『Ever17〜the out of infinity〜』リレーSS
シリアスパート第2話

天国へのRebellion(反逆)

『・・・よし、なら・・・ココ救出作戦の決行だ!』
『おーーーーーっ!!!』
と言うわけで、ココをライプリヒ製薬の亡霊である『ヘヴンズカウント』から奪還する計画は、全員が闘志を内に秘めての参戦となったが、そこで武はある疑問に辿り着き、
傍らにいた優・・・田中優美清春香菜に
「なぁ、優。奪還作戦は確かに行うが、武器や弾薬と言った物はどうするんだ?
こんなリゾートアイランドにそう言う物騒なものはないし・・・」
と言う質問をぶつけた。すると、春香菜はニヤリと笑み−その笑みは妙案を持っている時の彼女が浮かべる、力強くも自信に溢れる笑みだった−を浮かべ、
「その件は大丈夫。いつもはあまりコンタクトは取らないようにしているけど、こういう非常時・・・それも、硝煙の匂いが付きまとうような事態にはうってつけの強力な助っ人が一人いるわ・・・。そう・・・月海も良く知っている、あの『人類最上位亜種』がね・・・」
という言葉を発した。その言葉に武やホクトは『?』と言う表情を浮かべていたが、『人類最上位亜種』と言う言葉を聞いた月海はびっくりした様な表情を浮かべて
「『彼』が・・・『海藤 拓水』が動くの!?でも、どうして・・・?」
と春香菜に聞いた。すると、春香菜はフッと小さく笑った後で、
「2034年の救出作戦の後、海藤にはライプリヒ製薬の監視任務も依頼していたの。もっとも、
沙羅の・・・パンデモニウムの一件で美雲が合流した後では、監視は彼女に一任していたそうよ。そして、彼等がヘヴンズの動きを掴んだ後からは、妨害工作にあってなかなかコンタクトが出来なかったらしいんだけど・・・。まぁ、起こってしまった以上は仕方が無いわ・・・。とにかく、一旦この島を離れましょう。こちらも体勢を整えないとね・・・?」
と言って、春香菜は懐からPDAを取り出し、メモリーに登録してある番号を呼び出した後・・・
「ハイ、『イェーガー』・・・。ええ、奴等が遂に動いたわ。それで、私達もお祝いしなきゃいけなくなったの。今からフランクフルトに行くから、そこで『パーティーの準備』をして待っててくれる?
ええ・・・。分かったわ、じゃ・・・そっちで・・・」
と短くやり取りした。すると、海藤の事を知らない武とホクトは一斉に
「な・・・何が『パーティーの準備』だよ、優!!この非常時に!!」
「そうですよ!それに『お祝いしなきゃ』って、どう言う事なんですか!!」
と優に食って掛かったが、月海はというと、逃亡時代に何度も浮かべたであろう冷たく光るナイフの切先の如き笑みを浮かべ、二人に向かって
「大丈夫よ・・・。優が言ってる事は『連中を襲撃するから、物資一切を手配してくれ』と言う意味よ。そんなヤバイ会話、迂闊にする訳ないでしょ?でも、こうして暗号で話してしまえばある程度の撹乱にはなるわ。そうでしょ?優・・・」
と、後半は春香菜に向かってだったが、説明した。すると春香菜も
「ええ・・・月海の言う通りよ。このリゾートアイランドでは物資なんて手に入らない・・・。だったら、わざと連中の鼻先に乗り込んで、その上で訓練をしてからココを取り返しに参上してやるって事よ。そうと決まったら、早く荷物を纏めてしまいましょう・・・。時間はあまりないわよ?」
と告げた後、足早に空と共に武のコンドミニアムを後にした・・・。


