奇跡、という言葉がある。 無粋な話だが、これが起こる確率はどのくらいなのだろうか? 万が一という言葉があり、これ未満とすると0.01%、100ppm未満。 二〇三四年時点での二酸化炭素濃度が425ppmであるから、それよりも少ない。 そう……奇跡は容易く起きないから、奇跡なのだ。 俺が体験したあの出来事も、後々冷静に考えてみれば奇跡だ。統計学的にきっちり数字を割り出せば、万に一つどころか、百万回に一度起こるかどうかというレベルだろう。 もちろん、人為的なものが介入していなければの話だが――。 って……これ、コミカルパートじゃなかったのか……? |
リレーSSコミカルパート 制作者 美綾 |
「いや〜、南国リゾートというのは、本当にいいもんだ。年甲斐もなく心が躍ってしまうな」 「……」 「うん、どうした。マイスイートハニー? 経済的理由でハネムーンには行けなかった俺達だ。思う存分楽しもうじゃないか」 「……」 つぐみの表情は硬いままだ。全く何が不満だというのだ。 まあ、たしかにリゾートの島を貸し切るといっても、アラブの石油王が道楽で買い求めたような場所では当然ない。一周するのに要す時間はせいぜい三十分。丸太製のバンガローが一軒設置されているだけで、他には何もない。 このバンガローにあるものも、巨大冷蔵庫と、一週間強分の食料。あと自家発電装置と非常用の通信装置くらいだ。 しかし都会の喧騒に疲れ、雄大な大自然の中でゆったりとした時を過ごすというのが、リゾートの本来有るべき姿なのだ。 まあ、つぐみにしてみれば、都会の喧騒の中に居ることの方がむしろ非日常である気もするが、それはそれとして。 とにかく、俺等夫婦の部屋からは広大にして母なる海を一望でき、天空との境界線まで視界に収めることが出来るのだ。この様を壮観と言わずして、何と言えばいいのだ。 「……武……」 「ん?」 「……外……綺麗?」 「……ん〜……まあ、天空を覆い尽くすどす黒い雲。コバルトブルーには程遠い毛羽だった濃紺の海。そして厳戒体制が敷かれてもおかしくない程の暴風雨。十人中九人くらいは憂鬱になる天気だろうな〜……」 何のことはない。先日の朝、俺達の乗った連絡船が到着した直後、近海に熱帯性低気圧が発生。進路をこちらに向けて、現在超低速度で接近中。 常識では中々考えられないことだが、現実に起こってしまった以上は仕方ない。 と言う訳で俺等はここに到着後、三十四時間もの間、見事にカンヅメを食らっていると言う訳だ。生命維持に必要なものが一通り機能しているというのは、不幸中の幸いだが……それにしても、ついこの前、これと似た体験をした気が……。 「……バカみたい」 「……」 何処かで聞いた台詞だ。 「……そう言うなよ。せっかく当たったんだし……」 「……違うわよ……」 「……?」 理解出来なかった。 「……私は武とあの二人が居れば何処に居たって幸せなはずなのに、何拗ねてたんだろうって……」 「……」 言葉に詰まってしまった。 「……武……」 まるで流れる様にして、俺の懐に飛び込んでくる。 首筋辺りから見上げてくる、女性と母性の入り交じったその澄んだ瞳に、俺は今までに無いほど魅せられてしまう。 「……大好きよ……」 「愛してる、とは言ってくれないのか?」 「……それは武が言って……」 「……バーカ」 お決まりの台詞を奪ってやると、顎に手を掛け、首を固定させる。 そしてそのまま、柔らかな唇へ俺の唇を――。 「パパ〜、ママ〜。お腹空いたでござるよ〜」 「……」 「……」 この、あまりにお約束な展開に、俺はこの世界の創造主とやらに、怒りを通り越して、呆れの感情を覚えていた。 「わ〜った、わ〜った。飯、作ればいいんだろ?」 「その態度は良くないでござる。拙者らの中でまともにご飯が作れるのはパパだけなのでござるよ」 「ホクトがいるだろ?」 「それが、何か降りてきたみたいで、部屋で『ぼくはだれ……?』って呟いてるでござる」 「……」 試しに想像してみたが……怖すぎる。 「……しっかし、あれなんだよ。いくら南国だからって、カラフルな魚介類や、地元の調味料を用意されると、こっちだって料理のしようが――」 バタリと音を立て、台所へと続く扉を開けた。 すると――。 「……?」 違和を感じた。 と言うよりは、冷蔵庫の前に、あるべきではないものが堂々と存在していたのだ。とりあえず、どうしたものかと、額に手を当て、考えてみる。 「……何してんだ……? 優、空……?」 そこに居たのは、紛れも無く俺等の仲間、田中優美清春香奈並びに茜ヶ崎空だった。 二人とも、柔らかな白い毛で覆われた細長い物体、いわゆる所のウサミミと、胸元をやたらと強調した黒のハイレグワンピース。