リレーSS
                              蒼兎タカシ

2

亡霊という名の悪夢 



目の前には青い海、後背には緑豊かな山がある。
現在俺達は沙羅がものすごい強運っぷりで当てたリゾート島にて海を満喫しているのだ。
浜辺にシートを引き水着着用で寝そべる俺、あ〜気持ちいい・・・・
「のどかだなぁ・・・・・・」
なんか以前もこんなシチュエーションで言ったような気がしたでもないが、のどかとは言いがたいし平和とも言いがたい。
うん、まぁ一応確かに俺達で海を満喫しているのだが。
「きゃー!そっちいったわよ!」
「それっ!」
「うわっ!?」
「おおっ!なっきゅのスパイクが華麗に少ちゃんの足元を射抜いた〜〜!!!」
ちなみに言うとリゾート島の貸切は俺とつぐみとホクト、そして今回の神とも言える存在の沙羅、以上の倉成家4人(+一匹)しか招待されていない。
・・・・・・・・・・・・・ハァ
自然に溜息が出た。
なんで優達がいるか・・・・それを思い出すことにしよう。




6月29日午前10時リゾート地にて
「う〜ん・・・・・ここがそのリゾート地かぁ」
屈伸一つ。しばらく動かしていない体をほぐす。
飛行機に乗って十時間ちょい、バスに乗り継いで数十分やっと目的地のリゾートホテルに着いたのだ。
ちなみに仕事先からは優の方からの抑制が効いたみたいで快く・・・・いや、脅されてオッケーしてくれた。
帰ったら俺一体何されるんだろうとびくびくしているよ、ホント。
「ふ〜ん・・・・なかなかいいところね」
ホテルのキーを渡された部屋の中に入ると肩に乗ったチャミをあやしながらバッグを下ろした。
さっそく下見をしているみたいだ。
「俺とホクトはこっちの部屋か・・・・」
俺はどうやって危険回避するかを部屋でまったり考えるとしよう。
「お父さ〜ん、見てみて!ほら海が見えるよ!」
「パパ、ほらあれあれ〜!」
ホクトと沙羅は既にドアを開けたところではしゃいでいる。
そりゃあもう尻尾をつけると千切れんばかりに。
それらを見てふぅと息をついた。
そうだな、んなこたぁ後回し!今を楽しもうじゃないか。帰ったら考えりゃあいい話だし。
「おう、わかったわかった、そう急かすなって!」
そう思い立つと自分もの中へと足を踏み入れた。


