「・・・・ども」
武はソファー、彼女の隣に座る。
「静かですね・・・。かくれんぼでもしてるのかな?」
笑う武。それと同じく彼女も笑う。静かに、くすくすと。
「俺達がオニかな」
「オニは二人も要らないのでは?」
二人は笑う。この異常さを誤魔化すために。・・・・しかし誤魔化しているのは武のみ。
「・・・・・何か知っているのか?」
武は声のトーンを下げ、彼女を睨みつける。
「俺には何か知っているように見えるんだが・・・」
こんな状況で落ち着いていられるのは余程胆が据わっているか、何かを知っているか。
武は彼女を―――――後者と判断した。
前者に確率が無いわけではない。むしろ前者の方が確率は高い。しかし武は直感で動いた。
(悪い癖・・・・だな。俺の)
武は未だに睨みつける。すると彼女は口を開いた。
「ええ。知ってるわ」
「!?」
この場の空気が変わり、緊張したムードが流れ込む。
「でも、そんな事はどうでもいいの」
緊張の糸は、ぷつりと切れた。
「どうでもいい!?」
「ええ」
怒鳴る武。自分達にとってはとても大切な事をどうでもいいと言われた、その悔しさが武をそうさせていた。
「ふざけるな!!俺達は帰らなきゃいけないんだ!早くここから出せ!!」
ソファーを殴りつける。少し揺れたがそれを彼女が気にした様子はない。
「・・・・・わかりました。帰してあげる」
彼女は立ち上がる。すると武は強烈なめまいに襲われた。
「さようなら。でも―――――」
朦朧とする意識。しかしその中で武は彼女の言葉がハッキリと聞こえた。

「―――――また会う事になるわ。これは彼方の世界なの・・・。彼方を中心とした」

Yが今、Yでなくなり、一本化しようとしている。Yは創られ、壊され、また創られて。
いつもその繰り返しが起きていた。世界はそれを知ろうともせず。






















Like Ever Life
                              七桃 りお

-artificial 2 -

武が眼を覚ました時は人の喧騒とPDAの電子音の中、ライプリヒビルにいた。
「・・・・・帰ってきたのか?」
見渡しても彼女の姿はどこにもない。その代わり、つぐみがいた。
「武!どこ行ってたの!?」
つぐみが悪鬼迫る勢いで迫ってきた。
「どこって・・・・わからん」
「?」
つぐみは話の意味が分からず首をかしげた。その後、ため息をつく。
「まあ、いいわ。それより・・・・恐ろしい事がわかったわ」
深刻そうな顔をするつぐみ。武も息を呑む。
「・・・・・LeMUの事故は一度しか起こっていないの」
つぐみの聞いた話とはこうだった。


2017年、LeMUで圧壊事故が起こった。
被害者の『三名』は圧壊直前に救出される。
しかし被害者は『正体不明のウイルス』に侵されていた。
数ヵ月後、『正体不明のウイルス』は、『ティーフ・ブラウ』と名づけられ、世界中で蔓延する。
しかし、ライプリヒ製薬が奇跡の医薬品、『キュレイ』を発表。
蔓延していた『ティーフ・ブラウ』を治療し、『ティーフ・ブラウ』の完全除去に成功。
しかし、LeMUの被害者『三名』には実験段階の『キュレイ』を使用したため、身体に異常が起きる。
その『三名』や副作用によって世界各国から十数名が『不老不死』となるが、ライプリヒ製薬はその責任をとって十数名を保護した。
LeMUの事故によってライプリヒ製薬は窮地に立たされるが、『キュレイ』によって、大進歩を得た。


「三人ってのは・・・・・優・ココ・桑古木・・・・・?」
武は頭を抱える。しかしつぐみは淡々と話す。武には信じられなかった。
「ティーフ・ブラウの感染源はライプリヒって事も、IBFも、知られていないのか?
 これじゃ・・・・・・ライプリヒの都合がいいように改善されているとしか思えないじゃないか!?」
武は叫ぶ。周りの人々が奇怪な眼で二人を見る。
「・・・バカ、出るわよ」
つぐみは武の腕を引っ張る。武には、つぐみが無理矢理感情を抑えているように見えた・・・。



「やっぱ一番辛いのは、つぐみだよな・・・・・」
武は虚空を見つめるつぐみを見た。行く当ても無く、ただ放浪する二人。
「・・・・・まって?」
つぐみが声を上げる。心底不思議そうに言う。
「なんで『ホクトと沙羅』がいるの?」
「!?」
おかしい。武とつぐみが居ないなら、どうしてその子どもの沙羅がいる?そう、言いたいのだ。

