「よく来ました、とでも言いましょうか?」
彼女、華音は言う。目の前にいる三人は一斉に銃、拳、メスを突き出す。
「そう・・・。分かり合えそうにも無いのね」
「ふざけんな。今まで好き放題しやがって」
武は一歩前に出た。鋭い眼光で睨みつけたまま言葉を続ける。
「楔は俺達ってのは分かった。・・・こちら側の楔は、お前か?」
すると爆笑が起こった。華音は口を少し歪ませただけ。爆笑は上からだった。
「だったらアンタ達死んじゃうって。無理無理!」
三人が一斉に上を見上げると、黒い塊の上に乗ったポニーテールと人形を持った二人の少女がいた。
それはとても遠い距離のはずなのに声はキチンと届いている。
「・・・人形で、十分・・・」
「ネロ、創那、それは違うわ。人は・・・力を持っているでしょう」
明らかに不満そうに創那は顔を顰める。相変わらず無表情なのはネロ。
「でも・・・ううん、はい」
一人納得し、二人は消える。黒い塊が弾け、気を取られた時に。
「で、こちら側の楔の情報を易々と教えるとでも?」
話を戻す華音。呆気に取られていた武達は状況を再度理解する。
「無理、か。だったら―――――」
「―――――力尽くでっ!」
飛び出したのは優春だった。両手のメスを華音目掛けて投げる。
「相手が違うわ。倒したら教えてあげる」
突然、華音の手のひらに丁度良いほどの球体が現れた。それは不気味にうごめき、投げた。
すると空間がねじれ、現れた黒い化け物にメスは遮られる。その瞬間世界は砕け、居心地の悪い場所へと変換された。
「コレは『愛すべからざる光』と言われ、ドイツの伝説に君臨するデーモン―――――」
赤、青、緑、黒などの色が濃く混ざり合った空間。何処が地面かも分からず、方向感覚が無くなる。声のみが不気味に響きあう。
「―――――メフィスト・フェレス」
この時黒い化け物は顕現された。

終焉は、近い。全てが終わる頃には何が始まるのだろうか。
始まり、終わり、始まる。繰り返しは新たな穢れを生み出すだろう。




















Like Ever Life
                              七桃 りお

-artificial 8 -

「っ、気持ち悪い」
つぐみは胸を押さえながら言う。ぐにゃり、ぐにゃりとまるで自分がねじれているかのような感覚が襲う。
「それでもやらなきゃなんねーんだ」
武はつぐみを支える。平然と立っているのは優春である。しかし彼女はギラギラとした眼で前を見ている。
「化け物め・・・・」
その先には黒いモノ。大きな翼をはためかせ、下半身はドロドロの中に埋まっている。鳥の頭があり、そのくちばしの中に人のような顔。
それが、笑った。
「シネ」
バックリと口を開き、そこから閃光が生まれる。それは一気に武達を包む。
「つぐみ、優!」
しかし武は動く。優春が避けるのを確認すると、つぐみを抱えて飛び退く。しかし閃光の余波をまともと受けた。
「ぐあっ」
「武、大丈夫!?」
度重なる戦闘での疲労、傷などが足を重くする。つぐみは武を寝かせると、不安そうな顔で言った。
「あんまり心地よさそうじゃないけど、武は休んでて」
メフィストに向かって走る。隣に優春が現れ、同じペースで走る。
「ありがとう、優」
「お礼は、後ねっ」
優春が巨大なメフィストにメスを放つ。しかし予想以上に硬い皮膚に弾かれた。
これでは爪も効かないとつぐみは判断し、弱いところを探す。
「やっぱり、顔」
くちばしの中にある顔が一番無防備そうだ。体内のような肉も見えていて、そこから破壊した方が良い。
つぐみは優春に注意が向いている間に死角である背に飛び移る。こういう巨大なものは鈍感そうだ、と思ったからである。
一気に駆け上がり、頭に到達する。意識を集中させ、スペルを起動。

開放。爪は刃となり障害を切り裂く。それが何であろうとも―――――

言葉が追加され、より強力になった爪で顔に一閃。仮面のような顔に不快感を得るが、それを粉々に切り裂く。
「イタイ」
メフィストが言い、首を振る。その反動でつぐみは吹き飛ぶも、優春がキャッチ。メフィストの頭はぐちゃぐちゃだった。
肉を飛ばし、流血する。そこに優春がメスを叩き込む。スペルが発動した。

