りー

ホクト:「ロン、ピンフ、ドラ1。」

 北本:「なんや坊主、セコイ手やな。
     もう少し待てば、三色にもなるやないか。」

秋香奈:「うるさいわね!
     これで親を続行できるんだから、十分でしょ!」

ホクト:「・・・・・。」

東1局 一本場

秋香奈:「(何かさっきから配牌が良くないわね・・・。
      これならもう一回サシコミにいったほうがよさそうね。
      ホクト、そっちはどう?)」

ホクト:「(白の対子が2枚あるから、これが鳴ければ和了に近づけるんだけど・・・。)」

秋香奈:「(じゃあ、さっそく鳴かせるわよ。いい?)」

ー秋香奈、白切りー

ホクト:「ポン!」

ーその後、ホクトは白のみで和了を拾うー

東1局、2本場

秋香奈:「(来たわ・・・!
      筒子の対子が配牌で10枚・・・!
      私の能力が、発揮できてきたわね。
      ホクト!この局がチャンスよ!
      これなら大物ができるから、筒子をそろえて待ってて!)」

ホクト:「(うん!分かったよ!)」

ー秋香奈、6巡後大車輪テンパイー

秋香奈:「(これであとは、ホクトが八筒を差し込みするだけ・・・。
      ホクトの持ち点は32000以内だから、これで勝負あったわね。)」

ーホクト、八筒切りー

秋香奈:「ロン!、大車輪!」

 烏丸:「お嬢さん、ちょっと待った・・・。」

秋香奈:「え!?」

ホクト:「?」

 烏丸:「残念ながらその八筒、頭ハネだ。」

※頭ハネ
二人同時にロンしたときは、ツモ順が早い上家の和了が優先されるというもの。
この場合、ホクトの上家である烏丸の和了が優先され、
秋香奈の和了は無効となる。


ー烏丸、七対子八筒単騎ー

秋香奈:「ちょっとーーーー!
     何てことしてくれるのよ!
     私は役満の手だったのにーーーー!」

ー卓上にカカト落としを食らわせそうな勢いの秋香奈。

 烏丸:「気持ちはわかるが、ルールはルールだ・・・。
     幾ら喚いても、どうにもならんよ。」

ホクト:「ゆ、優・・・。落ち着いてよ・・・。」

秋香奈:「うるさーーーい!
     大体ホクトが気を付けてないから、こんなことになったんでしょ!」

ホクト:「そ、そんなこと言ったって・・・。」

 烏丸:「喧嘩なら、この勝負が終わってからにしてくれんかね?
     次は、私の親番なのでね・・・。」

ー東2局 烏丸の親番ー

秋香奈:「(さっきの大車輪の頭ハネで流れが悪くなったかと思ったけど、
      まだそうでもないみたいね・・・。
      配牌に一萬と三萬の暗刻と、中の対子がある・・・。
      まだ大物に辿り着くチャンスがあるわ。)」

ー烏丸、中切りー

秋香奈:「ポン!」

ー烏丸、六萬切りー

秋香奈:「ポン!」

ー秋香奈、中、混一色、対々和の満貫確定ー

秋香奈:「(これでテンパイ・・・!
      さすが私の特殊能力、プロを前にしてこうも簡単に大物を作っちゃうなんて、
      私って、やっぱり天才かも・・・。)」