「何だお前」
「お邪魔してます」
・・・・・・・・・。
入った途端ものすごく目眩に襲われた。
もしやとは思ったがこれほど早く来ているとはな。
居間には優親子、空、桑古木、ココ、そしてピピが居座っていた。
沙羅とホクトはさっそく優(子)とわきあいあいと話している。
「・・・・あなた達どうやって入ってきた、もといなぜここにいるわけ?」
つぐみも怒っているな、なんか後背から虎が見えたのは気のせいか?
なんとなくドドドドドドドドドドという音まで聞こえてきそうだ。
「えっと、それは田中先生の知り合いに頼んでクルーザーに乗ってきて・・・・」
「後はこれでピピッとね」
優の手にはマスターキー。・・・・なんで優が持ってんの?
ここも優の手に落ちているのかい?
「あ、頭痛くなってきた・・・・」
流石のつぐみにもこれは堪えたらしく、自室へと引っ込んでいった。
俺もこの場でぶっ倒れていいか?
「武、すまない。一応、俺は止めたんだけど優親子に空が加わって、さ」
んで、脅されたわけだ。
けどな・・・・・一つだけはっきりしていることがある。
「ココはお前が連れてきたろ?」
桑古木はうっといった感じで後ずさりした。
・・・・・・・図星だな?
「しょうがないじゃないか!怖かったんだ、三人とも目付きが某野獣K−1選手並みの殺気で殺されそうだったんだよ!・・・それにココだけ置いて行くと可哀そうだろ?」
・・・・やっぱり、そんなこったろうと思ったよ。
「わかったわかった、もういい」
半分逆切れ気味の桑古木をなだめてやる。
別に無理に責める必要はない、言い分も最もだ。
それでも本音は後者の方だろうけど。
・・・・まぁ、今更一人増えようが変わらないしな。
「ぴよぴよぴよ〜ぷっぷくぷぅ〜〜〜〜」
あ〜・・・・、そうかココの場合一人で換算するんじゃなくて数十人として換算するんだ・・・・
侮りがたし、電○少女。
今日この日、私は大敗を喫しました、ハイ。
一人の電波兵器に・・・・・・・・げふっ。
「まあまあ、そう落ち込みなさんな、代わりにいいもの持ってきたんだから」
「いいもの?」
頭を抱えて座り込んでいる俺に一つの注射器をちらつかせる。
「何それ?」
一瞬ヤバイ薬かと思った、こいつならやりかねんかも。
「もしかしてヤバイ薬とか思ったんじゃないでしょうね〜。・・・・まぁいいわところで倉成、折角こんなところ来たんだから今すぐつぐみと泳いでみたいわよね?」
あっさりと見抜かれてた、っとんな事はどうでもいい。
「そりゃあ見たいけどよ、キュレイのつぐみは真昼間には出れないぞ。知ってるだろ?」
よりによって水着って・・・・なぁ?きぐるみで泳がせる気か?
俺の頭の中にはきぐるみで猛烈に泳ぎまくるシーンが思い浮かんだ。
「ふっふっふっ・・・・これを見よ!」
不気味な笑みを浮かべ注射器を掲げる。
つーかさっきも見たっちゅうの。
「これはね、一時的にキュレイの作用を極限まで抑えて再び遺伝データを書き直すという薬なのよっ!」
「・・・・どういうこと?」
俺の一言を聞いてガクッと肩を落とした。
だって唐突すぎてわからねーもん。
「あのね、キュレイの症状と特徴を答えてみなさい」
「ん〜感染者の遺伝情報を書き換えて(以下略)だろ?んでキュレイウィルスはp53を書き換えてしまうから紫外線による皮膚がんを・・・・ってそうか!」
なるほど!と手を叩く。
そういうことか・・・・
「ようやくわかったわね。どうやってそんなことになるかはアンタの頭じゃ解んないだろうから省くけど、要するにこの薬はキュレイの効果をパーにするわけ」
さりげなくひどいこと言われたが・・・・別にいいや。
「んじゃあそれがあればつぐみは外へ出れるんだな?」
「そうだけどいい?悪魔でこれは一時的なものであって効果はリゾートの期間と一緒、一週間。それ以降はキュレイが免疫をもって再び打つことは不可能になるわ」
・・・・う〜ん、やっぱりうまい話はそう転がってないな。
コレがあればつぐみも普通の生活ができると思ったんだけど・・・・な。
「まぁ、そうは言っても十分だ、こんなリゾート地滅多に来れないしつぐみも嬉しがるだろう。ありがとうな優」
「うむ、よろしい」
「確かこれって学会で発表するんだよな?」
そう桑古木が横から口を入れてきた。
「そうなのか?」
そのまま優に聞いてみる。
「とーぜんよ、これほどの物もう作れないわ」
と胸を張るがそこに
「あのぅ・・・・そのことで大変申し訳ないのですが」
空がおずおずと出てきた。
「どうしたの、空?」
「申し上げにくいのですがその薬が入ったアンプルと資料、間違って捨てちゃいました」
「え゛」
優の時が止まる。
「もしかして全部?」
こくこく
「資料も?」
こくこく
「そっ、空〜〜〜〜〜!!!!」
「ああっすみませんすみません!!!」
「俺はこの隙に退散させてもらうか・・・・」
水着を持ってそそくさとビーチへと退散する俺だった・・・・


「まさしく鬱だな」
優達が乱入したことによって計画が総崩れした。
・・・・・実はんなもんたててないけど。
「武」
ちょうどそこに周りの同じ観光客であろうヤロー達のざわめきと共に聞きなれた声が聞こえた。
「つぐみ・・・・か?」
そこにいたのは普段では見られない水着姿のつぐみだった。
(ちなみに真昼間ってのがポイントよ?夜着りゃいいじゃんとかの突っ込みなし)
「・・・・どう?似合っているかしら、・・・・それともどこか変?」
そう言って頬を少しばかり赤くしつつもじもじと聞いてきた。
・・・・可愛いやつめ・・・・・・・
つーかビキニだよ、露出激しい=過激=・・・・
俺流方程式の答えは。
「・・・・武?鼻血出てるわよ?」
ということだ。
これ自然の摂理アルヨ、うん。
「決していやらしい事を考えたわけじゃないぞ!」
とりあえず弁明する。ちと苦しい、と言うより考えて出たんだけどな。
「わかってるわよ、のぼせたんじゃない?」
なんか悪い気がしてならんぞ、おい。
「いや、大丈夫だ。それよりもどうだ?数十年ぶりに生身で昼間歩く気分は」
「ええ、とてもいいわ。それに今は武もいるし・・・・ね」
「つぐみ・・・・」
なにやら平気で恥ずかしい台詞を言わなかったか?
・・・・別にいいか優に感謝しなくちゃあな、つぐみもとても嬉しそうだし。
「どうかしら?調子は?」
そこに優が割り込んできた。
噂をすればなんとやらって奴だ。
ちなみに後ろの方で空が頭抑えて泣きそうな顔しているのが見えたのは内緒の話。
「あ、優。えっと・・・・ありがとう、ね」
「何言ってるの、私とつぐみの仲じゃないの」
うんうんと頷く優。
「優、何も言わずに受け取ってくれ!」
そう言って俺は優の肩を掴み金の入った封筒を差し出した。
「え、い、いらないわよ、っていうかどこから出したのよ!?」
「俺の気持ちだ!素晴らしいものを見せてくれた礼だ!」
涙物だよ・・・・アンタ、ええ人や・・・・
って感動のあまり関西弁になってしまったではないか。
「あ、あのね・・・・」
頑として受け取りを拒否する優に
「私からもお願いするわ、これでもお礼がしたりないくらいよ」
とつぐみからも言われた。
それに対して優は
「あ、ならお金はいいから倉成貸して」
だってさ。あっけらかんと言ってくれたよ、夏場白装束さんは。

メーデーメーデー!、現在浜辺にて宇宙大戦規模の戦争が勃発いたしました!
ちなみに俺は死ぬかもしれません。
倉成武二等兵、・・・・・・戦死。
あ〜っと骨は海に流してくれ。土葬されると墓荒らしされそうだし。・・・・誰とは言わないよ?

