myself 〜自分が自分であるように・・・〜
                              櫻条 紫希


あの事件・・・・・、
武とココを救う為に起こしたあの事件から、2ヶ月が経ったんだな・・・。
皆は・・・どうしてるだろうか・・・。
武やつぐみはホクトと沙羅と一緒に暮らしてるみたいだけど、
まぁきっと幸せにやってるだろうな・・・。
優と秋香菜は上手くやってけてるようだし・・・。
空はこの二人と一緒に暮らしてるから、心配はいらないな。
・・・そういやココはどうしたんだろうか。
フッ・・・17年前は無邪気に遊んでたからなんとも思わなかったが、
今考えてみるとココは謎が多いな、ハハ。
思わず苦笑していた。
・・・しかしその苦笑も止まり・・・、
「俺は・・・どうなんだろうな・・・」
相手などいない。ただひとり言をポツリと呟く。
日差しが暑い。快晴と呼べるほどの天気だ。
あれから何もする事のなくなった俺は、空の勤めている製薬会社に就職した。
と言っても入ってまだ2週間程度の新入社員だ。
ここを選んだ理由?フッ・・・なんでだろうな・・・ただ俺は・・・
「あ、桑古木ー。お久でござる〜元気してた?」
不意に横から呼びかけられた。
「あぁ、沙羅か」
青い空を見上げていた視線を横に流し沙羅の方を見た。
「あぁ・・・じゃないでしょ。こんな公園のベンチに座ってさぁ、
 物思いにふけてるんだもん、どうかしたの?」
「いや、別に・・・ってなんで日曜なのに制服着てんだ、お前」
「なんでって部活あるから、んで今は機器の買いだし」
言ってる通り手には何やら買った物が入っている袋をさげていた。
「普通そういうのって学校側が対処するもんじゃねぇのか?」
顧問やら教頭やらがやるのが普通なはずだ。
だが沙羅は平然と、
「あぁ、今どうしても必要だったから先生に頼んで、
 領収書貰ってくれば良いって」
「そういうもんなのか」
別に凄く興味を持つものでもないからサラッと聞いておく。
「・・・あぁーちょっと疲れたから隣座っていい?」
「・・・別にかまわないが・・・」
唐突に振られたが、別になんの不都合もない。
荷物をドサッとベンチの横に置き沙羅が隣に座る。

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
話題が欲しい・・・。
別に何か話したいことがあるわけじゃないが、この空気は微妙だ・・・。
近くの木で小鳥がさえずり、時々公園の脇道を自転車が通過していく・・・。
そして俺たちは無言で座ってるだけ・・・。
のどかって言えばのどかだが、なんか微妙だ・・・。
「・・・あのさ」
っと、俺がどうでも良いような事で頭を悩ませている時、沙羅の口が開いた。
「桑古木ってやっぱりパパに似てるよね・・・」
「・・・まぁ、武やココを助けるにはそれも重要事項の一つだったからな・・・。
 それに俺は・・・なんていうか・・・憧れてたんだよ、武に」
俺はゆっくりと空を見上げた。
あの17年間の事が思い出される・・・。
「・・・パパに?」
俺は何も言わず沈黙でそれを肯定する。
「・・・でもさ・・・桑古木ってどんな人?」
またもや唐突に切り出される台詞。
しかもなんだか俺が第三者におかれているような内容だ。
「・・・何言ってんだよ・・・俺は・・・ここにいる俺だろ・・・」
沙羅の不思議な質問にはこう答えるしかなかった。
空を見上げていた視線もその不思議な質問にそそられ沙羅に向けられていた。
「・・・ううん違くて・・・本来の桑古木・・・」
「・・・本来の・・・俺?」

どんどん謎めいてくる。
二人の間に沈黙が流れている。
・・・とりあえず俺は沙羅の言葉の意味を探ってみることにした。
まず俺はどんな人か。
そんなの今ここに居るわけだからあるがままの俺のはずだ。
だが続きには、本来の俺とある・・・。
本来とは、もともととかはじめからとかの意味と、
あたりまえとかの意味の二つがある。
これをもともとって事でとらえると・・・俺には・・・記憶がない。
記憶がない時の・・・俺?
・・・もしあたりまえって事で考えると今の俺になるのか・・・?
・・・少年の時の俺と・・・。
・・・今の俺・・・。
沙羅は今の俺のことを指して言ってるわけではないとしたら・・・。