ー秋香奈、二萬切りー

 烏丸:「ロン・・・!
     ダブ東のみ・・・。」

秋香奈:「ええっ、またなの!?
     そんな手で、私の満貫が・・・!
     何よ!プロのくせに、セコイのはそっちじゃない!」

ーその後、烏丸は2回程安手をツモり、場の流れを掌握しにかかる・・・。
 秋香奈はテンパイには辿り着くものの、和了には至らない・・・。ー

ー東2局、4本場
 10巡後、秋香奈テンパイー

秋香奈:「(鳴いて何とか、混老頭ドラ4まで辿りついたわ・・・。
      この倍満を和了すれば、何とか流れを掴めるかも・・・。)」

ー秋香奈、八索切りー

 烏丸:「ロン・・・!ダブ東、チャンタ、親満・・・!」

秋香奈:「くっ・・・!」

 烏丸:「(フフ・・・。
      この娘や少年は何か不思議な力を持っているようだが、
      私にとっては大したことでは無い・・・。
      彼等は持ち合わせている力を必勝の原理としているのではなく、
      それに頼って勝ちを拾おうとしているに過ぎない・・・。
      この娘はどうやら対子や暗刻を集めるのに優れているようだが、
      そんなものは和了れなければ意味は無い・・・。
      おまけに大物手に目が眩んでむやみに鳴き、手牌の選択肢を狭めている・・・。
      鳴けばその分自分の手役や狙いは相手に筒抜けになる・・・。
      つまり相手にとっては狙い撃ちにすることも和了牌を抑えることも容易になるわけだが、
      自分の和了しか頭に無い素人は、それに気付かない・・・!
      ただ自分の欲と和了の幻想に振り回されて、ひたすら破滅への道を直走る・・・!
      私が撒き餌として、テンパイに必要な材料となる牌を切っていることに、まだ気が付いていないとはね・・・。)」

ーこの振込みをきっかけに、秋香奈は完全に流れを失った・・・!
 東2、3局で烏丸、北本の双方から直撃を受け、点数は残り4000足らずとなった・・・。ー

ー東3局、北本の親ー

 烏丸:「(娘の方は、完全に流れを失っている・・・。
      さて、少年がどう出てくるかが見物だな・・・。)」

ーホクト、ドラの白切りー

秋香奈:「ポン!」

 烏丸:「(これでドラ3か・・・。
      これを和了り、何とかサドンデスの状況を脱出しようというわけだな・・・。
      ならば、恐らく少年は・・・。)」

ーホクト、秋香奈の本命の牌を切るー

 烏丸:「(思った通り・・・。
      娘にサシコミして、何とか安全圏へ逃がそうとしている・・・。
      だが、サシコミを狙うということは、君自身のガードもゼロになるということなんだよ・・・。)」

ーホクト、五萬切りー

 烏丸:「ロン・・・!タンヤオ、ピンフ。」

ー東4局 秋香奈の親ー

秋香奈:「(何よこれ・・・。バラバラじゃない・・・!
      くっ、折角の親なのに、これじゃ和了れるかどうかも分からないわ。)」

ー11巡後ー

 烏丸:「ポン!」

秋香奈:「(私のツモが・・・・!
      これで2回連続飛ばされた・・・!
      私に、テンパイすらさせない気ね・・・。)」

ホクト:「(ま、まずいよ・・・!
      あの様子だと、優はまだテンパイしてない・・・。
      今の状況じゃ、ノーテン罰符でも大きなダメージになっちゃう・・・。)」

ー数巡後、ホクトのテンパイー

ホクト:「(よし、タンヤオとドラ2、リーチをかければ満貫の手だ。
      これを何とか和了って・・・。)」

ーホクト、テンパイ後即リーチ、2巡後和了牌を引くー

ホクト:「(来た!リーチ、ツモ、タンヤオ、ドラ2で満貫だ!)」

ーだが、その時ホクトに戦慄が走る・・・!ー

ホクト:「(あっ!そういえば、今は優が親番なんだ!
      もし僕がこの手を和了れば、優は4000点払いになっちゃうんだ!
      そうなったら、僕達の負けが確定・・・。)」

ーホクト、和了牌を切るー

 烏丸:「(フフ・・・。見逃しか・・・。
      全て私の狙い通り・・・!
      そうさ、君が勝つには味方の失点を誘うツモ和了はできない・・・。
      つまり、私達から直撃を奪うしかない・・・!
      だが、君たちの腕ではそんなことは至難の業だ・・・!
      もはや、君たちに勝ちの目は無くなったんだよ・・・。)」

ー結局東4局は、流局に終わる・・・。
 優はテンパイすらできず、ノーテン罰符として1500点を失うー

現在の状況
ホクト:18800
 烏丸:45500
 北本:32500
秋香奈:2200

ー南1局 ホクトの親番(BW発動)ー

ホクト:「(優、そっちの手牌はどう?)」

秋香奈:「(見れば分かるでしょ・・・。
      ダメ、バラバラのクズ牌ばっかり・・・。)」

ホクト:「(とにかく、今はこの状況から脱出することが大事だよ!
      優、僕が何とかサシコミするから、それで和了って!)」

秋香奈:「(うん・・・。)」

ホクト:「(駄目だ・・・。
      優の顔に、いつもの元気が無い。
      相当弱気になっちゃってるよ・・・。)」

ーだが、自信を失っている優に流れは無い・・・。
 来るのは使い物にならないクズ牌ばかり、テンパイには遠い・・・。
 加えて、ホクトがテンパイしてもツモ和了は出来ないため、さらに流れは悪くなる・・・!ー