 その後、武を筆頭とする奪還作戦の面子は空の操縦する高速艇でフランクフルトに移動し、
現在はフランクフルトに滞在している春香菜のかつての同志『海藤 拓水』の事務所に向かった。その道すがら、春香菜は事情を知らない武とホクトに対して手短に拓水の説明を行った・・・。
 かつて、海藤 拓水は2034年に偽装事故を起こして武達を救出しようと画策していた春香菜と空の前に現れ、大きな鍵を握る月海のシークレットガードを買って出た青年である。そして、彼自身もまた人の枠組みを超えた存在になっていた・・・。そう・・・彼の肉体は『Tief Blau 2017-Rev.17』によって、キュレイをも超える肉体に変貌していたのである・・・。その後、ある秘密結社に拉致された沙羅と空を救出し、その際に行動を共にするようになった空の戦闘能力強化型である『茜ヶ崎 美雲』と共に、裏社会の仕事人として生活をしているとの事である。


 一行がフランクフルトに付いた後、港で出迎えた『海藤 拓水』と『茜ヶ崎 美雲』とともに、拓水のオフィス−赤煉瓦造りのやや時代掛かった建物で、地下に本格的な射撃訓練場を備えた、外見からは想像も付かないほどの堅牢なオフィスだった−で、五日間の間訓練・火器類他の装備の調達と情報収集を行う事になった・・・。


 その翌日・・・。拓水は武器・物資の手配のためにPCにかじりついたままで、武達の訓練は彼のパートナーである美雲が行う事になった。そして、その過程で、武の格闘センスがかなり高い事と、それがどうやら学生時代には不良で鳴らした賜物である事が分かったのだ。そして、散々『偽武』だの『ココ専用ストーカー』と言われまくっていた桑古木も、空手を嗜んでいたということで、この二人にはハンドガン(グロック26ADV)・接近戦用に武にはブラックニンジャソード、桑古木にはスティンガーダブルコンボが、共通装備として数発の手榴弾が与えられ、ホクトにはM4A1R.I.SM203グレネードランチャー装備モデルとダブルブレーデッドソードが装備品として与えられた。また、キュレイとしての能力を春香菜の薬で封印してしまっている月海は『破壊力に重点を置く』という方向性の下、メインガンとしてM3スーパー90ショットガンにソーコムMk32が、格闘戦兵器として、マチェット(鉈)が選ばれた。もっとも、月海に言わせれば『マチェットは、信頼すると言うよりは気休めね・・・』との事だが・・・。
 一方、春香菜・秋香菜の親子は沙羅の護衛としての役目を負うこととなったために、装備としては接近戦での威力が求められた。そして、美雲の見立ての結果、春香菜のハンドガンにはデザートイーグル50AEとソーコム、そしてグリフィンナイフが近接兵器として選ばれ、秋香菜は近距離の格闘戦重視ということからか、M92Fミリタリー二丁と、桑古木同様にスティンガーコンボナイフが装備として見立てられた。なお、沙羅にはG36CマシンガンにサイドアームとしてM3ショーティーショットガンが装備された。