開放。全て、生きている。襲うのは力の具現。皆は母の御心に―――――

メスが爆砕し、頭部も吹き飛ぶ。形を失うメフィスト。つぐみは武に眼を向けた。
「何とか、倒したわよ」
痛そうに武は起き上がる。出血がやっと止まる。あとは疲労のみが残っている。
「ああ、ここから早く出ないとな」
武を立たそうと、手を伸ばしたその時、
「マダ」

ずぷ。

腕が、消えた。
「え?」
つぐみは肘から無くなった腕を見た。そして全身が切り刻まれた。一気に血が、
「つぐみ―――――!!」
「う、ああ、ああああああああっ」
優春が見ると、メフィストは笑っていた。それは先ほどと同じカタチで。修復されていた。

―――――ひと足遅かったですか

紅の声が響き渡った。武はつぐみの腕に自分の衣類を巻きつけながら言う。
「助けてくれ!!つぐみが、つぐみがっ」

―――――私たちは言うことしか出来ません。・・・つぐみさんは力を持っているはずです

「ち・・・から?」

―――――そうです。忌み嫌ってきた、力。それを、スペルに

そこで声は途切れた。
「ッ畜生!」
武はハンドガンを顕現、メフィストに乱射。銃弾で破壊されていくが、恐ろしいほどの速度で再生。
「止めて・・」
つぐみが武の腕に片方と手を置く。傷だらけで立ち上がり、笑う。
「大丈夫だから・・・。チカラは・・・・これ・・・」

開放。全てを捨て、手に入れた力は絶大。それは受け入れなければならない遊戯。その名は『キュレイ』―――――

「くぅぁぁぁぁああああああ!!!!」
つぐみが叫ぶ。それと同時に腕の出血が止まり、飛ばされた腕が帰ってくる。むき出しになった骨と筋肉が結合を始めた。
骨は再構築され、触手のように絡み合い筋肉は繋がった。皮膚もつながり全身が真新しいものと化した。
それを間近で見ていた優春は吐き気がこみ上げた。確かに手術などで中身などは慣れているが、今のは明らかにおかしい。
『生命の弄び』――――これが、キュレイウイルスだった事を思い知った優春と武と・・・・つぐみであった。
「これが・・・・力」
確かに発動し、傷を癒したのはスペル。しかしpキュレイの力を促進させただけの話。スピードは違っても、これはキュレイの力。
優春はペタンと尻餅をついた。
「はあ、はあ、はあ・・・・・」
つぐみは真新しくなった自分を見る。全ての傷は癒えている。
「つぐみ・・・」
やっと優春は立ち上がる。しかしつぐみは言う。
「いいの。今は、アレを倒す」
「・・・分かった」
武は気を取り直し、ハンドガンを構える。

―――――大丈夫みたいですね

「紅。アイツは・・・」

―――――アレは普通には倒せません。・・・『核』があるはずです

「核?それって変な色をした球体?」
つぐみが言うのはメフィストが現れる前に華音が手にしていたもの。

―――――はい、カタチは不特定ですが必ずあります。それを、破壊してください

「分かった。ありがとう」

―――――いえ、では御健闘を・・・・・

「武、徹底的に外装を破壊するわ。そしたら」
「核を、破壊だな?」
ふっと笑う武。優春も頷く。
「行くぜっ!」
一気に駆け上がる。メフィストは閃光を撒き散らした。それを紙一重で避け、優春がメスを発射。
幾度かの再生を繰り返したため、防御力の落ちた皮膚では防ぎきれなかった。
翼を砕き、つぐみが腕を切り落とす。バランスが崩れた所を武がハンドガンで頭部を吹き飛ばした。
「ギャ」
断末魔なのか分からない悲鳴を上げ、メフィストはどろりと崩れた。
丁度中心部のところに蠢く球体があった。三人はそれに近づく。
「これが・・・核」
「早くしないと再生してるわよ」
吹き飛ばされたメフィスト体も再生しつつある。その前に武はグリップを握り、
「後は楔を断つだけだっ」
トリガーを引いた。