ホクト:「(タンヤオ、ピンフ、三色のテンパイ・・・。
      リーチをかけたいけど、失敗して裏ドラが無ければ和了っても負けだ・・・。)」

ーホクトは手を変えながら、何とか直撃を狙うも他の二人が振り込む様子は無い・・・。
 秋香奈は10巡目でまだ三シャンテンであり、和了には遠い・・・。ー

ホクト:「(和了り牌を掴んだけど、駄目だ・・・!
      親満ツモで全員が4000点払えば、優が飛んでしまう。)」

ーホクト、和了牌をツモ切り・・・。
 対面に目をやると、北本が露骨な蔑みの笑みを浮かべている・・・!

ホクト:「(くっ・・・!
      僕が和了れないと思って、馬鹿にして・・・!)」

ーホクトの中に、怒りが込み上げてくる・・・!
 そして、数巡後、ホクトは卓上の様子を見る・・・。ー

ホクト:「(烏丸は恐らく白のみのテンパイ・・・。
      北本は3副露して、タンヤオのテンパイだ・・・。
      僕は何度か本命の牌を切っているのに、和了する様子が無い。
      何故だ?なぜ和了らないんだ?)」

ーその時、秋香奈の様子に目をやるホクトー

ホクト:「(分かった!この局の奴等の狙いは和了ることじゃない!
      流局にもち込んで、流れの悪い優からノーテン罰符を引き出す気なんだ!
      もし優以外の僕達3人がテンパイして終了なら、優は3000点の罰符を支払わなくちゃいけない!
      優は残り2200点だから、その時点で優はハコテンだ!)」

ーホクトは何度か優のテンパイの材料となる牌を切り、テンパイに辿り付かせようとする。
 だが、それでも優はテンパイには至らない・・・。
 結局、ホクトは親満の手を崩し、この局は烏丸と北本の二人のテンパイに終わる・・・。
 優の払いは1500点となり、なんとかハコテンは避けられたが、もはや残りは700点。
 次に、タンヤオでも直撃されたら、今度こそ終わりである。ー

ー南1局 1本場(南場は親がノーテンでも基本的に場流れは無い。)

ホクト:17300
 烏丸:47000
 北本:34000
秋香奈:  700

ゴトゴト・・・(全自動卓から妙な音が)

 北本:「ん?何や?牌が出てこないやないか。」

 原田:「どうした?何かあったのか?」

 北本:「あ、すいません、原田さん。
     どうやら、牌詰まりらしいですわ。」

 原田:「チッ、こんな時に限って・・・。
     おい、すぐに直せ。」

 黒服:「はっ。」

ホクト:「あ、あの・・・。」

 烏丸:「ん?」

ホクト:「す、すいません・・・。
     ちょっとこの場から抜けます・・・。
     あ、心配ありません。すぐに戻りますから・・・。」

ー休憩室に一人入るホクトー

ホクト:「(ちくしょう・・・!
      あいつら優を人質にして、僕を生殺しにしてるんだ・・・!」
      
軽い気持ちで大会に参加したホクトであったが、優がハコ割れ寸前に追い込まれ、ゲームオーバー寸前の
今の状況に、何とかしなければという焦燥感を募らせていた・・・。
今の卓上の状況は、優を人質に取られ、その喉元に刃物を突きつけられているも同然であった・・・!
和了をものにできず、彼女を助けることもままならず右往左往する自分を嘲笑うプロ二人・・・!
今のこの状況に、男として黙っていられる筈が無い。そう、ホクトは、大切な女性を護る為に命を賭けた
倉成武の息子である。
その血を脈々と継いでいるホクトが、この場面で諦められる筈が無かった。
しかし、どうすればいいのか・・・。
自慢の能力は牌を隠すことによって封じられ、優へのサシコミ戦略も最早破綻している。
答えを導き出せないまま、焦りを募らせるホクト・・・。