「・・・17年前の・・・俺か?」
半信半疑で聞いてみる。
「うん。・・・だってさ、私パパになってる桑古木しか知らないから・・・」
何だか今の沙羅にはさっきまでの元気がないような気がするが・・・、
単なる気のせいだろうか・・・。
「あの時の俺はおくびょうというか・・・なんか意志の弱い、
 本当の未熟者って感じだったんだよ」
自分でも苦笑してしまうくらいのものだ。
「だからパパに憧れてたの?」
「ま、そういうことになるんかね」
俺は再び視線を空に移す。
「・・・でも、憧れだけじゃあ、こうはならない・・・よね」
「はいっ!?」
そしてまた視線が沙羅の方へ・・・。
沙羅が不思議な事を言う度に首を動かしている。
・・・忙しい首だ・・・。
それに対して沙羅はずっと地面を見ている。
「だぁ〜・・・もうさっきから何が言いたいんだよ!」
思わず声が強張る。
しかし沙羅はいたって平然と話を続ける。
「桑古木は・・・パパになりたいの?」
「いや・・・なるっていうか、そんな風になりたいなって感じだろ」
俺も落ちつきを取り戻し、応える。
「・・・でも現にあの事件の為にパパに・・・倉成武という人間になった・・・」
「なった、というより、演じてただけだろ・・・」
落ちついてはいないかもしれない。
俺は必至とも言えるような感じで沙羅の言葉に応える。
「桑古木は・・・これでいいの・・・?」
もう頭がおかしくなりそうだ・・・、
今の沙羅はココとは別の違った電波を発してるんじゃないのか・・・。
「・・・だからそれはあの事件を起こす為には・・・」
台詞を途中で止める。これじゃあ話が進まない・・・。
そのまま二人は黙り込んだ・・・。
沙羅の考えていることがわからない・・・。
それと同時に、俺自身の考えもわからない・・・。

・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・。
『ガタッ・・・』
沙羅はベンチから立ち上がり、
「それじゃそろそろ戻るね」
買いもの袋を持って去ろうとする。
どういうわけか、今の沙羅は今日はじめに会った時と同じ沙羅だ。
さっきまでのは夢か?
座ってるうちに寝てしまってたのか・・・変な夢だったな・・・。
そして沙羅は一歩歩いたところで振り返り、
「桑古木は桑古木なんだから、そこのトコよーく考えるでござるよ、ニンニン」
そして去っていった・・・。
「・・・さっきまでのは・・・夢じゃないのか・・・」
沙羅の考えていた事が最後の最後まできっかりさっぱり解らなかった。
しばらくの間、最初のように思いにふけるように考えていたが、
答えが見つからないから家に帰ることにした。


―――――。
昼の出来事を暗くなった天井を見上げながら考えていた。
時刻は明けて26時28分・・・。
平日なら仕事の残りとか処理してるうちにこんな時間になってる時もあるが、
休日は特に何もなければさっさと寝るようにしている。
・・・しかし今日は沙羅の言葉が気になって眠ることができない。
「・・・俺は、俺なんだから・・・そこのとこよく考える・・・か」
沙羅の言っていた事を全て思い返してみる。
どれも違う意味で心に深く残っていたから、
思い出すのは容易なものだった・・・。

まずは、本来の俺・・・。
これはもう答えはだいだい導き出した。
沙羅の考えていた俺はどうやら17年前、少年の時の俺らしい。
その続きに俺は武になった、とそう言った・・・。
武になった?それはないだろ。
武は武であって、俺は武になれない。
2034年のLeMU内の武は、武になっていた俺だ。
・・・なっていた?違う、俺は俺だろ。
でも今の俺は武になっていた俺のままの俺だ。
俺は俺だと否定した、その『俺』はどこのどいつだ?
「くっ・・・」
頭が混乱してくる・・・。
だがこの答えは導き出す必要がある、そんな気がした。
「・・・まだだ・・・集中しろ・・・」
自分に言い聞かせもう一度答えを探し始める。
俺は2034年の事件を起こす為武になった。
2017年からの17年間、優の・・・計画の発案者である
田中優美清春香菜の指導の下、俺は武になった。
武にはなっていない・・・偽りの武になったにすぎない・・・。
その瞬間から2017年の俺は・・・消えた。
記憶喪失だったあの少年は何処にも居なくなった・・・。

俺は武になりたかったのか?・・・いや違う。
武のような・・・何が何でも仲間を皆助けようとしたところ。
そして自分の命を捨ててでも愛する人を助けようとしたところ・・・。
そのような武みたいな『人』に俺もなりたかっただけで、
『武』自身になろうなんて思ってない・・・。
・・・俺は・・・『俺』になれるのか・・・?