なんかもうホント海に流されていきたい。
むしろこの場から消え去りたい。
ピリピリとした空気がビーチに広がる。
「それ、どういう意味かしら?」
「文字どうり倉成貸して欲しいんだけど」
オイオイ・・・・火に油だぞ。
ホント勘弁してください三十年以上も前に報道された白装束ですか、あなた?
そう俺が悲願しているときだった。
「パパ、ママ〜ほら一緒にビーチバレーやろうよ〜」
後ろから沙羅がビーチボールを持って駆け寄ってくる。
ありがたい、まさに助け舟。
「おお!そうだな、そうしようじゃないか、なぁつぐみ?」
・・・・ちょっと大げさすぎたか?
「え?ええ、そ、そうね」
ウシ、話を逸らすことに成功!
「ちっ、逃げたか」
「何か、言ったかしら?」

悪魔再来。
優、お前俺に恨みでもあるのか・・・・・?
「なんでもないわよ、ほら、親子のスキンシップを楽しんできなさいな」
「・・・・・・・」
何も言わずにフイと踵を返し、沙羅たちの元へと向かった。
「そ、それじゃあな」
俺も脱兎の如く逃げ去った。
旅行に来た意味あったのかな・・・・・とか思いつつ。

「田中先生、よろしいのですか?あのことを言わなくて・・・・」
空が心配そうに優に聞いた。
「極力あれ言うのは避けたいのよ。この事だって確証を得たわけじゃないし。」
「でもっ・・・・!」
「それに折角の初めての家族旅行なんだから変なこと言って気まずくさせるよりはいいでしょ?何事もなければそれでいいんだし」
ふと優しい目で倉成達を見て答える。
「それはそうですが・・・・なにかあってからでは遅いのですよ!」
そういつもよりも強い声で言い放つと、ホテルへと走り去っていった。
「あっ、ちょっと空!・・・・まったく言いたいこと言って・・・・ま、確かにそれが問題なのよねぇ」
優はもう一度楽しそうに家族同士で遊んでいる姿を確認するように見ると自分もホテルへと引き返すことにした。


そのころ遠くの建物の屋上で倉成一家を監視している黒装束の男と女の二人組みがいる事は誰も知る由もない。
見た目は両方17、8歳といったところか。
「こちらA班目標を確認、C班、そちらはどうだ?」
通信機で仲間であろう者に連絡を取る。
『こちらも目標を肉眼で確認、今すぐにでも襲うことができますが?』
「待て、なるべく騒ぎを立てず、なおかつ知られずにやりたい」
『了解しました、ならホテルに戻ったところに仕掛けます』
「そうしてくれ、奴らが部屋に移動して一時間後にブレーカーを落とす、その騒ぎの間に事を済ませろ」
『了解』
やれやれといった様に肩を上げ通信機の電源を切った。
「ったく、最近のアホ共は自分で状況判断もできないのか」
「しょうがないじゃない、あの部隊の隊員はキュレイ捕獲用に肉体改造と思考力抑制した玩具なんだから」
「そうだが今回は失敗するわけにはいかない、ましてや相手はキュレイの集団だ。尚更油断はできない」
「けどアドニスも行くんでしょ?」
「当然だろ、道具に任せておけないからな」
「ならあたしはあの女の子さらってくるの担当しようかな〜」
「それもいいんじゃないか?、ああ見えて天才ハッカーだ。役に立つだろう」
「へぇ〜あんな顔してねぇ・・・・けどあたしはキンパの男の子が好みかな♪」
にやけながらペラペラと渡された資料をめくった。
「・・・・・・ねぇこれなんていうの?あたし日本語ちょっとしか読めないんだけど」
そう言うと一枚の資料を手渡す。
「俺も少ししかわからんが・・・・クワコギリョウケンか?」
「さっすがアドニス!それにしてもあまりない名前ね〜リョウケンって坊さんかしら?せめて写真くらいは付けて欲しいわ」
頭の中で雲水の頭を思い浮かべ噴出しそうになる。
「どっちでもいいさ。・・・・オイ、目標が移動した、そろそろ行くとしようか」
「じゃ頑張ってねアドニス」
「そっちこそしくんじゃねぇぞ、ルナ」
お互いにそう言葉を交わすと散り散りに飛び去った。