ホクト:「くそっ!
     どうすれば、どうすれば優を助けられるんだ?」

ー壁に拳を叩きつけるホクト・・・−

 赤木:「よう・・・。」

いつの間に現れたのか、赤木が後ろに立っている・・・。

ホクト:「あ、赤木さん・・・。」

 赤木:「荒れてるな、坊や・・・。」
     
ホクト:「・・・・・。」

 赤木:「ククク・・・。
     相当やられてるようだが、まだ勝負から降りたわけじゃなさそうだな・・・。
     お前さんからは、純粋な怒りってやつが感じられる・・・。
     怒りを持てる内は、まだ勝ちの目があるぜ・・・。
     だが坊や、お前には余計なものが見えすぎているようだな・・・。
     その幻想に振り回されて、見えるか見えないかで右往左往している・・・。
     一回戦から見ていたが、見苦しいったら無いぜ。
     坊やが何をしてるかは知らねえが、そんなものはお前の強さじゃない・・・。
     なまじ頭を使おうとするから、それを逆手に取られて奴等に食い物にされるんだよ・・・。
     いいか?自分を見失わずに、あっさり行け・・・!
     集中さえ切れなきゃ、何をするべきかは機会が教えてくれる。
     頭なんて使わねえんだ。
     そんなもの使ってると、『機』は逃げちまう。
     どんどん勝ちから離れていくし、『勝負』そのものからも離れていく。
     だから、勝負の最中は頭など使わず、
     ただ感じて殉ずればいいのさ。」

ホクト:「殉ずる・・・?」

 赤木:「ああ・・・。
     今・・・この時しかないという『機』に殉ずる・・・。
     その気持ちが、『機』を呼び育み育てる、
     結果的に、『勝ち』への道を開く・・・。
     そういうことだ・・・。」

ホクト:「・・・・・・。」

 赤木:「少なくとも・・・お前の親父はそういう奴だった・・・。
     『機』を見つけたら、何も考えずにあいつは飛び込んでいった・・・。
     難しく考えることは無い・・・。お前にもできるはずだ・・・。」

ー部屋を出て行く赤木

ホクトが自分の頬を、両手でパンッと叩く。

ホクト:「(向こうがプロだとか、僕が素人だとか、そんなの関係ない!
      優は、僕が護るんだ!
      見てろ!絶対にお前等なんかに負けやしない!」

ー改めて試合会場に向かうホクト・・・。
 その様子を離れた所から見守る赤木・・・。ー

春香奈:「あなたともあろう人が、随分とお節介なことをするわね。」

 赤木:「ククク・・・。歳をくうとどうも口が軽くなっていけねえな・・・。」

春香奈:「それにしてもあなた、随分とホクトのことを気にかけているみたいね。
     あなたにとっては倉成は息子で、ホクトは孫みたいなものかしら?」

 赤木:「ククク・・・。いよいよ年寄り臭い話になってきやがったな・・・。
     まあ、あんたの娘が選んだ男だ・・・。
     いざという時に、惚れた女一人護れねえような男だったら困るだろ?」

春香奈:「ふふっ、それもそうね。」

 赤木:「それにあいつは、純粋な怒りを持って、この勝負に臨んでいる・・・!
     未熟な部分はあるだろうが、ああいう男は強くなる・・・。」

本来、ホクトにとって大した意味を持たないはずの今回の勝負は、己を人生の岐路に立たせるほどの
大勝負となっていた・・・!
単なる卓上の遊戯であるこの勝負において、実際に負けたとしてもホクトは何も失わないはずだった。
だが、卓の状況を見る限り二人が同時に危機的な状況に追い込まれているのは確かであり、
自分にとって大切な人が目の前で危機に晒されているのは間違いないのである。
かつてのLeMUの事故に限らず、どんな形にせよ生きていく中で何度も自分自信と優が共に危機と相対することは間違いないだろう。
その時に果たして、優を護れるだけの力量が自分にあるか否か・・・!?
それが今、ホクトに問われているのである・・・!
単なる卓上の遊戯を、そのような問題に置き換えるのは大袈裟かもしれない・・・。
だが、少なくともホクトにとっては優の恋人としての意地を賭けた大勝負となっていた・・・!