 その一方で、訓練2日目に入っているというのに空の装備については決まらずにいた・・・。空自身は事の重要性を理解しているのだが、やはりその性格からなのか、武装が決まらずにいた・・・。そして、2日目の夜・・・拓水に呼ばれて入った彼の部屋・・・。空は、そこで一つの・・・しかし、この作戦において重要な決断を迫られた・・・。
「か・・・海藤さん!本気でおっしゃっているんですか!?そんな・・・そんな事は・・・!!」
「でも、酷な言い方をすれば一番訓練が遅れているのは空なんだ・・・。そして、空の特性を生かせば君が一番の戦力になる・・・。しかし、それには覚悟を決めてもらうしかない・・・」
そう言い放つ拓水の顔は、今までに無いくらい真剣な物だった・・・。今は訓練開始から2日目、他のメンバーが各々に与えられた武器に馴染み、月海に至っては早くも美雲相手に接近戦のトレーニングに入っているほどであった。だが、空だけが銃火器に触れることに難色を示し、未だに本格的なトレーニングに入れずにいたのである・・・。そして、美雲も空に対しての『負い目』がある所為であまり強く出ることも出来なかったのである・・・。そんな、何となく沈んだ雰囲気の美雲を拓水が見つけ、理由を聞き出したその日の夜・・・拓水は空を自分の部屋に呼んでいた・・・。
「確かに・・・私の訓練が一番遅れているのは認めます!・・・ですが、どうしても、銃を・・・いえ、銃だけではありません・・・。人を傷つけるものを持つことには抵抗があるんです・・・」
そう言って目を伏せる空だが、拓水も同じ事を考えていたらしい・・・。
「確かに・・・俺もそういう事を空には求めてはいないさ・・・。でも、今は非常事態だ・・・とにかく力をつけなきゃいけない。その考えだけはこの一週間だけは封印しておいてほしい・・・。そして、空にはスナイパーを担当してほしい。そして、その為にはこのプログラム・・・美雲の銃火器取り扱いマニュアルプログラムと精密狙撃用の照準機能追加プログラムなんだけど、これを一週間だけインストールしておいてほしい・・・。勿論、事がすんだら削除してもらってもいいし、なんだったら沙羅に頼んで次元消去プログラム化しておいてもいい・・・。それでどうだろう?・・・空、君が美雲を敵視しているのは分かっている・・・。でも、いまだけは、休戦協定でも結んでおけばいいよ・・・。しがらみは・・・事が済んでから断ち切ればいい・・・」
と言ってから拓水は立ち上がり、彼のデスクにおいてあった二枚のギガバイトディスクを手に取った。恐らくは、そのディスクこそが先に拓水の言っていたプログラムなのだろう・・・。そして、窓際で二人のやり取りを伏し目がちに聞いていた美雲に向き直り
「美雲・・・試験的に『ハワード』が開発していた、『例のブレード』が出来たらしい・・・。明日には届くらしいから、それの訓練を開始しておいてほしい。俺も『インドラ』の射撃訓練を始めるし、武さんたちのトレーニングにも付き合ってあげないと・・・」
と言った後、昼間に届いた荷物を担いで地下の組立工房に向かおうとしたが、何かを思い出したようにふと立ち止まり、空の方向に向き直りながら
「美雲も・・・空の事はずっと気にかけてたんだ・・・。それこそ、パンデモニウムで消えかけていた君の命を繋いでいたあのときからね・・・」
と告げた後、地下の工房へと降りていった・・・。


 そして、遂に腹をくくった空が美雲のプログラムをインストールし、装備としてはAMP TS DSR−1スナイパーライフルに、サイドアームとしてM3スーパー90を、格闘戦用には春香菜のグリフォンと対になるかのように、ジャッカルナイフが装備されることとなった・・・。ちなみに、拓水の装備はと言うと・・・彼が密かに裏社会の武器開発技師『ハワード』に発注・製作されたAMR(対物狙撃ライフル)を改造したリニアライフル『インドラ』を装備し、近接戦闘用にはデザートイーグル50AEとチタン合金製の日本刀(モデルは『胴田貫』とのこと・・・)を装備、美雲自身は本体に超振動モーターと赤外線レーザーガンが内蔵されているという事もあってか、やや軽装気味にKnight’sSR−16と、これまたハワードの設計した共振型の超振動ブレードと数本のスローイングダガーを装備、ブレードには美雲の発生させる超振動を使用することでバッテリーを使わない分軽量化の成功し、切れ味についても通常の刀剣類に比べて格段に高い切れ味を出すことに成功していた。


