「ええ、ありがとうございます」
優春を目の前に現れた、赤い光と会話していた。正しくは赤い光に包まれる人物と、だが。
ふっと光は消え失せ、辺りには暗闇が広がっていく。
「・・・う・・・くっ」
つぐみは手首から伝わる冷たさと、吊るし上げられていることによる痛みで目を覚ました。
傷は負っているが回復は目前。しかし四肢を自由に動かせず、何もする事ができない。
「あ、気づきましたか?」
ふと現れたのはチャイナドレスの女性、茜ヶ崎空。うっすらと照らされる彼女はつぐみでも美しいと思った。
つぐみの頬に空の指が伝う。そのまま唇まで這わせ、そこで指を止めた。
「血が・・・」
そう言うとストールの裾で血を拭った。赤くシミができるが気にした様子は無い。
「空、あなたは―――――」
「ごめんなさい、『小町さん』」
空はしょんぼりとした顔をし、一人を手招きする。
「私は田中先生の助手ですから・・・・」
すると優春が現れ、ニタリと張り付いた笑みを浮かべた。
「どう?ご機嫌は」
「こんなに歓迎されて、嬉しいわ」
明らかに不機嫌そうにつぐみは言った。優春は笑みのまま手中にあるメスをいじる。
「・・・・目的は分かった。でも私達の存在を消してしまうほどの事ができるなら、どうして一度に私達を消さなかったの?」
つぐみは疑問を述べた。確かにそれほどの力があるなら消すことなど造作も無いはずなのに。
「それはあなた達、つぐみと倉成が楔だから。この世界は枝分かれしたモノ、本来あなた達がいる世界をAとするとこの世界はYのもう片
 方のBなの。このBを軸とするにはAを保っている楔を断ち切らないと。楔を断つとAは維持できなくなり、滅ぶ」
優春は恐ろしい事をさらりと口にする。
「どうして私達が楔なの!?」
叫ぶつぐみ。しかし優春は壮絶な笑みを浮かべた。
「手っ取り早いから。あなた達を楔に設定し、Bへと引きずり込む。そこで断ち切る、すなわち殺せばあなた達のいない世界の完成って分
 け。面白いでしょう」
「おかしい。貴女、絶対に狂って―――ああっ!!」
「生かされている分際で舐めた口を利かないで」
優春は手元のメスで吊らされている両腕を切り裂いた。バックリと傷口が開き、絶え間なく血が流れる。
「・・・・・田中先生、来ます」

人が孤立した時、何を求めるだろうか。家族や友人などの温もりか、ルールに捕らわれない自由か。
答えは否、断言する。何より求められるのは――――『敵』である。






















Like Ever Life
                              七桃 りお

-artificial 6 -

武と桑古木は『園』内のライプリヒビルを駆け上り、また巨大なホールへと行き着いた。
「優春はツヴァイトを解いた。だったら・・・・」
そこで言葉を切った。何だ?と武が聞くと、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「だったら、もしも優春がつぐみを倒したのならここで待っている。つぐみが優春を倒したのなら、ここまで来てるか、来ていないか。
 来ていなかったらここで待てばいい・・・」
桑古木が言いたくないのもよく分かった。倒す、すなわち殺すとこに当たるのだ。
つぐみは不本意であったとしても今の優春は何をするか分からない。二人の無事を、祈った。
大きな扉が目に入り、二人ががりでそれを開けた。状況は悪いのだか、二人が・・・・生きている事は良かった。
しかしつぐみは鎖で吊るされ、両腕から絶え間なく出血していた。傷が深すぎる。
「なっ!?」
傷ついたつぐみを武は直視した。しかし今にも飛び出しそうな闘争心は桑古木の静止によって収められた。
「優、これ以上無駄な争いは止めよう。俺達は間違っていたんだ」
桑古木は二歩踏み出し、説得を始めた。ここには優春しかいない。
「俺は武に助けてもらった。そして、自分を見つけられ――――ガッ!!」
突然、桑古木が浮いた。喉の辺りを掻き毟りながら少しずつ、『誰かに持ち上げられる』ように。
「ど、どうしたんだよ。桑古木っ!!
優春は全く動いていない。武は突然の事に動く事もできず立ち尽くす。
そして、桑古木が壁に打ち付けられた。優春が大きく笑みを浮かべる。
「っち、早々やられちまった・・。優、今のは何だ?」
砕けた壁の下で桑古木は疑問そうに言う。出血は無いが本当に今のが何か知らないようだ。
しかし優春は笑みのままで答えようとはしない。その代わり、隣の空間が波を打った。
「こんにちは、桑古木さん」
ブンっといきなり現れた空はまるでRSDの頃のようだった。桑古木は驚愕する。
「なっ!?ゆ、優!!・・・・・・俺達だけでするんじゃなかったのかよ!!空まで・・・・」
「・・・・ずるいです、桑古木さん達だけでは。私も―――――――怨んでいるんですよ?」
空はそう宣告する。桑古木を持ち上げたのは空のようだ。
「優、空・・・・、もう止めてくれっ!」
武が口を開く。彼は苦悩した。しかし優春が笑みのまま問いかける。
「何を?」
「!!」
「・・・武、今の彼女達じゃ言葉は通じない。俺も、そうだっただろ?だから・・・・まずは向き合うんだ、彼女達と」
起き上がった桑古木は手に集中する。一丁のハンドガンが現れる。
「やるしかないのか・・・・。畜生っ!!」
優春と空はいつでも戦闘態勢である。武もしぶしぶハンドガンを出現させる。
戦闘の火蓋は切って落とされた。