「ふ〜ん・・・・なかなか綺麗だな」
「でしょ〜ココも驚きだよ」
「ワン!」
現在俺はココとビーチのはずれた所にある入り江にいた。
なんでも聞いたところによると、ここは夕陽が一番映え、夜には星が綺麗に見えるところで有名な隠れデートスポットの一つらしい。
今度つぐみと来ようかな?
「たけぴょんもつぐみんとくるといいよ♪」
「え」
なんか心の中を見透かされた!?
「図星でしょ〜顔に出てるもん」
・・・・そんなに顔に出やすいのかなぁ、俺。
んなこと考えていると。
「つぐみ、愛してるよ。武・・・・わたしこそ」
「ワンワン!」
なんかココが一人(と一匹)で俺とつぐみがここに来たらする事を妄想爆発で演技してた。
「・・・・ココ、それに飽きたら帰ってこいよ」
未だ後ろで演技しているココを置いてホテルに帰ることにした。
もうやめられない止まらない状態だもん。
鐘一つ鳴らせば止めっかなとかおもったり。


そして午後8時、事は起こった。
俺は自室にてまったりと今後の予定を建てていた。
「やっぱりあの入り江は最終日に取っときたいな・・・・それにこれをちゃんと渡したいんだよな」
俺の手には指輪、七月の誕生石として最高のピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビー。
(豆知識・ルビーの象徴は情熱、仁愛、威厳なんだよ、特に威厳ってのがつぐみにぴったりだろ?・・・・自分で言って情けねぇ・・・・)
形はハート型、そしてリングは二匹のイルカがルビーを支えているという一風変わった指輪だ。
俗に言う結婚指輪ってやつ。
あの事件からロクに式も挙げずにここまできちまっんだ。
一週間後のつぐみの誕生日である7月5日あの場所できっちり渡そうと思っている。
そのあとは大人のランデブーとやらを楽しみますかね。
などとムフフな事を考えていたその時だった。
電灯がちらつくとそのまま光を失い辺りは暗闇に包まれたのだ。
別に俺らは赤外線視力があるからどうってことないけど。
「ホクト、大丈夫か〜?」
「あ、お父さん。うん大丈夫」
すぐに発見。どうやら本を読んでいた様子。
「ならちょっとばっかしつぐみの所行って来るわ」
ホクトを確認したのでつぐみ達の様子を見に行く。
「うん、わかったよ、早くいってあげないと沙羅が泣きつくかもよ?」
「うい、わぁーったよ」
そしてドアを開けた時だった。
「うおっ!?」
ナイフが横から飛んできたのだ。
まさに間一髪、さっと体を仰け反らせた。
「なんだ!?」
目の前にはスコープをつけた黒子衣装の男二名。
俺なんかした?
「キ、キュレイ・・・・目標・・・・発見」
「ホ、捕獲・・・・スル」
!?
こいつ等、ライプリヒ関係の奴か!
「お父さん!」
「来るな!部屋にいろ!」
片手でホクトを制するが、考える暇を与えること無くナイフで切りかかってくる黒子達。
突いてきた方の腕を反対側の手で取って相手の懐に入り腕を脇で抑え、そのままもう片手でナイフを叩き落とす。
そのまま放すことなく外側から足を入れ両足を刈り込み体を浴びせる形で倒れこんだ。
頭から入ったか・・・・絨毯の下はコンクリだ、しばらくは起き上がれねぇだろう。
「次ぃ!」
もう一人の黒子に手招きをして挑発してやる。
ナイフは先ほど投げたために素手、さっきよりは安全だけどちとやりずれぇな・・・・
そもそもナイフなんて道具はトーシロが使うと素手で戦うよりも隙が多く、戦いやすいものだ。
でも・・・・なんでだ?こいつ等何も考えていない印象を受ける・・・・・
「シッ!」
んなこと考えていると一気に間合いを詰められ握り拳で振りかざしてきた!
「つっ・・・・・・・!!」
速い!なんつースピードだ、コイツ!?
慌てて回避するがグーパンにしてはおかしいぞ、なぜ振りかざす?
その時ふと気付いたのだが自分の服が裂けていたのだ、それも獣にやられたように。
黒子の手に注目すると手には虎の爪が・・・・付けられていた。
そういうことかよ!俺としたことが・・・・
この場合両手に付けていると対応が制限される。
片手だけ抑えるともう片方で通常よりも手痛い反撃を受けるからだ。
ならどうするか、決まってんだろ?
凶器の届きにくい足部分(中でももっとも弱い膝)に蹴りを叩き込む!
(一応両手で相手の両手を抑える方法があるが、この場合力が強い者が場を制することになる。よって武は相手の力量が未知数なのを危惧して行わなかった)
少しばかり足を落とす、効いているな・・・・
ストレートにいくフリをしてまた同じところを蹴り飛ばしてやる。
んなチャチな物で上下の攻撃に対応する方が無理ってモンだ。
そしてローにいくと見せかけて出した左足を軸に体を翻しそのまま全体重をかけた後方回し蹴りをこめかみにくれてやった。
そのまま勢いよく壁に叩きつけられウンともスンとも言わない黒子クン。
ま、ざっとこんなもんっす。
「ったくよ、この服高かったんだぞ。チクショウめ」
そう吐き捨てると同時につぐみの事を思い出した。
そうだ、のんきにこんなことやってる場合じゃねぇ!
つぐみの部屋に目を向けるとドアが開いていた・・・・
最悪の状態が頭をよぎりつぐみの部屋へと駆け出した。