「彼らは捨てられていたの、孤児院の前に」

周りの人々が―――――――消えた。
いつの間にか、とかスッと、でも無く。突然。
木の下にいる子供。ベンチの老人。車も通ら無くなった。
糸が切れたように、変わった。
そう、変わった。つぐみ・武・・・・・・彼女の三人がこの場にいた。
「捨てられていたのよ。かつて貴女がそうしたように」
彼女がつぐみに指を向ける。
「貴女が捨てたのよ?」
つぐみの顔が赤くなる。眼には涙が溜まっていた。
「・・・・・違う!!」
涙を零しながら、必死に否定する。つぐみは認めたくなかった。
「そうやって否定するのは簡単ね。まあ、いいわ」
彼女は話をさらりと流す。つぐみは―――――――――脆かった。
「ホクトと沙羅は『べつに無くても良かった』んだけど。武・つぐみ・ライプリヒが約束だもんね」
一人事を言う彼女。武の顔は憤怒に染まる。
「テメェ、いい加減にしろよ!こんな事をする必要がどこにある!!ライプリヒか?
 ライプリヒの狗が何しに来たぁ!!」
激怒、暴言。感情的である武でもこんな言葉はまず使わない。
しかしそうまでさせるほど、今は辛かった。そんな武を見て彼女は、
「くすくす」
笑った。嘲笑ったのだ。
「歯ぁ、食いしばっとけ・・・」
腕を振り上げ、男の力とキュレイの向上能力を上乗せ。桑古木少年を殴った時の数十倍の強さだった。
バシッ!!
肉と肉がぶつかり合う音。しかし武の手は、彼女では無く現れたモノの手によって標的には命中しなかった。
「彼方達が出るのはまだ早いわよ。カイン、アベル・・・・・」
武の目の前には仮面を着けた黒衣と白衣の人物が立っていた。黒衣の人物が武の平手打ちを受け止めていた。
「・・・・・」
アベルと呼ばれた黒衣は武の手を振り払う。ものすごい力を軽々と振るっていた。
「退きなさい!!」
赤く目を腫らしたつぐみが突進する。アベルは退く・・・・というより引いた。
その代わり、白衣、カインがいた。それでもつぐみは突進する。
「!!」
吹っ飛んだのはつぐみだった。片手で軽々となぎ払うようにカインがしただけで。
「く、ぁ・・・・」
近くに木にぶつかるつぐみ。武は駆け寄った。
「大丈夫か!?」
カインとアベルは彼女に拠る。まるでそこが拠り所のように。
「くすくす・・。ただ、彼方達が消えて、ライプリヒのある2034年。彼方達以外はきちんといるわ」
彼女とカインとアベルは武たちの前から姿を消し、人々が姿を現す。
夕暮れが映し出したのはただの絶望だけだった・・・・・。



太陽がもう沈む頃。つぐみは膝に顔を埋め、武は額に手を当てていた。
何もする気が起きない。脱力感で二人は一杯だった。
「・・・・飯、買ってくる」
武は歩く。辛うじて財布の中は豊富だった。
今、何か食べろと言われても気が進まないが食べないとと死んでしまう。
近くにコンビニを見つけた武は適当に食べ物を選ぶ。
蛍光灯の光でさえ、疲労と脱力では華やかに見えた。
飲み物を買おうかと角を曲がった武の丁度お腹のあたりに軽い衝撃があった。
「ふわわ!?」
お腹に当たったモノが放物線を描く。宙に浮くお菓子類。ゴンっという鈍い音。軽い悲鳴。
声を出したのは当たったモノ、すなわち人の頭についている口。
「お、おい!大丈夫か!?」
なんだかだんだんとありがちな手順を踏む武。倒れた人は仰向けに両足を上に曲げた格好でいた。
「うー。うー。うー」
なんとも間抜けなうめき声。はだけた衣類に武の目が逝くw
手を引いて被害者を立たせる。被害者は少女だった。
「おいしいシチュエs――――――」
「何してるの?」
つぐみの声。少女は服についた埃を掃う。武達の様子になんとも思っていない。
「・・・・いつから?」
「武がその子に当たった時から」
何気に武が少女に当たった事になっている。
「武も桑古木と一緒だったの」
つぐみが口をゆがめ、ふぅと笑う。グウ!?グウなのか!?
「あのぉ・・・・」
少女は入りにくそうにいう。
「・・・・すいませんでした」
ペコリと頭を下げ、そう言うと少女は拾ったお菓子を手にレジへと向かっていった。
それを眺めていた武をつぐみがまた笑う。
「俺はロリコンじゃなーーーーい!!」

