落ちる。倉成武は―――――――――――。
「俺、何してたっけ・・・・」
武はあたりを見回す。何もない。ただの薄暗い場所。
「ま、いっか」
ここは居心地が良かった。なにか、知ってる場所のようで。
「あれは・・・・」
武の前に現れたのは、一つのパンフだった。
「れ・・・・みゅう」
テーマパークのパンフを手に取る。そして武は薄暗い場所を闇雲に歩く。
「ここは・・・・・・海?」
薄暗い場所は深海だった。そこに、武自身の声。

「俺は死なない・・・」

海底でもう一人の自分に会った。ただ『こちら側』の武が見ているだけだけど。
もう一人の武は海底で息を吹き返した。あの時だ、BW=ホクトが武を呼び覚ました時。

「俺は死なない・・・」

『こちら側』の武をそう呟いた。そしてあるべき言葉を紡ぐ。

「俺は死なない。―――を―――いるから、俺は死なない。俺が、――にするから」

武はもう一度、自分の最愛の人の名を言う。つぐみ、と。

世界は成すがまま、成されるがままに在り続ける。
朽ち果てるココロや、逆らう彼らを視ても世界は何も思わない。























Like Ever Life
                              七桃 りお

-artificial 3 -


「たけ・・・・・し?嘘・・・・・よね」
動かなくなった武に寄り添うつぐみ。氷、いやそれ以上に冷たくなった手を両手でしっかりと握る。
『武を殺した張本人』紅と蒼は悩む。
「・・・・彼の意思とはその程度なのでしょうか?」
「ここで彼を失うのは不味いと思う」
つぐみは呑気に言う二人を睨む。
「ふざけないで!!なにが助言者よ!武は、武は―――――」

「あー、うるせぇ。・・・・・・人を勝手に殺すなよってな」

武はむっくりと起き上がる。左胸からはまだ血がどくどくと溢れている。
「ああ、こういう事なんだな。紅ちゃん、蒼さん?」
傷口に触れる武。おー痛、などと言いながら思いっきり傷を叩いた。
「武!?」
「ほら、治ったぜ」
武の傷は、服にまだ血の汚れはついているものの、バックリとあいていた筈の傷は何事も無かったかのように消えていた。
「お見事。武さん」
冷静に紅はぱちぱちと拍手するが蒼は驚いている。
「もう、理解したのか?普通なら納得できまい」
蒼がそういうが、武は言った。
「思えばいいんだろ?紅ちゃんは俺が生き返るのを見たかったんだろう?俺がもっとも拒んでいるものが何か知っていて」
武が拒むもの・・・・・・それは『死』
「飲み込みが早いんですね。そう、私が見たかったのはあなたが『死』を拒む力がどれ程のものか。
 これで分かったでしょう。ここでは思う事が力になる」
つぐみはハッとする。そして、掴みかかった。
「試したのね・・・。そのために武を刺したのね!!」
紅はつぐみに掴みかかられると、悲しい顔をした。
「ごめんなさい。でも、言葉じゃ信じられないでしょう?だから、倉成さんを使うしかなかったのです」
この言葉が本気だという事がつぐみでも分かった。
言葉だけでは信用されないのはまず当たり前。彼女にとっても苦肉の策だったのだろう。
「・・・・・・そう」
パッと手を離すつぐみ。武が本題に入る。
「じゃあ、教えてくれ。奴等と戦う方法を」



「思うのにも限度があります。さっきのように蘇ることは本来なら不可能なんですよ」
紅による戦い方講座が始まった。
「だったらどうして俺は・・・・?」
「特別なんですよ。でもこういう事はもうありませんから気をつけてください。
 限度を越えるには、現すんです、思いを。文字や歌、詠唱など何でもいいんです。
 その力が強いと発動時に最大の威力が発生します。・・・聞くよれ慣れろですから――――――――」
蒼が勢いよく振り返る。武・つぐみもその方向を見ると・・・

「やってみましょう。丁度敵が現れましたし・・・・ね」

数十対にも及ぶマリオネットやマネキンがいつの間にか居た。
「これは・・・・奴等の手先?」
蒼が笑う。蒼は紅とともに少し下がる。
「ま、そうっぽいな。試してみるか・・・・・・」
武・つぐみVSマリオネットの大群の戦闘がいとも簡単に、始まった。