―――――。
知らない間に寝ていた。
デジタル時計の表示を見てみるとAM10:18。
幸いこの日は祝日で会社は休みだ。
頭が疲れきっている。
・・・だが、なんとなくだが答えを見つけたような気がする。
『タタタタ〜ター、タタタタ〜ター・・・』
と、その時突然ケータイが鳴った。
俺はいちいち電話線を引っ張ってきてないから、
全てこのケータイで電話を済ましている。
PDA?いや、俺にはこのケータイで十分だ。
『ピッ』
「・・・はい、桑古木ですけど・・・」
まだ寝起きな為、だるそうな声で喋る。
「あ、私。今から昨日の公園来れる?」
電話の相手は沙羅だった。
なんで呼び出されるのかは、いまいち心当たりがないが、
昨日の事を確かめるには調度いい機会だ。
「あぁ、すぐ行く」
俺はその一言だけ言い電話を切った。
特に持ち物もないから鍵をかけて家を出た。
そして静かな街並を抜け公園に着いた。
砂場には仲の良さそうな子供達が遊んでいる。
そして、あのベンチには沙羅の姿があった。
俺は何も言わずその場に歩み寄る。
と、先に沙羅の口が開いた。
「突然ごめんね。それと昨日は妙な事言ってごめん。
 あんまり深く考えなくても良いよ」
そして開いた口から出てきた言葉は謝罪の言葉。
「いや、別に謝る事ないって」
俺のこの言葉に沙羅はきょとんとした顔になった。
「ん?どうしたの?沙羅」
「かぶ・・・らき?」
ハテナを浮かべている。
・・・そう、今の俺は・・・、
「昨日沙羅が言っていたこと、なんとなくわかったから」
沈黙。
たぶん沙羅は前の俺に慣れていたから、呆気をとられているんだ、きっと。
「一つ聞いていい?なんで昨日あんな事言ったのか」
「それは私が始めに言い出した事、なんだけどね・・・」
背後から声がした。
17年間を共に歩んだ・・・優美清春香菜。
「優が?」
「ええ、もともとあの計画の為に桑古木を変えてしまったのは私だし・・・。
 このままでいいのかなって思って・・・」
「大丈夫。俺が武になる事はちゃんと良く考えて決めた事だったから、
 優が責任感じることないって。それに一度演じてみたことで、
 武がどうして立派に見えたのかわかった気がしたし」
今の俺の口調はなんだかぎこちない。自分でもわかる。
武になってる時のが板についてしまっていたから、
かえって今が演じてる気分だ。
「・・・うん・・・ありがとう・・・」
優が小さな声で言った。
そして後ろから・・・、
「・・・それが・・・本来の桑古木?」
沙羅も遠慮しているように小さな声で言った。
俺はゆっくりと振り返り・・・、
「・・・いや、違うね、きっと」
「え?じゃあ・・・」
じゃあ誰なの?とでも聞こうとしたのか、
でも俺は沙羅の台詞に割り込むように、
「俺は今の・・・本当の俺自身として生きるんだ」