南1局 一本場

ホクト:「(配牌はそれほど悪くない・・・。
      だけど、あいつらは僕達にとどめを指すために仕掛けてくるはずだ・・・。
      気を引き締めないと・・・。)」

−数巡後−

 烏丸:「リーチ!」

ホクト:「(うっ・・・。僕は今イーシャンテンなのに、
      これじゃ、一手遅い・・・。)」

−一巡後−

 北本:「リーチや。」
      
ホクト:「(僕もこれでテンパイだけど・・・。
      迂闊にリーチはかけられないし・・・。
      おまけに、この二人は明らかに真ん中の牌で待ってるはず・・・。
      ここは、現物になってる対子を切って・・・。)」

−その時、ホクトの中の、見えざる何者かの声が聞こえてきた・・・。−

「(助かりたいのか・・・?)」

ホクト:「(えっ・・・?)」

−その声に、一瞬時間が止まったように感じるホクト・・・−

−回想−

 赤木:「負けが込んでる奴が最後に求めるのは、安全・・・!」

 赤木:「安全は、安楽死の別名・・・!」

 赤木:「安全こそ毒・・・!安全に流されれば、奴等の餌食・・・!」

ホクト:「(僕は、何をやってるんだ?
      優を護るんじゃなかったのか?
      なのに、自分が・・・自分の安全が大事なのか?
      自分が助かりたいのか?
      覚悟を決めたんじゃなかったのか?」

−様々な思いがホクトの中を駆け巡る・・・。
 その時、ホクトの中で、何かが弾けた・・・!−

ホクト:「(馬鹿野郎っ!何やってるんだよっ!
      自分から逃げ出すような奴が、一体誰を護れるっていうんだ!
      突っ走れ!突っ走って、その先にある、亀裂を飛び越えるしかない!
      いい加減気付けよっ!あの時と同じだ・・・!
      僕達に、逃げ場なんかもう無いんだよっ・・・!
      道は・・・僕達の道は前にしか開かれないんだ!)」

−ホクト、五萬強打−

 烏丸:「(・・・・?
      妙だ・・・。少年の雰囲気が変わった・・・?)」

−数巡後、北本六筒切り−

ホクト:「ロン!白のみ!」

 北本:「うっ・・・!」

秋香奈:「(や、やるじゃんホクト・・・。
      お陰で助かったわ。ありがと・・・。
      え?ホクト?私の声が聞こえないの?)」

ホクト:「・・・・・。」

南1局 二本場

ホクト:21900
 烏丸:46000
 北本:30400
秋香奈:  700
 

 烏丸:「(牌詰まりの時の休憩の間に、少年に何があった・・・?
      打牌に、先程までの甘さが感じられん・・・。)」

ホクト:「・・・・・。」

秋香奈:「(ねえホクト、さっきからどうしたのよ?
      折角の親番なのに、力を使わないの?)」

−数巡後−

ホクト:「(よし、發のみのテンパイだ・・・。
      だけど、何かが引っかかる・・・。
      時が、僕に告げている・・・。
      リーチをかけるのは、早急だと・・・。)」

−回想−

 赤木:「何をするべきかは、機会が教えてくれる。
     ただ感じて、殉ずればいい・・・。」

ホクト:「(赤木さんの言う通りだ・・・。
      今は、リーチをかけるべきじゃない・・・。
      でも、この手はドラも無い一翻の安手なのに、
      一体ここから、何があるというんだろう?」

−ホクト、ダマテンでツモ切りを繰り返す。
 そして数巡後、烏丸が生牌の發を切る−

ホクト:「(あっ・・・!
      これだ!この時だ!
      僕に、この瞬間を待てということだったんだ!)」

ホクト:「カン!」

 烏丸:「何!?」

ホクト:「烏丸さん、念のために確認しておきます。
     大明カンして、僕が嶺上牌(リンシャンパイ)でツモ和了した時は、
     烏丸さんの責任払いですよね?」

※責任払い
大明カン(相手の捨てた牌でカンすること)した後に嶺上牌で和了した場合は、
牌を鳴かせた者が一人で和了された分の点棒を支払うという取り決めが存在する。

 烏丸:「あ、ああ、そうだが・・・。」

−ホクト、嶺上牌をツモる−

ホクト:「来た!發、嶺上開花!」

 北本:「そ、そんな安手でつっかかってきたんか?坊主・・・。」

ホクト:「待ってください、まだ、カンドラがあります。」

−カンドラ表示牌を捲るホクト・・・。カンドラ表示牌は、白・・・!−

ホクト:「よし!裏ドラ4つで、親のハネ満だ!」

 北本:「こ、こんなセコイ手が、親ッパネやと・・・!?」

 烏丸:「(迂闊だった・・・!テンパイを急いだために、
      生牌の發を切るとは・・・。)」

南1局、三本場

−烏丸、牌の上に腕を置くのをやめる−

 北本:「(な、何や、烏丸はん・・・。
      親番のときはこの小僧、何かイカサマしとるはずやのに・・・。
      牌を隠さなくてもええんか?)」

 烏丸:「(あの休憩の後から、少年はどうやら力を使わなくなったようだ・・・。
      それが己を不利な立場に追い込むことになろうとも、迷いを断ち切って
      勝負に臨んでいる・・・!
      ならば私も、小細工抜きで全力で勝ちにいくまでだ・・・。)」