先制攻撃はメス。いきなりメスが壁を切り裂いた。
「速っ!!」
ハンドガンを撃つも銃弾は当たらない。優春は元の定位置のごとく先ほどの場所にいる。
「ふ・・・」
優春から零れた笑みとともに高速の刃が二人を捕らえようとする。動きが速すぎて捕らえられない。
確実に切り刻まれ、確実に攻撃が当たらない。桑古木は回避行動を取りつつも疑問に思う。
(この動きは異常だ。いくら『神』から力を貰ったとしてもこれは異常だ)
冷静な判断を練る桑古木。しかし切り傷は増える一方。しかし――――――
(空は何故動かない?・・・・姿を消す。RSD・・・・・・・・そんなことまでっ!?)
桑古木は強いのである。彼は迷わず――――――空を撃った。
「解けたっ!!」
空に着弾する瞬間、メスの一閃が止まり空の前で銃弾が真っ二つになった。
「お見事ですね・・・」
「簡単だ。この斬撃はRSDの光線でメスと思わせた。だから優は動いていない。空は俺が銃弾を撃つとその光線で自分をガードする。
 だけどその瞬間はこちらに向かってくる攻撃は止まる。一か八かって感じだな」
拍手とともに苦笑が混じる。優春は無表情な空を囃す。
「そーらー、ばれちゃったねぇ」
「・・・・ええ。しかし問題ありません」
そう言って空は距離を縮める。標的は武で幾つもの光線が飛び回る。優春は桑古木に向かってメスを振るう。
武は空にに向かって拳を叩きつけた。
「しまった、RSDなら攻撃は―――――」
そう踏んだ武は腕を止めようとする。が空が自分の拳を掴んでいる事に気が付く。先に受け止められていた。
「倉成さん?私はRSDのような力で攻撃したのであって、私は実体を持っています。危ないですねっ!!」
掴んだ拳ごと武をブン投げた。思いもよらぬ行動で抵抗もなく投げ飛ばされる。
落ちる、と思った武は桑古木に腕をつかまれ受け止められた。
「頼むよ、武〜。・・・・・うわっと!」
桑古木はメスの飛来をかわし発砲。武は少し驚きながらも彼と背中合わせで空を撃つ。
銃弾はかわされ光線とメスが飛び交う。武と桑古木は同時にサイドステップで避け、クルリと振り向き発砲。
息の合った動きに圧倒されてか始めて優春と空に着弾した。
「動きづらいわ、空。片方ぶっ飛ばしちゃって」
「ええ、そう思っていたところです」
空は両手を上に上げる。すると両手がスパークし、その電撃を武に放った。
「!!」
電撃がまっすぐに床や壁を破壊しながら武に迫り縦に伸び、着弾した。
「武っ!!大丈夫―――ガッ」
「よそ見してないで、自分の心配は?・・・・裏切り者!!」
優春に壁に叩きつけられ気を失いそうになる。しかしグリップで優春の腕を叩き、ついでに自分の頬を叩く。
「・・・はは、あの漢がそう簡単に死ぬわけ無いか。確かに自分の心配だ、なっ!!」
壁につけた右腕を軸に左足で蹴りを放つ。数歩下がる優春。
桑古木は、尊敬する漢を信じた―――――――。



