銀の線は桑古木を貫く。何回も、何回も。
次第に血飛沫が激しくなる。それでも銀の線は桑古木を貫く。
絶える事の無い銀の線、メスは優春を中心として発生する。

開放。全て、生きている。襲うのは力の具現。皆は母の御心に―――――

声を桑古木は聞いた。それが意識を失う前にふっと頭の中に浮かび上がる。
(ああ、スペルか・・・。不覚だったな・・・・・)
そんな風にしか、桑古木は思わなかった。ただただ、体を貫く熱いものに身を任せていた。
「・・・・・」
桑古木が倒れると、メスの雨は止んだ。優春は黙ったまま見下ろしている。
「・・・・・」
桑古木からは少しずつ暖かさが失われていく。それを見届けるまでもなく優春はクルリと背を向ける。
そして幾つかのメスを、それはゴミを捨てるかのように荒く桑古木の眼前に放り投げた。
それはピタリと宙で動きを止め、刃を桑古木へ向けてギラギラと輝いている。
「さよう・・・なら」
言葉を口にして、それと同時にメスが動いた。
それは桑古木のもたれている壁を砕き、彼を落とす。空へ、青空へと――――――

自分は何か。あなたは何か。全て疑問で溢れている。
誰かが言った。肉体はハード、心は情報。果たしてそうか。真実とは、何か。





















Like Ever Life
                              七桃 りお

-artificial 7 -

武は見た。空が胸にスパークを叩き込んだとき、感触がひとつだったことと、スパークの瞬間には一人の空だったことを。
「ちっ、何だってんだ」
空は微笑を浮かべながら浮遊している。それだけなら微笑ましい光景だが空の周りには三つのビットが浮かび、空自身も全身に電気を帯び
ている。
「無謀だな・・・こりゃ」
ぼろ布武に発電空。あまりにも理不尽。それでも武は体を引きずりながらも立ち上がる。
「負けられねぇ・・・・。負けたらつぐみに・・・・うわ、怖っ!!」
「まだそんなことを言ってるのですか?・・・・つぐみさんは田中先生が今頃」
ダッシュ。足の裏に力を込め、床を踏み抜く。詰めた間合いで一発。
しかし空は一瞬で分裂、結合で銃弾をかわす。ひとつのビットを武の近くへ移動させ、爆破。
「!!」
閃光とともに吹き飛ぶ。空は即座に距離を取るが武は、
「・・・か、かは」
口から赤黒い液体を吐きながらうつ伏せになっている。自爆したビットの破片は武の背中にあった。そこで爆発したのだろう。
「もう、私はあなたに醜いと言われようがかまいません。あなたを、愛していますから。許します」
そう言いつつもクスリと笑い二個目のビットを足元で小爆破。少し勿体無いか、と思ったがこれで武は動けなくなった。
足はもうあるのか無いのか分からないほど損傷していて、白いものまで見えている。
しかしそれでもスパークの傷は癒えてるし、修復中のところもある。
こんな時再生能力は便利だと空は思う。だって、
「治れば何度でも痛めつけられるじゃないですか」
そう空は思っていた。
「あ・・あが」
武はそれでももがき続ける。そして床に倒れたままでハンドガンをまたこちらに向け、銃声が鳴った。
「無駄です――――――なっ!!」
‘一発目’は分裂でかわした。しかしその後ろには同じ直線状に、先ほどの弾に隠れて見えないほど精密な‘二発目’に、結合した瞬間に
胸を打ち抜かれた。白いドレスが真っ赤に染まっていく。
「う・・・嘘、でしょう。銃声は一発・・・。スペルの発動も・・・」
「っは・・・。超精密な・・・連続射出といっても・・信じない・・・・か?」
二人は切れ切れに言葉を交わす。次第に空の顔が憤怒に染まり、最後のビットを掴む。
「ふ、ふざけないで下さい!・・・・殺します、殺し尽くします!!」
最後のビットを武の脳天に―――――