−9巡後−

ホクト:「カン!」

 北本:「(な?またも責任払いを狙うつもりか?)」

−嶺上牌をツモッた後、捨てるホクト−

 北本:「(アホが・・・。
      そうそう何度も上手くいくわけないやろが・・・。
      しかも、役牌ならともかく、一筒なんぞカンしおって・・・。
      これでおどれの和了の選択肢は狭められた・・・!
      とち狂って調子に乗った罰や・・・。
      和了れずせいぜい苦しめ・・・。)」

秋香奈:「ロン!」

 北本:「あ?」

秋香奈:「七対子、ドラ2、満貫!」

 北本:「(な・・・?
      この娘の手に、カンドラが2枚・・・。
      つまり、小僧のカンは、自分が和了るためのものではなく、
      この娘をサドンデスから脱出させるための布石やったいうことか・・・?
      くそっ・・・!
      さっきの小僧の和了に気を取られ、娘のことを忘れとった・・・!
      安手でも何でもツモるか、娘から直撃をさっさととれば、こないなことにはならんかったのに・・・。)」

南2局 状況

ホクト:40500
 烏丸:27400
 北本:21500
秋香奈: 9600

ホクト:「(良かった・・・。
      何とか優の顔に元気が戻ってきた・・・。
      でも、安心なんかしていられない!
      この人たちにかかれば、今の点差を逆転することぐらい何でもないはずだ。
      僕は逃げない!戦う!徹底的に戦う!」

秋香奈:「(ホクト・・・。
      何かさっきまでと違って、強くなった気がする・・・。
      何ていうか、少し見直しちゃったかな・・・。)」

−その後は、ホクトと烏丸が直撃を取り合う形で場が進んだ。
 そして烏丸が約ハネ満分リードする形でオーラスを迎えた−

南4局
ホクト:27900
 烏丸:41000
 北本:21500
秋香奈: 9600

 北本:「(この勝負、烏丸はんがトップを取るか、わしが小僧を直撃して逆転すれば
      こっちの勝ちや・・・。
      見とれ・・・。地力の違いを教えたるわ・・・。)」

秋香奈:「(散々私達を馬鹿にしてくれた礼はしないとね・・・。
      あんたなんかに邪魔はさせないわよ。)」

−数巡後−

秋香奈:「カン!」

 烏丸:「(さっきの北本からの直撃で、娘が力を取り戻しつつある・・・。
      ちと厄介だな。)」

秋香奈:「カン!」

 烏丸:「(翻牌の東、そして四筒を暗カン・・・。
      対々和狙いか、それとも親の連荘狙いか・・・。
      私が下手に振り込んで少年より着下にでもなれば、それでも負けになる・・・。
      ここは、北本にサシコミして終わらせるか・・・。)」

秋香奈:「カン!」

 烏丸:「(なっ・・・!
      これで三カンツ三暗刻、親満が確定・・・!
      ドラが少なくとも2つはあると見て間違いあるまい・・・。
      この手、少なくともハネ満までは行く・・・!
      リーチをかければ、裏ドラが幾つ乗るか分かったものではない・・・。
      ここは、幾ら何でも無理できん・・・。)」

−烏丸の打牌に、少々迷いが感じられるようになる。
 加えて北本は完全にベタオリし、直撃をさけようとする。
 そしてホクトは、烏丸に狙いを定めてチャンスを窺う・・・!