そして目の粗いアミタイツを身に付けており、まあ俗に言うバニー姿と呼ばれる格好をしていた。 唯、つい今し方まで雨曝しにでもなっていたのか、頭の先からつま先までびしょ濡れで、その姿は『水も滴るいい女』と言うよりは、『濡れネズミ』ないしは『ボロ雑巾』とでも表現した方が的確だ。 「ほほほほほ。どなたのことでしょう〜。私は田中優美清夏香奈よ〜」 「わ、私は茜ヶ崎空(あかねがさきくう)と言います。もしやその方は生き別れの妹では?」 「……」 あまりに突っ込み所が満載なので、とりあえず厳選しておく。 優よ……んなけったいな名前、お前ら母娘以外にいるかい!! 空……AIの姉妹ってなんじゃ!? って言うか、字が同じ名前を付ける親がいるかい!! ……いや……いるかも知れんけど、それはそれとして……。 「……何よ? その人を哀れむような瞳……?」 「……いい年して、苦労してんだなぁ、と……」 「失礼ね! 私は永遠に二十三よ!」 「……やっぱ優じゃねえか……」 「……」 「……」 「……ちっ。私達の変装を見破るなんて、流石は倉成ね」 「……」 ま〜た、突っ込み所満載な言動を。 「……で、最初の質問だ。こんな所で何してんだ?」 「見てわかんないの? 雨に打たれてずぶ濡れなのよ!」 「……」 このままお帰り頂こうか……? 「う〜……折角倉成達を絶海の孤島に連れ込んで、ちょっとばかし罠に嵌めて、ほんの数日だけでも倉成を独占するっていう計画が〜」 「……」 んなこと考えてやがったのか……? 「……って、じゃあ、あの福引きはひょっとして?」 「あったりまえでしょ。大体常識で考えてみなさいよ。福引きの一等と二等をたった三回の挑戦で当てられると思う?」 「……」 今、このバンガローには、不老不死の美女が二名に、肉体を持った人工知能が存在していますが、そのことは常識とやらで説明できると……? ふと、そんなことを思ってしまったが、色々なものを敵に回しそうなので、即刻思考を中断した。 「はぁ〜……まあいい。幸い部屋は余ってるし、お前らもリゾートしてけよ。それとも帰るか? 雨風が収まってからの話になるけどな」 「……そんな悠長にしてていいの?」 「……なんだそれ?」 「……あれ? ひょっとしてラジオ、聞いてらっしゃいません?」 「あるか! んなもん!!」 いい加減、疲れてきた……。 「この状況、当分変わんないわよ。なんでも台風、ハリケーン、サイクロンにモンスーンが一斉来場らしくてね。二週間はこのままって話よ」 「……」 モンスーンが季節風だっていうのは、スルーしておこう……。 「絶海の孤島に閉じ込められた六名の男女……徐々に失われていく食料……絶望の果てに彼らが見たものとは……」 「って、ホクトォ!? 何時湧いて出た!? って言うか、何だ!? 今のナレーション風の台詞は!?」 「……いや……出番無くて……」 「……」 照れて頭を掻くくらいなら、始めからやるな……。 「雨はいつ上がるのでしょう……?」 「それは別作品ネタだろ!!」 俺はツッコミの国から来た王子様か!? 「……ぜぇ……ぜぇ……あ〜……何で俺にこんなにも負担が掛かってるか分かった……沙羅……お前が黙ってるからだ……」 ボケ三人に突っ込み一人では分が悪い。ここは援軍を頼むとしよう。 「あ〜。このブレスレット可愛い〜。買っちゃおうかな〜」 「現実逃避かよ!?」 何をしているかと思えば、PDAで通販サイトを覗いているらしい。こんな所で景品を有効活用するな! 「……って……電波届いてるのか……だったら、そう心配することもないだろ……」 無駄なことにエネルギーを費やしたと分かった瞬間、どっと疲労が噴き出てきた。 「はぁ〜。まったく踏んだり蹴ったりね。まったく、空が倉成達を誘き寄せようなんて言い出すからよ」 「……何だ? 発案者は空なのか?」 「いえ、正確にはこの前お会いした方です」 「……?」 「何だか見るからに風体の怪しい全身黒ずくめの男性二人組でした。『倉成一家を呼び出して、好きにしたくないか?』と持ち掛けられまして、この島のことを教えて下さって……」 「……」 ……そんな奴の言うことを聞くな……。 「……ちょっと待て。ってことはあれか? お前ら、上手いこと利用されて俺等をここに連れてきたってことになるのか……?」 「まあ、結果的にはそうなるわね」 「……」 騙されたと認めないところが優らしい。 「……黒幕がいるのか……?」 その瞬間、俺の心に言いようの無い不安が満たされていくのを実感した。 あ〜……そう言えば優と空が何でバニー姿なのか聞くの忘れてたけど……ま……大したことでもないし、別にいいだろ……。 つづく |
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