それから数十分前
「なんで停電になるのよ・・・・?」
私達はいきなりの停電に頭を悩ませた。
テレビ・・・・つかないじゃない。
見ていたのは恋愛物のドラマ、告白シーンでいい所だったのに。
それにまったく見えないわ。
「しょうがないわね、復旧を待ちましょう」
ちなみに沙羅は優の部屋に遊びに行っている。
例の福引で当てたノートを持って。
流石に嬉しかったのかしら?
あれからどこに行くにしろあのノート持ってくのよね。
などとドアを叩く音が静寂な暗闇に包まれた部屋に響いた。
「誰かしら?」
こんな時に・・・・もしかして武?
私のこと心配して・・・・
そんな期待をよせてドアに向かう。
そしてドアノブに手を掛けた。
「・・・・武?」
しかし目の前にいたのは暗くてよく見えないが武ではない、別の者。
「どちら様・・・・でしょうか?」
「キ、キ、キュレイ・・・・ホ、捕獲・・・ス・ル」
「なっ・・・・」
伸ばしてきた手を紙一重でかわし、後方へと跳んだ。
まずは相手との間合いをとって相手の出かたを伺う。
それに対し向こうは走る構えをとった。と思ったときだった、相手の姿はそこから消えて気がつけば懐に入られていた。
速い・・・・!?
とっさにガードをとり相手の打撃力を弱めるがそれでもかなり強力な一撃だった。
攻撃を受けきると再び間合いをとる。
相手は特殊兵かなにかだろうか?
どうやら適当なダメージを与えて身動き取れなくしてから捕獲するってわけね。
「けどお生憎様、あなた達に捕まえられるほど私ヤワじゃないの」
だが、何故かいつもの調子が出ない、なんというか体がいつもより重い感じ?
動きやすいようにローブを裂いてスリットにする。
注意するのはスピード、初手をかわせば勝機はある。
そして相手側が動いた!
先ほどと同じように間合いを詰めて攻撃を仕掛けようとする。
それを片手で逸らしてやりもう片手で腹部に一発決め込んだ、が
か、堅い!?
まるで鉄板でも仕込んだようにとても堅く感じられたのだ。
それを肯定するが如く効いてないかのように攻撃を仕掛けてきた。
そしてついに肋骨の下側に拳がめり込む。
「っ・・・・!」
下辺りは何本かヒビが入ったかもしれないが、別に構わない、この程度ならほっとくとすぐに治ってしまう。
・・・・・ハズだった。いつまで経っても痛みが引かない、何故?
そして優が言った事を思い出した。
『この薬はキュレイの効果をパーにするわけ』
すっかり忘れていた。
太陽の下に出られるようになるだけではなく、キュレイの効果である赤外線視力、さらに治癒能力と身体能力の飛躍的な向上までもが失われていたことを。
それらを差し引くと明らかに自分は分が悪い。けれど・・・・
「私、こんなことで負けたくないのよ」
こんなことで負けたら武に笑われるわ。
それに体が頑丈って言っても戦い方はある。
ストレートを片手で受け流して腕を取る。
狙い目は・・・・顎!
掌底で顎下を叩き、さらに踵で顎を蹴り飛ばしてしてやった。
顎に衝撃を与えることによって脳を揺らすことができる。
掌底は外部ダメージよりも衝撃を与えること、つまり内部打撃を与える。これなら体が堅くても関係はない。
そして足は全体重を支えている為腕力の約三倍と言われているのだ、それで蹴り飛ばされたらひとたまりもないだろう。
そのまま卒倒すると思ったが・・・・難なく起き上がってきたのだ。
なんてやつよ・・・・人間じゃないわね。
もう倒す策は無い、捕まるしかない、か・・・・
そう覚悟し目を閉じた・・・・が何故か相手は向かってこない。
恐る恐る目を開けると目の前には・・・・・
「た、武・・・・!」
「正義の味方、登場〜ってか?」
足元には先ほどの男が突っ伏していた
「遅いわよ・・・・バカ・・・・」
「ワリィ、俺もさっき廊下で道草バトルってたんでな」
しがみついて来るつぐみを受け止める。
「それにしても何なんだ?こいつ等・・・・ライプリヒの残党か?」
もしかしてお礼参りか?ご苦労なことで。
顔を確かめる為覆面を剥ぎ取る。そして俺はありえない者を見た。
「ル、ルーカス=ダミニオン・・・・?」
何故、こんな所に、もとい何故こんなことを?
「武、ルーカスなんとかって誰?」
「ルーカス=ダミニオンは大体20年くらい前に有名だったプロボクサーだった人だ」
どういった人物か知らないつぐみに解説をしてやる。
「その通り、彼は紛れも無くルーカス=ダミニオンだ」
「なっ!?」
誰もいないはずの後ろには黒いコートに身を包んだホクトと同年代くらいの少年がいた。まったく気配もしなかったぞ。
「オイオイ、不法侵入は訴えられるぜ」
口で冗談を言っているが内心ヒヤヒヤしている。
どんな殺気放ってんだよ、コイツ・・・・・
「やっぱり俺が来て良かった。・・・・ああ、水を差して悪かった、彼の説明を続けて」
手でどうぞといったように差し出した。
んじゃ、ご好意に甘えて。
「・・・・ルーカスはある試合で八百長試合の濡れ衣を着せられたんだ。それでルーカスはリングを降りるきっかけとなって、数日後・・・・喉を切って自殺した。」
後からになって無実だということが発覚して人望も厚かったルーカスを弔う会みたいなのがあったっけ。
「ンン〜〜、そこまで合っているね。けど最後にこう付け足して欲しかったな、実はまだ死んでいなかった、とね」
「何?」
どういうことだ?
少年は説明を続けた。
「死体と思って回収したんだけどさ凶器のナイフは浅く入っていてあったことと、ナイフを抜いていなかったこと。この二つの事が彼を生き延びさせた」
「ということは生きているのか?ルーカスは」
「いや、死んでいるよ。流石に20年も前だ、彼は当時相当な年齢だったから数年後に亡くなった」
「だったらなんでさっきから動きちぎってたんだよ」
率直な疑問をぶつける。
「答えは簡単、彼を人形にしたんだよ」
・・・・どういうことだ?
「わからないって顔してるな、説明するよ。彼らはリモート・バトル・マリオネット(RBM)といって直訳したとおり指示を飛ばすだけで忠実に動いてくれる戦闘人形だ。
動く原理はカエルの足と考えればいいね。指示を電波信号で飛ばして耳のアンテナに送信、そして頭の中にある特別なマシンで
信号を解読及び体の神経の伝達信号に変換して動くって代物だ」
これで謎が解けた、何も考えていない印象を受けたのは考えていないのではなくて考える必要が無かったから。
「聞くだけで胸くそワリィ・・・・」
俺の言葉を聞くとフフンと鼻で笑った。
「冷たいね〜、武さんは。それのおかげで懐かしい人に会えるのに?」
少年が指を指す、その先には・・・・
「田中・・・・陽一さん!?」
先ほど俺が倒した黒子の内一人であろう男はIBFで助けられなかった人、そして何より優の父親――――
「ん?もう一人は耳のアンテナがやられちゃったみたいだな。ま、いっか補充すればいいんだし」
補充、確かにそう言った。あのガキは・・・・
「テメェ!人をなんだと思っている!?」
「あっれ〜、喜ぶんじゃなくて怒るの?ただの人形だろ?」
「陽一さんを解放してやれ。嫌なら力ずくだ」
つぐみも俺と並んで身構える。
「嫌だね、結構高い玩具だ。それにいくら俺もキュレイだからといって同じキュレイ二人相手にするほど馬鹿じゃない」
・・・・なんつった?同じキュレイ?
「一応教えてやるよ、そこの女性、つぐみさんだろ?彼女の監禁時代に採取した血液からキュレイウイルスを抽出して培養、
そして数人の戦闘力の高い子供に移されたんだ。その内の子供の一人だよ、俺は」
驚愕の事実だった、俺はともかくつぐみのほうがショックは大きいだろう、自分の血液が元で悪用されているのだから・・・・
「ま、アンタ等の娘さんもさらうことに成功したっぽいし、今回はこれで退散させてもらうかな」
さ、沙羅をさらった!?
「何ですって!?」
「お前、沙羅をどうするつもりだ、返せ!」
「返せといわれて返すか、ま、せいぜい利用させてもらうかな。人形にするのも面白いかもね」
この一言を聞いて俺の中で何かがプツンと切れる音がした。
「貴様ァーーーーー!!!」
気がつくと俺はあいつに向かって拳を上げていた。
「怒った時ほど仕留め易いものは無いよ」
次の瞬間俺の水月にはストレートが見事に打ち込まれていた。
「う、ぐ・・・・」
スローモーションがかかった様にゆっくりと倒れこむ。
「沙羅を・・・・かえ・・・・せ・・・」
「まだ動けるのか・・・・流石にタフだね。でも今日は『投薬』もまだだしこのままお暇させてもらうよ。・・・・行くぞ!」
合図をするとルーカスと陽一さんはもう一人を抱えてあいつと共に窓から飛び降りていった・・・・。

