「挑発したきたんだ〜」
彼女は嬉しそうに言う。黒く静かなこの部屋はとあるビルの最上階。そこに幾つかの人影がある。
「・・・・そう。でもねー、華音は後始末をしないからダメだよ?」
彼女―――――華音(かのん)は叱られた。寄り添っている相手に。
「奏がしてくれるんじゃないの?」
奏(かなで)と呼ばれた少年は笑みと中性的な顔立ちが印象的。しかし何を考えているか分からない笑みでもある。
「はいはい。ネロ、彼らの相手ありがとう」
笑みを零す奏の目線の先には右手にパペットを持った外人がいた。
外人は少女で金髪が華やかだが、表情の変化が無いため無愛想に見える。
「はい」
ネロは一言だけ呟き、奏は微笑を浮かべる。ネロはパペットを持たない左手で隣にいた人物と手を繋ぎ、駆け出した。
「もう行くのかい?ネロ、創那」
握っている手は創那(きずな)と呼ばれた人物のものだ。ポニーテールをブンブン揺らし、創那は明るい声で言う。
「いやぁ、ネロの人形壊れちゃったから次の用意するよ!今度は創那の番だから!」
スキップでネロと創那は闇の中に消えてしまった。延々と広がるこの部屋から忽然と―――――――
「彼らが来るのも、時間の問題かー」
ヘラヘラと笑う奏。華音が腕を組み、少し怒った様子で言った。
「・・・私には分からない。どうして意味も無いことなのに、労力を費やすの?」
華音の青白い髪を奏がさわさわと触る。指で梳かしながら答えた。
「華音は分からなくていいんだよー。ごめんね?答えられなくて」
ぎゅっと華音は奏に抱きつく力を強めた。奏は軽く笑い、華音をもっと抱き寄せた。
「いいの。私は奏の為だけにいるんだから」
二人は暗闇の中でいつも寄り添っていた――――――――

己の世界を持たないモノは、他の世界を壊し始める。
自分を棄て、『からっぽ』になった器に力を注がれたモノは―――――――『異能者』となる。























Like Ever Life
                              七桃 りお

-artificial 4 -


昼を少し過ぎた頃―――――、武が『今』に気づいてから丸一日。もう一度ライプリヒビルに彼らは足を運んだ。
「お出迎えは無いのかよ」
もう見慣れた光景、即ち人のいない空間、『園』にもう武とつぐみは入っている。
外はまだ昼なのに、廊下は真っ暗。停電が起きたように電気の気配が無い。
二人は角を曲がり、窓の並ぶ廊下を走りぬけ、どこまでも伸びる階段を駆け上がる。
しかし妨害どころか警告の様子すらない。不気味に静まり返ったビルに武の不信感が積もる。
「人じゃなくても敵は沢山いるだろうに・・・」
先ほどのマリオネット達がライプリヒの手先という事は当に見当が付いている。しかし自分達の走る音が響くだけ。
『園』での身体能力は現実を凌駕している。一瞬で階段を駆け上り、たどり着くのには造作もなかった。
変化のある場所へと。
今は十七階。「皮肉ね」とつぐみは呟く。一階を丸々使ったそのフロアには完璧な防御網を張り巡らせたバケモノがいた。
マリオネットによだれをダラダラと流す獣。それが一斉に唸り、襲い掛かる。
武はハンドガンを具現化。つぐみは爪を『スペル』、刃とした。
武の前で火花が舞い、どっと獣が倒れこむ。思いっきり跳躍し、上空からの精密射撃。頭を撃ち抜かれるマリオネット。
薬莢は転がらない。ハンドガンから吐き出されるのは銃弾だがそれも具現化の代物。
着地の時にマリオネットを踏み潰す。ごきり、と鈍い音を立てて崩れ落ちる。軽快なステップで食らい付こうとする獣を掃う。
獣を掴み、思いっきりブン投げる。雪崩のように倒れた所を連射で打ち抜く。
「まだまだぁ!」
十、二十、三十、と次々に仕留める武。突然隣のマリオネットの首が飛んだ。赤い弧を描き落ちるそれ。
つぐみはイヤな感触とともに獣の頭を潰す。至近距離攻撃を続けているので生臭さでいっぱいである。
「帰ったらまず・・・・・お風呂よね」
思わずほころぶ顔。それと裏腹に敵は砕け、潰れ、裂かれていった。
こちらも三十、四十、易々と減らしていく。戦いに慣れた二人にこの程度のザコでは相手にならなかった。
なので、ザコでないモノが来た。
ゴルゴンの時と同じく空間が割れ、現れる。
黒く渦巻く毛にぽつりぽつりと赤い点。わけの分からない所から生えている牙や爪。狼をバラバラにし、再構築させたようなモノがさっき
までいた獣をバクリと飲み込む。そこにはマリオネットを混ざっていた。響く咆哮と悲鳴。
そばにいた獣が突然宙に浮く。そして空中で細切れになった。空間がゆらゆらと水面のごとく揺れる。
そこにはいつの間にか中世のようなマントが浮いていた。