その尊敬する漢は落ちた痛みを感じながらも立ち上がる。
「・・・・空。どうして俺を避けた?」
電撃は目の前で弾けた。雷撃は縦に伸びたような気がする。武は上から落ちる電撃にコゲカスにされそうになったが突然そうなったのだ。
弾けた雷撃は武の足元で爆発。ビルを貫き足場を無くした武を一階まで落とした。
武は落下地点に数発、鉛を打ち込みその反動で衝撃をカバー。そして今に至る。
「面白くないからです。楽しくないからです。私はもっと楽しみたい。・・・ジンセイってモノを」
「空、『綺麗な花にはトゲがある』っての聞いた事があるか?」
すっと降り立った空へ向かって言う。
「ええ。それは薔薇のことを言っているのですね?」
「いや、空のことだ。お前は、綺麗だった」
空はその言葉を聞くなり、右腕をスパークさせた。
「適当な事を言わないで下さい!!あなたは私に振り向かなかった!」
「綺麗だった、だ。今のお前は、醜い」
「っ!!」
ざくり。空は右腕をかざし、電撃を固形化させた刃で武の肩を突き刺した。
「・・・・痛え。でも、空は痛くないのか?」
ずぷり。空は右腕を下げ、刃を深く体にのめりこませる。
「・・・・痛え。でも、空の方が痛そうだ」
ずしゃ。空は右腕を引き、刃を武の体から引き抜いた。
「勝手な事言わないで下さい!!あなたは私が消すのです!」
武の傷は出血が止まっていた。思う程深くは無かったようだ。
「俺は救ってみせる。つぐみを、優を、空を」
かちゃりと音を立てて武がハンドガンを構える。空は全身をスパークさせる。
「綺麗な事、言わないで下さい!!」
先手、空。スパークを手のひらに凝縮され、一気に放つ。轟音の中、武は煙とともに姿を現す。
零距離射撃。空を捕らえたかのように見えたが、当たらなかった。
空は笑みを浮かべ、スパークを連射。それを武は銃弾で応戦する。
しかし差を一目瞭然。先ほど跳躍した武がいた場所を吹き飛ばしていた。
「危ねーなっ!!」
回避した反動も使いまた空に零距離射撃。スパークはまだ存在せず銃弾が空を捉えた。
「あははははは、面白いです、面白いですよ!」
そして空は――――――分裂した。
ぶん、と音を立てて二つに分かれた空は一瞬で生み出したスパークを武の胸に叩き込んだ。
「ぐっ、ああああああああ!!」
数秒遅れて放出された電撃に皮膚を焼かれた。そのまま吹き飛び壁へ激突する。



格闘戦の猛攻を続けながら桑古木と優春は会話をしていた。
「優!・・・・もう止めろ!」
「それ、さっきも言ったわよ!!」
優春が蹴りを放つ。桑古木を右腕でガードするが左から首をかき切ろうとしていたメスに十分な反応が出来なかった。
メスが、頬を裂き首に少し触れ、紅い華を咲かれる。
「俺達は確かに怨んでる!・・・・だけどそれ以上に手に入れたものは大きかったはずだ!!」
「私は何も手に入れてなんか!」
首を押さえながら桑古木は引き金を引く。右のメスが弾かれそこにグリップを叩きこむ。
「本当に手に入れられなかったのか!?違うだろ!俺達は『BW計画』を・・・ああ、今名付けたがな。・・・実行した。
 それで俺は自分を見失い、空は実体が無いことを悩み、優は騙す事に苦悩した。
 でも双子は出会い、親子は再会を果たし、騙され続けた娘も親を許し、実態を手にいられた者もいる。
 そして俺の最愛の人と尊敬する人も復活した。それじゃダメなのか!?」
「嫌っ!!それ以上喋らないで!!」
言う優春の肩を桑古木は掴み、言い聞かせる。ジタバタと優春が暴れるが桑古木が強く、強く掴んでいるため離れられない。
「聞いてくれ!!俺達に望むモノはこれ以上無いはずだ!確かに俺は武を消してやろうと思った。
 でも俺は武の呼びかけによって自分を見つけた。だから・・・優には不服かもしれないけど、俺が呼びかける!」
「うるさいうるさいうるさい!!」
突然現したメスで桑古木を突く。しかしそれも簡単にかわされる。
「優!!」
桑古木は突き出された優春腕を引き、抱きとめた。
「あ・・・あう・・・・」
すると突然緊張の糸が切れ、優春はボロボロと大粒の涙を零した。
それを桑古木は何も言わずただただ抱きとめる。そこには長年のパートナーに対する友情や・・・・その他色々の感情が混ざっている事を
知らずに。
「ごめん・・・・ごめん・・・・・」
優春はひたすらに謝った。桑古木や武とつぐみ、それに引き込んでしまった空に。
「ごめん・・・・ごめ――――――」

―――――早すぎるじゃないか。それにボクは君達以上の苦しみを与えられたんだよ?

「優?・・・・優!!」
放心したように全く動かない優春を桑古木は呼びかける。

―――――折角力を与えてもらったのに、勿体無いなぁ・・・・。ほら、使ってみなよ力を。

「わた、私は・・・」

―――――君の力の糧は憎しみだ。さあ、もっと。もっとだ!

「や・・・嫌・・・・、嫌ああああああああ!!」

―――――ほーら、凄いよ。・・・・・そこの男で肩慣らし?

「・・・・・・」
桑古木は呆然とする。優春を中心に空間が捻じ曲がっている。そしてそこから銀色に鈍く光るメスが現れて、

―――――さあ、再開だ。

敵とは目的、すなわち目標。目標があることによってヒトは存在を持つ。
目的がなければ、ただ放浪するのみである。この世界を、彼のように。




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