 烏丸:「(私の手牌の中には、ドラの四萬が3枚、七索が2枚、七筒が1枚・・・。
      普通なら喜べる状況かもしれんが、この状況では爆弾を抱えているに過ぎん・・・。
      娘に振り込んでも私の負けは確定する・・・。
      抱えた爆弾に火が付かぬよう、この局は慎重にいかなければ・・・。)」

−烏丸はドラや危険牌を抱え込みながら、この局を回していく。
 そして、ホクトの手牌に目をやる・・・。−

 烏丸:「(ついさっき、少年はツモった南を捨てる前に、娘のカンした牌に目をやった・・・。
      つまり、あの様子は、南を暗刻で持っているという証拠・・・。
      ここで南をカンすれば、四カンツとなり、場が流局となる・・・。
      それを避けたというわけか・・・。
      捨て牌の様子からは、テンパイはまだのようだが、恐らくドラの2枚は抱えていると考えて良い。
      つまり、ダブ南で既に二翻は確定・・・。
      ドラが2枚で満貫が確定し、リーチをかければツモでも逆転できる・・・。)」

−ホクト、ドラの四萬を切る−

 烏丸:「(む・・・。
      四萬は通るのか。それは助かるな。)」

−烏丸、四萬の暗刻を落とす−

 烏丸:「(何とか流局に持ち込みたいものだが、現物がそろそろ尽きかけている・・・。
      まずい流れだ・・・。)」

−ホクト、七索切り−

 烏丸:「(またドラ落としか・・・。
      この少年、本気で私から直撃を狙っているのか?
      ダブ南のみのニ翻では、私を逆転しないというのに・・・。)

−秋香奈、ツモった七筒を切る−

 烏丸:「(七筒もロン牌でないというのは有り難い・・・。
      この局、十分に凌げる・・・。)」

−烏丸、流局近くに手牌の中の全てのドラを切り終える−

 烏丸:「(現物は尽きたが、もう残りは数巡・・・。
      十中八九、流局だ・・・。)

ホクト:「チー!」

 烏丸:「(少年がチーだと?どうやら予想以上に手が伸びなかったために、テンパイ維持を狙ったわけか・・・。)

−優秋、九索切り−

 烏丸:「(ぬ・・・。
      九索も現物というわけか・・・。
      なおさら都合が良い・・・。私の手牌の中には、まだ九索が2枚ある・・・。
      この局が流れるのはもはや確定だ・・・。)」

−烏丸、九索切り−

 烏丸:「(ん?少年が九索に反応した?これは少年のロン牌というわけか・・・。
      だが、次に私がこれを切って、山越しで当たるとしても、それは問題ない・・・。)」

−卓上には、通常のドラもカンドラも殆どが捨てられていた。
 加えて、ホクトは全ての種類のドラをここまでに切っているため、これでロンされる心配は無い。
 例え1枚ドラを持っていたとしても、それはダブ南、ドラ1の3900止まりであり、烏丸を直撃しても
 逆転には至らない・・・。
 そのような考えが、烏丸の頭の中を巡り始めていた。
 そして、残り1巡・・・−

烏丸:「(これで、この九索を捨てれば、この局は終わる。
     さて、次の局は軽い手を作って、速攻で終わらせるか・・・。)」

−烏丸、九索切り−

ホクト:「ロン!」

 烏丸:「ロン・・・だと?
     少年、君が何をやっているか分かっているのか?
     君のドラも絡まない、鳴いたその手では私を逆転するには至らないぞ。」

ホクト:「そんなことはありませんよ。
     僕は、ひたすらこの時をまっていたんですから。」

 烏丸:「な!?」

ホクト:「ロン!ダブ南、三暗刻、満貫!
     これで逆転だ!」

 烏丸:「な、何だと・・・!?」

−椅子から立ち上がる烏丸−

 烏丸:「ば、馬鹿な・・・!三暗刻だと・・・?
     何故だ?何故そんな手をわざわざ作った?
     君はドラを、4枚は捨てている・・・。
     三暗刻など作らずとも、満貫には届いたはず・・・!
     加えて鳴く必要が、どこにあったというんだ・・・?」

ホクト:「それは、あなたに“安心”してほしかったからです。」

 烏丸:「“安心”してほしかった・・・だと?」

ホクト:「ええ、このオーラス、僕はツモならハネ満、またはあなたから直撃を取るしか逆転の道は無かった・・・。
     でも、この勝負が普通に流れたなら、それは素人の僕にはとても無理な話です。
     そこで、優が力を発揮して、カンすることで僕に必要なドラを増やしてくれることに賭けたんです。」