 そして、訓練も順調に日程を消化していった5日目の夜・・・。オフィスの一室に集まった奪還作戦のメンバーは、最終確認も兼ねた作戦ブリーフィングを行っていた。
「さて・・・これから『お祝い』に行く『ヘヴンズカウント』の本部ビルなんだけど、桑古木君が調べたとおり外周部には植え込みやら彫像なんかに偽装した機銃やらトーチカ、挙句の果てには自動追尾式の迫撃砲台なんて代物まであるんだ・・・。下手したら、戦車の格納ハッチなんて物まであるかもしれない・・・。こっちでも春香菜先生の依頼もあって、独自に監視やら物資の搬入調査なども行っていたんだけど、この一週間・・・ちょうど、武さんたちがリゾートに出かけようとしている期間に、大量の化学薬品が運び込まれているんだ・・・それも、通常の入荷量の軽く5倍はあるほどね・・・?」
と、とんでもない事を言い放った拓水であったが、その発現に対してホクトが
「でも、搬入しているのは化学薬品なんでしょう?だったら、連中だって警戒はそれほどしていないんじゃないんですか?」
疑問の声を上げたが、その疑問はこれまでにも修羅場慣れしている拓水と月海によって否定された。二人が言うには、
『恐らく化学薬品はダミーであり、その中身は弾薬類であろう。手違いでココがさらわれてしまいはしたが、本来は沙羅を拉致する事が目的だった事からも、武装を強化するのは当然の行動だろう・・・』と言うのである。その説明によって納得したのか、ホクトは再び映し出されているヘヴンズカウントのビルの見取り図に目をやった。そして、今度は美雲が説明を始めた。内容は、武や月海・春香菜が拓水達と立案した突入作戦についての最終確認であった。内容を手短に言うと、『まず、拓水と美雲を先頭に立って露払いを行い、二番手の月海がショットガンで二人の取りこぼしを処理。センターには空が入り、前方に展開するであろうキュレイ特殊部隊の頭部を狙った炸裂弾による狙撃を行いながらブレークスルーポイントをサーチ、センターには沙羅が入り全体の進行方向を指示しながらココの居場所をサーチし、沙羅の脇を田中親子と武に桑古木の4人がガード、殿はホクトが勤め、取りこぼしを極力出さずに殲滅しながら突っ込んで行くと言うものであった。ちなみに、装備の大きさから屋内突入直前で拓水と美雲は離脱、屋外のトーチカの徹底制圧を行う』と言う内容であった。(詳しくは下段参照)また不意の強襲をうけ、個人ごとの行動にならざるをえなかった場合、個々人もしくはグループ毎の判断に委ねられるという事もあわせて確認された。
屋外戦突入前フォーメーション 屋内戦突入後のフォーメーション
春香菜    桑古木
                        拓水
ホクト  沙羅   空   月海
                        美雲
秋香菜       武
春香菜    桑古木

ホクト  沙羅  空   月海

秋香菜       武
 ちなみに、移動手段については陽動を兼ねて武達の高速艇をダミーにする形で先頭に配置、ある程度の距離に近付いたら遠隔操作で自爆させ、その後方から武達がゾディアックゴムボートで接近、接岸・上陸後に行動開始といった段取りが加えられた。
 そして、最後に春香菜が
「今回の作戦、本当の事を言えば私の不注意で起こしてしまった事・・・。そして、
皆を巻き込んでしまった・・・みんな、本当に御免なさい・・・」
と今一度深々と頭を下げたが、月海も武も
「気にすることはないわ・・・私も、キュレイの力が弱められている今は無力な存在・・・。
でも、ココだけはなんとしてでも助け出す!!」
と力強く決意を表し、武も
「そうだ!何が何でもココを助け出すんだ!あのLeMU事故を潜り抜けた俺達なんだ・・・。出来ない筈がない!そして、ヘヴンズカウンターだかなんだか知らないが、そんなフザけた連中に一発お見舞いしてやろうじゃないか、なぁ、皆!!」
と決意を述べた。すると、桑古木も
「俺もだ!あの時・・・自分を見失いかけてた俺を救ってくれたのは、ココのあの無垢な笑顔だった・・・。そして、そのココが危機に晒されていると言うのなら、
俺の命に代えても救ってみせる!!」
とどこかの熱血ヒーローばりの熱い言葉−勿論、硬く握り締められた拳は必須アイテムであったが−を発したが、すかさず秋香菜が
「桑古木ぃ・・・。アンタって、ココの事になると途端に熱血青年に変身するのね・・・。
もしかして、正義の『腎臓人間』だったり?」
とチャチャを入れ、それに乗るかのように沙羅も
「桑古木・・・早く歳相応の恋人を見つけるでござるよ?そうでなければ拙者、
安心して夜も眠れないでござるよ・・・」
等と更なるチャが飛んだ。さすがに桑古木もこれには堪えたのか、その場に頭を抱えて
蹲っていたが、その状況に一人で呆れていた拓水の発した
「さて・・・明日は早朝から『派手なお祝い』をしに行くんだし、そろそろ皆さん寝ましょうかね・・・。明日一日で連中を・・・・・・地獄の底に叩き落す!!そう・・・二度と這い上がって来れない様に・・・!!」
と言う言葉に、力強くうなずいていた。