「身体能力は自分のイメージですから、現実より遥かに凌駕してますよ!」
紅の声が遠くで聞こえる。
「手伝わないのかよ!でも・・・・本当だな!」
武がマリオネットの中から飛び出した一体と対峙していた時、妙に体が軽いと思ったのはそのわけだ。
「まずは準備体操っと」
目の前のマリオネットは緑色の西洋服と両手にナイフという危ない格好だった。
マリオネットが右のナイフを武に向かって一閃させる。
左に体を逸らせ、顔面をホールド。そのまま地面に叩きつけた。
「おらぁ!!」
バキッと木材の折れる音が武の手のひらで鳴った後、赤い液体を撒き散らしながら砕け散った。
武は近くにいたマネキンを蹴りつける。
「やっぱ武器か・・・・・」
武は思い出す。蒼が突然『大太刀』を取り出したことを。
「イメージか。するなら―――――――――」
マリオネットは武が考えている隙に突撃した。両手の刃物を光らせ、武を切り裂く事は・・・・・できなかった。
顔面から流血し、放物線を描いて倒れる。超近距離からの発砲。
「やっぱ、銃だよな!!」
手にあるのは両手持ちの大型ハンドガン。武だってエアガンなどで昔、遊んだ事はある。それを応用させたのだ。
「ギャァァァァァァァァッ!!」
マリオネットが悲鳴を上げる。しかし相手は人でも無ければなんでもない。
銃弾に貫かれ、血塗れになったマリオネットを蹴り倒す。
そして武はハンドガンを乱射した。



銃声が幾つも聞こえる。つぐみは武器を出そうとしなかった。
「己の腕に頼る・・・・か。いいじゃない」
ライプリヒの追っ手から逃げてきた数年間は伊達じゃないと言いたいのだ。
後ろに現れたマネキン目掛けて旋回、手刀で首を飛ばし、大きめのマリオネットをボディーブローで吹き飛ばす。
「・・・・・・こんなのもできるかしら?」
つぐみは爪を立たせ思いっきり振り下ろす。しかし相手は怯んだだけだった。
「どうして?」
疑問のつぐみに蒼の声が聞こえる。助言のようだ。
「言葉!!言葉として表現して!」
つぐみは助言通り表現した。頭に直接イメージが湧く。それをそのまま言っただけだった、が。

開放。爪は刃となり障害を切り裂く―――――

爪に一瞬だけ違和感が生まれる。しかし気にせず先ほどのマリオネットに爪を振り下ろす。
「グギャァァァ!」
マリオネットは、ぱっくりと3つに別れ、倒れる。木造のマリオネットのどこに血があるのか疑問だったが、流血していた。
倒したマリオネットたちは鏡が割れたように砕けた。
「かなり、便利」
言葉通り刃と化した爪で幾つもの敵を切り裂く。バラバラになり、砕けるマリオネット。
数十体いたマリオネットたちもいつの間にか少なくなってきた。
「武、あと少しよ!」
「OK!」
少なくなったマリオネットたちを銃弾と刃の嵐で一気に武とつぐみは片付けた。



「よくできました!」
紅がニッコリと笑みを零す。蒼は訝しげに眉を寄せる。
「こんなにも飲み込みが早い者を私は見た事ない」
「ははっ、ありがとよ!」
そんなやり取りの中に乱入してきた者がいた。

「私のお人形・・・・・」

暗い声。それとともに空が鏡のように、割れた。
「ゴ、ゴ、ゴァァァァァァァッ!!!」
咆哮。空から降ってきたのは、巨大な肉の塊。歪な形のソレは荒い呼吸音を立てながら、数体のマネキンとともに攻撃してきた。
「嘘!?」
「だろ!?」
巨大な塊は突進した。躊躇せず、木々を巻き込みながら。紅がゆっくりと口を開く。
「牛・・・。ゴルゴンか」
ゴルゴン。
牛のような怪物で、目を見ると死に至ることがある。
鋼鉄のように硬い皮膚は何人にも破られず、視線が合った者はたちまち石になってしまう。
ローマの軍隊がゴルゴンと討伐したとき、1頭のゴルゴン相手に返り討ちに会い、軍団は壊滅状態に追い込まれたという。
「ネロ・・・・ね」
蒼が呟く。
「やるってのか?」
武はハンドガンを発動させる。光が湧き出る事も無くただ地味に、しかしいつから手にしているのか分からないほど自然に。
銃声が四発。それと同じく鉄と鉄がぶつかる音が四つ。
武の銃弾はゴルゴンの皮膚によって弾かれる。そこに間髪いれずに真っ赤に染まったマネキンが出刃包丁を振り下ろした。
「武!!」
「グギャァァァァ!」
真っ二つに割れたマネキンの奥に爪を立てたつぐみがいた。
「猫みたい」
「猫耳、着けようか?」
「ゴォォォォォォォ!!!」
馬鹿なやり取りはゴルゴンの突進で遮られた。
「・・・・倉成さん、マネキンは私達が倒しておきますよ!」
紅が言う。これで武達はゴルゴンに専念できる。
「あの硬い皮膚をどうするか・・・・・」
ゴルゴンは牛の姿をしている。所々、腐って肉が剥がれているがそこを撃っても意味が無かった。
大振りな突進を避けるのは容易いが、こうも逃げていてはアップした体力でも持たない。
発砲を繰り返す。弾かれる銃弾。
つぐみは距離を取っている。ゴルゴンの巨体の前では接近戦を好むつぐみに勝ち目はない。
「どこだ?どこを攻撃すれば・・・・・」
「グゴゴゴゴゴゴゴッ!!」
突然ゴルゴンは巨大な前足を天に突き上げる。そして、地面に振り下ろした。
破砕音とともに地面が砕けた。大地震のようなうねりで衝撃は武とつぐみを襲う。
「ぐおおおおおおっ!!」
「きゃああああああああ!!」
骨が軋み、悲鳴を上げる。立っていられなくなり、転倒する二人。
「った、立てねぇ・・・・・」
足がジンと痺れるが、痛みはない。感覚が麻痺しているし、眩暈までした。
「グルグルグルルルル」
ゴルゴンはまた前足を突き上げた。そして、振り下ろし―――――――武は見た。
前足を突き上げているため後ろ足に多大な負担がかかり、不安定な所を。
つま先などは大きな動物でも神経が敏感なことを思い出し武は躊躇い無く武は引き金を引いた。
ゴルゴンは後ろ足に鋭い痛みを覚えた。打ち抜かれたわけではないが痛みで立っていられなくなり、倒れた。
それなりの衝撃があったが、気にするほどでもなく勝利を武は確信した。
「グ、ギ、ゴゴゴゴゴゴゴ」
泡をぶくぶく吹きながら、巨体が倒れる。倒れた衝撃と、自分の重さでゴルゴンは気絶した。
「な・・・ん・・・・とか」
武は深いまどろみの中に身を置いた。