「やめて・・・・下さい」



「どう?御機嫌は」
優春は桑古木を始末した後、つぐみへ語りかけていた。
「・・・二度目よ」
「そう・・・・」
それだけ言って優春は頬杖をつく。椅子に座っているのでつぐみを見上げる形だ。
「でも、楽になったわ」
その言葉通り、優春はつぐみが浮くほど締め上げていた鎖を足がつくほどの高さに降ろしたのである。
「どうして?」
「え?」
つぐみは聞く。先ほどまでと優春の表情というか、気配というか。脱力に塗れていた。
「どうして?・・・・さっきまでと気迫がぜんぜん・・・」
「ああ・・・。それは、桑古木と話したからかな」
「・・・桑古木は?」
「私が・・・・殺した」
「!」
つぐみは鎖をじゃらりと鳴らし、優春に詰め寄る。
「どうして!?・・・・殺して、後悔してるの?」
「え?・・・あ」
今始めて気づいた、という表情だった。
「・・・・私は感情に負けたの。あと少しで桑古木は私の目を覚まさせてくれたと思うの。でも・・・・そうなると拒絶して、感情にまか
 せて・・・・・」
優春は次第に顔を下に向けた。
「そう・・・。でも、大丈夫。彼だったら何とかなるわ。彼も、武の馬鹿が移ってるかもしれないもの」
この鎖がなかったら、つぐみは優春を抱きしめてしまう事だろう。もどかしく腕を動かす。
「そうかなぁ・・・」
うつむいたままで優春が言う。
「大丈夫、きっと―――――」



「な、なんなのよ!」
空のビットは武に着弾する前に破壊された。一筋の光によって。
「空・・・・。空、なのか?」
その光の下は、ビットを飛ばしてきた空からだった。そして空が二つに分かれる。黒と、白へと。
チャイナドレスの色が分かれていた。白空は武の前に立ちはだかる。黒空はそのまま憤怒の顔で空は見ている。
「なぜ?なん―――――

開放。交わる事亡きは対極のモノ。それは黒と白であり――――――

「・・・ス、スペルかっ」
黒空は駆ける。白空は思いっきりそれを、
「いい加減にしなさい!!」
引っ叩いた。スゴイ音がするあたり、両方とも実体らしい。
「ぐあっ!」
壁に激突する黒空。そこに白空が詰め寄る。
「私達・・・。茜ヶ崎空は負けたのです!確かに憎いとか、黒い感情を持ったのは認めます。でも、自分のために人を不幸にする事は、許
 されません!!元々、茜ヶ崎空は実体の無いただの映像だったんです。それを、モノと触れ合えるようになったキッカケをくれた恩人達
 に、このような愚行は許されてはなりません!!」
「実体が無いから、仮初の体を持ってしまったから悩んだのでしょう!触れ合えるのに、結ばれる事は許されない。そんな自分に、嫌気
 が挿したんじゃないんですか!?だから田中先生の誘いに乗ったんじゃないんですか!」
白空は横に首を振り、黒空をすっと抱きしめた。
「そうです。だからあなたがいる。でも黒と白は平行を保ってなくては。行き過ぎた黒を、私は抑えます」
「そんな・・。私は私達のタメに・・・」
「でも、間違っているんですよ、ね?」
白空の中で黒空はジタバタと暴れる。それでも尚、白空は抱擁をやめない。
「嫌です、いやいや!そんなの、嫌あああああ!!」
「っく!」
黒空が全身をスパークさせる。思わずし白空は飛びのき、よろよろと立ち上がった武の前に立つ。
「もう傷は、大丈夫みたいですね。倉成さん、私が合図したら撃ってください!」
それだけ言うと、白空は黒空へ向かって跳躍。電撃を幾つも出現させ、周りを構わず破壊する黒空。
「うああああああ!!」
「空は・・・」
何かを呟きながら、白空は前に行く。服はビリビリと裂け、白い肌も焦げる。
「広く、澄んでいて・・・」
黒空は白空へ特大の電撃球を叩き込む。白空は光の防壁でそれを防ぐ。
「それは聖母の様で・・・」
電撃が雨となって降るが、それをまた防壁で弾く。全身に力を溜め黒空を、
「だから、私達もそう在るべきだと・・・」
また、抱きしめた。
「私は、思いますっ!―――――撃ってください!!」
「な、なっ!!」
それは自分ごと貫けという事で。武は躊躇した。撃てるわけが無い。
「いいんです。多分、どちらかが消えるともう片方も消えてしまいます。私たちはひとつですから。だから!」
「無理だっ!!撃つなんて・・・」
「違います。あなたたちは楔です。あなたたちが負けてしまえばこの世界が定着する。でも、この世界を留めている楔を断ち切ればもとの
 世界に戻れるんです。そうすれば皆いつも通りです!だから・・・早くっ」
白空が言うように、そうだと思う。武は右手のハンドガンを強く握り、振り上げて、
「もう、持ちません!―――――撃って、私が始めて恋をした人っ!!」
「ごめん、空!俺は、俺達は必ず取り戻す!だから待ってろ、本来の世界でっ!!」