く・・・そ・・・・返してくれ、沙羅を返してくれよ・・・・約束したんだよ、あの後俺自身に・・・・この笑顔を守るってよォ・・・・・・
「武・・・・」
「ちょっと手貸してくれ・・・・」
無言で差し出す手を掴みようやく起き上がる。
まだ腹部に違和感があるが頭では沙羅の事でいっぱいだった・・・・・
「畜生!また、俺は何もできなかったのか・・・・!」
ぼろぼろと涙が零れ落ちる。
「パパどうしたの?」
沙羅の幻聴が聞こえる・・・・・・・
「沙羅がさらわれたんだよ・・・・」
「やだな〜さらをさらうなんてナンセンスだよ」
ああ、幻聴がここまではっきり・・・・・
ん?ちょいまてい!?
慌てて横を向く。するとそこには・・・・
「父上、どうしたでござるか?」
沙羅がいつもの顔で俺を見ていた。
「・・・・・!?」
「パパ、何口を魚みたいにぱくぱくさせてるの?・・・・パパ?」
え?なんで?さらわれたんじゃないの?
様々な疑問が頭の中を駆け巡る。
「沙羅・・・・だよな?」
「やだな〜、実の娘のカワイイ顔を忘れるとはパパも失礼でござるぞ、ニンニン」
「沙羅っ!!」
俺は無意識に沙羅を抱きしめていた。
「パパ、いきなりどうしたの?・・・・パパ?」
「無事で・・・・よかったんっ!????」
沙羅の無事を喜ぶ俺の頭にフライパンが直撃した。
犯人はやはりつぐみ・・・・・なんで?
「そろそろ離れたらどうかしら?」
「あ・・・・」
「あ・・・・」
言われて気付いた。俺と沙羅が抱き合ったままだと相当誤解されるということに。
すぐさま離れましたよ、ええ。身内に殺される。
「でもなんでここに?」
まず疑問の一つをぶつける。
「なっきゅ先輩の所で遊んでいたんだけど、停電になったらなっきゅ先輩がお兄ちゃん達を驚かせに行こうって・・・・それで戻ってきたんだけど・・・・?」
「な〜る・・・・」
ちなみにこの後ホクトの悲鳴が響いたのはこれまた内緒の話。
でも一つ引っかかるのは『アンタ等の娘さんもさらうことに成功した』と言った事だ。嘘であんなこと言わないだろう。