気持ち悪かったあの場所も、今はライプリヒビルの最上階。
「ふう。で、楔は何処だ」
「・・・・・え?」
メフィストを葬り、戻ってきた武達に華音は驚いた。
「仕方ないのね。楔はコレ」
それは先ほどの『核』だった。しかしそれは半分が砕けている。
「これが楔だったの。でもあなた達がアレを倒しちゃったから・・・」
「じゃあ、元の世界に返れるのか!?」
華音は首を横に振る。そして笑った。
「まだ砕けてない。・・・だから新しい『楔の入れ物』を探すわ。そうだ、決めた」
砕けた楔を華音は投げた。すると閃光を放ち、空間が砕けた。
「うわっ!」
壁が破壊され、風が吹く。今はもう深夜で、夜風が寒い。ビルの欠片が空へ消え、幻想的な雰囲気を演出する。
「楔は、あ・な・た」
空に浮いていた楔は素早く下降、というより落ちてきた。その先には、
「優っ!!」
優春がいた。そして引かれるように優春へと、落ちていく。楔は優春と接触すると、水の中に落ちるように吸い込まれていった。
「ふ、ふふふふ」
華音が笑う。武・つぐみは呆然とする優春に駆け寄りながら、キッと睨む。
しかしその華音自体も黒い欠片へと崩れていった。武は呆気にとられる。
「・・・アンタ、どうして」
「私はこの世界の者だから。この世界が消える時、‘私たち’は消えるわ」
「だったらどうして俺達を殺さなかった。アンタだったら出来るんだろ?」
「それじゃ、面白く、無い、から―――――」
消えた。華音は無邪気な笑いとともに消え去った。

武は拳を握る。しかし我に返ると、優春に駆け寄る。
「優。・・・・どうすれば」
「いいの。元の世界に戻ったら、大丈夫なんだから」
呟く武に優春は言う。立ち上がり、手を伸ばす。夜空を掴もうと、手を。
「でも、そのためには優が・・・・」
「いいんだってば」
クルリと振り向き、笑みを零す。少しずつ、優春は後ろに下がる。
「あのね、私や桑古木や空は、あなた達を愛しているの。でもそれがちょっと行き過ぎちゃって・・・・・。
 桑古木も消えちゃって、私一人になって気づいたの。だからいいんだよ」
「・・・気づいていたのか、桑古木の事」
「うん、薄々分かってた」
優春はまだ後退を続ける。武は気づく。優春が、
「や、止めろ・・。飛び降りるなんて!」
この最上階から落ちようとしているのを。つぐみは駆け寄るが、メスが飛ぶ。
「来ないで。折角決心したんだから。・・・・じゃないと、すぐに元に戻るとしても、別れは辛いんだから」
しかし武はメスを飛び越え、落ちる優春の腕を掴む。涙が邪魔をする。
「俺は、俺は―――――む―――――」
武は引き上げようとするが、頭を掴まれた。優春に引き寄せられ、カチンと口の中で歯と歯のぶつかる音が聞こえた。

「大好きよ―――――倉成―――――」

優春は口付けとともに広い、夜空に浮かぶ朝日へと落ちていった。



朝日は闇を照らし、武とつぐみも照らす。地平線の向こうは砕け散って、光の粒子へと変わっている。
呆然とする武の前にもう一つの欠片が現れる。それは遙か下の地表から現れている。
「優・・・」
つぐみはその欠片を手に取り、抱きしめた。
「つぐみ・・・・。コレでよかったのか?」
二人は消え去る景色を見ながら座り込む。涙はもう無い。
「大丈夫。元通りになったら、何か楽しい場所へ皆で行こっか」
「・・・ああ」
つぐみはさり気なく武に体を傾ける。すると武はそっとつぐみの肩に手を置いてくれた。
「つぐみ」
「何?」
「おはようっていい言葉だよな。しっかり起きてがんばらなきゃな、って気持ちになれるんだ」
「ふふ、それ前にも言わなかった?」
「そうか?」
「そうよ。・・・あ、優だけじゃ悔しいから・・・ん・・・」
世界が崩れる中で、二人は誓い合う。そして武はこの世界で最後の瞬間に、こう呟いた。

「おはよう―――――」

しかし穢れが幾ら生まれようとも、終焉を迎えたことには変わりない。
幸せなら、それでいいのではないか。それを望む者は幾らでもいるのだから。
それが、幸せなのだから。




TOP / BBS /  








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送