 そして、作戦決行当日・・・。計画通り上陸した彼らを待ち受けていたのは、キュレイSWATではなかったにせよ、それに準じる連中−早く言ってしまえばロボトミーであったのだが−の警備部隊であった。しかし、春香菜はそのロボトミーの中に信じられない人物を見つけてしまった・・・。そう、あの日あの場所で永遠の別れとなった筈の・・・記憶の中にも残っていなかった筈の父・・・田中陽一の姿を見つけてしまったのだ・・・。そして、当然の様に陽一の下に駆け寄ろうとした春香菜であったが、一歩を踏み出したところで踏みとどまり
「お父さん・・・IBFであれだけ苦しんで、罪悪感に押しつぶされて死んでいったあの人を利用するなんて・・・。ヘヴンズカウント・・・あなた達は絶対に・・・許さないわ!!」
あまりの怒りのせいだろう・・・。逆サイドにいた秋香菜ですら震え上がるほどの憤怒の形相−それは、例えるならば正しく般若のそれであった−を浮かべた春香菜は、戦闘服・・・今回の作戦にあたり、全員がSWAT仕様の黒を基調とした戦闘服に身を包んでいたのだが、そのジャケットにぶら下げていたガラス瓶を陽一に叩きつけ、その足元に向かって何所からとなく取り出したジッポーで着火した。すると、一瞬の間に剛炎が立ち上り、その中心にいた陽一をわずかな時間の間に焼き尽くしていた・・・。そう、先刻のガラス瓶の中身は、高燃焼性のジェット燃料と液体火薬の混合体であり、陽一の姿を見たという武の証言を聞いた春香菜が独自に準備した物であった・・・。
 激しく肩で息をし、その相貌に涙を溢れさせていた春香菜であったが、立ち止まっている時間はない・・・。やや乱暴に袖口で涙を拭った彼女は、センタービルに向かって迎撃陣地を突き抜けていく戦列に戻って行った・・・。ただ一言『ごめんなさい・・・そして、さようなら・・・』と言う言葉を残して・・・。