十分後
電力も回復したらしく部屋のシャンデリアにも灯りがついたので、落ち着いたころ皆を呼び出し急遽先ほどの出来事を話す事にした。
しかし一人だけいつまで経っても来ない人物がいたためまずその人を探す事になった。
その人物っていうのはココだ・・・・たぶん入り江で遊んでいるんだろうか?
結構気に入ってたみたいだし。
そう思い立つと早速入り江に向かうことにした。
だがそこで見た光景で俺は愕然とする。
「・・・・・・ココ!?」
足跡で荒らされた砂浜とココのサンダルが落ちていたから・・・・


十分前廃墟にて
「そっちは結構早かったな」
「だって一人でいたんだもの、そう手間は取らなかったわ。そっちは?」
ポンポンと人が入って膨らんでいる袋を軽く叩いた。
「さっぱりだね、RBMが一体やられた。捕獲もし損なっちまったし・・・・」
「何やってんのよ、お咎め喰らうのアドニスでしょ?」
「うるせーよ、ところで確かそっちの娘さんはおさげの女の子だよな。ついさっき画像が送られてきたぜ」
「えっ?」
ルナの顔は何それ、全然違うよ、と言ったような顔。
「・・・・何?何が『えっ?』だって?」
「だって・・・・ほら」
袋の口をあけるとそこにはすやすやと寝息をたてている幼い女の子が。
「・・・・コイツって八神ココとかいう奴だぞ。ほら・・・」
そう言うとポケットディスプレイを渡した。
一人の少女の画像と詳細なデータが表示される。
人物データ・八神ココ
生年月日・2002年12月17日・血液型B型・エトセトラ・・・・
「・・・・」
「・・・・・・・・」
「間違えちゃった♪」
てへっといったようにぺロッと舌を出した。
「ドアホ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