「バエル。東を統治し、地獄の悪霊66軍団を率いる王で物体を透明にする力がある。
 リュカオン。アルカディアの王だったがゼウスに人肉を供して怒らせてしまい、一族は狼に変えられた」

呟きだがなぜだかはっきりと耳に届く声。ホールの真ん中から聞こえてきたものだ。
バケモノたちはなぜかそこには寄り付かず、ポッカリと円ができていた。そして、武は確信した。
「ヤツらだ!!」
つぐみも気づいていたらしく、円の中心に向かって走り出す。なぎ払い、数が少なくなった所を走る。
そこには二人の少女がいた。片方は暗い表情にパペット。もう片方は大きなポニーテールに子供っぽいその顔。
不釣合いだった、この場所に。
「っ!!!!」
声をかけようとした瞬間、床が眼前に迫っていた。受身を取る武。いつの間にかマント、バエルに投げられていた事を知る。
つぐみは少女達の前に現れたバラバラ狼、リュカオンと退治していた。
それぞれの戦いが始まった―――――。



ただ、一階上がって廊下を駆けていただけなのに。正体不明のバエルから遠ざかろうとしていただけなのに。
「ここ・・・・ドリットシュトックだよな」
武がいた場所は、LeMUの憩いの間だった。床に海水が少し溜まっていて、あの時と全く変わっていない。
呆然としてると、マントが武の前にいた。しかしマントの中には大きめのマリオネットがいた。
「クククク・・・。とある方が用意してくれた場所だ。ココから抜け出せれば元の場所には帰れるが、貴様は死ぬ」
マリオネットが口をカタカタと動かし、かすれた声で言う。目の前でマントを掴み、武に向かって投げた。
武は反応が遅れて視界を遮られてしまう。すぐにマント取り払うが目の前にいた、あれが本体なのだろうかマリオネットのバエルは姿を消
していた。
「何処へ行っ―――――ぐあああああ!!!」
肩が熱い。激痛が走り、血が絶え間なく流れる。「ぐっ」と武の喉が鳴るが、傷口を修復する。
傷は直せるが、痛みを取り払う事は武にはできなかった。足元の水が血で濁っていた。
バエルの姿を武は見ることができなかった。武は察した。
「バエル・・・。物体を透明にする力か!」
武は必死に宙を撃つ。石柱や花々が散るがバエルは捕らえられない。それと違い、かすり傷だが武はバエルによって刻まれていく。
遊ばれていた。
「カカカカカカ!」
奇妙な笑い声とともに空気を切る音が鳴り、武の上腕部が切り裂かれる。あまりに傷が深いと一気に修復はできないのが辛かった。
少しづつ、肉眼でも分かるほど傷は癒えていくが、バエルの攻撃の方が早い。しかし、
「はっ!・・・獲物は、大鎌かよ!」
バエルは忘れていた。武の血が自分の獲物、大鎌に付きはっきりと形が分かってしまう事を。
そして大鎌があるということは、そこにバエルがいるという事実ができあがる。そこを武は、撃った。
「がああああああああああ!!!!」
叫ぶ。血が飛び散り、ガクっと倒れる。――――――――武は背中から血を流し、地に伏した。
「鎌はもう一つ、あるのだよ」
血塗れになったバエルは『スペル』の力を持たない。
しかしそれ以外、名通りの力は持っていた。かのソロモンの72の悪魔としての力である。



つぐみはツヴァイトシュトックでリュカオンの猛攻を必死で対処していた。
腹部から血が流れている。先ほどつぐみがリュカオンに飛び掛った時、いきなり体内から出てきた骨に貫かれたからである。
あまりに深いためすぐに治す事はできない。黒い塊から頭や腕が絶え間なく飛び出てくるので、予想ができない攻撃だった。
それはもう、狼とは言えない。ただのケダモノ。イルカメリーゴーランドを破壊しながら追ってくるリュカオン。
腹部の傷の所為でうまく逃げられない。刃と化した爪で腕を切り裂くが、塊へと戻り、修復されてまた現れる。
不用意に近づいても反撃を食らうだけである。しかしつぐみが考えていると、
「グルルルルルルル」
リュカオンの中から数体の狼が現れた。不意を突かれたつぐみは、腕や足首を軽く食い破られた。
激痛に倒れ込むつぐみ。修復し、すぐに立ち上がるもリュカオンの方が速かった。
つぐみが動いた。

開放。月の映る海の如く。海を叩けど無に還る―――――――

リュカオンの爪がつぐみに接触したが、すり抜けた。つぐみの体が―――――揺らぐ。



もはや虫の息となった武は、バエルの鎌がゆっくりと下りるのが見えた。武には、そう見えた。
「ああ・・・死ぬ時は時間が止まったようになるんだたか」
バエルの鎌は依然として頭上で少しづつ動いている。武はふっと笑い、
「縁起でも・・・・ねえな」
武はアクションを起こした。
バエルは見た。死にかけだった男が突然動いたのを。その速さは尋常では無かった。
そして言葉とともに、吹き飛んだ。