 烏丸:「・・・ならば、リーチをかけて裏ドラに期待すれば十分なはずだ・・・。」

ホクト:「いや、僕が必要なドラというのは、手牌の中のドラのことじゃないんです。
     あなたが、僕に和了られれば逆転されるかもしれない、と恐れを抱いてくれるためのドラが、
     僕には必要だったんです。」

 烏丸:「・・・なるほど、私が振込みを恐れてドラを抱え込む・・・。
     そうすることで、私のこの局の和了りの芽を摘んだというわけか・・・。
     加えて、君がドラを捨てていくことで、君にとってドラは現物であるという認識を持たせ、
     私を“安心”させるというわけだな。
     君が手持ちの全てのドラを捨て切ることで、君の手は満貫に届いていないと思わせた・・・。
     そして最後の仕上げとして、あの「チー」・・・。
     これで、私が例え君に振り込んだとしても、“安全”だと錯覚する・・・。
     フッ・・・。この道に足を踏み入れた時から、“安全”や“安心”などはとっくに捨て去ったつもりでいた・・・。
     君達が何か不思議な力を持っていることには気付いていたが、やはり相手は子供、素人だと思うことで、、
     私は“安心”していたのだろうな・・・。
     それから・・・今気付いたよ・・・。
     お嬢さん、君のその手は、ノーテンだろう?」

秋香奈:「・・・・・。」

 烏丸:「君が三カンツ三暗刻などという手を確定させているのに、なぜリーチをかけなかったか・・・。
     少し考えれば誰でも分かることだったのにな・・・。
     その手でリーチをかけていれば、直撃でもツモでも、十分にこの局でトップを取るチャンスはあったはずだ・・・。
     加えて君は親なのだから、例えこの局で逆転できずとも、次の局にチャンスは残されていた・・・。
     なのに和了るチャンスを見送ったのは、君がその少年が勝つことを信じていたからだ・・・。
     君がハコ割れ寸前に追い込まれていた中で、少年は必死に踏みとどまり、君を救うのに成功した。
     その懸命さが、君の少年に対する信頼を生み、勝ちへの道を開いたというわけだ・・・。」

 北本:「・・・烏丸はん。」

 烏丸:「もういい、素直に認めようじゃないか。
     この勝負、私達の完敗だ。」

−満足そうな表情で、席を立つ烏丸−

 黒服:「馬鹿な・・・。
     あの烏丸さんが負けた・・・!?」

 黒服:「京都随一と言われるあの人が、あんな子供に・・・?」

 黒服:「信じられん、あの少年、一体何者だ?」

ざわ・・・ざわ・・・

 烏丸:「ところで、“少年”と呼ぶのもいささか失礼だったかな?
     君の名前を教えてくれんかね?」

ホクト:「ホクト・・・。倉成、ホクトです。」

 烏丸:「ホクト君か・・・。覚えておこう。」

−北本と共に、その場を去っていく烏丸。
 それを後ろから見守る、ホクトと秋香奈−

秋香奈:「やったね、ホクト。」

ホクト:「うん・・・。」

秋香奈:「どうしたの、ホクト?
     さっきから黙ったままで・・・。」

ホクト:「何ていったらいいのか・・・。
     勝ったとか負けたとかよりも、優が助かって、ほっとしてるんだ・・・。」

秋香奈:「私が助かった?
     何言ってるのよ。別にこれはただの卓上の遊びなんだから、
     負けたって死ぬようなことにはならないわよ。」

ホクト:「そうかもしれないけど・・・。
     でも、本当に今、安心してるんだ・・・。
     (大好きな優を失わずにすんだから・・・。)(小声で)」

秋香奈:「え?ホクト、最後に何て言ったの?」

ホクト:「いや、何でもないよ・・・。」
     

 赤木:「・・・・・。」
−離れた場所で、満足そうな笑みを浮かべている赤木・・・−

ホクト、秋香奈、準決勝進出決定










あとがき

一番当初の予定と、食い違った話になってしまいました。
やっぱり赤木が絡んでくると、話がシリアスというか、重たくなってきますね。
いいんだか、悪いんだか・・・。(汗)
因みに、「烏丸」というキャラクターは、私のオリジナルです。
私が京都に住んでいるために、京都の地名を名前に使わせてもらいました。
ついでに、読み方は「からすま」です。
さてと、次は誰の闘牌を書こうかな・・・。
無い頭使って、次も頑張ります。(笑)


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