同日10時925号室(武の部屋)にて
今この部屋にはココを除く全メンバーが集まっている。
そして俺は先ほどあった事及びココがさらわれた事を伝えた。
「・・・・・」
しばらく訪れる沈黙。
だがそれを破ったのは優だった、普段見せない真剣な目つきで。
「・・・・武、こうなったのも全て私の責任だわ・・・ちゃんと話しておけばこんな事にならなかったかもしれない」
「どういうことだ、何か知っているのか?」
「ええ、以前私の研究室の情報部からこんな報告があったの『ライプリヒ製薬の残党がキュレイのキャリアを狙っている』と―――」
いったん話を止めて反応をうかがう。
「・・・・・続けてくれ」
「・・・・それで私達は当然の如く調べる事に踏み切って調査を開始、その結果いくつかの検討をつけた。まずキュレイのキャリアを調べてみたけど
一般的に知られていないしウイルスそのものが希少だからヒットしたのはLeMUの生存者である私達のみ。そして・・・・」
この後優の口からはにわかに信じられない事柄が語られた。
世界中で体がまったく成長しない少年少女の行方不明事件が多発している事、今回の福引も俺等をおびき寄せる罠の一つだった事、
ライプリヒの連中は俺等の生活を調査していた事、そして優達はそれを確かめる為にここに来た事を・・・・・・・・
「それで、ライプリヒは名を変え、今はへヴンズカウントと名乗っているわ」
天国への秒読みか・・・・・大層な名前付けやがる。
「武、今まで黙ってて本当にごめんなさい・・・・」
深く頭を下げて謝る優。
俺はその頭に手を当てた。
「優、どうせお前変なこと言ってこの旅行が気まずくなるのを防ぐ為に黙ってたんだろ?なら気にするな、その心遣いがあるおかげで精神面で助かってんだ」
「でも・・・・・」
何か言おうとしていた言葉を言葉でさえぎった。
「ただ、どうしても責任を取りたいって言うのならココを助ける手助けをしてくれ、優だけが頼りなんだぜ?」
「え、ええ!任せて!」
優の顔に明るさがもどった。
まったく・・・・んなことで気にするなよ、気丈なのが優なんだから。
「でも何でライプリヒは今更になって復活したのよ?」
「理由は簡単だ。今まで汚い事やって甘い汁すすっていたんだぜ?連中告発されたくらいでやめるタマかよ。
大体キュレイ自体が世間じゃブラックボックスなんだ、調べて論文を発表するのもよし、キャリア達を基礎とした戦闘集団を作るのもいい。
キュレイそのものが金の木なんだよ」
つぐみの問いには桑古木が答えた。
確かにキュレイは未だ未解析な部分も多い、叩けばいくらでも埃もでるだろうし、
それにキュレイの特徴といえる物はすべて戦闘という概念に転用すると効果の発揮する物は無いだろう。
「でも、ココはどうするの?いる場所だって見当もついてないんだし・・・・・」
ホクトが気落ちした声で優に聞いた。
「それなら任せてくれ、ピピも一緒に連れて行かれたんだろ?ならピピに仕掛けた発信機で居場所がわかる」
何でお前が答える、っていうか
「・・・・私ピピに発信機仕掛けたなんて知らないわよ?」
俺が言おうとしていた事を優が言ってくれる。
「私情で・・・・って違う!今回は放浪癖のあるココが心配だからやむを得ない処置だ!」
「・・・・・ロリね。偽武」
優の娘よ、いいこと言った!
「ロリでもないし、偽とか言うな!」
「悪趣味ですからストーキングも程々にお願いしますね」
空も言う時は言うのか・・・・・・
「・・・・ええい、そんな事はどうでもいい!話を戻すぞ、とりあえず発信機が発信している所は海だ、目標は未だ移動中。
目的地は恐らくルートからしてドイツの近くに建てられた人工島のへヴンズカウント本部ビル・・・・・」
こんな時に冗談を言う奴じゃない事はわかっている、恐らく場の雰囲気を少しでも和らげようとしたのだろう。
一番辛いのは桑古木本人のはずだ・・・・・・
「桑古木、今日は珍しく冴えているわね。ならやる事は唯一つ、直接乗り込んで救出するしかないわ」
「まぁ、一番手っ取り早いがな・・・・」
「ちょっと待ってくれ。ビルって言うのは表上の話だ、沙羅、沙羅のノートでこのディスクの中身を開いてくれ」
そう言うとトランクから一枚の光ディスクを取り出して沙羅に手渡した。
「う、うん」
早速起動させディスクを入れる。そして沙羅は中身を開くと絶句した。
桑古木はノートと投影機を繋げて部屋を暗くする。
すると白い壁に図面が浮かび上がった・・・・・
「なんだこりゃあ・・・・・」
映し出されたのは砲台やトーチカなどの兵器が搭載された無機質な建物。
もしかしてこれって・・・・・
「要塞だ、表は単なる高層ビルだが裏はとてつもない軍事力を持った要塞なんだよ」
「これは・・・・国一つでも十分に叩き潰せる程だわ」
「ああ、そしてこれらの管理は誰かの知能を媒介としたAIにパーフェクトで管理されている。そして万が一侵入されると・・・・」
「キュレイ特殊部隊のお出ましね」
そうだと無言で頷く。
あのガキレベルの集団と戦うことになるのか・・・・
「なら段取りはこうよ、まず向こうだってココをすぐにどうこうするわけじゃあないわ。検査とかも含めて最低限で一週間くらいでしょうね。
期限の内訳は武器の扱いだとかを訓練だとか調達などに五日間、六日目は準備及び夕方に出発。7日目は念のために空けておくわ」
「武器って・・・・どういうことだよ」
「何言ってるのよ、要塞と戦闘集団を相手にするのよ?丸腰で行く訳ないでしょう。武器や移動手段は私が担当するからあなた達は訓練に励んで」
だが俺はその場に割って入った。
「その前に一つだけ言いたい、今回は悪魔でもココ一人を助ける為に要塞に乗り込むんだ。もしかすると死ぬかもしれない・・・・・
だから行きたくないのなら来なくていい。誰も咎めはしない」
「倉成さん!?何言って・・・・」
反論する空の口に手を当てる。
「これは強制するわけにはいかない、自分の命がかかっているんだ。個人の自由だろう」
「それは・・・・そうですが・・・・・」
「どうだ、皆は・・・・」
皆の答えを聞こうとするが・・・・
「武、何言っているの?」
「パパも白状でござるな〜」
「お父さん、僕は行かないのは反対だからね」
「私も同意しかねます」
「俺は当然行くに決まってる!」
「私もココは家族みたいな者よ?それを助けないなんて女がすたるわ」
みんなの答えは一緒だった。
「倉成・・・・みんなの意思は堅いみたいよ?」
ったく・・・・本当に馬鹿の集団だな、みんな・・・・・・・
「・・・・・本当にいいんだな?」
皆が同時に頷いた。
「・・・よし、ならココ救出作戦の決行だ!」
「おーーーーーっ!!!」


こうしてココ救出作戦(仮)は始まった。




つづく


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