「ん・・・・おお」
「まだ数分しか経ってないわよ?」
目覚めた武はつぐみの膝にいた。かすかなジャコウの匂いがする。
「素晴らしい進歩ですよ、倉成さん!
 このようにこの空間・・・『園』では概念から何かを開放する事ができるのです。
 ですから概念開放の後に言葉によって概念をくっつければ魔法じみたことも簡単。
 つぐみさんは爪の概念を開放した後よく切れるという概念を固定、という事を無意識に内に行っていたのです。
 その一連の行動を、『スペル』といいます」
ふと、紅は倒れている黒い塊を見る。すると反転した眼球がギョロリと動き、ゴルゴンが起き上がった。
「ゴ、ガ、ギギギギギギ」
ボロボロの自分の体ごとゴルゴンは地面に叩きつけようとする。ほとんど自爆だがやられたら今の武とつぐみに勝ち目はない。
しかし勝ち目がないのは武とつぐみのみ。
「な、なんとぉ!?」
「ですから――――姉さん!!」
蒼が大太刀を出現させ、紅が言葉を放った。

開放。斬る、裂く、断つ、刹那の違いを見極めん。ここに在るは贄となるモノのみ――――――――喰らえ

蒼はゴルゴン目掛けて飛ぶ。大太刀を一閃。血でグチャグチャになった顔がバックリと割れた。
「こんな事もできます」
トン、と蒼が地面に着く頃にはゴルゴンは跡形も無く砕け、この世から消滅していた。
「・・・・・滅茶苦茶強いじゃないか」



「では、これでいいでしょう」
紅は嬉しそうに言った。戦闘後、辺りには何も知らない人々がいた。つまり『園』が解けたのだ。
「ま、まてよ!」
紅と蒼が立ち去ろうとしているのを呼び止める武。
「何ですか?もう戦闘に関しては大丈夫だと・・・・」
「まだ聞きたい事は沢山あるんだ!」
周りに人々が奇怪な目で武を見る。紅はふう、とため息をつく。
「もうお昼ですか・・・。倉成さん、言っておきますが―――――

―――――あなたが知る必要は無いのです。全てを取り戻したかったら、ライプリヒビルに行く事ですね」

紅と蒼はその言葉とともに消えた。その言葉が生んだのは、
「やってやるぜ。そして、全てを取り戻してやる!!」
新たなる決意だった。

分からない事があっても、理解できなくても、ただ『あった』という事実だけが残る。
全てなんて知る事はできない。でも『本質のみ』を視ることはできるだろう。
視たいのなら来るがいい。ホンモノの世界に―――――


あとがき

ハガ○ンかよ!!
つ、次からマトモな戦闘です(汗
まだ始まったばかりであまり苦戦しないようにしたんですが・・・・・紅&蒼は強いです。極めてます(謎)
概念やら、園やらは私の勝手なオプションです。いつかはきちんと説明しなければ。
最初と最後の文はよく分からんにゃぁ・・・。
でわでわ。


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