 その後、難なくセンタービルの入り口前に辿り着いた一行であったが、
いざ入ろうとした瞬間・・・。
「シッ!・・・何か聞こえないか?・・・ほら、何か金属を引き摺るような音がさ・・・」
と言う桑古木の声に一同が耳をそばだて、同時に美雲が聴音センサーでその音の解析を行った。すると、美雲が珍しく狼狽したような表情を浮かべて
「大変です!!この音の音紋照合を行っていたのですが、これは・・・この音は戦車の物です!!恐らくはタイガークラスが一両と・・・機動装甲車が二両・・・。三両がこちらに向かっています!!散開して何とかしてしまわないと・・・!」
と警告を発した瞬間、メイン入り口の手前の地面が開き、その中から続いているスロープから美雲の警告通り三両の戦闘車両が出現した。当然、予想外の事態に慌てる一同であるかに見えたが、場慣れしている月海はというと、そのキュレイの力を失っているにも関わらず、身軽な動作で装甲車の屋根に取り付き、ハッチを開けた瞬間にショットガンを二発叩き込んでいた。しかも、御丁寧にも武から借りた手榴弾まで車内に放り込んでからハッチを閉め、これまた身軽な動作で飛び降りた。そして、丁度3カウントが入った瞬間『ドゴォォォォォォン!!!』と派手な轟音をたてて装甲車が爆砕した。そして、装甲車が上げる業火をバックに
「後二両・・・。こんな所でお茶を濁している暇はないわ・・・」
と冷徹に言い放った。そして、その月海の言葉に呼応するかのように今度は拓水が
「ここまでこのデカブツ背負って来たんだ!!物干し竿で終わらせるもんかよ!!」
と叫ぶや否や、背中に背負っていたリニアガン『インドラ』を背中から外して素早い動作で大口径の炸裂徹甲弾を装填、地面に片膝を付いた姿勢でバッテリーのスイッチを入れ待機する事数秒・・・。グリップのランプが緑色に変わった瞬間の事だった。
『ズバッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!』
高音域の轟音と共にマズルハイダーから青み掛かった電光が噴出していた。そして、その電光の噴出とほぼ同時に重装甲のタイガー戦車の内側から爆発が噴出していた。どうやら、正確な照準付けで発射された弾丸が砲身の最奥に装填されていた砲弾の信管を直撃、そして、その爆発で形成された高熱のジェット噴流が車内はおろか、後部の燃料をも加熱・爆破したらしかった・・・。
 初めて見るリニアライフルのあまりの威力に、月海のみならず他の全員が呆気に取られていたが、美雲だけはインプットされた戦闘プログラムが起動したのか、一瞬だけとはいえ動きを止めていた最後の装甲車に向かって飛び込み、左腕に構えていたブレードに超振動を送り込んだ状態で横に一閃、衝撃波と共に装甲車の装甲部に大きな切れ目を入れ、次の瞬間には同時に二箇所−重機関砲の弾倉部と後部のガソリンタンクであった−にそのハシバミ色の瞳から真紅の光条を真っ直ぐ放っていた。それは、彼女が通常通信手段に用いている赤外線レーザーのリミッターを一時的に開放することで発射できる高出力レーザー光線であった。そして、そのレーザーが持つ熱量に当てられて弾倉部と燃料タンクの二箇所が同時に爆発。月海が屠った一両目と同様に爆砕していた。その破片が舞う中、
美雲はゆっくりと空のもとに歩み寄り
「皆さん・・・それに、空・・・。必ず・・・戻って来て下さいね、ココちゃんを連れて・・・。私は・・・イヤなんです・・・。誰かを失うと言う事の恐ろしさを・・・苦しさを知ってしまったから・・・。そう・・・あのパンデモニウムで・・・空・・・大破して、廃棄される寸前だった貴女を見たその時から・・・。だから、戻って来てほしいんです・・・。そして、今度はゆっくりと・・・
お茶でも飲みながら話し合いましょう・・・」
とこの乱闘の中ではおよそ似つかわしくない微笑みを浮かべながら空に語りかけた。
すると、空も
「そうですね・・・。お互いの心のわだかまりは、平和な時の中で解いてしまいましょう・・・。だから、私は戻ってきます。貴女と・・・美雲と、皆さんのために・・・」
と初めて美雲の名前を呼んだのである・・・。その二人・・・栗色の平穏の女神と銀の戦の女神はゆっくりと握手を交わした。そして、その手が離れるや否や空は身を翻して先に突入した武達の後を追い、残された美雲は右手のライフルをフルオートで乱射した後かなぐり捨て、やや小ぶりのブレードを右手に握り締めて拓水のもとに駆け寄った。
「約束は済んだのか?その時になったら、いい喫茶店を紹介しようか?それとも、
仕事の後の一杯って事でビアホールにするか??」
と冗談を言いつつも、既にバッテリーを消費しきってただの鉄棒となったインドラを手近のロボトミー兵に叩き付け、その反動で腰に差していたチタン製胴田貫を抜き放ちながら拓水が聞いてきた。そして、その問いに美雲はというと
「いえ・・・。空はお酒弱そうですから、カフェにしておきますよ」
と笑顔で答えながら、襲い掛かってきたロボトミー兵を一刀で斬り捨てた。
 そして、その乱戦の中拓水は武達が突入したへヴンスカウンター本部ビルを見上げ、
「頑張って下さいよ、武さん・・・月海さん・・・」
と小さく呟き、その巨体を群がるロボトミー兵団の中に向かって突っ込ませていった・・・。



次回に続く・・・。
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