「ありがとう、ございます・・・」
白空、いつもの空が武の頬を触る。倒れこんだ空に屈むようにして武はいる。
黒いもう一人の空は、武が撃った後白い空に吸い込まれるように消えた。
「そんな・・・空ぁ」
「泣かないで下さい。涙は似合いませんよ?」
「う、うるさ・・い・・よ」
空はもう下半身が無かった。体がだんだんと光の破片に変わっていく。
もう武の顔はぐしゃぐしゃだった。空が濡れる頬から手を離し、武の手を取る。
自分の胸に手のひらを押さえ、目を閉じる。
「必ず、必ず取り戻してください・・・武・・・さん」
胸の手すらも破片に変わりだす。そして強く光を放ちそして、
「約束だ、空っ」
武は小さくなる、微笑む空を抱きしめ、
「では、また・・・・・・」
消えていった―――――――



「―――――誰も死なないわ」
「そうなの、かな」
優春はつぐみを鎖から解き放つ。
「・・・私は自分のしたことに決着をつける。つぐみ、あなたたちに着いて行くわ。武を待ちましょう」
「優・・・・いいの?」
白衣をはためかせ、優春はつぐみの手を握る。そして笑みを浮かべる。
「元々間違っていたんだから、いいのよ」
「そう・・・武は・・・」
ガタン、と扉が開く。そこには、武が立っていた。彼はぼろぼろで、でもしかし強い決意に満ち溢れていた。
「つぐみ・・・優は」
「大丈夫。彼女は桑古木によって・・・あ」
そう言った時、明らかに優春は押し黙った。武はヤレヤレと首を振る。
「大丈夫だ。俺達が死ななかったら、勝つことが出来たら全て元通りだ。桑古木は、立派だったよ・・・」
「そう、ね」
すると、ガタンと音がした。扉が開いたのである。そこには桑古木がいた。
「・・・・俺は死なない」
「か、桑古木・・・・・」
優春はふらふらと桑古木へと足を運ぶ。しかし優春は、彼の傷の多さに一瞬足を止めた。
「私の、所為で・・・」
「いや、目が覚めたのなら・・それでいい」
その場に座り込む桑古木。視線を武に向ける。
「空は・・・・・」
「・・・・笑ってた。それに、約束したから」
つぐみが武の肩に手を置く。それを心配するなと言うかのように自分の手を重ねた。
「そうか・・・。奴等はこの上だ。先に優と一緒に行っててくれないか?俺は傷を治してから行く」
「桑古木・・・大丈夫?どうして無事だったの?」
「何か、目が覚めたらビルの近くに倒れてた。スペルかもな」
「良かった」
そう言ったのはつぐみだった。それにふっと笑って答える。
「俺は武を見習ったんだ。大丈夫だよ。・・・・・早く行けって」
そしてつぐみと武は歩み始める。優春も彼に笑いかけて去っていく。
「早く、来てね」



「良かったの?」
つぐみは先に歩く武に言う。武はつぐみの耳元で静かに言う。優春に聞こえないように。
「アイツは、もうすぐ死ぬ」
「っ!」
叫び声が上げられなかったのは武に口を押さえられたからである。優春は少し後ろで歩いているので聞こえていないはずだ。
「自分の所為でって嘆かれたら、桑古木も悲しいだろ?大丈夫だ、必ず・・・」
トン、と武の胸につぐみの頭が置かれる。階段で、一段高いので丁度その位置になった。
「分かった・・・」

グタリと壁にもたれかかった桑古木は一人呟いた。
「ったく。疲れるぜ」
彼の傷は治っていない。損傷が激しいために再生しきれないのだ。体も触ったら氷のように冷たいだろう。
「・・‘どうして・・・俺を助けたんだ?・・華音とやらは’」
切れ切れに言葉が続く。肺ももう限界らしい。
「まあ、いいか。後は武達が・・・・ああ、限界か」
ふと右手を見ると光の破片へと変わりつつあった。
「全く、武にはなりきれないか。アイツは死ななかったのになぁ・・・」
そして空のように強く光を最後に放つ。
「ズルイよ・・・たけ―――――」

悲しみは何処から来るのだろう。それは脳の生み出す幻覚なのか、それとももっと別からか。
これも疑問である。世界は疑問の塊ではないか。




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