開放。浴びるのは痛みでなく、時間。終わりのように、速く――――――――

背中の出血は止まっていた。それにバエルが壁に激突し、唸っていた。
「俺が拒むのは・・・・死。だから治癒能力が高いのか・・・」
バエルがゆっくりとこちらを向き、ゆっくりと動いている。武が素早く近寄り、腹部へ思いっきりつぐみ直伝もとい見よう見まねであるボ
ディーブローを叩き込んだ。バエルは抵抗せず、吹き飛んだ。
「ガァ!・・・・な、なぜだ。なぜそれほどまでに速い!」
武は普通に走り、攻撃した。何も変わった事はしていないのだが。
「まさか、さっきの開放で速く・・・・いや、体感速度が伸びたのか」
さっきまで自分が体験していた事が『スペル』によって再現され、力となっている。
「くっ!ならば!」
バエルはふっと姿を消した。しかし、もはやバエルは敵ではなかった。
ハンドガンを具現化。そしてさっきまでバエルがいた場所へ乱射。動く前に、撃った。
何も無い場所なのに、弾が当たりそこからバエルが現れ、膝を付いた。消えて、動く前に撃ったのだ。
「は・・・ナゼだ。これほどまでの力は『ロウ』でなくては・・・・グッ!」
武が止めを刺そうとした時、バエルが崩れ落ちる。頭を貫かれたのだ、一筋の光に。
そして砕け散ったバエル。頭がゴッソリと無くなっていた。飛ぶハズの肉塊は空中で鏡のように砕け、消えた。
すると通路の方から物音がした。
「誰だ!!・・・・・お前は」
そこには――――。



リュカオンと爪が勢い良く床を抉る。コンクリートの粉塵を撒き散らしながら、錯乱した。
目の前にいた、獲物がいない。一瞬揺らいだ後、消えた。すると、
「ガアアアアアアアア!!」
リュカオンの体が引き裂かれた。黒い血が飛び散り、溜まる。完全に切り飛ばされた一部は砕け散った。
「やっぱり。本体と切り離せばジ・エンドね」
つぐみはいた。リュカオンは咆哮を上げ、牙を剥く。しかし、またすり抜けた。
「・・・海に映る月は捕まえられないの」
また、体の一部が飛んだ。削られるリュカオン。その度にメリーゴーランドが血で汚れていく。
「私は・・・・月海よ」
リュカオンは細切れにされ、ついには死が訪れた。
亡骸を踏むつぐみ。血塗れのメリーゴーランドは綺麗になっていた。リュカオンという存在が残した傷はつぐみにつけられたもの以外は消
えていた。一応戦闘が終えるとその時開放した『スペル』は消えてしまう。
つぐみが何となく歩き始めると、拍手が起こった。パチパチと一人分。
「良くできました。つぐみ」
白衣の姿。カインだった。ピエロのような仮面を着けていて、表情が分からない。
「・・・・・貴女を倒せば、ここから出られる?」
つぐみもここが何か、気にしていたようだ。カインはコクリとうなずくと、右手を一閃。
血がつぐみの頬から流れた。つぐみは構えた。離れた位置からの攻撃。
「倒せたら・・・ね?」
カインは走る。つぐみは向かってきた相手にブローを一発。しかし避けられた。
ブローの隙に銀色に光る何かをまた、一閃。今度は肩が裂けた。
「メス」
つぐみは銀色の正体を見破った。しかしそのメスは医療用より二倍ほど大きかった。
また向かってきたカインに対し、爪を一閃。カインが退けるが、
「!?」
「・・・まだ、『スペル』を使ってないわよ?」
カインの腕を掴み、引き寄せて―――――そして、誰かを知った。
「あ・・貴女、もしかして・・・・・」
つぐみは引き寄せた時、似た様な、というより全く同じの体型を持つ人物を知っていた。
笑うカイン。そして、仮面を外した。

「ばれた?・・・・面白いでしょう」
「―――――優!!!!」



「お前は、桑古木!」
立っていたのは、桑古木だった。武は桑古木の手を引いた。
「た、武!痛いって!」
「わ、悪りい。あれ・・でも俺達のこと」 
「ゴメン。色々あってさ・・・」
桑古木ははにかむ笑顔を見せながら、言った。武はブンブンと手を振る。桑古木はもう一度笑い、

「消えてもらう事にしたよ。武に」

ふと武が気がつくと桑古木は黒衣を着ていて、仮面と――――

「ウソだろ?桑古木」

武の額に当てているハンドガンがあった。

もう後戻りはできない。後は戦い続けるのみ。そして、負けるか勝つか。
全ては『主』のために―――――



あとがき

いよいよです!でも・・・・グロテスクじゃ、無いね(笑
ちなみに優春です。さて、二人はナゼ敵となったのか!
でわでわ〜


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