どこかでそんな声が聞こえる。少女は笑う。そこに現れる人物。
「・・・・紅、どうしてぶつかったりしたの?」
現れた人物は少女を紅(くれな)呼んだ。紅は幼い顔立ちに閉じている眼が印象的だ。
「いいじゃない蒼。どうせ接触するのだから。初対面よりは友好的っぽいでしょ」
蒼(あおい)と呼ばれた少女・・・といっても高校生ぐらいだが。
長くさらっとした髪と、凛とした顔立ちが印象的である。用心だがポニーテールではない。
「私は紅の身が心配なんだ」
クスリ、と笑い紅は、
「・・・面白い人達だったからよかったぁ」



「あの子・・・・なんで眼、閉じてたんだろ」
そんな事を言いながらコンビニ弁当を食べる。笑うつぐみ。
「越えてはならない一線ね・・・・」
「笑いすぎだっつーの!!」
武達は公園のベンチで夜を凌いだ。満天の夜空の下でつぐみはこういった。
「こんなのも、いいかもしれない・・・・ね」



「くぅあ〜っと」
武は背伸びする。ベンチで寝たので体のあちこちが痛む。
「・・・・・あれ?」
どこかで高いソプラノの声がする。武とつぐみの目の前には昨日の少女。
「ああ、昨日はスマン」
手をあわせて謝る武。何だかこの少女は近寄りやすい印象を受ける。
「ほ−むれすだったのですか」
「ちゃうわい!!」
突っ込む武。ほがらかに笑う少女。その後ろにもう一人の女性がいた。
「えー、自己紹介!」
少女は胸を張って言う。
「私、要 紅 (かなめ くれな)っていいます。
 こっちが要 蒼 (かなめ あおい)です」
「・・・・初めまして」
女性、蒼が頭を下げる。
「俺が倉成 武。こっちが―――――」
武はつぐみを指差す。つぐみは怪訝な顔をしている。
「・・・・・何?」
「はい?なんでしょう」
紅が首をかしげる。
「タイミングが良くない?なんで自己紹介なの?ただぶつかっただけなのに?」
つぐみが迫る。すると蒼が立ち塞がる。
「・・・・・いいの、姉さん」
姉さんということはやはり姉妹か、などと武は考えていた。
「これから色々あるのだから自己紹介ぐらいは・・・・と。ごめんなさい、つぐみさん」
「!?」
まだ、つぐみの紹介を武はしていない。なのに、知っていた。
「やっぱり。あなたも奴等の仲間!!」
紅が笑う。その笑いはさっきまでの穏やかさは無かった。
「・・・・私達は敵というより、助言者です。あなた方の言う奴等に太刀打ちするための」
武は異常に気づく。そして、舌打ち。
「また、これかよ・・・・」
朝でもともと人が少ない場所だったが、先ほどまでいた人々が綺麗さっぱり消えていた。
「シリアス・・・・・開始か」
蒼がぼそりという。



「彼女たちは、意思と存在力を使います。この誰もいない空間も存在力を使うんてす」
紅はそういうが武達にはさっぱり分からない。それを察した紅が頭を抱える。
「えーっと、とにかく思えばいいんですよ。この空間内だとできるんです。
 だけど乱用してると身を滅ぼします」
「そんな魔法じみた事が俺達にできるのか?」
武がもっともの意見を言う。
「できます。彼方達は特別なんですよ、今だけ。試してみましょうか?」
紅の眼が光る。キュピーンとかじゃなくて怪しい光りを。
スッと手を挙げる紅。蒼が動く。武の方向に左手を差し出す。

「死なないで下さいね」

紅の声が聞こえる。蒼の左手が一瞬ブレた。一瞬だけ、瞬きしている間に。

ドスッ!!

「武!!」

つぐみの叫び声が武に聞こえる。目の前に差し出された蒼の左手に『大太刀』が握られていた。

じわりと胸が痛む。左胸、丁度心臓部。胸は熱くなり、全身から急速に力が抜けていく。

「う・・・・お・・・・・・」

駆け巡る冷気。胸だけが熱い。彼は―――――――――――――落ちた。

「武ぃ―――――――――――――――――――――!!!!」

世界とは、己である。己を固持するためには周りの世界を討たなければならない。
それが、仲間という絆で結ばれていても。



あとがき

これからグロテスクになってきます(笑
武はどうなるのでしょう。
オリジナル、6人目かぁ・・・・。あと四人いますがw
でわでわ〜、七桃 りおでした〜。


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