――――――vvvv――――――*

今の桑古木の様子だと、多分見つけている。
もっとも、倉成になる時に近いくらいの苦労があるかもしれないのは事実・・・。
「ねぇ優、このことなんで沙羅に言わせたん?」
私に話しかけてきたその口調は・・・落ちついていて、やさしい。
「はじめは沙羅が昔の桑古木の事聞いてきたところから始まって、
 それがきっかけで私は、少し考えた事があった。
 そして沙羅と相談しているうちに、こんな成り行きになってたわ」
「う〜ん、いまいちわからない回答だね・・・」
でもこの雰囲気は17年前の少年のものでもなく・・・
「ねぇ、桑古木はこれからずっとそれでいくの?」
「あぁ、やれる限りはこれで頑張ってみるつもり」
かといって倉成とも違う・・・。
「う〜ん・・・今度はパパって言うよりお兄ちゃんみたいな雰囲気が
 かもしだされてる気がするでござる・・・」
「そうか?俺の演技の幅はそこまで大きくなってたか」
本来でなく・・・本当の桑古木涼権という人・・・。
「でも一人称は、俺、のまんまなんだね」
「あぁそういえば。・・・でも今更僕も微妙だしね・・・」
・・・ふふっ・・・前言撤回・・・、
「なんだかだんだん違和感感じなくなってきたでござるな」
「ほー、武がお笑いの道なら俺は演技の道でいけるかも」
今の桑古木を見てると、苦労もなく自然にやっていけそうね・・・。
「ところで、これから昼飯でもどう?」
「私を誘おうなんて百年早いでござるよ、ニンニン」
桑古木・・・どんな人になるのかしら・・・。
「今なら、ちくわ3本おごってあげますが?」
「う〜む、5本ならのってもいいでござる・・・」
「ワガママだねぇまったく、いいよ5本で。・・・っと、優もいくっしょ?」
最後のはココの口調がうつったのかしら?
今の桑古木は新鮮でおもしろいわ。
「・・・良いのだったら御一緒させてもらおうかな」
桑古木涼権。17年間を共に歩んだ存在・・・。
「ねぇ、桑古木と沙羅は好きな人とかいないの?」
ドッ。
私の一言に2人同時にコケるなんて。
「ちょっ、田中先生いきなり何を・・・」
「そうだ、思わずコケてしまったじゃないか」
「意外に2人、似合ってるんじゃない?」
「ちょっと待った!外見はともかく実年齢で考えたとしたら、
 ココまではいかなくてもアレな領域じゃないの!?」
「あら、お互いが好きなら年齢なんて関係ないでしょ?」
「大有りですよ!その点だったら田中先生の方がピッタリじゃないですか?」
「えっ・・・私は・・・」
「そうだよ、こっちにも選ぶ権利が、ってぐあっ・・・」
「どういう意味かな?桑古木君」
「・・・おぉ・・・見事な手刀でござる・・・」


―――――。
私達はこんな感じで違和感のない普通な昼食をとった。
皆でちくわも食べたわね・・・。
沙羅は何であんなにちくわにこだわるのか・・・。
まぁ今はそんなこといいとして、
倉成やココ達が今の桑古木を見たらどうなるかしらね。
それと、この後桑古木が誰と結ばれたのか、
それは未来の事で誰も知らない・・・。
第三視点、ブリックヴィンケルでも知らない・・・未来のお話・・・。




一言(この長さはもはや一言じゃない(^^;):
いやはや、桑古木をものすごくキャラ変えてしまって申し訳ないです。
別に今の桑古木が嫌なワケじゃなくて(むしろイイw)
ただ、あの少年から成長したらどうなるのかな、と。
でも先生が「本当の桑古木涼権という人」と言ってますが、
全然それらしくなってないでしょうね(^^;
櫻条的には、武とホクトと桑古木少年と武Var.桑古木の4人を足して、
4で割った感じになってしまったな、と・・・(解りづらいw
ようは中途半端、になってしまって・・・まだまだですね・・・。

話的にはグランドフィナーレとドラマCD「2035」の間ですね。
かといってこれから先、このSSでは空ルートじゃないですよw
とりあえず、あそこで沙羅のイベントがなかったら、
「2035」に繋がるものだと勝手に考えています。
なので、このSSでは別ルートに分岐ですw
でも誰と結ばれるかは先生が言ったように誰にも解りませんw

視点が先生に移ってから台詞ばっかなのは、
そのシーンを想像して読んでみるのも良いかな、と。
10人読めば10通りのシーンが出来あがるわけです。
特に先生がどんな感じに手刀を決めたのか、
ここは想像してみてもらいたいですねw(ぇ?w

おかしな桑古木はきっと今回きりですw
皆さんもいつもの桑古木の方が良いでしょうし、
櫻条自身いつもの方が好きなんでw
では何故こんなSSを書いたのか・・・それがこのSSの最大の謎です(何w
それでは長々と失礼しました(_ _)


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